Home/ 新着一覧 新着一覧 年金「百年安心」シナリオ あなたは信じられますか? 2019.06.27 年金「百年安心」シナリオ あなたは信じられますか? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆党首討論は「2000万円報告書」をめぐる政治闘争に終止 6月19日の党首討論では、消費税減税や国防強化といった、本当に大事な政策が議論されませんでした。 年金だけでは「2000万円足りない」と書かれた報告書についてのやりとりが続きましたが、「社会保障費が増え続ける中で、本当に100年安心を保てるのか」という、現実に即した議論も盛り上がりませんでした。 まともな質問だったのは、5年に1度の財政検証の発表が遅れていることと、実質賃金の伸び率が前回の財政検証で最低値と想定した0.7%を下回っていることを問うた、国民民主党の玉木代表の発言ぐらいで、あとは残念な内容です。 立憲民主党の枝野代表が訴えた、(社会保障の)「自己負担額に所得に応じた上限を設ける総合合算制度」と「介護・医療従事者の賃上げ」は、結局、さらに社会保障費が必要になります。 また、共産党の志位委員長が述べた「減らない年金」というのは、保険料を払う現役世代が減る中で高い年金給付を維持する構想なので、結局、一人あたりの年金保険料が増えるだけです。 どちらも、社会保障費が膨張するなかで、大盤振る舞いをめざす人気取りでしかありません。 今の党首討論は、各党がスタンドプレーを狙うつまらない会合に堕しています。 ◆年金をめぐる財政検証の発表は「選挙の後」? 麻生金融相の「報告書」受取拒否は論外ですが、財政検証の発表が遅れているのも、大きな問題です。 これは「100年安心」の年金を保障するために、5年に1度、財源と給付金が適正かどうかを厚労省がチェックする作業です。 具体的には、年金給付が会社員世帯の平均賃金の半分以下にならないように調整します(所得代替率の5割以上にする)。 過去の検証結果は、2004年、09年、14年に公表されました。 本年も、過去の日程から見ると、もう公表すべき時期が来ています。 ・前々回:08年11月に検証のための経済前提を厚労省の専門委が年金部会に報告。検証結果は09年2月に公表。 ・前回は:14年3月に経済前提を年金部会に報告。検証結果は6月に公表。 本年は3月13日に「経済前提」が報告されており、過去は約3ヶ月で公表されたことから考えれば、選挙への影響を「忖度」して、発表を遅らせているようにしか見えません。 これを党首討論で問われた安倍首相は、「財政検証をしている最中であり、(最新の結果の)報告を受けていない」とはぐらかしていました。 ◆財政検証の「経済前提」は妙に楽観的 過去の財政検証に関しては、試算の前提となる経済指標が楽観的すぎるという声もありました。 (2009年の検証は)「100年近くにわたって運用利回りを年率4.1%もの高利回りに設定したり、賃金も年率2.5%で100年近く上昇することが前提となっています」(学習院大学教授・鈴木亘氏 ※1) 「実質賃金上昇率 1.2~1.4%という結果は、およそ100年後までの超長期の経済前提であるとはいえ、最近の実績と比較するとやはり高い」「2000年代に入ってからの実質賃金上昇率を計算すると-0.23%でしかない(2000~12年度の単純平均)」(日本総研調査部 上席主任研究員・西沢和彦氏 ※2) この検証には、経済成長率や物価上昇率、生産性や給料の伸び率といった指標が、「百年安心」という標語に都合のよい形に歪められる危険性があることに注意が必要です。 ◆成長率がマイナスでも年金の運用利回りはプラスになる? 確かに、2014年の「経済前提」をみると、不審な数値も目に付きます。 「2024年以降の20~30年」に適用される未来シナリオは、ケースA~Hまでの8通りですが、そこでは、平均値の経済成長率(実質)がマイナスになろうとも運用利回りは必ずプラスになることが想定されています。 それは、以下の想定です(どちらも名目値-物価で計算した数字)。 