Home/ 2019年 June 2019年 June 【ASEAN首脳会議】TPPがあればRCEPに力を注ぐ必要なし 2019.06.20 【ASEAN首脳会議】TPPがあればRCEPに力を注ぐ必要なし HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆ASEAN首脳会議 RCEPが主な議題か 6月20日から23日まで、タイのバンコクで、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議が開催されています。 そして、22日の財相会議では、日本や中国、インドなどのアジア諸国が交渉を続けているRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の年内合意に向けた話し合いが行われます。 (※RCEPは、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略) このRCEPは、日本と中国、韓国、インドとオーストラリア、ニュージーランドにASEANの10か国を足した16カ国でつくる経済連携協定です。 この広域FTAは、TPPに対抗したい中国と、TPPに参加できなかったインド等の思惑から生まれましたが、それが実現すれば、GDPと貿易総額で世界の3割を占める経済圏が生まれます。 それは、TPP11に匹敵する規模です。 しかし、このRCEPを主導しているのは、貿易の自由化が進んでおらず、TPPへの参加要件を満たせなかった中国とインドです。 そのため、RCEPは、TPPのように大きく関税を削減する協定ではないのですが、日本は、その規模の大きさに惹かれ、長らく交渉を続けてきました。 ◆広域FTAにおいても野心を露わにする中国 RCEPの交渉は、もともと18年内の妥結を目指していましたが、交渉は難航し、議論が19年にまで延長しています。 そして、最近は、中国がインド抜きのRCEP案を主張し始めました。 それだけでなく、19年4月には、ラオスで開かれた「ASEAN+日中韓」の会合で、インドとオーストラリア、ニュージーランドを除いた13か国で「東アジア経済コミュニティー」(EAEC)を推し進める構想を明かしました。 その折に提示された文書には、EAECの主要な協力分野に「FTAの構築を含む」と明記されていると日経が報じています。 (※EAECは、マレーシアのマハティール首相が1990年に打ち出した「ASEAN+3」の枠組み) 中国がこの時期に「ASEAN+3」を強調してきたのは、米国の「インド太平洋戦略」に協力する「印・豪・NZ」を排除し、中国主導の広域経済圏を目指すためだと考えるべきでしょう。 ◆TPP11があるのに、RCEPが本当に必要なのか? インドはもともと、大幅な関税削減には消極的なので、RCEPの交渉はなかなか進みません。 そして、中国は、インドを抜きにして、中国主導の経済圏をつくりたがっています。 そこで、問題となるのは、このRCEPに参加する意義が、どれだけあるのか、ということです。 ◆貿易交渉の専門家が評価した「RCEP」の中身 この問題について、元農水官僚の山下一仁氏は〈「中国」に惑わされず、RCEPよりTPP拡大を」〉と題した記事を公開しています。 (※山下氏は、GATTのウルグアイ・ラウンドでの交渉等を過去に担当した農政と貿易の専門家) その要旨は以下のとおりです。 ・RCEPは基準が緩く、ほとんど関税を削減せず、WTO以上のルールや規律も設定しないFTAなので、貿易の現状を大きく変えるものではない。 ・東南アジア諸国でTPP11とRCEPの参加国が重複するので、2つの関税、ルール、規則が錯綜して貿易が混乱する ・RCEPよりも貿易の自由度やルール面でレベルの高いTPPでアジア太平洋地域の経済を統合すべき ・質の高いFTAにならないRCEP交渉に貴重な人的資源を割くよりも、TPPの拡大に傾注すべき この記事には〈参加国のGDP規模を重視する日本政府。大事なのは「規模」より「規律」だ〉という副題がつけられていました。 これは、極めて理にかなった主張です。 すでにTPPがあるのに、それを生かさず、中国の影響が強い経済連携に入ることに力を浪費するのは、筋が通らないからです。 ◆RCEP交渉には「見切り」をつけよう RCEP交渉は2012年に始まりましたが、いまだに終わりが見えません。 しかし、すでにTPPは成立しているので、日本は、RCEP交渉よりも、こちらを活かしたほうが懸命です。 TPPに入っていないASEAN諸国に参加を促し、インドのような難しい国とは別個に交渉すればよいわけです。 日本には、日米貿易交渉や日露平和条約の締結、台湾との関係強化といった、重要な懸案事項が数多くあります。 RCEP交渉にいつまでも力を費やさず、こちらには見切りをつけるべきです。 幸福実現党は、主要政策において「中国主導の経済連携への参加は支持しません」と主張してきました。 今後も、米国との関係を重視しながら、アジアの自由主義国との貿易拡大を図り、日本経済とインド太平洋地域の発展を目指してまいります。 【参照】 ・日経電子版「インド外しRCEP、中国が提案 交渉停滞受け」(2019/6/18) ・山下一仁「中国」に惑わされず、RCEPよりTPP拡大を -参加国のGDP規模を重視する日本政府。大事なのは「規模」より「規律」だ-」(2018.07.11、キャノングローバル戦略研究所HP) 【米・イラン対立(後編)】安倍外交の失敗と日本がやるべき三つのこと 2019.06.19 【米・イラン対立(後編)】安倍外交の失敗と日本がやるべき三つのこと HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆イランは、米国がいうほど「悪い国」なのか? 昔、ブッシュ政権が「悪の枢軸」と呼んだように、米国は、長らくイランを敵国とみなしてきました。 確かに、米国と抗う中で、イランがミサイル開発などで北朝鮮や中国とのつながりを深めたのは事実です。 しかし、この両者には、決定的な違いがあります。 イランは、北朝鮮や中国とは違い、神を信じる人々が集う国です。 人権面では問題もありますが、選挙が行われ、一定の範囲で民意が政治に反映され、大統領は選挙で選ばれます。 このあたりは、北朝鮮や中国との大きな違いです。 イランの体制は、国民の大多数が信じるイスラム教シーア派に根差しています。 彼らが自分たちの宗教に根差した体制をつくることは、ごく自然な動きであり、それを「欧米と違うから」というだけで、悪だと決めつけることはできません。 ◆「アメリカの正義」には何が足りないのか イランでは「ホメイニ革命」の頃、多くの民衆が米国の傀儡政権を拒絶し、イスラムに基づいた独自の国を建てる道を選びました。 そのため、米国がイランの現政権を打倒し、武力で新政権を立てた場合、イランの民には、昔の傀儡政権の時代への逆戻りにしか見えません。 その場合は、イラク以上に激しい抵抗運動が起きることが予想されます。 イランの体制にも、多々問題はありますが、だからといって、それで米国がイランに傀儡政権を立てる正統性が生まれるわけではありません。 