Home/ 2021年 July 2021年 July 外国人の土地取得問題について【3】 2021.07.29 http://hrp-newsfile.jp/2021/4111/ 幸福実現党 政務調査会 都市計画・インフラ部会 ◆外国資本による土地取得で起こる懸念や問題 6月に可決・成立した「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案」は、外国資本による土地買収が問題とされたことから始まっています。 外国資本の土地買収は、例えば北海道の森林が買われているということや、対馬の自衛隊基地の隣接地が買われたことなどが指摘されてきました。 例えば、産経新聞編集委員の宮本雅史氏は著書の中で「これまでに買収されたゴルフ場や農地などに共通しているのは、森林や山に囲まれているため外からは見えず、入口が1か所なので閉鎖すればだれからも干渉されないことです」「農地の場合は整備されている上、大きな川が流れているから、自己完結して住めます。 自治区とも言えるアンタッチャブルな集落ができる可能性があります」といった専門家や北海道の地元住民の声を紹介しています(※1)。 例えば中国人が集団で住む「自治区」のような集落ができた場合、日本の法律よりも中国の法律が優先される恐れがあり、日本の法秩序がそこで崩れることになります。それは日本の主権が侵害されることを意味します。日大法学部教授によると「中華人民共和国国防動員法(2010年)の制定により現実的な恐れとして存在する」といわれています(※1)。 また前述の宮本氏は長崎県の対馬市美津島町竹敷地区は「元々は軍港だった。旧海軍の施設が残る“要衝”で、戦前までは民間の土地ではなく立入禁止区域だった。その地域が韓国資本に買収され、韓国人専用の施設が並ぶ」とし、現地の方によると、「浅茅湾の民宿はすべて韓国人が経営しているという。 しかも、いずれも自衛隊の施設を監視するかのように建てられている」と警告しています。防衛上の観点からも不安が指摘されているところです。(※1) また他にも、外国資本による買収がなされたと分かっているところでも、その後行政から連絡が取れないこともあります。 外国資本による土地買収から始まる所有者不明の土地問題も発生しています。固定資産税の徴収もできないケースもあります(※2)。固定資産税は地方税の約4割を占める重要なものです。 このように、日本の国益を害する問題、さらに安全保障にとっての重大な懸念が発生しています。 ◆広域的な監視及び規制が必要 前にも述べたように、戦後の日本では、これまで外国資本による土地取得になんらの規制も設けられてきませんでした。しかし、このように防衛拠点の隣接地や、大規模な森林の買収が何らの規制も受けずになされており、これを放置することはできません。 先日、可決・成立した「重要土地規制法案」では、例えば重要施設の周辺で設定される注視区域といわれるものは、「施設の敷地の周囲おおむね1,000mの範囲内で指定」と、対象とされる範囲があまりにも限られています(※3)。 「米国の対米外国投資委員会(CFIUS)は、軍・政府施設の場合、周囲最大100マイル(160キロメートル)をとっていて、日本の新法より二桁多い」との指摘もあります(※4)。対象とするエリアはもっと広域であるべきでしょう。 また、事前届出が必要なのは、「司令部機能、警戒監視機能を有する自衛隊の駐屯地・基地 等」の特定重要施設の周辺などの特別注視区域に限られており、範囲はとても限られたものになってしまいます。 国家の安全保障に問題を及ぼす土地の所有や利用は、そもそも日本全国いずれの場所であっても規制されるべきではないでしょうか。 アメリカでも「外国人が空港や港湾また米軍施設に近接する土地等の取得などを行う場合は、条件によっては制限の対象になり得る」(※5)とされています。 日本も土地等の買収を、「事前」に制限することができる枠組みを整備すべきではないでしょうか。 少なくとも外国資本による土地等の買収は、所有者の明確化の観点から例外規定を設けず、いかなる場合においても届出を義務化する必要があるのではないかと考えます。 同様の観点で、国内の取引も含めて、登記を義務化することなども、今後一つの検討課題となってくるかもしれません。 また、土地は「所有」だけが問題ではなく、「利用」も問題になります。日本人が所有する土地を借り上げて、利用する場合も考えられます。 つまり、所有・利用の両方において、安全保障上の問題がある場合には規制をかけられるようにしなければならないでしょう。 ただし、当然のことながらそのような私権の制限を伴う規制が、政府によって恣意的に、また拡大解釈されて不当な自由の制限になってはならないのは当然のことです。 ※1 『領土消失 規制なき外国人の土地買収』 宮本雅史、平野秀樹 角川新書 ISBN978-4-04-082262-4 ※2 北海道開発協会『開発こうほう』 「外資による土地買収問題」 佐藤郁夫 https://www.hkk.or.jp/kouhou/file/no574_shiten.pdf ※3 『重要土地等調査法案の概要』内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/houan/210326/siryou1.pdf ※4 「やっと始まる外資の土地取引規制、阻むのは何者?」平野秀樹 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64338?page=2 ※5 「外資に関する規制」JETRO https://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/invest_02.html 外国人の土地取得問題について【2】 2021.07.16 http://hrp-newsfile.jp/2021/4109/ 幸福実現党 政務調査会 都市計画・インフラ部会長 曽我周作 ◆諸外国の規制と日本の現状 我が国では、そもそも、農地以外に土地売買の制限はありません。そして、これまで外国資本による土地取得に制限をかけることができていませんでした。 外国人でも自由に日本の土地を買い、そして自由に転売できていたわけです。それがたとえ自衛隊基地の隣接地であっても、水源を含む森林であっても自由なのです。 しかし、諸外国には様々な規制があります。 そもそも、外国人(外国資本)の土地所有を原則として認めない国もあります。例えば中国などがその一例です。インドネシア、フィリピン、タイも原則として不可とされています(※1)。 また、韓国には「外国人土地法」があり許可申請が必要とされるケースがあったり、他にも「ニュージーランドの島の土地(0.4ヘクタール以上)を外国人が所有するには許可が必要だし、チリとパナマは国境から10㎞以内、ペルーは50㎞以内、メキシコは100㎞以内の土地について、外国人の所有を制限している。どの国も国境には気を遣っている。水資源や鉱山の直接所有を規制しているケースもある」(※1)と言われています。 ロンドン大学LSEの『アジア太平洋不動産投資ガイド2011』には「アジア太平洋地域で、不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけ」と書かれていたようです(※1)。 ◆土地の真の所有者を確認できる「台帳」は存在しない 日本における、外国資本による土地買収の実態は簡単には把握できません。というのも、土地や建物の所有者を特定するのは簡単ではないからです。 一般的に、私達が家の相続をしたり、土地や建物を購入するなどした場合、「登記」というものを行うことがあります。 しかし、この不動産取引における登記というものは、実は任意で行うものです。日本では権利の登記は第三者への対抗要件(※2)であり、これはフランス法の考えを採用したものです。 不動産の取引をする際には、第三者への対抗要件を具備するため、当然のように登記を行うのが一般的だと思います。しかし、登記をせずとも所有権の移転の効力は発生します。 つまり、外国資本が土地を購入しても、その登記をしていない場合も考えられ、その場合、登記簿を確認しただけでは外国資本がその土地を購入したことを確認できないということです。 今後、相続の際の登記などは一部義務化されますが、売買における所有権移転の登記は義務ではありません。したがって、登記上の所有者と真の所有者とは違う場合があります。 