A:成長率 1.4% 利回り3.4% B:成長率 1.1% 利回り3.3% C:成長率 0.9% 利回り3.2% D:成長率 0.6% 利回り3.1% E:成長率 0.4% 利回り3% F:成長率 0.1% 利回り2.8% G:成長率 -0.2% 利回り2.2% H:成長率 -0.4% 利回り1.7% シナリオAとEには成長率で1%の差がありますが、利回りは0.4%しか差がありません。 また、シナリオAとHには成長率で2%差がありますが、利回り差は1.7%です。 つまり、成長率よりも利回りが下がりにくいという想定になっています。 ◆財政検証はGPIFを買いかぶり過ぎでは 2014年10月まで、年金資産を扱うGPIFは債権7割で運用していたので、日本の景気が運用損益に与える影響を抑えようとしていました。 しかし、アベノミクスでの株高を支えつつ、そのメリットを活かそうと考え、株式の割合が5割にまで上がった結果、昔よりも運用損益は景気の影響を受けやすくなっています。 今の「国内株式25%、海外株式25%、国内債券35%、海外債権15%」という運用比率で、日本の成長率がマイナスになっても利回りプラスを維持できるかどうかは、疑問が残ります。 米国で1600億ドルの資産を運用するレイ・ダリオ氏(ブリッジウォーター創業者)は「株式には債権の3倍のリスクがある」(※3)と指摘していますが、財政検証では、GPIFはそのリスクをものともせず、不景気下でも利回り1.7%を出し続けることが想定されているのです。 ◆「百年後の未来」がわかるなら苦労しない 財政検証の結果は、まだわかりませんが、自民党や公明党のいう「百年安心」には無理があります。 そもそも、今後100年の経済動向など、誰もわかるわけがないからです。 それを「安全だ」と主張するために、財政検証で様々な手練手管をこらしていることが伺えます。 本来、財政検証は、年金の健全化のために必要なのですが、それが十分に生かされていない状況が続いてきました。 年金に関しては、大盤振る舞いが続いているので、今の高齢者と将来の高齢者のために、給付の適正化をはからなければいけません。 幸福実現党は、年金に関して、ウソや隠し事、タブーを廃した正直な議論を推し進めてまいります。 【参照】 財政検証の数値は「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しー平成26年財政検証結果-」(2014/6/3)から引用。 ※1:鈴木亘著『社会保障亡国論』(講談社現代新書) ※2:西沢和彦「年金財政検証における経済前提の見方」(日本総研、2014/5/2) ※3:アンソニー・ロビンズ著『世界のエリート投資家は何を考えているのか』(三笠書房) トランプ大統領選出馬表明 マスコミが無視した大事なメッセージ 2019.06.26 トランプ大統領選出馬表明 マスコミが無視した大事なメッセージ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆トランプ大統領 次の標語は「キープ・アメリカ・グレイト」 トランプ大統領は、6月18日に2020年大統領選への出馬を正式表明しました。 フロリダ州オーランドでの支持者集会では「米国を偉大なままに(Keep America Great)」という標語を掲げました。 そして、左傾化が進む民主党に対して「アメリカは決して社会主義者の国にはならない」「我々は自由を信じている」と宣言しています。 その演説では、政権があげた成果と好景気を強調。 民主党のバイデン候補の批判やロシア疑惑が魔女狩りにすぎないことなどを訴えました。 ◆トランプ演説の要旨 その内容の要点をあげてみます。 ・「我々はともに、腐敗し衰弱した政治的な既得権益層をにらみ倒し、人民の、人民による、人民のための政治を復活させた」 ・「我々の経済は世界の羨望の的だ」 ・「600万人もの新たな雇用を生み、51年間で最も低い失業率を保っている」 ・「TPPとパリ条約から脱退し、NAFTAをUSMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)に置き換えた」 ・(規制廃止などで)「米国は今や原油と天然ガスの世界一の生産国だ」 ・「軍事費は削減されてきたが、我々はそれを昨年に7000億ドル、今年に7160億ドルに増やし、軍を再建した。