なぜかと言えば、国家は、単なるメカニズムではなく、歴史と伝統、宗教に根ざした共同体だからです。 人々が価値観を共にし、力を合わせ、それを実現しようとする中で国家が生まれ、それが世代を超えて継承されます。 だからこそ、米国が勝手に持ち込んだ価値観を受け入れる義理はないし、それを子供の代にまで受け継ぐいわれもないのです。 これが分からないアメリカは、「民主主義」という美しい言葉を並べて政権をつくり、イラク戦争やアフガン戦争の「統治」に甚大な犠牲を払いました。 結局、武力のみで自国に都合の良い政権を立てられるという発想には、根本的な欠陥があります。 それは、歴史の浅い国が陥りがちな間違いなのかもしれません。 ◆成果のない安倍首相のイラン訪問 今回、安倍首相がイランを訪問し、米国とイランとの間を取り持とうと試みました。 しかし、その結果、二隻の日本のタンカーが攻撃を受けました。 このパターンは、2015年に安倍首相が中東を訪問した後に、日本人がイスラム国に人質に取られた事件と似ています。 安倍政権はイラン訪問で日本の存在感を高められると見たのですが、結局、2015年の時と同じく、イスラム勢からの「返答」は厳しいものでした。 そうなったのは、政治・経済的な利害関係よりも上位にある価値観がなかったからです。 米・イラン対立の奥には、イスラム教とキリスト教を中心とした二大文明の衝突がありますが、そこに「石油のバイヤー」でしかない日本の首相が「トランプのお友達」としてノコノコと出ていった結果、「アメリカの犬、帰れ」という厳しい反応が返ってきました。 日本に、二つの宗教の相克を超える高度な価値観がない限り、仲裁などできるはずがありません。 ◆日本がやるべき三つのこと 最後に、今回のタンカー攻撃が日本に示唆することを整理してみます。 まず、第一に、幸福実現党が主張してきた原発再稼働の必要性が明らかになりました。 戦争などでホルムズ海峡から原油を送ることが無理になれば、日本のエネルギー供給も危険になるため、原発の必要性が高まります。 そうしたリスクがあるのに、原発を止めてきた政府の方針には間違いがあるわけです。 大川総裁は、2010年6月に日本のタンカーが攻撃される可能性に警告を発したことがあります(大川隆法著『アダム・スミス霊言による新・国富論』P20)。 幸福実現党は、立党時からシーレーン防衛の重要性を訴えてきたのですが、民主党政権が止めた原発は、いまだに再稼働がままならない有様です。 第二は、イラン攻撃には反対すべきだということです。 トランプ政権内に、それを望むかのような動きもありますが、日本政府ははっきりと反対すべきでしょう。 (※限定攻撃であっても、エスカレートすれば大規模化の可能性は残る) 前述のように、米国のイラン攻撃には十分な大義もなく、規模が拡大すれば米国に甚大な負担をもたらすからです。 幸福実現党・大川隆法総裁は、6月14日の講演会(「されど不惜身命!」)において(※)、イランへの「攻撃が結果的に非常に大きな被害を生むし、日本のエネルギー供給も危険になる」と警告しました。 また、アメリカとの同盟関係を大切にしつつも、日本が、独立国家として言うべきことは言う国家にならないといけないと提言しています。 この「独立国家」となるということが、三番目にやらなければいけないことです。 結局、日本はイランのことをあれこれ言う前に、マッカーサー憲法に基づいた体制を立て直さなければいけません。 幸福実現党は、立党時に、綱領において「大国日本の使命」を果たすことをうたいました。 「日本は宗教的寛容の精神の下、宗教が共存共栄し、人々が幸福を享受した歴史を有しています。こうした自由と寛容の精神に基づく平和を世界レベルで実現していくことこそ、『大国日本の使命』です」 この綱領の通り、戦後体制を脱却し、日本に新たな精神的主柱を立てるべく、力を尽くしてまいります。 ※幸福実現党・大川隆法総裁の講演については「幸福実現NEWS 特別号 6月15日『香港の危機は他人ごとではない 「正義」を世界に発信できる日本へ』を参照 https://info.hr-party.jp/files/2019/06/17114027/fk3ylfc2.pdf 【米・イラン対立(前編)】米軍のイラン攻撃はあるのか? 2019.06.18 【米・イラン対立(前編)】米軍のイラン攻撃はあるのか? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「タンカー攻撃」その後 中東のホルムズ海峡付近で日本と台湾のタンカーが攻撃され、米国とイランの間で緊張が高まっています。 トランプ大統領やボルトン補佐官、ポンペオ国務長官らが「イランの犯行だ」と主張するなかで、イランは攻撃への関与を否定。 事実や状況に基づいた証拠がないと米国に反論しました。 イランを警戒する米国は空母打撃群とB52爆撃機を中東に送っており、米軍1000人の増派も決まったので、今後の動向が注目されています。 ただ、この問題の結論を先に述べれば、日本は、イラン攻撃には反対すべきです。 イラン攻撃は、戦火の拡大を招く危険性がありますし、米国側の正当性も怪しいからです。 この攻撃には「『アメリカの犬』アベ帰れ!」という意図が含まれていたとみるべきだと考えます。 ◆本当にイランが犯人なのか? ポンペオ国務長官は、イランを犯人と断定した際には、以下の四点を主張しました。 ・機密情報(※原則非公開) ・使用された兵器や攻撃に必要な専門知識の程度 ・最近のイランによる類似したタンカー船攻撃 ・これほど高度な攻撃を実行できる勢力はほかにない ただ、これは、推測の域を超えていません。 米国側は、イラン海軍がタンカーから機雷を外す画像などを公開し、証拠隠滅をはかったとも述べました。 その通りなら、イランは首脳会談をしながら日本のタンカーを攻撃し、その後に自国の海軍で消火し、救助したことになります。 しかし、イランに、そこまで周到に日本をだまし撃ちしなければいけない理由があったのでしょうか。 日本はイランと深刻な対立関係にあるわけではありません。 その意味では、米国の主張には、大きな疑問点が残っています。 イラン海軍が、救援活動の延長として危険物を処理しただけなのかもしれないからです。 ◆米国とイランの大規模戦争はあるのか この案件で気になるのは、米国とイランとの間で武力紛争などが起きるかどうかです。 しかし、両国の軍事力の差や近年の中東情勢を考えると、これだけで大きな戦争を起こすのは、それなりに困難です。 米国にも、イランにも、それぞれ、大戦争をしがたい理由があるからです。 ◆イランと米国の戦力差は歴然 まず、イランが米国と大規模な戦争ができないのは、軍事力の差が大きすぎるからです。 そもそも、核兵器のないイランは核大国の米国には勝てません。 彼らの弾道ミサイルは中距離弾(シャハブ)でも中東全域と欧州の一部にしか届かないので、狙えるのは、イスラエルや中東の米軍基地などにとどまります。 イランがミサイルを撃っても、米国は多数の機動部隊を集めれば、千発以上のトマホークと爆撃でイランの要所を攻撃できます。 (※イラク戦争では空母6隻を中心に機動部隊が展開した) 開戦となれば、サイバー攻撃やミサイルで空港や通信施設が破壊されます。 イランにはホメイニ革命前に米国が売った戦闘機(F14やF4)やソ連製戦闘機(MiG29やSu24等)やソ連製防空システム(S300)があり、それなりの戦力ですが、これで、今の米空軍に対抗することはできません。 米国のステルス戦闘機(F22)や高度な情報ネットワークを備えた戦闘機部隊(空母はF18を運用)には勝てず、制空権は米国のものになります。 (※米空軍はデータリンクを用いて飛行隊の全機が敵情報を共有して戦うが、イラン軍は個々の戦闘機がそれぞれ敵を見て戦うだけ) イラクより時間はかかりそうですが、結局、米国は爆撃で陸上戦力を滅ぼしながら、陸上部隊を展開することができます。 本当にイラン打倒を図ったら、米軍が戦闘機や攻撃ヘリでイラクの戦車を狩っていったのと同じ光景が繰り返されるでしょう。 イラン海軍は潜水艦で奇襲し、駆逐艦やミサイル艇でペルシャ湾を荒らすことはできますが、規模が小さいので、その後に米軍に一掃されます。 イラン軍は、米国を核で威嚇することも、通常戦力で勝つこともできないのです。 ◆米国はイランに勝てても「治める」ことはできない しかし、だからといって、米国は安易にイランと戦争できません。 米国には、イラク戦争の手痛い体験があります。 米軍はイランを打倒できますが、戦後統治には重大な痛みが伴うことが、イラクやアフガニスタンで実証されました。 米国はフセインを打倒後、統治を楽観視しましたが、イラクは日本とは違い、天皇のような秩序の中心もなく、議会政治をきちんと運営してきた歴史もありませんでした。 そのため、戦後は統治不全地域となり、宗教紛争や反米闘争が相次ぎます。 約4500人の米軍人が死に、統治まで含めた国費は300兆円以上にのぼりました。 (※米経済学者スティグリッツ氏はその戦費を3兆ドルと試算) 「独裁者から解放されれば、民衆は喜んでついてくる」という幻想は無残に打ち砕かれ、ブッシュが率いた共和党政権は多くの国民の支持を失ったのです。 ◆米・イラン対立 ありそうなのは「限定攻撃」か? 結局、イランには米国と戦える戦力はありません。 また、米国はイランに勝てても、そのあとに「治める」ことができません。 イラク統治の崩壊の結果、生まれたものは「イスラム国」でした。 その繰返しを防ぐ方法を持たないまま、アメリカがイランに大きな戦争をしかければ、ブッシュ政権の二の舞になります。 トランプ大統領が「イランとの戦争は望まない」と言っているのは、そうした経緯があるからです。 そのため、今回の米国とイランの緊張関係は、まずは政治闘争の次元で進んでいくはずです。 トランプ政権が動いた場合、まずは、巡航ミサイルで基地を狙うといった限定攻撃がなされる可能性が高いといえます。 ◆紛争拡大の危険性があるので、日本はイラン攻撃に反対すべき しかし、限定攻撃であろうとも、エスカレートの危険性はあります。 武力衝突は、事態が制御不能になるリスクを伴うので、日本はイラン攻撃に反対すべきです。 攻撃がなされれば、その応酬として、イランが原油の輸送ルートであるホルムズ海峡を狙う危険性が高まります。 また、イランは宿敵イスラエルとの戦いや、イスラムの盟主を巡るサウジアラビアとの戦いを続けていることにも注意が必要です。 (※ペルシャ民族の雄であるイランとアラブ民族(諸国)との戦いも数千年の歴史がある。ペルシャ帝国の頃から両者の関係は険悪) イスラエルもサウジも自国の戦いに米国を巻き込みたがっているからです。 火に油を注ぐ危険性があるので、大局を見るならば、日本は、タンカー攻撃が仮にイラン軍だったとしても、米国のイラン攻撃には反対すべきです。 雨傘革命と同じように、日本は香港を見捨てるのか 2019.06.16 雨傘革命と同じように、日本は香港を見捨てるのか HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆雨傘革命のリーダーが来日 6月10日に香港の雨傘革命のリーダーだった周庭(アグネス・チョウ)さんが東京で記者会見を行いました。 この会見で、周庭さんは、中国本土への容疑者引渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案を「香港返還後、最も危険な法案だ」と批判。 9日に香港で103万人(主催者発表)がデモに参加したことを取り上げ、改正案の撤回を訴え、国際社会に支援を呼びかけました。 ◆「逃亡犯条例」改正 どこまで影響が及ぶ? 「逃亡犯条例」の改正案は、香港が犯罪人引渡し協定を締結していない国や地域に対して、要請に基づいた容疑者の引渡しを可能にします。 香港は米国などの20カ国と引渡し協定を結んでいますが、中国本土やマカオ、台湾との間には結ばれていないので、立法会(議会)に改革案が提出されました。 しかし、市民の多くは、北京政府寄りの政治が続く現状では、通常の刑法犯だけでなく、民主活動家らが「容疑者」として中国に引き渡されてしまうと危機感をつのらせました。 周庭さんは、会見で、条例改正を「香港が返還されてから最も危険な法案だと思います」と批判。その影響は、香港訪問者にまで及ぶことを指摘しました。 (容疑者とされた)「香港人と香港訪問者、観光客や記者などが行政長官の当為のもと、中国に引き渡されることになります」 ◆香港が、今まで、中国に容疑者を引き渡さなかったのはなぜ? もともと香港が中国への犯罪者引き渡し協定を結んでいなかったのは、共産党が国を支配し、三権分立もない独裁国家では、容疑者の人権が守られない可能性が高いからです。 周さんは、会見で、この部分を強調しています。 「中国の司法制度はもともと香港と全然違います。中国は法治社会ではなく、公平・透明な裁判がある国ではありません。中国では恣意的な拘束、逮捕、拷問が常にあります」 「中国共産党政権が気に入らない人を、特に人権状況の改善を求める活動家や人権弁護士がしばしば国家政権転覆罪などで逮捕されたり収監されたりしています」 「中国で逮捕された人たちは家族や弁護士に会えないことや、虐待されることも少なくありません」 「中国に司法の独立と三権分立もありません。中国の司法機関は、中国政府と中国共産党政権の政治的道具だと言っても過言ではないのです」 ◆香港の「一国二制度」崩壊の危機 ここ数年、北京政府の圧力は強まり続けているので、今回の抗議デモは、香港の自由を守るための最後のチャンスになるかもしれません。 2014年の雨傘革命の後、中国政府は香港への統制を強め、2017年にはキャリー・ラム新行政長官が就任。 新長官が推進する「愛国教育」の強化に対する反対運動が起きました。 18年3月に周庭さんは議会の補欠選挙に出ようとしたのですが、政府は「香港は中国の不可分の領土」と定めた香港基本法違反を理由に、立候補を認めませんでした。 さらに、19年4月には、雨傘デモの発起人である戴耀廷・香港大学准教授ら9人に対して道路占拠などを共謀・扇動した罪で有罪判決が言い渡されています。 こうした自由の圧迫が進む中で、周庭さんは、逃亡犯条例だけでなく、今後、香港基本法23条に基づいて国家安全条例がつくられる危険性があることを指摘しました。 (将来に)「香港人は国家安全法に違反したとして大陸に引き渡され、裁判を受けることになる可能性がある。そうなれば、政権により露骨に政府に対する反対意見を完全に消し去ることができる。香港は完全に中国になってしまうのです」 ◆雨傘革命の時と同じく、日本は日和見なのか 「香港は私たちの家です。香港人は今、自分の家を守るために一生懸命抵抗しています。それは私達自身のためだけではなく、これから外国から来る人たちのためにもです」 周庭さんはそう述べ、各国に支援を呼びかけましたが、香港の状況は悪化しています。 6月13日にはデモ隊の一部と警官隊が衝突。警官隊がゴム弾などで鎮圧に乗り出し、70名以上が負傷したと報じられました。 行政長官は「組織的な暴動」とデモを非難し、自由主義国政府の指導者は相次いで自由の擁護を表明しました。 「市民や国際社会の友人たちの懸念に耳を傾け、立ち止まってこの議論を呼んでいる改正について熟慮する」(ジェレミー・ハント英外相) 「欧州各国は香港市民たちの懸念を共有している」「平和的な集会と意見表明の自由は尊重されるべきだ」(フェデリカ・モゲリーニ EU外務・安全保障政策上級代表) 「台湾や世界中の志を同じくする友人たちが支持していることを覚えていてください」(蔡英文・台湾総統) 日本では、河野太郎外相が「平和的な話合いを通じて、事態が早期に収拾され、香港の自由と民主が維持されることを強く期待します」と述べています。 しかし、日本が他人事のように「期待」したところで、もっと主要国が力強く支援しない限り、当局がデモ隊の要望を聞き、条例案を取り下げることなど、あろうはずもありません。 ◆幸福実現党は香港の自由を支持する G20を控えた安倍政権は、日中友好を掲げているために、香港市民の抗議活動を支援できません。 これは、2014年の雨傘革命の時と同じです。 しかし、過去に日本や主要国が十分な支援をしなかった結果、北京政府の統制が強まり、香港の自由は重大な危機にさらされました。 そのため、幸福実現党は、6月13日に党声明において、香港の自由を守る運動への支援を表明しました。 「日本政府は“八方美人外交”を改め、中国による覇権主義を抑止するという立場を明確にしながら、米国、英国などと連携し、香港の自由を守るべく国際世論の形成に尽力すべきです」 今後、日本政府や各党の議員などの政治関係者、国民の皆様に、香港の自由を求める運動を支援すべきことを訴え続けてまいります 【参照】 ・日本記者クラブ「アグネス・チョウ(周庭)香港デモシストメンバー 会見」(2019.6.10) https://www.youtube.com/watch?v=U8qpLjbKjEg ・BBC JAPAN「香港デモ72人負傷 行政長官は『組織的な暴動』と非難」(2019.6.13) ・幸福実現党「香港での大規模デモをめぐって(党声明)」(2019.6.13) https://info.hr-party.jp/press-release/2019/9181/ 年金の「世代間格差」という恐ろしい問題 2019.06.15 年金の「世代間格差」という恐ろしい問題 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆月19万円の年金生活 いつまで可能? 公的年金のほかに2000万円の老後資金が必要だと試算した報告書は、麻生金融相の「受取拒否」により「ない」ことにされました。 その報告書では、年金ぐらしの夫婦の1カ月の収入が21万円、支出は26万数千円と見積もられ、支出の大きさが注目されました。 年金は19万円もらえることになっているので、この金額は、若い世代の給料とあまり変わりません。 これを見て、「自分の給料と同じぐらいだ」「自分の給料よりも多い」などと思われた方もかなりいるのではないでしょうか。 しかし、本当の問題は、給付について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」ことにあります。 結局、「こうした大盤振る舞いをいつまで続けられるのか」が問われているわけです。 ※この支出額は「平均値」で計算しているので、お金持ちの大きな支出が加算され、上増しされている。本来は、「中央値」(資産順に並べた時に真ん中になる順位の人の値)で計算すべきだが、なぜか「平均値」での試算が行われている。 ◆報告書が試算する年金減額 この報告書でも、先行きの厳しさを見込んで、年金減額をシミュレーションしています。 年金が現役世代の給料の何割にあたるか(所得代替率)が、出生年別に図られました。 各出生年の方が65歳になった時〔()内の年〕の所得代替率が見積もられたのです。 ・1949年度生(2014時点):62.7% ・1954年度生(2019時点):59.7% ・1959年度生(2024時点):58.3% ・1964年度生(2029時点):56.8% ・1969年度生(2034時点):54.8% ・1974年度生(2039時点):52.3% ・1979年度生(2044時点):50.6% ・1984年度生(2049時点):50.6% 今後、所得代替率は、6割から5割に下がることが見込まれています。 (※現在の制度では、所得代替率は5割以上でなければいけないので、50%以下にはならない) そして、近年は、金融緩和に伴う物価上昇で1円あたりの価値が下がっているので、その分だけ、実質的に減額されているのです。 ◆年金の「世代間格差」 所得代替率が下がるだけでなく、今後は、払った保険料よりももらえるお金のほうが少なくなります。 この問題に関して、学習院大学教授の鈴木亘教授(学習院大学教授)は、1960年生まれよりも後の世代は、もらえるお金以上に保険料を払わなければいけなくなると指摘しています(『社会保障亡国論』P63)。 そして、1990年代以降になると、その差額は2000万円を超えると計算しています。 【厚生年金の「世代別損得計算」】(2013年時点) ・1940年生 +3170万円 ・1950年生 +1030万円 ・1960年生 +40万円 ・1970年生 -790万円 ・1980年生 -1510万円 ・1990年生 -2030万円 ・2000年生 -2390万円 ・2010年生 -2550万円 若い世代ほど、給付金と保険料の差額がどんどん開いているわけです。 ◆若者は政治参加をしないと大変なことに そもそも、年金は、現役世代が支払った保険料が退役世代に給付される「賦課方式」で運営されています。 しかし、日本では、60代の投票率は7割を超え、20代は3割、30代は4割しかありません。 そのため、今の政治家は、高齢者を優先した社会保障政策を打ち出し、現役世代や若者の負担を増やしてきました。 結局、投票率の低い若年世代に年金制度のツケが回るようになっているのです。 今の日本の年金は、こうした「世代間の不公平」を抱えた制度です。 政治参加の自由は各世代に平等に保障されていますが、その自由を行使しなければ、結局、その代償が自分の未来にも跳ね返ってきます。 そのため、投票率が低い青年層から中堅層にとっては、自分自身の未来を守るためにも、投票権を用いることが大事です。 