登記上で所有者とされていても、それだけで真の所有者であることを証明するものではないということです。一方、登記が義務付けられている国もあります(※3)。 例えばドイツでは登記をしないと権利の変動そのものが発生しません。 また、所有者と使用者が違うということは当然あります。外国資本の関係する土地所有の実態も、土地利用の実態も国として簡単に把握する術が無いというのが実態です。 ◆今回成立した法案の中身について このような現状の上で、先般可決・成立した、いわゆる「土地規制法案」といわれる法案は、「重要施設(防衛関係施設等)及び国境離島等の機能を阻害する土地等の利用を防止」(※4)することが目的とされています。 重要施設や、国境離島等に注視区域や特別注視区域が設定されます。 例えば、重要施設には防衛関係施設や海上保安庁の施設、また政令で指定される重要インフラがあり、施設の敷地の周囲おおむね1,000mの範囲内で、区域が指定されることとなっています。 また、司令部機能、警戒監視機能を有する自衛隊の駐屯地・基地の周辺などで、特別注視区域が指定されます。 それらの区域において、土地や建物の所有者や賃借人、所有者の氏名、住所、国籍等、また利用状況などが調査されることや、調査結果を踏まえて利用規制をすることができたり、特別注視区域においては、土地等の所有権移転等について事前届出が必要とされることなどが決められました。 届出をしなければ、場合によっては刑事罰の対象とされることもあります。 しかし、この法案で、その対象とされる区域は極めて限定的です。重要施設の敷地からわずか1,000m以内とされる指定区域における調査や規制だけで、本当に重要施設が護られるのか甚だ疑問です。 まずは実態の調査から進めるにしても、範囲が限定され過ぎてはいないでしょうか。 た、重要施設からは離れた地域において、例えば森林や山に囲まれた閉鎖的空間を買収された場合、そもそもその土地で何が行われているかを把握することさえも容易ではなくなることもあります。 所有者不明の土地問題も併せて考えた場合、外為法では日本国内に住所のない非居住者による投資目的の不動産取得は事後報告が義務付けられているとはいえ、さらにその非居住者から別の非居住者に転売された場合は、報告義務の対象ともならない(※5)など、この法案の可決・成立だけでは、日本の国土と安全を護る上では、まだまだ不十分なものであることは否めません。 個人の自由の侵害という意見もありますが、場所によっては国益や国民の安全の保障という観点から売買に適さない土地は当然あると考えるべきでしょう。 次回も、この問題をさらに掘り下げて考えてみたいと思います。 【参考】 ※1 『領土消失 規制なき外国人の土地買収』 宮本雅史、平野秀樹 角川新書 ISBN978-4-04-082262-4 ※2 民法177条 「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」 ※3 『人口減少時代の土地問題』p.131~135 吉原祥子 中公新書 ISBN978-4-12-102446-6、 『領土消失 規制なき外国人の土地買収』p.213~222 宮本雅史、平野秀樹 角川新書 ISBN978-4-04-082262-4 ※4 『重要土地等調査法案の概要』内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/houan/210326/siryou1.pdf ※5 外国為替の取引等の報告に関する省令(財務省)第5条2項10 「空飛ぶクルマ」で見える日本のイノベーションの限界 2021.07.14 http://hrp-newsfile.jp/2021/4107/ 幸福実現党 政務調査会未来産業部会 藤森智博 ◆JALが「空飛ぶクルマ」のサービスを2025年に実現 多くの人が夢見た「空飛ぶクルマ」の実現が間近に迫ってきました。 7月9日の日経新聞の朝刊では、一面に、JALが2025年度に「空飛ぶクルマ」で空港と観光地を結ぶサービスを開始すると報じました。また、2025年に開催される大阪・関西万博で、会場移動で「空飛ぶクルマ」を導入予定です。 政府も「空飛ぶクルマ」導入に向け、本格的な取り組みを始めています。2018年8月に経済産業省と国土交通省で共同して「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、ロードマップを策定しました。 「ものづくり大国・日本」としては、世界に先駆けて「空飛ぶクルマ」を開発し、日本の成長につなげたいところです。現政権もその実現に向け、大きく旗を振っていますが、「本当に成功するのか」という疑問がいくつかあります。 ◆失敗する理由(1):規制の多さ 「空飛ぶクルマ」が成功どころか、失敗しかねない理由として、日本独特の「規制の多さ」が挙げられます。 例えば、ビルの上では、原則として、ヘリコプターなどの航空機は離着陸ができません(航空法79条)。飛行場以外で、離着陸をする場合は、国交省の許可が必要です。都心のビル群の屋上にある、ヘリポートには、原則として離着陸は許可されず、緊急時以外は利用できないようになっています。 では、「屋上以外ではどうか」ということになりますが、離着陸はできます。しかし、国交省の許可に、平均して1~2週間かかるのが一般的なようです(※1)。これは、事前に予定されているケースを除いて、全く使えないことを意味します。ビジネスとしては、かなり厳しいでしょう。 なお、こうした規制は「グローバル・スタンダード」ではありません。 アメリカは、離着陸の場所に制限はなく、空港以外の離着陸を原則禁止している国は、日本を除くと、ドイツなどごく少数です(※2)。 これでは「空飛ぶクルマ」以前の問題です。ヘリコプターなどの旧来型の航空機に対しても、重い規制を課しているようでは、空飛ぶクルマの国際競争に勝ち抜くのは難しいのではないでしょうか。 ◆失敗する理由(2):脱炭素による中国への後追い 2つ目の問題は、脱炭素です。菅政権は、2030年度の温室効果ガスの削減目標を46%に引き上げました。 自動車に関して言えば、日本勢が得意なハイブリッド車(HV)の全廃などには、政府は踏み込んでいませんが、既にホンダは、HVを含めたガソリン車を全廃し、電気自動車(EV)などに切り替えると宣言しました。 非現実的な46%の削減目標を達成しようとしたら、EV化への動きは加速しそうです。また、それは「空飛ぶクルマ」にも当てはまるでしょう。 空飛ぶクルマの技術競争のうち、EVのような電気モータに注目すると、日本は既に劣勢のようです。今年の4月に発表された特許庁の調査(※3)によれば、電気モータ関連の特許の出願件数は、2018年段階で228件でした。この228件のうち、半分以上が中国勢の特許です。対して、日本は20件にも満たず、6倍以上の開きがあります。 もちろん、特許は質も大事ですが、ここまでの開きがあるのなら、既に状況は厳しいと言えます。こうした中で、日本が得意とするハイブリッドを封じるような政治発信や政策推進すべきではありません。 ◆失敗する理由(3):自由性がない、小粒な研究 さらなる問題は、政府の「こだわり」です。政府が言う空飛ぶクルマとは、基本的に「eVTOL」です。これは、電気で動き、垂直に離着陸するタイプのものになります。 つまり、ガソリンのみで動くタイプや、滑走路で飛ぶタイプは、政府の眼中にありません。ですから、研究予算はeVTOLありきとなり、法改正で利用を認める「空飛ぶクルマ」はeVTOLのみとなりかねないでしょう。 しかし、そうした政府のこだわりは裏目に出るかもしれません。6月28日にスロバキアで、歴史上初ともされる空飛ぶクルマの都市間飛行をクラインビジョン社が成功しました。 75kmを35分で飛びきったと報道されましたが、この空飛ぶクルマは、ガソリンエンジンで、滑走路から飛び立っていました。 現時点では、電気モータでは、電池が重く、航続距離が短いので、いち早い都市間飛行を実現するには、ガソリンエンジンも捨てるべきではないでしょう。 加えて言えば、政府の予算も小粒です。「空飛ぶクルマ」の今年度の研究費は、経産省系のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の40億円ですが、これはNEDOの主要な事業のうち、わずか3%にしか過ぎません。 小粒な研究費で、自由性も乏しければ、イノベーションが起きるわけがありません。イノベーションに必要なものは、自由と試行錯誤です。大胆な規制緩和と、自由を尊ぶ科学技術政策へ転換すべきでしょう。 (※1)経済産業省(online)「第2回 空の移動革命に向けた官民協議会 資料2-5 一般社団法人全日本航空事業連合会 ヘリコプターの運行制限と程空域における運行実態について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/002_02_05.pdf (閲覧日:2021.7.12) (※2)同上 (※3)特許庁(online)「ニーズ即応型技術動向調査「空飛ぶクルマ」(令和2年度機動的ミクロ調査)」 https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/needs_2020_airtransportation.pdf (閲覧日:2021.7.12) 「外国人の土地取得問題について」【1】 2021.07.13 http://hrp-newsfile.jp/2021/4105/ 幸福実現党 政務調査会 都市計画・インフラ部会長 曽我周作 ◆外国資本による土地取得が進む日本 本年6月にいわゆる土地規制法案といわれる法律が可決・成立しました。正式名称は「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案」というものです。 この法律が検討されたのは、外国人や外国法人、つまり外国資本による土地買収が問題とされたことから始まっています。 また、そもそも誰が所有している物件なのか、外国人によって土地が取得されたのかどうか分からない土地も多くあります。 所有者不明土地問題研究会(座長:増田寛也氏)が2017年12月に発表した資料(※1)によると、2016年時点の所有者不明の土地面積は約410万haと推計されています。 これは九州本島の面積約367万haよりも大きい規模になります。 また、外国資本による森林買収が問題になっている北海道では2019.年12月末現在における海外資本等による森林所有状況は、北海道庁が把握しているだけでも面積が2,946ha、所有者数が220に上ります。 しかも、何のためにその土地を利用しようとしているのかについて「不明」という場所がいくつもあります。(※2) また林野庁の発表によれば、2019年の一年間での国内における森林の買収は、把握されている分だけでも、62件、451haにも及び、2006年から2019年までの累計では465件、7560haにもなります。(※3) 産経新聞編集委員の宮本雅史氏の著書『爆買いされる日本の領土』などで、北海道以外でも、例えば対馬市、奄美市など、特に中国・韓国資本による土地の買収の問題事例が多く指摘されています。 中には自衛隊の基地に隣接した土地が買収されているなど、外国資本による土地の買収に一定の歯止めがかけられるようにならなければ、安全保障上でも大きな問題になりうるという実態が浮かび上がってきました。近年この問題は広く認識されるようになりました。 ◆外国資本による土地取得に規制のない日本 戦後の日本では、これまで外国資本による土地取得になんらの規制も設けられてきませんでした。 実は「外国人土地法」という法律が現在でも存在しますが、この法律は敗戦後から現在まで運用されていません。 この「外国人土地法」は大正14年に制定された法律です。外国資本による土地取得等に規制を設けることができる旨を規定した法律になります。 実は「外国人や外国法人が日本において土地に関する権利を取得することを原則として認めるとともに、その例外を定めた法律」(※4)といわれるように、明治期の日本では外国資本による日本の土地の買収は認められていませんでした。 この外国人土地法では「相互主義の観点から、外国人や外国法人が属するその外国の法律が、日本人による土地に関する権利の享有を制限しているときは、政令によって、そういった外国人や外国法人の日本における土地に関する権利の享有についても同様の制限的な措置をとることができる」(※4)こと、「国防上必要な地区については、政令によって、外国人や外国法人の土地に関する権利の取得につき禁止をし、または条件もしくは制限を付することができる」(※4)ということが定められています。 しかし、これらに規定による政令は現在定められていません。 外国人でも日本の土地はどこでも自由に買うことができ、そして自由に転売することができます。 しかも「工夫次第で外国人なら保有税を支払わなくても済む」(※5)ともいわれています。しかも、日本では所有権は一定の物を直接排他的に支配する強力な権利である物権です。 所有権は自由にその目的物を使用し、収益し、処分することができる権利として強く保護されています。 ◆なぜ外国人土地法は使えないとされたのか ではなぜ、この法律は運用できないのでしょうか。 それについては、第185回国会の法務委員会(2013年10月30日)の政府側の答弁の中で、「権利制限や違反があった場合の措置等について、法律では具体的に規定がないので、政令に包括的、白紙的に委任がされていると考えられるため、それが現在の日本国憲法の四十一条や七十三条の六号(※6)に違反するおそれがある」という主旨のことが指摘されています。 また、1994年につくられたGATS(サービスの貿易に関する一般協定)によって「原則、国籍を理由とした差別的制限を課すことは認められていない」との見解が示されています。 一点目については法律を改正することで対応可能とも考えられます。 二点目のGATSについては例外規定として、公衆道徳の保護、公の秩序の維持、生命・健康の保護のための措置も認められていますし、また安全全保障のための措置も認められています。(※7) 諸外国も何らかの規制をかけていますし、そもそも外国人の土地所有を認めていない国もあります。 ともあれ、「外国人土地法」は外国資本による土地取得に制限をかける上で、使えない法律だという見解が政府側から示されました。 しかし、何も規制ができないようでは安全保障上重大な危機を招く恐れがあるため、新しい法律の制定に向けた検討が進み、この度の法律制定につながりました。 これは前進ではありますが、まだまだ問題の根本的な解決には不十分です。次回は、法律の中身についてお伝えしたいと思います。 ※1 所有者不明土地問題研究会 最終報告概要 2017年12月13日 https://www.kok.or.jp/project/pdf/fumei_land171213_02.pdf ※2 北海道庁 海外資本等による森林取得状況 2020年5月公表 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/srk/gaishi.html ※3 林野庁 外国資本による森林買収に関する調査の結果について 2020年5月8日 https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/200508.html ※4 第185回国会 法務委員会 第2号 会議録 2013年10月30日 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/000418520131030002.htm ※5 『領土消失 規制なき外国人の土地買収』 宮本雅史、平野秀樹 角川新書 ISBN978-4-04-082262-4 ※6 日本国憲法 第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。 第七十三条の六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。 ※7 サービス貿易に関する一般協定(GATS)(基本構造と主要な権利・義務) 第2回国際化検討会 外務省サービス貿易室 2002年2月 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/kokusaika/dai2/2siryou3_2.html 【連載第3回】「温室効果ガス46%削減」 政府の「中国化」政策をストップせよ 2021.07.11 【連載第3回】「温室効果ガス46%削減」 政府の「中国化」政策をストップせよ 幸福実現党 政務調査会エネルギー部会 ◆「46%削減」なら、再エネで嘘をつくしかない政府 現在、経済産業省が「46%削減」に合わせて新しいエネルギー政策を策定中です。一部の報道によれば、7月21日に素案が審議会に提示され、8月に政府原案を決定。