宇宙軍も創設している」 ・「ロシア疑惑は魔女狩りだ」「民主党はこの魔女狩りに400万ドルを用いたが、共謀も司法妨害もなかった」 ・(民主党が勝ったら)「彼らは自由な言論を奪い、反対者を罰するために法の力を使う」 (※「政治的正しさ」を理由にした言葉狩りや、ロシア疑惑等での捜査権の拡大などを批判している) ・(対中関税で)「中国が米国から雇用を奪い、米国企業からアイデアや富を奪う時代は終わった」「オバマやバイデンは彼らのカモになっていたのだ」 ◆2020年大統領選は、米国における「社会主義との戦い」 「候補者が誰であろうとも、2020年に民主党に投票するのは、過激な社会主義者の台頭とアメリカンドリームの崩壊に投票するのと同じことだ」 これは、民主党内に社会主義が浸透していることを批判した発言です。 現在、民主党で最も支持率が高いバイデン元副大統領は中道左派の政治家ですが、2位のバーニー・サンダース候補は社会主義者を自認し、120人の議員の支持を集めています。 バイデン氏は社会主義者ではありませんが、議員だけでなく、民主党支持者の57%が社会主義に肯定的なので、今後の民主党がオバマ政権以上に左傾化することは避けられません(2018年、ギャラップ社調査)。 トランプ大統領が、最近、各地の演説で「社会主義との戦い」を強調しているのは、そのためです。 また、2018年の調査(ギャラップ社)では、米国の18歳から29歳の若者の51%が社会主義に肯定的だという結果が判明しています。 現在、社会主義国(中国や北朝鮮等)と戦い続けるトランプ大統領は、こうした「冷戦を知らない世代」の増加に便乗し、民主党が勝った場合は、アメリカが自由の国ではなくなってしまうと警告しているわけです。 ◆マスコミが伝えなかった重要なメッセージ 主要紙では、今回の出馬宣言について、「功績を自賛」「目新しい政策がなかった」「他党批判ばかり」などといった評価が目立っています。 その多くは、残念ながら、トランプ大統領が最後に強調したメッセージを省いていました。 「我々は、本当のアメリカらしさは信仰と家庭にあり、政府や官僚機構にあるのではないと信じている」 「我々は、子供たちは、アメリカという国家を愛し、歴史を誇りとし、偉大なる国旗を常に尊び、『我々は神を信じる』という米国の標語の下に生きることを教えられるべきだと信じている」 こうした価値観を中心に国を運営することが、オバマ政権からの大転換でした。 オバマ氏が神を信じる者も信じない者も国のために力を尽くそうというスタンスだったのとは大きな違いです。 (※就任演説でオバマ氏は「我々の国はキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして無宗教の人々で構成されている」と発言) トランプ氏は「これらの価値観によって、私たちは2年半前に勝利を勝ち取った」と述べ、その運動が、米国の保守勢力の勝利でもあったことを強調しています。 ◆「愛国心」や「国益」、「信仰」を語れない日本の民主主義 こうしたメッセージは、今の日本の政界では語られることがありません。 「政教分離」が、政治の世界から宗教を追放するために悪用されているからです。 民主主義の基盤である「個人の尊厳」が「創造主によって、生命と自由、そして幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」(アメリカ独立宣言)ことに由来することも、忘れ去られています。 また、日本の政治家は「右翼」「国粋主義」等とレッテルをはられることを恐れ、トランプ氏のように「国益」を政治の中心に据えることができないでいます。 大川隆法総裁は1992年に「政治家が国益を語れないほどの不幸はない」と発言していますが(『理想国家日本の条件』)、27年たっても未だ日本は変わっていないのです。 安倍首相は保守政治家だと言われていますが、本人がもともと目指していた「戦後体制の脱却」という志を忘れかけています。 河野談話や村山談話を継承し、憲法改正に関しても、九条に「自衛隊」の条文を付け足せれば十分と考えているようです。 しかし、それでは、日本を立て直すことはできません。 幸福実現党は、日本の民主主義を立て直すためにも、「欲望の自由」や「堕落の自由」ではなく、「神に与えられた自由」を用いて、社会や国家、世界の繁栄に貢献することの大切さを訴えてまいります。 