Home/ 外交・国際政治 外交・国際政治 海上封鎖で食料断絶?台湾情勢の緊迫化で迫る日本の食料危機【前編】 2022.08.27 https://youtu.be/ugpWvLgFYns 幸福実現党党首 釈量子 ◆ヨーロッパを襲う歴史的干ばつ 世界で広がる異常気象が食料危機に更なる影響を与えそうです。 日本でも記録的な豪雨で農作物などにも大きな被害が及びましたが、ヨーロッパでは逆に深刻な水不足によって大変な事態になっています。 英国を含んだEU地域の実に60%において、干ばつの被害が深刻化していると報じられており、そのうちの4分の1で植物の生育が厳しいほどの水不足が発生しているとのことです。 調査によればEU圏内のトウモロコシ、大豆や、植物油の原料となるヒマワリの生産は8~9%低下すると予測されています。 特に、歴史上最悪の干ばつに見舞われているフランスでは、ベシュ環境相が5日、「100以上の自治体で飲用水が尽きた」と述べ、給水車が出動している緊急事態が続いています。 農作物(レモンやオリーブ)への被害は「壊滅的な状況」とされ、12日には英国・イングランド8地域でも「干ばつ宣言」が発令され、被害の深刻化が懸念されています。 ウクライナ戦争が長引き、世界の穀倉地帯からの食料供給が大打撃を与えるさなか、ヨーロッパでの干ばつによる大凶作は、世界の食料危機を更に加速させそうです。 ◆台湾有事で日本に届かなくなる食料とは 更に、ペロシ米下院議長の電撃的な台湾訪問によって、台湾を巡る情勢が緊迫化の一途を辿っています。 「台湾有事は日本有事」と我々も繰り返し訴えてきましたが、食料自給率(カロリーベース)37~38%しかなく、6割強を輸入に依存する日本はいよいよ死活問題です。 それが、米台中の間での軍事的緊張の高まりに応じて、バシー海峡など日本のシーレーンが中国海軍によって封鎖される可能性が高まっているからです(図)。 もしシーレーンが封鎖されると、石油タンカーや、食料などの物資を運ぶ民間商船の航行が阻害、迂回を強いられ、状況によっては拿捕される恐れも出てきます。 台湾近海のシーレーンが封鎖された場合、日本に入ってこなくなる食料として、穀物を中心に具体的に見ていきたいと思います。 全量を国内で自給できている米は別として、まず小麦です。 自給率は15%程度(2020)ですが、米国(227万トン)、カナダ(180万トン)、豪州(106万トン)の3ヵ国で輸入のほぼ全量を賄っているため、台湾周辺のシーレーンリスクは負っておりません。 一方で、問題なのは大豆(自給率6~7%)とトウモロコシ(自給率0%・スイートコーン除く)です。 大豆輸入の15%、とトウモロコシ輸入の約40%をブラジル産に(おそらくアルゼンチン産も)依存していますが、両品目共にブラジル産の約7割が、サントス港など大西洋側の港から輸出され、南アフリカ喜望峰経由で、インド洋から台湾近海を航行するルートを通ります。 これらがシーレーン遮断の影響を受ける可能性が高くなっています。 割合としては輸入大豆の約1割、トウモロコシの約3割を占め、日本の食料調達に与える被害は甚大だと言えるでしょう。 用途は、輸入大豆の3割が食用、7割が油など、輸入トウモロコシの75%が飼料用、25%がでんぷんなどの加工用です。 更に、戦域の拡大によっては、中国や北朝鮮に囲まれ、ロシアまで敵に追いやった日本周辺の海上路が全て分断される恐れは無きにしもあらずです。 そうなれば、北米や豪州方面からの船舶も日本に寄港できず、全ての穀物輸入が途絶える恐れすらあるのです。 ◆あるべき食料安全保障体制とは? このように、天災や戦争などの外部要因によって、日本と世界を取り巻く食料事情(肥料含め)はかなり厳しい局面を迎えつつあります。 食料を買うお金がいくらあっても、物理的に手に入らなくなる状況がすぐそこまできていますが、日本はそうした局面に全く対応できておりません。 万が一、輸入が全て途絶えても、全国民を食べさせるというサバイバル思考をベースに、あるべき食料安全保障体制を早急に検討する必要性があります。 その一丁目一番地となるのがもちろん「食料増産」です。自給力を高め、有事に対応できる体制を早急に整えるべきです。 特に、生存に直結する穀物の増産は不可欠でしょう。しかしながら、日本農政は半世紀に渡って、真逆の方向に「大きな失敗」を犯し続けてきました。 それは本来日本の強みであり、大きな武器であるはずのコメを減産し続ける政策を採ってきたことです。正式には生産調整、また俗に減反と言われるものです。 (中編につづく) 台湾海峡で米中もし戦わば。米軍勝利も、米空母2隻撃沈・戦闘機900機以上が撃墜【後編】 2022.08.26 https://youtu.be/4XwWly_E9Jk 幸福実現党党首 釈量子 ◆台湾を巡る米中戦争のシミュレーション 前編で紹介した「台湾を巡る米中戦争のシミュレーション」は、米軍の元大将や防衛専門家が、米国と中国を示す青と赤の2つのチームに分かれ、9月までに22回のシミュレーションを行うそうです。 両陣営とも戦略を練りながら、空母や戦闘機、潜水艦などの軍事上の配置を示すピースを、チェスの盤面ように、テーブル上に広げられた太平洋の台湾周辺の地図に、交代で打ちます。 実際、台湾の陸上戦を想定し、陸上地図の上で、18回までこのウォーゲームをやってどうなったかが報道されています。 まず中国は、台湾侵攻の際に、先制攻撃を仕掛けます。 それによって、米軍は数十億ドルの空母2隻を沈められます。日本とグアムにある米軍基地も攻撃され、数百機の最先端戦闘機が破壊されるだろうとしています。 次に、人民解放軍は22,000人の兵士を台湾に上陸させ、台湾南部を制圧します。そして解放軍はゆっくりと北進し、滑走路や港湾の確保を目指します。 しかし、中国は徐々に勢いを失っていきます。 米軍と日本の自衛隊によるミサイル攻撃や、潜水艦の攻撃が、台湾攻撃の根元を断つかのように、中国本土の港湾を破壊して、中国の哨戒線(警戒ライン)を突破してくるからです。 人民解放軍の揚陸艦も破壊され、中国は台湾に軍隊を送ることができなくなりました。 米軍の強力な空軍力や海軍力に対抗するには、中国の長距離弾道ミサイルが、決定的に不足していました。 