9月中旬にパブリックコメントを開始し、10月までの閣議決定を目指すとされています(※1)。 第2回で述べたように、報道等で示された電源構成(火力比率40%)をもとにこれを推定すると、仮に政府が2030年度の発電量を現行の長期エネルギー需給見通しの発電量(10,650億kWh)よりも1割抑制すると考えれば、火力による発電量は約3,800億kWh、2割抑制する場合には約3,400億kWhと推定されます。 この場合の「電力由来CO2排出量」は、計算上それぞれ2.3億トン、2億トンまで減ることになります。 しかし、発電量のうち残りの60%を原発と再生可能エネルギー等のゼロエミッション電源で発電することには、非常に大きな困難を伴います。 まず、自公連立政権は幸福実現党と違って「原発推進・新増設」を言えません。 このため、検討中のエネルギー基本計画の骨子案では、「原発は必要規模を持続的に」という非常にあいまいな表現にとどまり、新増設や建て替え(リプレース)の記載は見送っています(※2)。その結果、原発比率は現行見通しの水準(20~22%)を維持することになっています。 もっとも、日本では原発の廃炉が世界最速で進み、再稼働が遅々として進まない状況です。2030年まで9年もない現時点においては、仮に新増設を計画に盛り込んだところでほとんど違いはなく、2割程度の原発比率を維持することさえ非常に厳しいといえます。 このような理由により、「46%削減」と辻褄を合わせてエネルギー政策を策定するには、わずか9年で太陽光発電を中心とする再エネが「爆増」するという、荒唐無稽な計画を立てるしかないのです。 ◆日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされる 政府は「46%削減」に合わせて2030年度にゼロエミッション電源比率を60%とし、再エネ比率を30%台後半まで高めることを検討しています(※3)。 しかし、再エネといっても、僅か9年で水力や地熱を大量に開発することはほぼ不可能であるため、信じられないほど非現実的な量の太陽光発電を導入することによって、再エネを大量導入する絵姿を描くことになります。 小泉進次郎環境大臣は4月に、「住宅への太陽光パネル設置の義務化も視野に入れる」と発言し(※4)批判を受けましたが、住宅への義務化は見送られたものの、あらゆる公共建築物に原則として太陽光パネルを設置する方針となりました(※5)。 環境省は7月、2030年度の太陽光発電の導入目標を、現在の導入見通しの約88GW(8,800万kW)から20GW積み増すことを表明しました(※6)。 現行見通しにおける2030年度の太陽光発電の導入量は64GWですが、政府の強力な支援により太陽光発電は当初想定よりも急速に増加し、2030年には約88GWに達する見込みです(※7)。 環境省はさらに20GWを積み増し108GW程度とする方針で、2019年度末の導入実績(約56GW)から倍増することになります。 もしこれが実現すれば、日本中の屋根に中国製の太陽光パネルが設置され、斜面からは樹木が剥ぎ取られて中国製の太陽光パネルが敷き詰められるという、おぞましい光景が広がることになります。 保水機能(水を貯える力)を持つ森林がことごとく破壊され、土石流などの深刻な水害が全国で多発する可能性もあります。 一部の太陽光発電業者やその工事請負業者は儲かるかもしれませんが、大多数の国民はこんな未来を望んでいないはずです。 ◆莫大な国富が中国に吸い取られるが、それでも「46%削減」は無理 これらの太陽光パネルが日本製品であれば、まだ一定の経済効果が期待できます。 しかし、太陽光パネルの約8割は中国製であり、現在のサプライチェーン(供給網)のままなら、これらの投資の大部分が中国に流れ、政府の言う「グリーン成長」どころか、莫大な国富の流出になり、日本のGDPの増加はほとんど期待できません。 また、仮に国民が莫大なコストを負担して108GWの太陽光発電を導入できたとしても、その発電量は1,200億kWh余り(※8)で、政府が30%台後半を再エネで賄うという2030年度の電源構成のうち僅か10~15%程度に過ぎません。 太陽光発電は昼間の明るい時間にしか発電できないため、現在の技術では設備利用率(稼働率)が13~15%程度にとどまることが理由です。 マスコミは上記の環境省による「太陽光発電20GW積み増し」を、「原発20基分相当」と報じましたが、これは誤りです。原発は設備利用率85~90%で安定運転が可能で、同じ出力の太陽光発電の7倍近い電気を発電することができます。 したがって、「46%削減」の辻褄を合わせるためには、並行して洋上風力発電の大量導入なども検討されているものの、適地が限られていることから、さらに太陽光発電を100GW規模で積み増すくらいしか方法がありません。 政府内でも「46%削減」の目途は全く立っておらず、「各省とも、もん絶しながら施策を出している」との報道もあります(※9)。 官邸や小泉進次郎環境大臣は、直ちに「46%削減」の誤りを認め、各省に荒唐無稽な辻褄合わせをやめさせるべきです。 ◆屋根を見上げれば「ジェノサイド」 太陽光発電は、日本がその開発で先頭を走っていた頃から、「クリーン」で「グリーン」なイメージがつくられてきました。しかし、中国製品が大部分となった今、その化けの皮は剥がれつつあります。 太陽光発電にはさまざまな方式がありますが、現在最も安価で大量に普及しているのは「多結晶シリコン方式」です。太陽光パネルの心臓部である「多結晶シリコン」の約8割は中国製で、その半分以上は新疆ウイグル自治区で生産されているため、世界に占める新疆ウイグル自治区のシェアは45%に達すると推計されています(※10)。 今年の初めに米コンサルタント会社のホライズン・アドバイサリーが、中国における太陽光パネルの生産に新彊ウイグル自治区の強制労働が関わっている可能性を指摘しました(※11)。 この問題は英語圏のメディアがすぐに報道し、米国太陽光発電協会は2月に、太陽光パネルのサプライチェーンで強制労働を排除することを表明しました(※12)。 日本の有識者ではキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が、いち早くこの問題の重大さを訴えました(※13)。しかし、ザ・リバティを除く日本のメディアはなかなか報道せず、4月頃にようやく産経新聞が採り上げました。 そして6月23日には、米国の商務省が、新疆ウイグル自治区にある太陽光パネル関係企業5社を、「ウイグル族らへの強制労働や恣意的拘束などの人権侵害に関与した」として、輸出禁止措置の対象に指定しました(※14)。 この一連の強制労働を排除する動きの結果、太陽光パネルの主原料である多結晶シリコンの価格は、5倍に高騰しています(※15)。太陽光発電は本当に安かったわけではなく、「強制労働だから安かった」ともいえます。 中国共産党による新疆ウイグル自治区における人権弾圧は、強制労働、強制収容所への拘束、移植用の臓器の強制摘出、組織的なレイプ、強制不妊手術など広範囲に及ぶことが指摘されており、米国はトランプ政権もバイデン政権も、これらを「ジェノサイド(集団殺戮)」と認定しています。 日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされ、国民が知らずしらずに新疆ウイグル自治区での強制労働に加担しているとしたら、どうでしょうか。この事実を知っても、見て見ぬ振りをできるでしょうか。 屋根を見上げれば、「ジェノサイド」の悲痛な叫びが思い起こされる――そんな日本にしてはいけません。 ◆温暖化よりも「中国化」を恐れよ これまでに述べてきたように、政府が進めている「46%削減」のための新しいエネルギー政策が決まってしまえば、日本の経済・安全保障は壊滅し、日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされ、政府の「グリーン成長戦略」という名の莫大な国民負担をしても、そのお金は中国に吸い取られてしまいます。「グリーン成長戦略」の本質は、日本の「中国化」政策にほかなりません。 しかし、幸いにも、まだエネルギー政策の決定までに時間があります。 6月にスイスでは、CO2削減に向けた方策が盛り込まれた法律が国民投票で否決されました(※16)。わずかなCO2削減のために莫大なコストをかけ、炭素税や航空券への課税強化を行うことに過半数の国民が反対しましたが、これによって、スイスのパリ協定での削減目標は達成が困難になるとみられています。