そして、北朝鮮や香港や中国などにひるまず、「国益」を守る毅然たる外交を推し進めてまいります。 【参照】 ・C-SPAN “President Trump Announces Second Term Run”(2019/6/18) ・ギャラップ社 “Democrats More Positive About Socialism Than Capitalism”(FRANK NEWPORT、2018/8/13) ・「◆マスコミが伝えなかった重要なメッセージ」のトランプ演説の英文は以下の通り。 “We believe that faith and family, not government and bureaucracy, are the true American way.” “We believe that children should be taught to love our country, honor our history, and always respect our great American flag, and we will live by the… G20で、日本は「拘束された日本人の解放」を中国に要求すべき 2019.06.25 G20で、日本は「拘束された日本人の解放」を中国に要求すべき HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆中国に拘束されたカナダ人解放で米国とカナダが連携 6月28~29日に大阪で開催されるG20首脳会談を前にして、各国の首脳は様々な「戦略」を練っています。 例えば、日本と同じく、米国の同盟国であるカナダは、米国と連携して、G20で中国に拘束されたカナダ人の解放を要求する方針を決めました。 トルドー首相は、6月20日の米加会談において、この件でトランプ大統領の合意を引き出しています。 「カナダを助けるためにできることは何でもやる」(トランプ大統領) 拘束されたカナダ人に関しては、ファーウェイ幹部の逮捕への見せしめとして、すでに死刑判決が言い渡されているので、米加首脳の双方が、何とかして取り返そうとしているのです。 ◆「拘束された日本人」を放置している日本政府 しかし、何度もトランプ大統領と会談した安倍首相には「中国で拘束された日本人を、日米で連携して解放を求める」という構想がないようです。 北朝鮮の拉致問題で米国に力添えを頼んでいることは、たびたび報道されていますが、こちらに関しては、なしのつぶてに近い状態です。 5月20日には、拘束された日本人に対して懲役15年の判決が出されましたが、菅官房長官は「邦人保護の観点から、できる限りの支援を行っていきたい」としか述べませんでした。 本当に罪を犯したかどうかも明らかにされないまま、日本人が15年も刑務所に入れられているのに、はっきりと抗議していないのです。 ◆相次ぐ「中国政府による日本人拘束」と実刑判決 近年、中国政府にスパイと疑われた日本人の拘束が相次いでいます。 2015年に5月20日には、温泉開発の調査をしていた50代の日本人男性に対して、中国の地方裁判所(海南省第1中級人民法院)が、懲役15年と10万元(約160万円)の財産没収の判決を言い渡しています。 この男性は、千葉県船橋市にある「日本地下探査」(地質調査を行う)の協力会社(※)の関係者で、17年3月、海南省で温泉開発の調査を試みた際に、拘束されました。 (※産経報道によれば遼寧省大連市にある「大連和源温泉開発公司」の社員) 「国家機密を窃取し、国外に違法に提供した罪」が適用され、男性のパソコンなどから地図を含む大量の資料が発見されたとのことですが、具体的に、何が「国家機密」の窃取にあたるのかは、定かではありません。 この会社に関しては、他にも取締りが行われ、山東省で温泉探査をしていた社員も拘束されています。 17日には同省の中級人民法院が、その日本人社員に対して、懲役5年6カ月と財産3万元(約48万円)没収の判決を言い渡しました。 また、北京市では、5月21日に、日中青年交流協会の鈴木英司理事長に、スパイ罪で懲役6年の実刑判決を言い渡しています(5万元の財産没収を伴う)。 さらには、18年2月には、伊藤忠商事の40代の男性社員が広州市で拘束され、公判が行われています。 