こうしたシミュレーションが繰り返され、9月まで続けて12月に発表することになっています。 今の段階ではほとんどのケースで、米国と台湾は最終的には勝利を収めています。 しかし莫大なコストが発生することがわかり、損失の規模として、米国は900機以上の戦闘機を失い、これはアメリカの海軍と空軍が保有する戦闘機の半分に相当します。 8月4日に中国が軍事演習でミサイルを撃ちましたが、シミュレーションで想定された中国の能力を裏付けるものだったようで、いよいよ現実味を帯びてきているわけです。 日本人が「台湾有事は日本有事である」という現実を受け止め、日本の外交や国防のあり方を考えるための参考になると思います。 ◆米国議会の台湾防衛への決意 米国議会は超党派で台湾防衛を強化するために、従来の「台湾関係法」に基づく台湾政策を見直すために、新たに「台湾政策法2022:Taiwan Policy Act of 2022」の制定に向けて取り組んでいます。 狙いは、米台関係を一層強化し、台湾防衛の意思を明確に示すことにあります。 この法案の最も注目すべきポイントは、台湾を「主要な非NATO同盟国」と認め、日本と同じように、同盟国として扱おうとしていることです。 実質上、日米同盟と同じような米台同盟を目指したものです。 この法案が成立すれば、現行の「台湾関係法」では表立って行うことができない、米台共同軍事演習に道を拓くことができます。 他にも、この法案には、今後4年間に渡って台湾へ45億ドルの軍事支援を行うことや、台湾が国際機関に加盟できるよう推進すること、中国が台湾に制裁した場合に米国が代わりに中国に金融制裁を行使すること、などが含まれています。 中国の反発は必至だと思いますが、米国議会の台湾防衛への決意のほどがうかがえます。 ◆日本は台湾有事への備えを急ぐべき では日本はどうするか。日本も、日台関係強化のために出来ることがもっとあります。 例えば、台湾と中国が昨年秋に表明を行ったTPP加盟について、日本は自由貿易を守る立場から、台湾のTPP加盟支持を表明してはどうでしょうか。 また、日本と台湾の間には正式な国交がありませんので、「日本版台湾関係法」制定に向けて着手すべきだと考えます。 蔡英文総統は、日本に「日台の安全保障対話」を望んでいます。安全保障分野の交流を今こそ実現すべきです。 台湾に近い南西諸島のミサイル配備増強も必要です。他にも、台湾の邦人救出や、中国本土に出ている企業を日本に帰すことなども、同時に必要になってくると思います。 課題は山積ですが、台湾は「自由・民主・信仰」の価値観を共有する日本の運命共同体です。 日本は「自分の国は自分で守る」体制を構築すると同時に、台湾有事への備えを急いで、日本を守らなくてはなりません。 台湾海峡で米中もし戦わば。米軍勝利も、米空母2隻撃沈・戦闘機900機以上が撃墜【前編】 2022.08.25 https://youtu.be/4XwWly_E9Jk 幸福実現党党首 釈量子 ◆中国が台湾統一に向けたリハーサル? 台湾海峡の緊迫度が増しています。 中国は米下院議長のナンシー・ペロシ氏の台湾訪問に反発し、8月4日から数日間かけて実戦さながらの軍事演習を行いました。 中国の官製メディア「環球時報」は8月3日の時点で、「今回の軍事演習は台湾統一に向けたリハーサルであり、今後も引き続き行われる」と報道しました。 軍事演習が始まる前日、まず大規模なサイバー攻撃が行われ、台湾各地のセブンイレブンでは「戦争屋のペロシ、台湾から出ていけ」という文字が大きく映し出されました。 台湾鉄道や地方行政の電子掲示板にも「偉大な中国はいずれ統一される」という文字も表示されました。 台湾国立大学もハッキングされ、「世界には一つの中国しかない」と表示されました。 台湾政府は今回のハッキングについて、中国製のソフトウェアが使用されたことが原因であるとことを突き止めて、公的機関のすべての敷地内で、中国製機器を使用することを即座に禁止しました。 そして、8月4日から始まった軍事演習では、台湾を包囲するように海上封鎖の予行演習を行いました。 海上封鎖の目的は、米国から台湾への軍事支援を断ち、台湾の輸出入を止め、台湾の無血開城を迫ることにあります。 日本にとっても、台湾海峡は中東からマラッカ海峡を経て原油を輸入するための重要なシーレーンの一部です。 実際に「海上封鎖」の予行演習をされたことによって、台湾海峡を航行する予定の数十の船舶が台湾海峡を迂回せざるを得ませんでした。 実際に事が起きれば、迂回で済むかわかりません。拿捕されたり、撃沈される可能性や、またエネルギーや食糧など、日本の安全保障が危機に陥るのは間違いありません。 ◆台湾の半導体も中国の管理下に さらにもう一つの危機は、半導体です。 もし中国が台湾の海上封鎖を行ったら、世界的に有名な台湾の半導体企業TSMCの輸出を、中国が管理するということになります。 半導体は、iPhoneなどスマホやパソコンばかりではなく、自動車など様々使われており、半導体を押さえられたら世界経済は中国に握られることになります。 昨年、アメリカ陸軍戦争大学の雑誌(『PARAMETERS』)で「中国が台湾侵攻をするなら、TSMCを焼き払え」という論文が一番読まれました。 TSMCが無くなれば、中国が台湾侵攻する理由も無くなるだろう、というものです。 現在起きているエネルギーや食糧危機に続いて、半導体危機が現れたら、世界経済は大混乱に陥ります。 ◆中国の弾道ミサイル5発がEEZに着弾 さらに、8月4日は、中国が発射した弾道ミサイル5発が日本の経済的排他水域(EEZ)に初めて着弾しました。 この演習は、より実戦に近い演習を想定し、習近平国家主席自ら判断したと言われています。 これは、台湾に近い南西諸島海域の軍事封鎖は避けられないため、台湾侵攻の際に「日本は介入するな」という牽制の意味があると思います。 石垣市の中山市長は、「台湾を超えて来た中国のミサイルは私たちの島のすぐ近くに着弾した。与那国島の80km近辺にも落ちている。台湾有事は決して他人事ではないという感じだ」と話し、住民の避難体制の整備を政府に要求しました。 ◆台湾海峡で米中もし戦わば こうした深刻な事態を受け、8月上旬、アメリカワシントンD.C.