これでよいのです。我が国も見習うべきです。 国民の皆さんは党派を超えて、幸福実現党とともに、この「百害あって一利なし」の政府の無謀なエネルギー政策に、反対の声を上げていただきたいと思います。 私たちも頑張ります。 まずは、「46%削減」に合わせたエネルギー政策の検討をストップし、莫大なコスト負担や「中国化」の問題について、ありのままの事実を国民に説明することを求めます。 参考 ※1 「原発『必要規模を持続的に』 エネ基骨子案判明」 2021年7月6日 産経新聞 https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/ ※2 「原発政策あいまい エネ計画骨子案 脱炭素へ活用不可欠」 2021年7月6日 産経新聞 https://www.sankei.com/article/20210706-X5SE5IQ42BLV5PG5XHFBQX5JKI/ ※3 「電源構成とは」 2021年5月25日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2459Z0U1A520C2000000/ ※4 「住宅の太陽光義務化『視野』 温暖化ガス目標強化に意欲―小泉環境相」 2021年4月17日 時事通信 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041601209&g=soc ※5 「太陽光パネル、公共建築物は原則設置 住宅は義務化せず 政府が脱炭素に向け素案」 2021年6月3日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA022QH0S1A600C2000000/ ※6 「太陽光発電の目標上積み、原発20基分相当…環境省」 2021年7月6日 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210706-OYT1T50052/ ※7 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第40回会合)資料2 「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」 2021年4月13日 資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/040/040_005.pdf ※8 設備利用率を13%とすると、108GW×8,760時間×13% = 1,230億kWh ※9 「46%削減へ再エネ上積み、難行苦行/各省『追加策、これ以上ない…』」 2021年7月9日 電気新聞 https://www.denkishimbun.com/archives/133815 ※10 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1 ※11 「太陽光パネルもウイグルの強制労働によって作られていた!? 米コンサルタントが報告」 2021年2月12日 The Liberty Web https://the-liberty.com/article/18073/ ※12 Solar Companies Unite to Prevent Forced Labor in the Solar Supply Chain 2021年2月4日 Solar Energy Industries Association (SEIA) https://www.seia.org/news/solar-companies-unite-prevent-forced-labor-solar-supply-chain ※13 「『太陽光発電』推進はウイグル人権侵害への加担か」 杉山大志 2021年2月22日 Daily WiLL Online https://web-willmagazine.com/energy-environment/8Rhc7 ※14 「米、ウイグル強制労働で中国の太陽光パネル企業に制裁」 2021年6月24日 サンケイビズ https://www.sankeibiz.jp/business/news/210624/cpc2106241055003-n1.htm ※15 「ウイグル問題、太陽光発電に影 パネル主原料5倍に高騰」 2021年7月4日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21EG30R20C21A5000000/ ※16 「スイス、CO2削減法を否決 パリ協定の目標達成困難に」 2021年6月14日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1333L0T10C21A6000000/ 【連載第2回】「温室効果ガス46%削減」 日本は鉄を捨て、自ら兵糧攻めを選ぶのか 2021.07.09 http://hrp-newsfile.jp/2021/4101/ 幸福実現党 政務調査会エネルギー部会 ◆政府は「46%削減」のための政策を策定中 菅首相が表明した温室効果ガス(GHG)の「2030年度に2013年度比46%削減」は、具体的にはどんなことを意味するのでしょうか。 現在、「46%削減」に合わせて、経済産業省がこれを実現するための新しいエネルギー政策を策定中です。 これらの具体的な中身は、経産省の審議会である総合資源エネルギー調査会傘下の基本政策分科会などで議論され、資料が公開されています(※1)。 一部の報道によれば(※2)、新しいエネルギー政策の素案は7月21日に審議会に提示され、8月に政府原案を決定し、10月までの閣議決定を目指すとされています。 しかし、この内容はきわめて厳しいもので、もし本当にこのような政策を実行した場合には、莫大な国民負担によって日本経済は破壊され、エネルギーの安定供給が不可能になり、中国など全体主義国家の侵略に対して日本はなすすべもないという、恐怖の未来像が浮かび上がってきます。 本来、日本のエネルギーを守るはずの経産省が、官邸に忖度し、日本の破滅を招きかねない恐るべき政策を策定しているという現実に対して、国民はもっと反対の声を上げていかなければなりません。 「敵」はグレタ・トゥーンベリ氏(スウェーデンの環境活動家)だけではありません。我が国政府の政策そのものに、日本を自滅させる罠が潜んでいるといっても過言ではありません。 では、その中身を見ていきましょう。 ◆鉄は日本で作れなくなる? 製鉄はそのプロセスで大量のCO2を排出するため、経済産業省の審議会では、日本の粗鋼生産量を2030年度に約9,000万トンまで減らすことを検討しています(※3)。 現行の「長期エネルギー需給見通し」では2030年度に約1億2,000万トンの粗鋼生産量を見込んでいるため、現行計画のなんと4分の1をカットする計算です。 2020年度にはコロナの影響で粗鋼生産量は約8,300万トンまで落ち込んでいますので、ここからできるだけ回復させず、日本での製鉄を落ち込んだまま維持すれば、国内のCO2排出を減らすことができます。 しかし、鉄鋼生産は国内の自動車や建設など他の産業と深く結びついているため、これらの生産活動に必要な鉄鋼を国内で供給できず、輸入で補うことになり、やがて自動車産業などは鉄鋼を十分に供給できる中国などに丸ごと持っていかれてしまう可能性があります。 1990年代半ばまで日本の粗鋼生産量は世界第1位で、「鉄は国家なり」とも言われました。その後日本は中国に抜かれ、2020年の中国の粗鋼生産量は10億5,300万トン、第2位のインドの10倍を超えます(※4)。 鉄鋼は軍艦、戦車、兵器などの材料でもあること考えれば、自国で製鉄をやめることが安全保障上、どれほど大きな問題であるかがわかります。 国内のCO2の排出を減らすために国内の鉄鋼生産を減らすなど愚の骨頂で、むしろ国内の規制や税金などのコストを減らして鉄鋼生産を国内に戻し、日本の製鉄業を強化していく政策こそが、日本の繁栄と安全を守るためにとても重要です。 鉄鋼だけでなく、石油化学、セメント、自動車、電機などの産業にも同様のことが言えます。国内のCO2の排出を増やしてでも、日本にこれらの製造業を回帰すべきです。 ◆石炭もLNGも半分しか使えなくなる 日本のGHG総排出量(CO2換算)を2030年度に2013年度比で46%削減すると、7.60億トンになります。 