既成政党は、高齢者向けの福祉を増やすばかりで、それを支える現役世代や若者の負担を顧みません。 しかし、その中にあって、幸福実現党は、給付と負担の適正化を訴えてまいります。 そうしなければ、日本は、若者が夢を抱ける国にならないからです。 【参照】 ・金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日) ・鈴木亘『社会保障亡国論』(講談社現代新書) 老後「月5万赤字」の報告書撤回 年金の現実を直視すべき 2019.06.14 老後「月5万赤字」の報告書撤回 年金の現実を直視すべき HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「2000万円」報告書に揺れる安倍政権 「夫婦の老後資金に30年で2000万円が必要」と記した金融審議会の報告書をめぐって、安倍政権は紛糾しています。 政権の方針と違うという理由で麻生金融相が報告書の受取りを拒否し、与党幹部が審議会に抗議しました。 「話が独り歩きし、不安を招いている」(二階幹事長) 「極めてずさんな内容」(岸田政調会長) 「年金の不安をあおるような言動は罪深い」(公明党・山口代表) その報告書では、無職の高齢夫婦の家計モデルで、支出よりも収入が5万円ほど少ないことや、年金減額の可能性が書かれていたので、「百年安心」をうたった与党の怒りを買ったわけです。 ◆同じ内容が厚生労働省ではOK、金融庁ではNG しかし、このモデルは、2ヶ月前に厚生労働省が出した資料の転載にすぎませんでした(「厚生労働省提出資料(2019/4/12)」 そのため、厚生労働省ではOKだったモデルが、金融庁では認められなかったことになります。 年金減額については、「中長期的に実質的な低下が見込まれている」(5/22時点)と書かれていた箇所が、6月3日に「今後調整されていくことが見込まれている」と修正されました。 ここも、実は、厚生労働省の資料に同じような記述があります。 「給付水準は今後、マクロ経済スライドによって調整されていくことが見込まれている」 結局、同じような論述に対して、安倍政権は「厚生労働省はOK」「財務省はNO」と判断したわけです。 ◆「本当のこと」を書いただけなのに審議会を糾弾 しかし、減額についての記述は、間違っていません。 高齢者が増え、現役世代が減っているので、将来の年金減額は避けられないからです。 さらに、金融緩和で物価が上がれば、年金の給付額が同じでも実質的な価値が減っていきます。 ところが、政府は、選挙前にそれを正直に書いた審議会が許せませんでした。 「選挙に不利だから」というだけの理由で、客観的な分析が拒絶され、糾弾されたのです。 ◆「月5万円不足」「30年で2000万円必要」の中身とは 今回、問題とされたのは、以下の記述です。 「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている」 「この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる」 この5万円は、年金ぐらしの夫婦の1カ月の収入から支出を引いた額です。 しかし、その支出には教育娯楽費などが含まれているので、この通りに赤字が出ても、生活難になるわけではありません。 26万4000円の支出のうち、教養娯楽費は25000円、その他支出が54000円とされ、かなり余裕のある生活が想定されているからです。 生きていくために必要な支出は18万5000円程度(「食料・住居・光熱・水道・交通・通信・衣料・家具・保険」+「税金」)。 年金などの給付金は19万2000円、その他収入が1万7000円とされているので、審議会は、もともと「年金で生きていけない」という事態を想定していませんでした。 報告書は、余裕のある老後を夫婦で過ごすには30年で2000万円ほど必要だと言って資産運用を薦めただけなので、審議会は、まさか、この記述が世を騒がすとは思わなかったことでしょう。 ◆国民に根強い「年金への不安」 この報告書をめぐって大騒ぎが起きたのは、公的年金さえあれば老後は安泰だとする自公政権の方針とは違う記述が含まれていたからです。 政府の審議会が、公的年金だけでは収入が足りないと言って、民間の年金や株式、債権などでの資産運用を薦めれば、「公的年金は頼りにならないのか?」という疑問を抱く人が出てきます。 そのため、自公政権の幹部は「年金の不安を煽っている」と批判しました。 国民にも、少子高齢化のなかで年金への不安が根強くあるので、今回の報告書は、マスコミにとっても格好の「ネタ」になったのです。 ◆年金をめぐる「正直な議論」を封殺する安倍政権 このやりとりで、政権に都合の悪い言論が封殺される過程が国民の前に明らかになりました。 しかし、大盤振る舞いが続く年金も、今後は、少子高齢化によって減額をよぎなくされます。 現役世代の負担はどんどん増えているからです。 国民年金ができた頃には、1人の高齢者を11人の現役世代で支えていましたが(※1960年。国民年金法は61年施行)、2020年には、1人の高齢者を2人の現役世代で支える事態がやってきます。 また、1960年の日本の平均寿命は、男性が65歳、女性が70歳でしたが、2016年の平均寿命は16歳以上も伸びています(男性81歳、女性87歳)。 報告書に書かれた通り、年金の給付金は「中長期的に実質的な低下が見込まれている」のです。 自公政権は、この問題を正直に認めることを拒み、野党は、それを政争のネタにしようと画策しています。 これでは、国会で、年金をめぐる建設的な議論が行われることは、まったく期待できません。 こうした現状を打破するためにも、国会に新しい勢力が台頭することが必要になっています。 幸福実現党は、社会保障においても真正面から正論を訴え、歳出の適正化や民間の役割拡大などを訴えてまいります。 【参照】 ・毎日新聞「前代未聞の不受理劇 『老後2000万円』 選挙の影」(2019年6月12日 東京朝刊) ・東京新聞「批判噴出で年金表現修正『老後2千万円』報告書」(2019年6月12日) ・金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日) ・厚生労働省年金局 企業年金・個人年金課「厚生労働省提出資料 iDeCoを始めとした私的年金の現状と課題」(2019年4月12日) 米韓同盟を変える重大決定 日本は自主防衛の強化を 2019.06.13 米韓同盟を変える重大決定 日本は自主防衛の強化を HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆米韓同盟を変える重大な決定 6月3日に、ソウルでは米韓国防相の会談が開催されました。 訪韓したシャナハン米国防長官代行は、韓国のチョン国防部長官と会談し、今後の同盟を変える取決めに合意しています。 今後、ソウル・竜山の米軍基地は移転し、人員が京畿道平沢にある「キャンプハンフリー」に移動します。 そこに同盟の司令部本部が置かれ、韓国国防部のあるソウルは、本部機能を失います。 