に本部を置く、民間シンクタンク「CSIS戦略国際問題研究所」が、「台湾を巡って米中戦争が起きたらどうなるのか」をシミュレーションし、米国で話題となっています。 今回のシミュレーションは、前提として米国の公式見解では、台湾侵攻の際に関与するかどうかを明言しない「あいまい戦略」を採用しています。 あいまい戦略とは、「台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、米国がこれにどう対応するか明言しないでおく」という政策です。 そうすることで中国を挑発せず、また一方で台湾がアメリカの安全保障の約束に自信を持つと、独立を宣言したりしかねないので、中国の台湾進攻の糸口を作らないよう微妙なバランスに配慮したものです。 ただ今回は、「2026年に中国が台湾に侵攻し、米軍が軍事的に関与する」という前提でシミュレーションが検討されました。 また、日本については「本土が攻撃されない限り、直接的な軍事介入までは至らないが、日本国内の米軍基地の利用を許可する」とされました。 他にも、「核兵器は使用しないこと」や、「2026年までに配備可能な軍事力を前提とすること」などが前提とされました。 2026年という設定は、人民解放軍の創立100周年にあたる2027年までに台湾侵攻を行うということから来ています。 (後編につづく) 「吉田ドクトリン」から脱却し、九条改正、国防軍編成、防衛産業の育成を目指す【後編】 2022.07.07 http://hrp-newsfile.jp/2022/4321/ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「吉田ドクトリン」で日本が失ったもの(2):防衛産業 吉田ドクトリンを信じている人は、軍事にお金を使うことは経済の発展につながらないと考えています。 そうした考えのもとで、再軍備の勧めを断った結果、日本は、国家に不可欠な産業の一つを失いました。 それが、防衛産業です。 三菱重工のように自衛隊の装備をつくる企業はありますが、どの企業も、全体の中でその割合は低く、ほとんどが1割前後にとどまっています。 しかし、米国の防衛大手を見ると、ロッキードマーティンは9割以上が軍需です(71%が国防総省から受注。28%が世界への兵器輸出)。 レイセオンテクノロジーは軍需が65%を占めています(民間向け売り上げは35%)。 欧州を見ても、売り上げを占める軍需の割合は高く、英国のBAEシステムは9割、スウェーデンの国産戦闘機をつくるSAAB (サーブ)は8割あります。 日本には、防衛に特化した大手企業がなく、腰を入れて防衛産業に打ち込みにくい状況が続いているわけです。 2021年度の防衛費をみると、4分の3が現状維持に使われ、残りの4分の1から新規の装備費を出していますが、そのお金も、米国からの装備品購入に回される割合が増え続けています。 日本は、自国に防衛産業を育成しきれていないのですが、防衛装備を他国に依存しながら、自主防衛を実現することはできません。 国際政治アナリストの伊藤貫氏は、米国の兵器は「ブラックボックス」で管理されているので、もし、将来の大統領が「中国とは戦わない」と決めたならば、日本に売った兵器をすべて止めることが可能だとも指摘していました。 F35戦闘機を例にとると、予算が増えない中で米国兵器ばかりを買った場合、日本企業に払うお金が減り、戦闘機の生産基盤を維持できなくなります。 F2戦闘機の生産は終わったため、新しい需要を生み出さなければ、F35を買っている間に国内の技術者が離散し、日本は「戦闘機の作れない国」になってしまうのです。 そうした問題があるので、欧州ではユーロファイター、スウェーデンではグリペンという、自前の戦闘機を作り続けてきました。 防衛産業がなければ「独立」を維持できないからです。 こうした新型戦闘機の開発には「兆」の単位のお金がかかります。 それは、防衛予算の倍増なしには不可能なのです。 ◆防衛産業への投資は未来産業の育成のためにも不可欠 そもそも、軍事にお金を使うことは経済の発展につながらない、という考え方は、正しくありません。 日本でも、戦時中に戦闘機や軍艦、戦車などをつくっていた技術者は、戦後、民生用の航空機や船、自動車などの製造に力を注ぎ、経済発展に大きく貢献しました。 愛国心に満ちた技術者たちの力があって、「重厚長大」産業の復活が早まったのです。 たとえば、ヤンマーディーゼル社の山岡浩二郎社長は、「ヤンマーに入社した旧海軍の技術陣は、それこそそうそうたる顔ぶれであり、ヤンマーが今日あるための大きな礎石であった」と述べています(沢井実『海軍技術者の戦後史』名古屋大学出版)。 新幹線の振動問題を解決したのは、ゼロ戦の飛行を安定させた松平精という技術者です。 当時、新幹線開発を支えた鉄道技術研究所(鉄研)には、1000人もの旧軍技術者が集められていました。 軍事のために用いた技術力は、民間経済のためにも使えるので、軍事費を無駄な浪費と見なすのは、間違った考え方です。 今の社会のインフラをみると、軍事で使われて発展したものが数多くあります。 例えば、その一つが鉄道です。 プロイセンでビスマルクが宰相だった頃、モルトケ将軍は鉄道を用いて兵士をいち早く投入し、普墺戦争、普仏戦争に勝利しました。 鉄道は、社会の基幹インフラとなると同時に、軍の輸送や兵站を支える役割を果たしています。 航空技術は、第一次大戦前は、好事家の趣味程度のレベルでしたが、第二次大戦の頃には主戦力に変貌します。 そして、戦後世界を支える基幹技術となりました。 宇宙ロケットの技術と弾道ミサイルの技術も、かなりの部分が重なります。 原子力は兵器だけでなく、発電においても、エネルギー政策の基幹を担っています。 インターネットも、もとは軍用だったものが、民間に普及し、世界のインフラとなるに至りました。 軍事への投資には、基幹的な技術のレベルを高めるものが数多くあります。 世界の主要国が軍事に投資する中で、日本だけがそのお金を惜しんでいると、世界的な技術開発競争に劣後する危険性が高まるのです。 ◆「吉田ドクトリン」を乗り越え、真の独立、主権回復をめざす 国防軍も、防衛産業も、日本の独立を守るためには、不可欠なものです。 