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経済制裁に苦しむロシアと日本

文/政務調査会チーフ 小鮒将人

◆ロシアを苦しめる「経済制裁」の内容について

現在、ロシアは欧米から「経済制裁」を受けています。

日本ではロシア経済について、あまり報道されませんが、実際は深刻な影響を与えており、強気のプーチン大統領もさすがに厳しさを認識しているようです。

ひとくくりに「経済制裁」と言っても内容は様々です。昨年3月のウクライナ危機を受け、最初に、以下の経済制裁を行いました。

・ロシア政府・財界要人の入国禁止
・ロシア政府・財界要人の在外資産の凍結

第1弾の経済制裁は、一般のロシア国民には、影響はありませんでしたが、資産家・富裕層は、欧米での資産が運用できなくなり、大きな痛手となりました。

さらに昨年7月、ウクライナ上空で発生したマレーシア航空機撃墜にロシアが関与している可能性が高まった事で、以下の制裁が加わる事となりました。

・ロシア大手銀行への融資禁止
・ロシアへのエネルギー関連技術供与の禁止

第1弾は主として個人に対しての規制でしたが、第2弾は、企業が対象となるもので、撃墜事件がいかに、欧米諸国の怒りを買ったのかが分かります。

◆さらに「原油安」がロシア経済に大きな影響

さらに、第2弾の経済制裁と機を一にするかのように、原油価格が急落しはじめました。

昨年の年初から、100ドル前後の高止まりを続けていましたが、昨年7月から急落は始まり、現在はおよそ40ドル前後です。経済制裁に加え、原油安は深刻な影響を与えています。

元々ロシア経済は、原油及び天然ガスのエネルギー資源の輸出に大きく依存しており、大幅な資源安は、ロシア国内の景気及び、国家財政を厳しくし、それに連動してロシアの通貨ルーブルも急落しています。

ロシア中央銀行は、急落を食い止めるために度重なる金利の利上げを行い、この結果、物価が急上昇し、家計に厳しい影響を与えています。

ウクライナの紛争そのものは、ロシア、ウクライナ、欧州による交渉が合意に達し、ひとまず停戦に至っていますが、本質的な問題の解決ではなく、経済制裁が解除される見通しも立っていません。

また、原油安について、底を打った感はあるものの、上昇のトレンド(傾向)の見込みもなく、現在ロシア経済には大きな不安が残っています。

◆巻き返しとしての中国・北朝鮮との関係強化

こうした中、ロシアのプーチン大統領は、経済制裁に対しての対抗策を進めています。まず、中国とのガス供給の交渉が昨年5月、妥決しました。

元々、この交渉は価格が折り合わず、20年近く続いていたのですが、欧米の経済制裁への対抗措置として、プーチン大統領は中国側へ譲歩を行い、契約締結につながりました。

また、北朝鮮との関係改善についても注目されています。

今年5月、ロシアで行われる「対独戦勝70周年記念式典」に金正恩氏の出席が決定し、金氏が北朝鮮の指導者となって以来、初の海外訪問となりました。

ロシアは、北朝鮮に対して様々な支援を行います。米ハドソン研究所主席研究員の日高義樹氏によると、具体的に以下の支援を検討しているとの事です。

1.朝鮮半島での共同軍事演習
2.原油や天然ガスなどの供給
3.港湾、道路などのインフラ整備の支援
4.食料増産の援助
5.北朝鮮核兵器の小型化を技術支援

ロシアの本音はアメリカへの牽制である事は明白で、どこまで北朝鮮の支援を行うかが未知数ですが、特に、共同軍事演習及び、核兵器の性能向上については、日本の安全保障にも重大な影響が出てきます。

このように、欧米とロシアの緊張状態が続くことは、日本にとっては好ましいものではありません。

特に現在、中国の軍事的な拡大路線が懸念されているわけですが、その中で、ロシアは、中国への牽制ともなるべき非常に重要な国家であります。

◆日本がとるべき考えとは

「ウクライナ危機」は、ロシア側が、一方的な侵略の意図をもって進められたものではありません。元は、ウクライナがロシア側からEU側への移行を意図した事がきっかけとなったのです。

ウクライナは建国時より、EUとロシアの間の「緩衝地域」としての役割を果たしていたのですが、2013年、大規模な市民によるデモの結果、親ロシアのヤヌコビッチ政権は崩壊、現在はEU側につくことを選択しました。

しかし、ロシアとしてはEUと直接国境を接する事になり、国益の立場からこの事を決して容認できないのです。

とは言いつつも、ロシアの手法もかなり強引で、中間的な立場を持っていた国からも非難され、結果として経済的な苦境に立っています。

そして、プーチン大統領は、明るい見通しを国民に示すために、様々な手を打っているのが実情です。

日本は、まず日米同盟の堅持を掲げつつ、安全保障の観点からも、ロシアとの友好関係を強化することが非常に大切です。

安倍総理は、ソチ五輪の開会式において、欧米諸国の首脳たちの多くが欠席した中、数少ない出席者の一人でした。当然プーチン大統領としては、恩義に感じているでしょう。

欧米諸国と歩調を合わせるべき局面もありますが、日本は、ロシアがこれ以上、中国・北朝鮮との関係を深め、東アジアの安全保障上の危機とはならないよう、常にロシアへの配慮を続けていく事が必要です。 

ウクライナをめぐるロシアと欧米諸国との緊張状態は、まだ見通しが立たない状態ですが、日本は今後も慎重な対応を続けていくことが、国益にかなう事にもなります。

こぶな 将人

執筆者:こぶな 将人

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