しかし、戦時の作戦指揮権は米軍から韓国軍に移されることになりました。 同盟を指揮する「未来連合軍司令官」には韓国軍大将が任命されるのに、同盟の中枢は、韓国国防部から遠い、キャンプハンフリーに集まるのです。 妙な構図ですが、これは、いったい、何を意味しているのでしょうか。 ◆司令部がソウルよりも南に移転するのはなぜ? この司令部移転で、長らく続いてきた「在韓米軍の移転」が完成に近づきます。 在韓米軍は、2000年代以降、ソウルから国境線までの地域に展開する部隊を減らしてきました。 あとは、東豆川にいる第210火力旅団が南に移れば、漢江よりも南にしか米軍はいなくなります。 北朝鮮は火砲やミサイルなどでソウルを火の海にできるので、米軍は、キャンプハンフリーなどに戦力を集め、有事の被害を減らそうとしてきました。 もともとの米韓同盟では、米軍がみずからソウルや国境近辺に展開し、前線で戦う仕組みをつくってきましたが(※)、それがなくなろうとしているのです。 (※これは「トリップワイヤー〔導火線の意〕」とも呼ばれる。今後、第210火力旅団が移転すれば、この機能は消滅) 結局、そこには「韓国のために米軍を犠牲にしたくない」という意図が含まれています。 ◆「韓国軍大将の指揮権行使」に中身はあるのか 次に、指揮権の移転についても考えてみます。 戦時の指揮権が韓国軍に移れば、韓国軍が主体的に戦わなければなりません。 しかし、司令部本部はソウルよりも南に移動します。 ソウルに国防部を置く韓国軍にとっては不便ですが、そうなったのは、米軍が同盟の主導権を維持するためです。 キャンプハンフリーには、在韓米軍司令部と米第八軍司令部があり、米第二師団と韓米連合師団がいます。 ここに司令部を置いた場合、韓国軍大将に指揮権が移っても、米軍に完全包囲されているので、米軍の意向をくみながら権限を使わなければなりません。 そばにいる連合司令部の参謀(主に米軍人)の意見を聞き、兵を動かすわけです。 そこには「名目は与えるが、指揮権の実質までは渡したくない」という米軍の意思がみえるのです。 ◆同盟はどう変わる(1):限定攻撃への対処は韓国軍 この改革がなされれば、有事における米軍の動き方も変わります。 ソウル以北に米軍がいた頃は、北朝鮮が先制攻撃を行えば、米軍にも被害が及ぶので、ほぼ自動的に、米軍が韓国軍を率いて北朝鮮軍と戦う形になります。 しかし、今後、米軍はソウルより南に展開するため、北朝鮮が韓国軍やソウルの主要施設だけを攻撃した場合には、アメリカに選択の余地が生まれます。 米軍や米国民に被害が出ない間は、戦いの規模に応じて、韓国軍に任せたり、航空機や艦艇での支援だけに止めたりすることが可能になるのです。 米韓同盟は「自国の憲法上の手続に従って」戦う同盟なので、「議会が宣戦布告していないから」と言い張れば、大統領は派兵を遅らせることができます。 (※米韓同盟に自動参戦規定はなく、米憲法上、宣戦布告の権限は議会にある。米国に被害が出ず、議会が急いで派兵を求めなければ、前述の措置が可能) ◆同盟はどう変わる(2):機動的な米軍の運用を可能に 基本的には、米軍は他国の軍の下には入らないので、「韓国軍に指揮権を移す」のならば、韓国にいる米軍(主に陸軍)の規模が縮小する可能性が高まります。 昨年11月に、ハリス米韓国大使は「米韓同盟はいつまであるか分からない(18年11月)」とも述べていたので、これは、次の体制への移行措置にも見えます。 米兵と家族を、北朝鮮の火砲が届くソウル近辺から移動させれば、大統領が「北朝鮮攻撃」を決断した時に、以前よりも動きやすくなります。 小規模紛争は韓国軍に任せながらも、海・空軍や沖縄の海兵隊などで北朝鮮を叩ける体制を準備しているのかもしれません。 ◆米韓の決定は他人事ではない 今回の米韓の決定は、北朝鮮の脅威にさらされている日本にとっても、見逃し難い内容です。 その背景には、長年続いた韓国の反米運動、米国側の不満の蓄積、米韓大統領の不仲などがありました。 現在の日米関係は良好ですが、日本でも、国内での反米運動が高まれば、米国の姿勢が変わることに注意しなければなりません。 例えば、基地の「県外移設」が叫ばれる沖縄に米軍がいるのは、ソウル以北に米軍基地があったのと同じ論理によります。 日本の防衛の最前線は沖縄なので、そこに米軍が展開し、有事に矢面に立つ仕組みがつくられてきました。 これに「出て行け」と言う運動は、ソウル以北にある米軍に「出て行け」と叫んだ韓国の反米運動と変わりません。 日米同盟を体現する在日米軍を腫れ物扱いすれば、米国が硬化することを忘れるべきではないでしょう。 トランプ政権は、同盟国に防衛費の負担増を求めているので(NATO諸国へのGDP比2%負担要求など)、今後はもっと自主防衛の強化が求められるはずです。 そのため、幸福実現党は、日米同盟強化だけでなく、防衛費の倍増(GDP比2%以上)を掲げています。 幸福実現党は、日米同盟の強化だけでなく、「自分の国を自分で守る」体制をつくるための努力を訴え続けてまいります。 「シャングリラ対話」で米中が火花 日本はどちらにつく? 2019.06.12 「シャングリラ対話」で米中が火花 日本はどちらにつく? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆米国防長官代行がアジアを歴訪 6月4日に訪日したシャナハン米国防長官代行は、安倍首相と会談し、北朝鮮の非核化に向けて連携することで合意しました。 (※この非核化は「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化〔CVID〕」のこと) シャナハン氏は初めてアジアを訪問し、米国の「インド太平洋戦略」を具体化するために、日本や韓国、インドネシアの首脳と会談しました。 この戦略は、各国の国防相が集う「アジア安全保障会議」(シンガポールで6/1開催)で発表されたものです。 その折には、中国への批判が注目されました。 「中国は他国の主権を侵害し、不信を抱かせる行動をやめるべきだ」 米国が主導する国際秩序の中で恩恵を受けながら、近隣諸国を脅す中国の振る舞いを批判したのです。 (※「アジア安全保障会議」の別名は「シャングリラ・ダイアローグ(対話)」) ◆米国が容認できない「中国の活動」とは シャナハン氏は、名指しは避けながらも、米国が容認できない活動を列挙しました。 抽象的な言い方なので、「中国」という国名や、個々の活動の名はありませんが、知っている人には具体例が思い浮かぶような指摘がなされています。 (※(⇒)で筆者が挿入しているのは、米国側が念頭に置く中国の活動の例です) ・紛争地域を軍事化し、先進兵器を配備する(⇒南シナ海の軍事基地化) ・他国の国内政治や選挙への干渉(⇒中国による台湾総統選への干渉) ・他国を借金漬けにして権益を奪うこと(⇒「一帯一路」の融資) ・国をあげて他国からの技術盗用を支援すること(⇒「中国製造2025」やサイバースパイ) ・排他的経済水域の独占や漁業の妨害(⇒東シナ海への海洋進出) ・航行や航空の自由への制限(⇒領海とEEZ、防空識別圏における中国の異常な権利主張) ・人間の尊厳や宗教的自由の無視(⇒チベットやウィグル、内モンゴル等の人権弾圧) ◆米国が台湾に20億ドルの兵器を売却予定? その演説で、シャナハン氏は「自由で開かれた国際秩序」のために、同盟国との連携を訴えました。 