日本が21世紀に、独立国として、大国の責任を果たすためには、吉田ドクトリンから脱却しなければなりません。 憲法九条を抜本改正し、国防軍を編成し、自国の防衛産業を発展させる必要があります。 これがなければ、北朝鮮の核ミサイルや中国の軍拡には対抗できません。 日米同盟を維持しながらも、自主防衛力の強化を進めていかなければなりません。 米国が「世界の警察官」をやめた時代においては、自分の国を自分で守らなければならないからです。 そのために、幸福実現党は「吉田ドクトリン」からの脱却を呼びかけています。 そうであってこそ、日本が真の独立を果たし、主権を回復したと言えるからです。 経済大国となった日本は、いつまでも「一国平和主義、一国繁栄主義」を続けることはできません。 幸福実現党は、「自由・民主・信仰」を守り、中国や北朝鮮などの唯物論国家、一党独裁の国家から、アジアの国々を守るべく、力を尽くしてまいります。 【参考】 ・大川隆法著『国家繁栄の条件』幸福の科学出版 ・岸田文雄『岸田ビジョン』講談社+α新書 ・防衛白書 令和3年度版 ・『SAPIO 2015年10月号』 ・沢井実著『海軍技術者の戦後史』名古屋大学出版 「吉田ドクトリン」から脱却し、九条改正、国防軍編成、防衛産業の育成を目指す【前編】 2022.07.06 「吉田ドクトリン」から脱却し、九条改正、国防軍編成、防衛産業の育成を目指す【前編】 http://hrp-newsfile.jp/2022/4320/ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「脱吉田ドクトリン」のための言論戦 幸福実現党は、参院選の公約で「日本は独立国として、いわゆる『吉田ドクトリン』、軽武装・経済優先の国家方針を転換し、国民の生命・安全・財産を守るための体制整備を急がねばなりません」と訴えました。 そう主張しているのは、この原則が、今後、日本を侵略を守るために、最も大きな障害となるからです。 吉田茂首相は、戦後講和を実現した1951年に、アメリカと安全保障条約を結び、「アメリカに守ってもらって、日本は経済活動に邁進する」という路線を敷きました。 アメリカに安全保障を依存し、軽武装のままで経済復興を最優先したのです。 1950年に朝鮮戦争が起き、アメリカが対日政策を転換した時、憲法改正の要請を断り、吉田茂は、アメリカを「日本の番犬」に見立て、経済成長に専念する体制をつくりました。 その後、日本は世界有数の経済大国になったので、長らく、この「吉田ドクトリン」がよしとされてきました。 しかし、今や中国の軍拡が進み、北朝鮮までが核ミサイルを日本に向けています。 米国が「世界の警察官」をやめた時代には、自分の国を自分で守らなければならないので、幸福実現党は「吉田ドクトリン」の転換を呼びかけています。 「半主権国家」となった日本を立て直そうとしているのです。 ◆「吉田ドクトリン」を愛している岸田首相 これに対して、岸田首相は、その著書で、自分が率いる宏池会こそが「吉田ドクトリン」の後継者だと主張しています。 「吉田茂の経済重視政策は、池田勇人元総理、大平正芳元総理、鈴木善幸元総理や河野洋平元衆議院議長、宮澤喜一元総理ら宏池会の先輩方に引き継がれました。結果からみれば、この方針により奇跡的な経済復興を遂げ、世界第三位の経済大国としての地位を回復することができました」(『岸田ビジョン』) これは、吉田首相がGHQの再軍備の勧めを断り、経済を優先したことが繁栄をもたらした、という歴史観です。 しかし、この考え方は、過去の「成功体験」が、日本を滅ぼしかねないことに目をつぶっています。 日本が「GDP比1%」の呪縛に囚われている間に、中国の公表軍事費は、日本の4倍以上にまで増えました(※円でいえば26兆3000億円程度。米国防総省は、その実態を1.1~2倍程度と見込む)。 また、北朝鮮はすでに700~1000発の弾道ミサイルを保有しています。 (※防衛白書令和3年度版は「『Jane’s Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia』によれば、北朝鮮は弾道ミサイルを合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がスカッド級、45%がノドン級、残り10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている」と記述) バイデン政権は、ロシアとウクライナの戦いに際して、他国のために核戦争をしないことを明らかにしました。 日米同盟があっても、防衛費の倍増や非核三原則の撤廃、自前の核装備の検討を、本気で考えなければいけなくなったのです。 ◆「吉田ドクトリン」で日本が失ったもの(1):自主防衛力と独立の気概 この「吉田ドクトリン」に関しては、米国への順応と経済復興だけが重んじられ、憲法改正や自主防衛力という、国の根本にあるべきものが軽視された、という批判があります。 その代表的な論者は「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根康弘元首相でした。 中曽根氏は、戦後のかじ取りの難しさを考慮しつつも、「吉田路線で失われたものは無視できない」と考え、「吉田政治からの脱却」を訴えました。 しかし、それは志半ばで終わってしまいました。 安倍首相の「戦後脱却」も、かけ声だけで終わり、いまだ日本は、自主防衛が困難な体制に置かれています。 中国が台頭し、米国がアジア重視にかじを切っても、日本は同盟を強化する政策が実現できなくなっているのです。 国のトップが「自分の国を自分で守る」という理念を捨てたツケが、こうした形で回ってきました。 この問題に関して、大川隆法党総裁は、過去、何度も警鐘を鳴らしてきました。 「日本も、戦後、どこかの時点で、この「吉田ドクトリン」を見直さなければいけなかったのです。ここに大きな間違いがあったと思います」(『平和への決断』第5章 … page.211) 「神は、『クラゲのように漂って生きているだけの国家を許してはいない』」 「戦前がすべて間違っていたわけではありません。