第1回で述べたとおり、総排出量にはエネルギーの使用に伴って排出されるCO2以外からのGHG排出や、森林による吸収なども含まれているため、実質的には2013年度の「エネルギー起源CO2排出量」約12.35億トンを、2030年度に約6.45億トンまで、48%減らすことが目標となります。(※5) エネルギー起源CO2は「電力由来CO2」と「非電力由来CO2」に分かれますが、本稿執筆時点では「電力由来CO2排出量」と「非電力由来CO2排出量」の比率が示されていないため、報道等で示された電源構成をもとにこれを推定してみましょう。 一部の報道(※6、※7)によれば、検討中の電源構成は火力発電が40%、原子力、再生可能エネルギー、水素・アンモニア発電を合わせたゼロエミッション電源が60%とされています。 現行の2030年度の電源構成の考え方(予備力の石油は3%、石炭はLNGよりも1%下げる)を踏襲して火力発電の内訳を石油3%、LNG 19%、石炭18%と置き、2030年度の発電量を現行見通し(10,650億kWh)よりも1割程度抑制すると考えると、LNGによる発電量は約1,800億kWh、石炭による発電量は1,700億kWh程度まで減らすことになり、2019年度実績(石炭3,267億kWh、LNG3,802億kWh)(※8)と比べて半減することになります。 これを燃料消費量に置き換えると、2019年度実績はそれぞれ、LNG約5,400万トン、石炭約1億1,000万トンですが、日本は2030年度にはLNG約2,700万トン、石炭約5,900万トンしか使えなくなることを意味します。日本はまさに、自ら「兵糧攻め」を選ぶことになります。 一方で、隣の中国では2030年頃まで石炭火力・LNG火力とも「爆増」し、毎年日本の総排出量1年分くらいのCO2を増やし続ける計画です(※9)。日本の政府は国内のCO2を減らすために、国家としての自殺行為をするつもりだとしか言いようがありません。 なお、この仮定に基づいて2030年度の「電力由来CO2排出量」を推定すると、約2.3億トンまで減少しますが、「非電力由来CO2排出量」の削減が困難であることを考慮すると、この水準でもおそらく総排出量の「46%削減」には届かず、さらに石炭火力を厳しく規制してCO2排出量を減らすことになる可能性があります。 石炭の減少分を再エネに置き換えることは難しいため、結局は石炭火力を止めてLNG火力を多く運転することになり、現在のLNGへの過度の依存がますます顕著になるでしょう。 中国のLNG輸入量は「爆増」しており、2021年には日本のLNG輸入量を超えるとみられています(※10)。 このような中で日本が石炭の使用をやめてLNG依存を高めれば、LNGは中国と取り合いになり、需要が競合する厳冬期などには必要な火力発電の燃料を確保することもできなくなります。 CO2を減らすことを主目的にして電源構成を決めることが、いかにエネルギーの安定供給を脅かし国家の安全保障を危機に晒すかが、お分かりいただけたと思います。 次回は、「46%削減」の辻褄を合わせるために、日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされるというお話をします。 参考 ※1 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/ ※2 「原発『必要規模を持続的に』 エネ基骨子案判明」 2021年7月6日 産経新聞 https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/ ※3 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第33回) 事務局資料(2) 「2030年エネルギーミックスにおける省エネ対策の見直しに関する経過報告」 2021年4月30日 資源エネルギー庁 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/033_02_00.pdf ※4 「世界粗鋼生産、20年0.9%減 中国10億トン超え」 2021年1月27日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ273JI0X20C21A1000000/ ※5 地球温暖化対策計画 2016年5月13日閣議決定 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/taisaku.html ※6 「脱炭素電源、6割視野に 原発は30年度2割維持」 2021年5月13日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA133S30T10C21A5000000/ ※7 「電源構成とは」 2021年5月25日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2459Z0U1A520C2000000/ ※8 総合エネルギー統計 集計結果又は推計結果 資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/results.html ※9 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1 ※10 「LNGも日中逆転 需要縮小が問うエネルギー安全保障」 2021年7月1日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3027F0Q1A630C2000000/ 【連載第1回】「温室効果ガス46%削減」 撤回しなければ日本が壊滅する 2021.07.08 http://hrp-newsfile.jp/2021/4099/ 幸福実現党 政務調査会エネルギー部会 ◆「46%削減」に根拠なし 4月に米バイデン政権の主催で行われた気候変動サミットで、菅義偉首相は温室効果ガス(GHG)削減目標を大幅に強化し、「2030年度に2013年度比46%削減」とする方針を打ち出しました(※1)。 現行のパリ協定における日本の削減目標(同26%削減)を20%も積み増すもので、先進国が相次いで削減目標を大幅に引き上げ、中国に目標強化を迫る米国の狙いがあったといわれています。 しかし、結果は米国の完敗。中国からは一切の妥協を引き出すことができず、中国は2030年までGHGを増やし続ける目標を変えていません。 菅首相が46%削減を打ち出した背景には小泉進次郎環境大臣の影響も取り沙汰されていますが、TBS系のニュース番組に出演した小泉氏は、46%が「おぼろげながら浮かんできた」と発言し、算出根拠が不明確だと批判されました。 なかでも電力中央研究所の論文(※2)では、どのように数字を積み上げても「46%削減」の達成は不可能であることを指摘しています。 ◆「おぼろげな数字」が必達目標にすり替わる日本 米国がバイデン政権に代わった今、百歩譲って「46%削減」の表明は外交上の理由でやむを得なかったとしても、パリ協定では目標の達成自体に法的義務はないため、自国の経済や安全保障を犠牲にしてまで達成する必要はないのです。 強かな外交戦術を持つ米国やEUは、高い削減目標を掲げて気候変動問題へのコミットを演出しても、実際にそれを達成するための十分な政策はありません。 特に米国では、議会の半分を占める共和党が気候危機説は「フェイク」だと考えており、目標を達成するための法律を通すことは非常に難しく、政権交代すれば目標は白紙になるため、日本が米国に合わせても「梯子を外される」ことはほぼ確実です(※3)。 しかし、憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」と定める日本は、お人好しでとても生真面目な国ですから、菅首相が「46%削減」と表明したからには徹底してこれを実現しようと努力し、目標を確実に達成するための緻密な国内政策(法律や規制)を策定します。 この生真面目さが日本の経済や安全保障を骨まで蝕み、国民を苦しめるとしたら、どうでしょうか。 ◆現行の「26%削減」目標の根拠 まず、現行の日本の削減目標「2030年度に2013年度比26%減」について見ていきましょう。 2013年度の日本のGHG総排出量(CO2換算)は約14.08億トンで、これを約10.42億トンまで、26%減らすことが目標です。 