その中には、台湾の「自衛能力への支援」も含まれています。 この演説の後、6月5日に、ロイター通信が、米国には台湾に約2200億円に相当する兵器売却の予定があることを報道しました。 今後、エイブラムス戦車(108両)、地対空ミサイル(250発)、対戦車ミサイル(1240発)などが売られるとみられています。 (※エイブラムス戦車はイラク戦争などで活躍した主力戦車) これは、台湾の旧式化した戦車などを更新し、自衛力を高めるための措置でしょう。 ◆中国側の返答は「新型核ミサイルの実験情報の公開」 こうした動きに、中国側は激しく反発しています。 魏鳳和国防相は、6/1のシャナハン演説の後、米軍が行う南シナ海への艦艇派遣を批判。軍事拠点化は「自衛のためだ」と強弁しました。 そして、6月5日付の「環球時報」(英語版)は、中国軍が6/1の「アジア安全保障会議」に合わせて、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行ったことを報じました。 現在、中国軍は、射程距離が14000キロで、1つのミサイルから10個の核弾頭を落とせる「巨浪3」を開発中ですが、この情報を共産党系メディアに公開したのです。 潜水艦に中国近海から米国を狙える核ミサイルを搭載できるとPRし、米国に対抗しています。 ◆日本は「ご機嫌伺い」しかできない国なのか? シャナハン氏は、中国を批判しながらも、米中交渉での問題解決を望んでいました。 しかし、中国側は激しい反発を見せています。 そして、米中の間に立つ日本は、6月末のG20で米中双方のトップを呼ぶので、どちらにも「いい顔」をして見せています。 米国を重んじてはいますが、同時に「日中友好」の旗を掲げているわけです。 その結果、尖閣諸島問題や南シナ海での軍事要塞建設、台湾への圧迫、一帯一路、技術情報の盗用といったテーマについて、はっきりと「もの申す」ことができないでいます。 ◆日本は対中抑止で米国と足並みをあわせるべき 安倍首相は年内に訪中するとも報じられているので、今の路線を今後も続ける予定なのでしょう。 しかし、日本は、外交上の重大な決断を迫られています。 かつて『君主論』を著したマキャベリは、大国に挟まれ、「どちらにつくか」を問われた国が中立の道を選ぶのは滅びの道だとも述べていました。 「決断力のない君主は、当面の危機を開始しようとするあまり、多くのばあい中立の道を選ぶ。そして、おおかたの君主が滅んでいく」(『君主論』) 米中貿易戦争では、日本にも痛みがもたらされますが、我が国は自由主義国なので、中国共産党の支配する世界は容認できません。 そのため、米国と連携し、貿易戦争を米国の勝利で終わらせ、痛みを最小化することが大事です。 安倍首相の「あいまい路線」は、日本の取るべき道ではありません。 幸福実現党は、日本は自由主義の側につくべきことを訴え、台湾支援と中国包囲網の形成のために力を尽くしてまいります。 【参照】 ・PATRICK M SHANAHAN “THE IISS SHANGRI-LA DIALOGUE FIRST PLENARY SESSION”(2019/6/1) ・産経ニュース「トランプ政権、台湾に主力戦車など20億ドル相当売却へ」(2019.6.6) ・Global Times “Chinese military gives hints about the true nature of Sunday’s UFO sightings across China”(By Liu Xuanzun 2019/6/4) ・池田廉訳『新訳 君主論』(中公文庫) 「尖閣周辺に61日連続中国船出没」なのに、沖縄県知事はアンチ海兵隊発言 2019.06.11 「尖閣周辺に61日連続中国船出没」なのに、沖縄県知事はアンチ海兵隊発言 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆尖閣周辺に居座る中国船 6月11日、尖閣諸島近辺の領海の外側にある「接続水域」に、中国海警局に属する4隻の船が侵入しました。 尖閣周辺で中国当局の船が確認されたのは、61日連続。 2012年9月以来、過去最長の連続日数となりました。 しかし、日本政府は、新たな対策を打ち出せていません。 ◆沖縄県知事が5月末に、アンチ海兵隊発言 それどころか、沖縄県の玉城デニー知事は、5月31日の記者会見で海兵隊に対して、否定的な意見を述べています(※1)。 「海兵隊が沖縄に駐留せずとも、日米の安全保障体制を毀損(きそん)することはないという考えもあろうかと思う」 「海兵隊の抑止力は全体の一部で、海兵隊のみが抑止力として強調されるものではない。それ以外の戦力でも十分、対処可能なのではないか」 ◆「緊急展開軍」である海兵隊は沖縄に不可欠 しかし、この発言は、緊急事態に即応する海兵隊の機能を無視しています。 陸海空軍を動かすには連邦議会の承認が必要ですが、海兵隊は承認が出る前に大統領の命令で動ける「緊急展開軍」です(※2)。 戦争が起きれば、一刻一秒を争うので、「すぐに動ける」海兵隊が沖縄にいることには、重要な意味があります。 海兵隊には水陸両用部隊や航空機、艦艇があるので、他の軍が動く前でも、独力で任務を遂行できるのです。 (※海兵隊が沖縄にいなくなれば「即応」機能が下がり、「沖縄に被害が出た後」に陸海空軍が動くかたちになりかねない) 海兵隊は沖縄に陣地を築くことで、「米軍は有事に即応する」というメッセージを中国や北朝鮮に送っています。 海兵隊が沖縄から出ていけば、中国が「米軍が動く前に、尖閣諸島を取ってしまえ」と考えかねません。 結局、玉城氏の言う通りにした場合、尖閣諸島や沖縄を侵略の危機にさらすことになるわけです。 ◆玉城氏は、5月にトランプ大統領宛の書簡を送った 玉城知事は、5月にトランプ大統領宛の書簡を送り、「米国は海軍と空軍で中国・北朝鮮問題に対応できる」と訴えたことが報じられています(琉球新報 2019年5月28日)。 しかし、侵略は陸・海・空の全領域で起こり得るので、水陸両用部隊を持つ海兵隊を排除するのは愚策です。 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)でも、平時からグレーゾーン、小規模有事、大規模有事という流れに切れ目なく対応することがうたわれている。事態ごとに必要な能力は異なり、その継ぎ目を埋めるためには陸海空の統合運用が重要になる」(慶応大准教授・神保謙氏)※3 陸海空の一体運用を基本とする米軍が、こうした主張を受け入れることはないでしょう。 ◆玉城知事の主張 どこが問題なのか 琉球新報(2019年5月28日)が報じた書簡の内容(※4)には、不適切な記述があるので、その反論を並べてみましょう。 (以下、「」は玉城氏意見) ・「国土面積の約0・6%の本県に在日米軍専用施設の約70%以上が存在する現状は異常で、容認できない」 ⇒沖縄は、朝鮮半島、台湾、東シナ海、南シナ海のどこにも対応可能な要地なので、米軍が拠点を構えている。