吉田茂の考え方のなかに、『日和見的な生き方』と、「責任を取らない考え方」があり、さらに、「神様のいる国としての国家運営という『神国日本』的な考え方が、スポッと抜け落ちていた」ということです。これが、戦後の「無神論国家」、「神様のいない国家」が、経済的にのみ繁栄した理由でもあります。この罪には、やはり、『マルクスに次ぐぐらいの悪さ』があるのではないでしょうか」(大川隆法著『国家繁栄の条件』幸福の科学出版) 《引用終わり》 この「吉田ドクトリン」によって、日本は憲法を改正できず、自主防衛の力を養えないまま、漂流する国となってしまいました。 識者の中には、生前の吉田に再軍備の意志があったという人もいますが、吉田政権の意思決定が、戦後政治に与えた影響は甚大でした。 その意志があろうがなかろうが、後代への影響を考えれば、吉田茂が、その責任を問われるのは当然です。 国会答弁で、「再軍備は未来永劫しないと言っているのではない。現下の状況においてこれを致すことはしない」とは言いましたが、再軍備のチャンスを逃したことが、その後の歴史に大きなツケを遺すことになったのです。 吉田茂に対して、大川隆法党総裁は、憲法改正と再軍備が「『一つの国としての自主権であり、独立国家としてのかたちをつくるためのチャンスである』ということを彼が見抜けなかった」ことに「不明」があったと批判しました。 そして、それが「何十年も祟ることになるとは、おそらく、本人も思ってはいなかったのではないでしょうか」と指摘しています(大川隆法著『国家繁栄の条件』幸福の科学出版) (後編につづく) 重大な分岐点が迫るロシア・ウクライナ戦争――停戦交渉の道を拓くべき【後編】 2022.07.04 重大な分岐点が迫るロシア・ウクライナ戦争――停戦交渉の道を拓くべき【後編】 http://hrp-newsfile.jp/2022/4315/ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆泥沼化を避けるためには、停戦交渉が必要 今、欧米は、「どこまでウクライナへの武器支援を続けるのか」という問題を突き付けられています。 戦争を長引かせ、犠牲者が増えるだけとみて、支援を打ち切るのか。それとも、戦局が変わることを期待して、延々と支援を続けるのか。 この問題に、落としどころを示したのが、冒頭で紹介したキッシンジャー氏の提言だと言えます。 キッシンジャー氏は、アメリカがベトナム戦争を終わらせた時の大統領補佐官でした。同氏は、戦争は、どこかで終わらせなければいけないことを知っています。 しかし、ゼレンスキー大統領は、戦争をどこで終わりにしたらよいのかが見えていません。 現在、東部の帰属は戦争の結果で決めるしかなく、7月初の時点ではロシアが優勢です。 市民を民兵として動員するウクライナの戦い方は、敗勢に回った場合、多くの犠牲者が出るので、本来、ゼレンスキー大統領は、交渉が可能な間に「落としどころ」を考えなければいけません。 武器支援の中心を担う米英は、自分たちの血は一滴も流さずに、ウクライナに代理戦争を行わせ、ロシアを弱体化させようとしています。 支援なしには戦いを続けられない国は、はしごを外されたら終わりなので、キッシンジャー氏の忠告通り、「落としどころ」を考えるべきなのです。 ロシア・ウクライナに停戦を呼びかけたキッシンジャー氏は、ロシアと中国を同盟関係に追い込むことが、最も危険だと考えています。 フィナンシャルタイムズ紙のインタビューでは、以下のような大局観を述べています。(※3) 「ウクライナ戦争が終わった後、世界の地政学的状況は大きな変化を経験する」「すべての問題について、中国とロシアが同一の利害を持つのは、不自然なことだ」 「戦争後の状況では、ロシアは、最低限ヨーロッパとの関係や、NATOに対する姿勢を見直す必要が出てくる」「アメリカも、特にヨーロッパも、そうする必要がある」 「だから、2つの敵対国に対して、彼らを連携させるような形で、敵対的な立場を取るのは賢明ではない」「総合的な戦略からすれば、これからの時代、ロシアと中国を一体のものとして扱うべきではない」 今回、ウクライナをめぐって、欧米と日本がロシア叩きを続けた結果、中露が結託して動くことが増えてきました。 しかし、世界大戦の危機を避けたいのなら、中露の分断のための大戦略が必要です。 国際政治学者のミアシャイマー氏も、日本は、ウクライナ戦争の早期終結に向けて、米国に働きかけるべきだと論じました(『文芸春秋2022年6月号』)。 「ロシアではなく中国が本当の脅威であり、長期的にはロシアと協力するほうが合理的であることを、米国政府に理解させなければなりません。そのためにも、まずは日本が米国に対して、ウクライナ戦争を早期に終結し、全力で軸足を東アジアに向けるよう進言すべきです」 今まさに、中露を同盟関係に追い込み、そこに他の反米国がつらなって第三次世界大戦が起きることを防ぐための努力が必要なのです。 ◆この戦争の着地点はどこか? そうした大局観をもって、幸福実現党は、停戦とウクライナの中立化に向けた独自外交と、中露分断の必要性を訴え、3月以降、声明を出しています。 『日本はウクライナの中立化に向けた外交努力を(党声明)』(令和4年3月11日) https://info.hr-party.jp/press-release/2022/12477/ 『ロシアに対する追加制裁の撤回を求める(党声明)』(令和4年4月9日) https://info.hr-party.jp/press-release/2022/12565/ 幸福実現党は、バイデン政権のように「民主主義国家vs専制国家の戦い」という枠組みで国際社会を捉え、ロシアを敵視する路線では、中国の暴走は止められないと考えています。 「信仰ある国家vs無神論国家」という見方で捉え、信仰を理解するロシアを対中包囲網に参加させる戦略が必要だと訴えています。 我が党は、ウクライナの火種が次の世界大戦へと広がることを防ぐべく、力を尽くしてまいります。 (※3) フィナンシャルタイムズ紙のキッシンジャーのインタビュー Henry Kissinger: We are now living in a totally new era | FT https://www.youtube.com/watch?v=6b89jcNqgJo&t=279s 重大な分岐点が迫るロシア・ウクライナ戦争――停戦交渉の道を拓くべき【前編】 2022.07.03 http://hrp-newsfile.jp/2022/4314/ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆ウクライナ東部の戦いは重大な局面に 6月以降、ウクライナの戦いは、ロシア軍が攻勢に転じています。6月下旬には、ロシア軍は、ウクライナ東部の要衝・セベロドネツク市を制しました。 ゼレンスキー大統領は、欧米に武器支援の拡大を求めていますが、「支援疲れ」が広がり、欧米の識者の中からは、停戦の勧めも出てきています。 その代表は、国際政治学者のキッシンジャー氏です。同氏は、5月23日に開催されたダボス会議で、以下のように提言しました。(※1) 「和平交渉および交渉のための活動を、今後、2カ月以内に開始する必要がある」「戦争の結果は、それらによって形づくられるべきだ」 「特に、最終的な露欧関係と、最終的なウクライナと欧州との関係との間で、克服しがたい(あるいは全く克服されない可能性がある)動揺と緊張が生み出される前に」 「理想的には、その境界線は戦争前の状況に戻すべきだ」 「それ以上を求めると、NATOが結束して取り組んできたウクライナの自由のための戦争ではなく、ロシアへの新たな戦争になってしまう」 「それ(ロシアへの新たな戦争)は、境界線を引くことを不可能にし、困難にする」 この提言は、ウクライナに、全領土の奪回を諦めることを勧めています。 戦争前には、ウクライナ東部で「ルガンスク人民共和国」が独立を宣言していたので、この主張は、ウクライナがクリミア半島や東部の親露派支配地域を放棄することを意味するわけです。 これに対して、ゼレンスキー大統領は、「和平という幻想との交換を提案する領土には、普通のウクライナ人が実際に住んでいる」と反発しました。 まず、ロシアを侵攻前の地点に押し戻し、その後、クリミア半島や東部2州を取り戻すと気勢を上げました。 しかし、全領土の奪回を目指すゼレンスキー氏の路線でゆくと、戦争は終わりません。 欧米とロシアの代理戦争がさらに激化し、多くの国民が命を落とすことになります。 ◆世界は対米追随国ばかりではない 日本のメディアは「ウクライナ応援」の一点張りですが、世界は、必ずしも、対ロ強硬派ばかりではありません。 まず、欧州を見ると、英国やポーランド、バルト3国などはバイデン政権のロシア弱体化路線を支持していますが、ドイツ、フランス、イタリアは停戦交渉が必要という立場です。 5月初めに、フランスのマクロン大統領は、ロシアに「屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と述べました。 イタリアのドラギ首相は、訪米時に、欧州の人々は「停戦の確保と、信頼できる交渉の再開について考えたいと思っている」と発言をしています。 ドイツのショルツ首相は、マクロン氏とともに、電話でプーチン大統領と対話し、ウクライナに滞留する穀物を出荷できるよう、南部の主要港オデッサの封鎖解除を求めました(5/28)。 アジアやアフリカでは、さらに論調が違います。 G20の議長国インドネシアは、一貫して停戦を訴え、日米に反対されてもプーチン大統領にG20サミットへの招待状を送りました。 6月30日、インドネシアのジョコ大統領は、プーチン大統領にモスクワで会談した際、ゼレンスキー大統領からのメッセージを渡したことを明らかにし「両首脳の接触を調整する用意がある」と述べています。 インドは中立の立場をとり、「ロシアからの資源輸入を停止してほしい」という米国の要請を退けました。 アフリカ諸国(52か国)は、ロシア軍即時撤退を求めた3月2日の国連決議では、その半分がロシア非難に加わりませんでした。 つまり、世界のすべての国が、プーチンをヒトラーと同一視する風潮に賛同しているわけではありません。 日本では、反ロシア的な世論が盛り上がっていますが、わが国もまた、対ロ制裁に追随する以外の選択肢があることを忘れるべきではありません。 ◆「ロシアは悪、ウクライナは正義」という報道は停戦交渉の妨げ マスコミの多くは、プーチンをヒトラーと同一視し、ロシア軍をナチスと同じように扱っています。 しかし、こうした「世論」は、停戦交渉の開始を妨げます。 「ロシア軍はナチスと同じだ」という見方からは、「停戦交渉はナチスに領土を譲るのに等しい」という結論が導き出されるからです。 停戦を呼びかけたフランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏も「敵国が怪物である」という印象操作が交渉の妨げになることを警告していました。(※2) こうした風潮は、「ロシアは悪、ウクライナは正義」と色分けされた報道によって増幅されてきました。 その典型は、ロシア軍が一般人の犠牲も辞さない戦いを続けている、という批判です。 ただ、今回のウクライナの戦いは、もともと、国際法が想定したような戦いにはなっていません。 ウクライナ側では、大統領が国民に武器を取ることを呼びかけ、一般人が民兵になって戦争に参加するケースが常態化しています。 (※正規兵に比べて訓練が短い「民兵」を戦場に投入し、国際法に違反せずに戦い続けるのは難しいので、従来、国際社会は、こうした戦い方に否定的だった) 武器を取らなくても、市民がスマホやドローンを使ってロシア軍の兵士や戦車の居場所を通報し、そこにウクライナ軍が攻撃をしかけるようなケースも多々ありました。 ウクライナ市民も戦争の参加者になっているので、ロシア軍の攻撃も、それに見合って激化しました。 そのため、これ以上、戦いが拡大していけば、被害者はうなぎのぼりに増えていきます。 「『ロシア軍=悪。ウクライナ軍=正義』という色をつけた報道で煽ることは、停戦交渉の妨げになり、結果的に、被害者を増やすことを助けてしまうかもしれない」と、冷静に考え直すべき時が来たのです。 (後編につづく) (※1) Henry Kissinger: Ukraine Should Give Up Territory to Russia to Reach Peace BY GIULIA CARBONARO 5/24/22 https://www.newsweek.com/henry-kissinger-ukraine-should-give-territory-russia-reach-peace-1709488) (※2) 日経ビジネスオンライン「エマニュエル・トッド氏『日本はウクライナ戦争から抜け出せ』」2022.5.31 「もうロシアとケンカしたくない!」が世界の本音? 【後編】 2022.06.27 https://youtu.be/aJS-Y8Bg52E 幸福実現党党首 釈量子 ◆アジア・アフリカで広がるロシア擁護の動き 実際、トルコから見た東方世界、中東・アジアに目を向ければ、「極悪な侵略者ロシア、可哀そうなウクライナを助ける欧米諸国」という日本のメディアにありがちなステレオタイプとは、全く異なった見方がされています。 例えば、ドバイを抱えるアラブ首長国連邦UAE、サウジアラビアといった伝統的な親米国が、トランプ政権からバイデン政権になってから、急速に距離を取りつつあります。 UAEに至っては、3月初旬に行われた国連安保理の「ロシアへの非難決議」で棄権票を投じ、ここまでアメリカ離れが進んでいるのかと、世界に衝撃を与えました。 UAEが誇る中東随一の経済都市ドバイは、経済制裁で苦しむロシア企業や富裕層にとって、うってつけの海外拠点となりつつあります。なんとドバイの不動産市場では「ロシア人マーケットがいま最も盛況」と言われています。 UAEの旧宗主国は英国なのですが、欧米諸国の対ロシア制裁に同調しないという姿勢をはっきりとさせています。(WSJ) ようやく原油増産に応じたサウジアラビアも、米バイデン政権から再三の懇願は無視し続け、電話も出ないという状況で、ロシアと歩調を合わせてきました。 3月には、サウジアラビアと中国の間で、原油取引の一部を米ドルから中国元で決済するという取り決めの可能性が報じられました。 石油のドル決済こそ、ドル覇権の力の源泉なので、大きな流れです。米国から中露へのシフトが顕著です。 また、アフリカ諸国も、ロシアやウクライナに食料を依存している地域ですが、欧米側の肩を明確に持つ国はあまりないのが実情です。 6月3日、アフリカ連合の議長国セネガルのサル大統領がプーチン大統領とソチで会談を行い、「欧米の対ロ制裁でロシア産の穀物がアフリカに届かなくなっており、制裁が状況を悪化させた」と訴えています。 それに対してプーチン大統領は「ロシアは常にアフリカの側にあり、植民地主義との戦いでアフリカを支援してきた」と語っています。 更にインドは、安保理決議ではUAEと同じく棄権票を投じましたが、ロシアとは軍事装備上、切っても切れない関係があり、明確に欧米側に付くことは考え難いと言えます。 ◆欧米諸国の中から噴出する「ロシアとケンカしたくない!」の声 最近になって、欧米諸国の内部からも、長引くウクライナ戦争や対ロ制裁について、「かえって自分たちの首を絞めかねない」と否定的な意見も多くなってきました。 ハンガリーは、EU加盟国ですが、NATOが5月4日にロシア産原油の輸入禁止を柱とした追加制裁を発動すると、これに強く反発しました。ロシア正教トップの総主教キリル1世への制裁もハンガリーの反対で見送られています。 ハンガリーはロシア産の原油がないと国が立ち行かなくなるので、制裁案を飲むなんてことは、「ハンガリー経済にとって核爆弾だ」というくらいの大打撃になるのは間違いありません。 ハンガリーのオルバン首相も、エルドアン大統領同様、プーチン大統領との個人的な信頼関係が強く、また宗教的・民族的な価値観など、EUという「外形的な枠組み」よりも、更に深いところでつながっているようです。 このように、欧米諸国も一枚岩ではありません。 停戦交渉についても、ドイツ、イタリア、フランスはロシアとの対話による和平を重視する一方、ロシア嫌いの英国やポーランド、エストニアなどバルト3国は「ウクライナの軍事的勝利が解決」と強硬路線を採り、EUに大きな亀裂が走っています。 米国では、対ロ制裁によるエネルギー価格の上昇などインフレ傾向が加速し、選挙には悪影響、もはや完全に逆効果になりつつあるようです。 米国が考える和平案の中には、ウクライナ保全の見返りに、NATOに対するウクライナ中立化や、クリミアやドンバスなどに関する対ロ交渉も議論の枠組みに、もう含まれていることが報道されてきました。 ◆「欧米追従」を貫く日本、いつの間にか肩透かしを食らうかも 世界大戦にエスカレーションするか否か、緊迫する世界情勢の中で、「機を見るに敏」で立ち回る国際社会の中で、日本政府の「欧米追従」の姿勢は変わる気配を見せません。 バイデン政権がアフガンにおいて、20年間で8兆ドルも投じたのに手のひらを返して撤退してしまったように、いつの間にか肩透かしを食らい、割を食うのは日本だけ、という事態にもなりかねません。 地政学的に見ても、ロシアを敵に回して最も危険度が高いのは欧州のどの国よりも、中国・北朝鮮・ロシアの3ヵ国に囲まれた日本かもしれません。 日本が本来担うべきは、トルコのように東西文明の懸け橋にならんとする、もっと大きな役割であるべきです。 そのためにも、世界の行く末をよき方向にリードしていこうとする積極的でダイナミックな立ち回りこそ、日本に求められているのではないでしょうか。 「もうロシアとケンカしたくない!」が世界の本音? 【中編】 2022.06.26 https://youtu.be/aJS-Y8Bg52E 幸福実現党党首 釈量子 ◆トルコが実質的に「世界大戦」化を防いでいる? もう一つ、別の視点から見て、世界大戦に広がりかねない火種を、結果的にトルコが抑えているのが現状です。それがスウェーデンとフィンランドのNATO加盟への反対です。 5月29日、トルコのエルドアン大統領はこの両国のNATO加盟は「認められない」との認識を改めて示しました。 1か月以上、両国との協議を進めてきましたが、現時点ではトルコにとって「期待したレベルに達していない」と判断した模様です。 その一つの判断材料となるのが、5月下旬にトルコからスウェーデンに示されてきた「条件リスト」の中身です。 