しかし、総排出量にはエネルギーの使用に伴って排出されるCO2以外からのGHG排出や、森林による吸収なども含まれているため、このうち2013年度の「エネルギー起源CO2排出量」約12.35億トンを、2030年度に約9.27億トンに、25%減らすことが実質的な目標です。 エネルギー起源CO2は「電力由来CO2」と「非電力由来CO2」に分かれ、2030年度にはそれぞれ約3.60億トン、約5.67億トンに減らすことになっています。(※4) これらの目標を達成するため、政府は2015年に「長期エネルギー需給見通し」(※5)を発表し、この見通しをもとにさまざまな規制を導入しています。 例えば、電力由来CO2の削減は電源構成によって実現し、原発と再生可能エネルギーを合わせたゼロエミッション電源比率を44%、LNG・石炭・石油を合わせた火力発電比率を56%とすること、特に火力発電は石炭を26%に抑制し、LNGを27%にすることなどが決まっています。 また、非電力由来CO2については、徹底した省エネを進め、エネルギー使用の総量を抑制することによって実現します。 ◆現行の削減目標は日本経済の停滞で達成できる? では、これらの政策や規制によって、本当にエネルギー起源CO2は25%も減り、日本の削減目標を達成できるのでしょうか。 実は、この目標を決定した2015年当時は、2030年度まで原発の再稼働が順調に進まず、再エネの大量導入にも莫大なコストがかかるため、削減目標の達成は非常に厳しいと言われていました。しかし、現在では「26%削減」の目標は達成できてしまうのではないかとの分析もあります。 電力中央研究所の試算(※6)によれば、2030年度のエネルギー起源CO2排出量は約8.74億トン(約29%減)まで減り、現行の「26%削減」目標を達成できる可能性があると分析しています。 そのカラクリは以下のようなものです。 一つは、政府の強力な支援により、太陽光発電が当初想定の64GWから既に大幅に増加し、2030年には約88GWに達する見通しであることです(※7)。 これには、民主党政権が導入した再エネ固定価格買取制度(FIT)による莫大な国民負担(2019年度の賦課金総額は2.4兆円で、2030年度には4.5兆円に達するとの予測もある)によって、おもに中国製の太陽光パネルを大量に輸入しているという、大きな代償があることを忘れてはいけません。 また、より本質的な原因は、現行の長期エネルギー需給見通しでは、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(2015年2月)に従って、実質経済成長率を1.7%と想定していたところ、コロナ以前からの日本経済の停滞とコロナによるマイナス成長、コロナ後の低成長により、2030年度までの経済成長率が平均0.5%程度に落ち込む見通しであることです。 自民党政権の経済政策では経済成長は期待できず、それによってCO2排出量が減少することは当然といえましょう。 ただし、上記の分析では原発の再稼働は比較的順調に進むことを想定しており、現在のように原発の再稼働が遅々として進まない状況では、やはり「26%削減」は難しいと考えられます。 次回は、7月中旬に審議会で素案を提示、8月に政府原案を決定し、10月末の閣議決定を目指して検討を進めているとされる(※8)、「46%削減」に向けた恐るべきエネルギー政策についてお伝えします。 参考 ※1 地球温暖化対策推進本部 2021年4月22日 https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202104/22ondanka.html ※2 「2030年温室効果ガス46%削減目標の達成は可能か?」 電力中央研究所 間瀬貴之、朝野賢司、永井雄宇 2021年5月14日 https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/21001.html ※3 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1 ※4 地球温暖化対策計画 2016年5月13日閣議決定 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/taisaku.html ※5 長期エネルギー需給見通し関連資料 2015年7月 資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_02.pdf ※6 「2030年度までの日本経済・産業・エネルギー需給構造の検討」 電力中央研究所 間瀬貴之、朝野賢司、永井雄宇、星野優子 2021年3月 https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/source/Y20506.html ※7 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第40回会合)資料2 「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」 2021年4月13日 資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/040/040_005.pdf 地方自治のあるべき姿――沖縄県石垣市「自治基本条例改正案」が可決 2021.07.06 http://hrp-newsfile.jp/2021/4097/ 金城タツローの沖縄ホンネ情報「地方自治のあるべき姿」より https://www.youtube.com/watch?v=5TX1zlTXTq4 (6月29日配信) 幸福実現党沖縄統括支部代表 金城竜郎 ◆石垣市議会で、「自治基本条例改正案」が可決 6月28日、尖閣諸島を有する沖縄県石垣市議会で、「自治基本条例改正案」が可決されました。 その背景には、石垣市の市民団体「市住民投票を求める会」の「石垣島への陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票」があります。 今回は、同市議会の「自治基本条例改正案」可決から安全保障問題における自治体のあるべき姿を考えて参ります。 まず、今回6月28日に石垣市議会が可決した改正案は次のようなものです。 (1)「市民」の定義の変更 (旧条文)では、第2条第1項で「市民」の定義を「市内に住み、又は市内で働き、学び、若しくは活動する人」としていました。 (改正案)では、「市内に住所を有する人」に改める、としています。 旧条文の「市民」の定義に、「若しくは活動する人」とあり、クルーズ船で入ってきた中国人観光客も一時的に市民になってしまう危険性がありました。 (2)「住民投票」を規定した条文の削除 次に今回の改正案では、「第27条及び第28条を削除」しています。 (旧条文)第27条「市長は、市政の重要事項について市民の意思を確認するため、その案件ごとに定められる条例により住民投票を実施することができる。」 (旧条文)第28条「本市に選挙権を有する者は、その総数の4分の1以上の連署を持って、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。市長は、この請求があったときは、所定の手続きを経て住民投票を実施しなければならない。」 この2つを削除した理由は、そもそも住民投票の請求は「地方自治法」に規定されていますのでその規定に従って手続きすれば良い、ということです。 (3)「最高規範」の文言の削除 さらに、(旧条項)第42条第1項「この条例は市政運営の最高規範であり、他の条例の制定又は改廃にあたっては、この条例の趣旨を尊重し整合性を確保しなければならない。」 (改正案)では、「この条例は、市政運営の最高規範であり、」の部分を削除することが決まりました。 以上が6月28日石垣市議会で可決した改正内容です。 ◆沖縄二大紙の「陸自配備の賛否を問う住民投票潰し」という印象操作 翌日の沖縄タイムス一面では、「自治条例改正案を可決 住民投票削除」、琉球新報一面では「住民投票削除を可決 石垣市議会賛成多数 市自治基本条例を改正」の見出しで記事が掲載されました。 沖縄二紙はこの条例改正を「住民投票削除」と報じ、「石垣島への陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票潰し」というような印象操作を行っています。 石垣市の市民団体「市住民投票を求める会」は、「市自治基本条例」を根拠に4分の1以上の市民の署名を集め、市長に住民投票実施を請求したとされますが、市議会が否決しました。 