海兵隊のように陸海空の機能を備えた部隊は機能分散すると能率が落ちるので、沖縄に集中している。単純に数値だけで判断できる問題ではない。 ・「普天間飛行場の周辺では事件・事故が多発して地域住民の生命・財産に不安を与えている」 ⇒ならば、早急に辺野古沖へ移転すべき ・「県民投票で約72%が辺野古埋め立てに反対を投じたのに、日本政府は移設を強行している」 ⇒投票率は52.5%なので、実数は38%。これは沖縄の総意とは言えない。 ・「飛行場を使用し続けて全基地への反基地運動や反米運動に発展すると、嘉手納基地やホワイトビーチなどの運用を含めて日米安保体制や日米同盟に大きな影響を与えかねない」 ⇒反基地運動を煽っているのが玉城知事なので、これはマッチポンプ。 ◆なぜ、尖閣危機と沖縄海兵隊の重要性が結びつかない? 玉城知事は、5/31の記者会見で、石垣市市議が乗船した漁船が尖閣周辺の海域を航行し、中国公船に追いかけられたことも取り上げました。 「中国公船が周辺海域をパトロールしていることもあるので、故意に刺激するようなことは控えなければならない」 日本の島の近海での話なのに、沖縄県知事は、中国の側に立ち、日本船に注意をよびかけています。 しかし、本当の問題は、尖閣の周辺海域を中国船が我が物顔に出入りしていることなのです。 玉城知事の頭の中で、尖閣危機と沖縄海兵隊の重要性が結びつかないことも、大きな問題です。 日米同盟の強化と南西諸島への自衛隊の重点配備を行わなければ、沖縄も尖閣も侵略の危機にさらされるということは、十分に周知されていません。 幸福実現党は、普天間基地の辺野古移設を推し進め、日米同盟を緊密化するとともに、日本の自衛力を高めることに、力を尽くしてまいります。 【参照】 ※1:産経ニュース「玉城沖縄知事、海兵隊駐留せずとも「日米安保体制毀損せず」尖閣の中国公船「刺激控えなければ」(2019.5.31) ※2:朝日新聞グローブ「なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する?」(2018.10.04) ※3:産経iRONNA「在沖縄米海兵隊は抑止力か否か」 ※4:琉球新報「「トランプ大統領に届けて」 玉城デニー知事が米政府に初めて送った書簡」(2019.5.28) 「改憲」は後回しの自民公約 九条の根本改正なくして日本は守れず 2019.06.10 「改憲」は後回しの自民公約 九条の根本改正なくして日本は守れず HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆改憲の熱意に欠ける自民公約 自民党は6月7日に参院選公約を発表しました。 その中では、改憲を「結党以来の党是」とし、「早期の憲法改正を目指す」という方針を明記しました。 しかし、9条に関しては「自衛隊の明記」と書かれているだけで、目新しい内容はありません。 そのほかの緊急事態対応や一票の格差の解決(※)、教育の充実といった項目も、前の公約と同じです。 結局、「改憲」は最後に「添え物」のように足されただけで、首相が掲げた「2020年の新憲法施行」という目標さえも出てきませんでした。 「結党以来の党是」というわりには「改憲への熱意」に乏しい公約でしかなかったのです。 (※参院選「合区解消」と「地方公共団体」の規定変更により「一票の格差」の解消をはかる案) ◆野党の反対で「国民投票法の改正」はお流れに さらに、最近の国会では、憲法審査会の先送りが目立っています。 6月6日は審査会の開催予定日でしたが、立憲民主党が議題に了承しなかったので、開催されませんでした。 与党は、憲法改正の国民投票の不備な点を公職選挙法にならって変えることを提案しましたが、立憲民主党の枝野代表は、今の国民投票法に問題ありと主張し、改正の議論を止めようとしたのです。 枝野氏は国民投票法の制定過程について参考人招致を要求し、自民党は膠着状態の打開を断念。 「国民投票法案」の成立に必要な審査会の日程を確保できないとして、法案成立のための会期延長を否定しました。 結局、国会で議論が進まないのは、立憲民主党などの野党の反対が原因です。 こうした遅々たる歩みでは、先が思いやられます。 ◆改正項目を絞らなければ、早期改憲は困難 野党は、難癖をつけて議論を先延ばしし、改憲を遅らせています。 しかし、それをよく知っているはずの自民党は、公約で4つも改憲の項目を並べました。 4つもあれば、「1つ目はよくても2つ目はだめだ」「2つ目はよくても3つ目はだめだ」などと議論が拡散するので、余計な時間がかかります。 改憲勢力のなかで議論が割れる可能性が上がり、野党が難癖をつける材料も増えるからです。 この通りにすれば、「改憲案に何のテーマを盛り込むか」という論争が紛糾するでしょう。 「国民投票法案の改正」でさえまとまらない国会に、そんな議題をもちこんだら、早期改憲は難しくなります。 ◆国会議員が余計な改憲の議論を増やした 「憲法改正」と聞いた時に、国民の多くがイメージする議題は「憲法9条の改正の是非」です。 自民党は他の項目を増やしましたが、これらが改憲の課題なのかどうかは疑問が残ります。 緊急事態対応については憲法に規定がない国(米国など)もありますし、選挙制度や教育は主に法律で対応する案件だからです。 選挙制度と教育は、九条改憲で国防が強調されるのを薄めるために、追加された項目にすぎないのではないでしょうか。 ◆自民党の改憲案は中身が「不十分」 この「自衛隊明記」案の問題点は、結局、自衛隊は有事に動けない体制のままだということです。 憲法9条から「専守防衛」という原則が生まれ、被害が出たあとに自衛隊が動く体制がつくられています。 例えば、自衛隊の艦艇や航空機は射撃用レーダーを照射されても敵を攻撃できません(※)。 2013年に中国船からの射撃用レーダー照射事件が起きた後、元米国務省日本部長が「米軍であれば、攻撃と判断して反撃する」(ケビン・メア氏)と述べましたが、自衛隊は、それができないわけです。 自衛隊は、防衛出動が出るまでは警察に近いレベルの動きしかできません。 しかし、空自や海自は、ミサイルをもった敵を相手にするので、被害が出るころには、みんな海の藻屑になってしまいます。 ※領空侵犯に対する警告射撃は解釈次第で可能とされる。ただ、射撃用レーダー照射は銃口をつきつけられたようなものなので、警告射撃では自衛できない。ロックオンに対して警告射撃で応えれば、敵はミサイル発射や砲撃を行うので、自衛隊の艦艇や戦闘機のほうが全滅してしまう。 ◆国会に「新しい風」をもたらす幸福実現党 結局、自民党案では、こうした問題は解決できません。 自衛隊を合憲化することと、自衛隊の動き方を変えることは、別の問題だからです。 今の日本では、幸福実現党のみが、憲法9条の1項、2項を含めた全面改正を選挙で訴え続けています。 九条の根本改正がなければ、日本を守れないからです。 改憲の中身を見失った自民党でも、改憲を止めるだけの野党でもなく、根本的な九条改正を訴える勢力が必要とされているのです。 すべてを表示する « Previous 1 2 3 Next »