基本的には、スウェーデンが、テロ組織の隠れ蓑となって、武器支援や財政的支援を行っていることへの強い不満が表明されています。 特に、トルコではクルド人勢力の問題があります。 クルド人というのは、トルコやシリア、イラク、イランなど国を超えて住んでいる民族で、約3000万人いると言われます。このクルド人は自分たちの国を持ったことがなく、「国を持たない最大の民族」と呼ばれています。 1980年代に、トルコでは「クルド人など存在しない」と主張して、国内にいる少数のクルド人を弾圧しました。すると、クルド労働者党(PKK)がトルコ国内で武装闘争を開始し、死者が4万人を超えてしまいました。 しかし、クルド人は独立を果たすことができず、トルコにとっては「テロ組織」と危険視しています。 一方、シリアやイラクに横断して住んでいるクルド人たちが、アメリカや欧米から支援を受けてIS(イスラム国)に対して、勝利しました。その見返りに、クルド人たちはシリア北部で自治区を作って独立を果たそうとします。 これにはトルコが警戒し、2019年シリア北部に侵攻して、クルド人20万人ぐらいが家を失ったとされます。 非常に複雑な歴史があり、トルコは「条件リスト」で、スウェーデンがクルド系組織を支援していると指摘して抵抗しているわけです。 ただ、トルコのこの動きが、結果的に、戦争の拡大を防いでいると言っても過言ではありません。 万が一、ロシアと国境を接するフィンランド、そしてスウェーデンがNATOに加盟したら、プーチン大統領にとってはウクライナ同様、レッドラインを超えたと見做すはずです。 実際に、5月下旬、フィンランド国境にロシア軍部隊を増強しています。 そういう意味からみれば、結果的にトルコの反対が世界大戦への波及を防いでいることは確かです。 ◆プーチンとエルドアンの不思議な絆 歴史的には、トルコは、クリミア戦争などで象徴されるように、隣国ロシアの南下政策には苦しめられてきた経緯があります。 現在進行形でシリアやリビアでは、ロシアと対立関係にもありますし、ウクライナにはトルコ製のドローン兵器を輸出してロシア軍と対峙したりもしています。 ところが、トルコ中東問題の専門家によると、「長年それぞれ国のトップを張り続けた、プーチン大統領とエルドアン大統領の間には、特別な絆、定期的に対話を重ねる信頼関係がある」と言われています。 エルドアン大統領に関する「指導者」としての評価は横に置きつつも、いま、核戦争につながりかねない世界大戦を未然に防いだほうがいい、という判断をしているのは注目されます。 (後編につづく) 「もうロシアとケンカしたくない!」が世界の本音? 【前編】 2022.06.25 https://youtu.be/aJS-Y8Bg52E 幸福実現党党首 釈量子 ◆ウクライナの「停戦仲介」に名乗りを挙げたトルコ ウクライナ戦争が開戦から4ヶ月半が経過しましたが、いま停戦の「仲介役」として本格的に名乗りを挙げ、世界から動向を注目されている国があります。 それが、東洋と西洋の狭間に位置する国トルコです。 3月から両国に停戦交渉の場を提供してきたトルコですが、5月30日、トルコのエルドアン大統領は改めて、ロシアのプーチン大統領、またウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議し、両国の仲介に意欲を示しています。 それに合わせて、プーチン大統領にとって開戦後、初の外遊となるトルコ訪問について、ロシア大統領府は「準備している」ことを明らかにしました。 特に世界を危機に陥れている食料や肥料等の供給網の復旧、要するに、穀物、ヒマワリ油や肥料類などの輸出ルートが確保できるかどうか、という点が注目されています。 ◆ロシアではなく、ウクライナ?黒海封鎖の真犯人とは 欧米側のスタンスとしては、侵略者ロシア・プーチン大統領が、ウクライナ産の穀物が輸出されないように、黒海に面した港湾を封鎖、「世界に深刻な食料不足を引き起こした」という一面的な批判を展開しています。 一方、プーチン大統領の言い分は真っ向から異なります。 今回の食料危機は「誤った欧米の経済制裁」が原因であり、港湾の封鎖についてはウクライナ側が「港の入り口に機雷をしかけた」と訴えています。これについてもウクライナ側は「ロシアの仕業」だと言っています。 戦場となり、交通インフラが極めて不安定なウクライナは難しいとしても、ロシアとしては国内で収穫された食料の輸出は開戦後も行いたかったはずです。 実際に、ロシア産小麦や大麦、ヒマワリ油などの生産地域は、コーカサス地方やロシア南部など、ウクライナ周辺地域に集中しているため、輸出の主力となる海上ルートは黒海経由となるのが、妥当でしょう。 そういう意味から、機雷によって自国の輸出ルートを自ら潰すとは考え難く、ロシアを悪役にするウクライナ(または西側)側の策略とも考えられます。 そんな中、ロシアと共同しながら、黒海に敷設された機雷の除去という大きな役割を担っているのが、トルコなのです。 ロシアのラブロフ外相は6月1日、サウジアラビアでの会見で「(トルコの)エルドアン大統領と会談した結果、発展途上国にとって必要不可欠な食料物資等(貨物)とウクライナの港の機雷除去を進める手助けをするという合意に達した」とトルコの貢献を、国際社会に報じています。 このように、ロシアと対立関係にあるNATOの一員として、黒海の交通管理という国際的に承認された役割を担いつつ、ロシアとの独自外交で、停戦仲介のメインプレーヤーを演じるトルコが存在感を放っています。 また、6月3日、プーチン大統領はウクライナ産の穀物に関しては、同盟国ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案が「一番簡単で安価だ」と述べ、条件としてベラルーシの制裁解除を挙げました。 ベラルーシのルカシェンコ大統領も、バルト海の港から自国製品の輸出が出来るようになれば、ウクライナ産の穀物も運ぶ用意があると認めております。 欧米側の制裁が解除されれば、世界を苦しめている食料危機が、実質的に大きく軽減される未来が容易にイメージできます。 (中編につづく) すべてを表示する « Previous 1 … 4 5 6 7 8 … 98 Next »