その後、「市住民投票を求める会」は石垣市に対し、住民投票の実施を求めて提訴しています。しかし、一審でも二審でも敗訴しています。 ◆石垣市議会は民主主義的な手続きを踏んで住民投票条例案を否決した 石垣市議会が住民投票条例案を否決した法的根拠として「日本国憲法第93条」があります。 日本国憲法第93条第1項「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」です。 市民団体の代表は、「石垣市民が直接選挙で選んだ市長と市議」に対して、住民投票を実施してほしい、と要請しているわけです。 市民団体の根拠は、「地方自治法第74条」です。 地方自治法第74条第1項「その総数の50分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をすることができる。」 第3項「普通地方公共団体の長は、第1項の請求を受理した日から20日以内に議会を招集し、意見を附けてこれを議会に付議し、その結果を同項の代表者に通知するとともに、これを公表しなければならない。」 これに則り、市民団体の代表者から住民投票の請求を受けた市長は、市議会に住民投票条例制定の可否を諮りました。その結果、反対多数で否決されたわけです。 結局、住民投票条例は、日本国憲法と地方自治法に則って審議し否決された。これは民主主義的な手続きを踏んでいます。 しかし、市民団体側は、「市の最高規範である自治基本条例」を根拠に「4分の1以上の署名を提出した」のだから、無前提で市は住民投票を実施するべきであるとしていました。 しかも、住民投票条例案を採択しないのは民主主義に則った手続きではない、とマスコミや政治団体などと連携し、圧力でもって住民投票を実現しようとしたのではないでしょうか。 ◆地方自治体は、国家への責務を忘れてはならない 石垣市議会は自治基本条例のいびつな部分を手直ししてあるべき地方自治に戻そうとした点は高く評価すべきだと思います。 地方自治は尊重されなければなりませんが、安全保障に関する国家への責務も忘れてはなりません。 つまり、地方自治体の限度を超えて国家の主権を犯してはなりません。それが、陸上自衛隊の配備に関することです。 中国は来年2月の北京冬季オリンピックを成功させ、突如台湾、尖閣を侵攻するであろうと警鐘をならす識者もいます。 抑止力を確保するため、石垣島の自衛隊配備を進めていかなければなりません。 ※詳細な主張は、下記よりご覧ください。 金城タツローの沖縄ホンネ情報「地方自治のあるべき姿」 https://www.youtube.com/watch?v=5TX1zlTXTq4 (6月29日配信) LGBTへの法的支援は結婚の公的意味を失わせる 2021.07.01 幸福実現党 瀧川愛美 ◆LGBT「理解増進」法案への反論 LGBTなど性的少数者に対する理解増進を目指す、いわゆる「理解増進」法案について、通常国会での成立が見送られました。 国会への提出が見送られた理由は、法案に「差別は許されない」という文言が入っていることで、「行き過ぎた運動や訴訟につながるのではないか」「自分は女性だと主張する男性が、女湯に入ることを要求するようなケースが生じかねない」といった逆差別が起こる懸念が出たためです。 ◆「同性婚」を容認する風潮 幸福実現党は、自由や多様な価値観を尊重する立場であり、LGBTの人たちの自由や幸福追求権も尊重されるべきだと考えます。 ただし、それは法的規範や社会秩序を乱すところまで認めるべきではありませんし、LGBTの人たちの権利を拡大しすぎて、それ以外の人たちの権利を侵害するようなことがあってはなりません。 戸籍上は男性で女性として生きるトランスジェンダーの経産省職員が「職場の女性トイレの使用が制限されているのは不当な差別だ」と国を訴えた裁判で、今年5月、二審の東京高裁はトイレの使用制限は違法ではないとの判決を下しました。 女性の心を持ち、姿は女性であっても、やはり男性の体を持つ人が女性トイレに入れば、不快に思う女性も多いでしょう。 LGBTの権利をすべて認めれば、多くの女性に不快な状態を強いる「逆差別」も起こりかねず、判決は妥当なものと言えるでしょう。 さらに、心と体の不一致で深刻な悩みを抱えている人がいる一方、なかには「私は女性の心を持っている」と虚偽の主張をして、女子トイレに入り込む犯罪行為を行う男性がいたとしても、その判断は難しくなります。 また、今回の理解増進法案が国会で可決、成立した場合、同性婚の法制化に道を開きかねないという懸念もあります。 現在日本では、自治体レベルでは、同性カップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ制度」を導入しています。 現時点で100を超える自治体が導入していますが、同性婚は認められていません。 マイナビニュースが2015年に行った調査によると、同性婚に7割が賛成し、「個人の自由として尊重すべき」「いろいろな愛の形があってよい」という賛成意見がありました。 一方、反対意見としては「家制度の破壊になる」「子供が減る」「倫理観が日本には合わなさそう」といった声が上がりました。 海外では、アメリカやイギリス、フランスをはじめ28の国・地域で同性婚が認められており(2020年5月時点)、日本でも寛容になるべきだという考えが増えてきました。 しかし、この潮流に流されて本当に良いのでしょうか。少し踏み止まって考える必要があります。 ◆同性婚は国力衰退につながる そもそもなぜ、結婚という制度があるのでしょうか。 結婚は私的な関係であり、カップルのためのもの、という考え方があります。 一方、「家庭は社会の最小単位」と言われるように、そのはじまりとなる結婚は社会的な制度だとみなす考えもあります。 ドイツの哲学者、ヘーゲルは『法の哲学』において、「家族とは、普遍的で永続的な人格である」として、家族を形成することで、それまで欲望やエゴイズムに基づく個人の資産が、配慮を必要とする共同財産となり、倫理的なものへと変わるという趣旨のことを述べています。 また、子供は家族の資産で扶養され、教育される権利を持っているとも指摘します。 ヘーゲルの考えに基づけば、家族は、倫理観を身に着ける場であり、次の世代の子供たちを教育する公的な場であると言えます。 結婚は完全に私的な関係であるとみなすならば、同性婚もあり得るかもしれません。 しかし、公的な精神を身に着け、子孫を教育していく場として家族をとらえた時、同性婚に道を開くことには極めて慎重でなくてはなりません。 同性婚を認め、家庭制度が崩壊に向かえば、公共心や倫理の乱れ、そして子孫の減少によって、国力が弱まる可能性が高まります。 私たちは、LGBTの人たちが個人の幸福を追求することに反対しているわけではありません。気の合う同性で一緒に暮らし、支え合う関係を持つことはあってもよいと考えます。 ただし、結婚の法制化までは認めてしまえば、長い目で見て国力の衰退につながりかねないため、反対です。 ◆LGBTの奥にある魂の真実 そもそもLGBTの問題について考えるには、魂の真実について考える必要があります。 幸福実現党は宗教政党として、霊的人生観に基づいて政策を考えています。私たちは「人間の本質は魂であり、永遠の生命を持って転生輪廻を繰り返している」という人生観を持っています。 長い転生の過程では、男性に生まれることもあれば、女性に生まれることもあります。たいていは生まれてくる前に自分の性別を自分で選びます。 そしてこの世における、数十年の人生で新しい個性を獲得します。このように、自分を成長させる「魂修行」の為に、人はこの世に生まれてきます。 ただし、長く男性の転生を経験した魂が、珍しく女性の肉体に宿ると、女性の体に違和感をおぼえたり、同性である女性に惹かれたりすることもあります。 その結果、LGBTと呼ばれる形で現れたりすることもあるわけです。 このような霊的真実を抜きにしてはLGBTの議論を正しく行うことはできません。 霊的真実から見れば、LGBTの人たちは決して「おかしな人」「特殊な人」ではありません。ただ、大切なことは、今世、与えられた性で生きることが、魂の向上になるということです。 また、一人ひとりの魂修行を応援する観点からも、LGBTの人たちへの行き過ぎた配慮や、結婚の法制化は慎重であるべきです。 世界の潮流に流されるのではなく、神仏の願いを知った上で、この問題を考えていきたいものです。 すべてを表示する