2015年以降、9人の日本人が国家機密を盗んだ罪などで起訴され、8人に実刑判決が出されているのです。 ◆安倍首相 日中関係は「完全に正常な軌道へと戻った」 そんな馬鹿な・・・。 これらの日本人に重刑が科されるまでの事実関係は、明らかにされていません。 そうした状態で懲役刑などの重刑が科されるのは、まともな自由民主国ではありえないことです。 中国では「共産党」が議会も行政も司法もすべて指導することになっているので、政権の意図から離れた裁判が期待できません。 そんなところで、日本国民が囚われ、重刑を課せられているのを無視することは、国家としての責任放棄です。 人間には、まともな裁判を受ける権利があるのですから、これは人権侵害を黙認しているのと同じことです。 4月15日の日中外相会談で、河野外相は、中国が拘束した日本人9人の早期帰国を要請しましたが、中国側は「国内法令に基づいて適切に対応する」と述べただけで終わり、結局は、重刑判決で終わったのです。 安倍首相は、3月6日に「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」と述べましたが、実際には、異常な出来事が起きています。 「昨年秋の訪中で習近平国家主席と互いに脅威とならないことを確認した」はずなのに、日本人が人質のように囚われ続けています。 (※首相発言は参院予算委での発言) ◆G20で日本人拘束を抗議し、早期帰国を中国に要求すべき 日本は、6月末のG20で、日本人の拘束と実刑判決に抗議し、早期帰国を中国に要求すべきです。 こんなことをする中国の国家主席を国賓待遇でもてなすのは、馬鹿げています。 国民の声明と安全と財産を守るのが、国家の役割なのですから、日本人の拘束解除がなされ、帰国の道筋が立たなければ、国賓待遇を取り消すぐらいのことができなければ、日本は、国家とは言えません。 日本は明確に香港デモを支援すべきですが、そもそも、自国民の拘束に対して抗議ができない現状を改めるべきです。 それができないのは、選挙対策のために「日中友好」という人気取りの看板を掲げているからなのではないでしょうか。 既存の政党は、この問題をまともに取り上げていませんが、幸福実現党は、国民の生命と安全と財産を守るために力を尽くしてまいります。 そのために、拘束された日本人の解放を訴えてまいります。 【参照】 ・日経電子版「トランプ氏、カナダ人拘束問題を提起へ 米中会談で」(2019.6.21) ・産経ニュース「『邦人保護の観点からできる限り支援』 菅氏、中国で実刑判決の日本人」(2019.5.21) ・AFP通信「日中交流団体役員に懲役6年=スパイ罪で、日本人今月4人目」(2019.5.21) ・時事ドットコム「邦人に懲役15年=50代男性、国家機密入手・提供-中国海南省」(2019.5.20) ・産経ニュース「東シナ海、中国に自制要請 拘束邦人の帰国も 日中外相会談で河野氏」(2019.4.16) ・産経ニュース「首相、日中関係『完全に正常な軌道に戻った』 参院予算委で」(2019.3.6) 中小企業を苦しめる「最低賃金の引上げ」 2019.06.24 中小企業を苦しめる「最低賃金の引上げ」 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆主要政党が「最低賃金引き上げ」を公約 参院選が近づき、各党が公約を発表しています。 その中でも、最低賃金の引き上げは、多くの政党が好むテーマの一つです。 日本維新の会を除く、自民、公明、立民、共産の四党は、それぞれ、最低賃金について、以下の金額を提示しました。 ・自民党:1000円を目指す(年率3%程度。全国加重平均) ・公明党:1000円超を目指す(2020年代前半を目途〔全国加重平均〕/2020年代半ばに半分以上の都道府県で達成) ・立憲民主党:全国どこでも誰でも時給1000円以上になるように引き上げ(※17年発表の「基本政策」) ・共産党:時給1500円を目指す(いますぐ、全国どこでも1000円。中小企業への賃上げ支援を1000倍に) ※維新の会は「最低賃金」という制度に否定的で、生活難には給付金で対応すべきという発想。 ◆「強制賃上げ」党ばかり 自民党と公明党は、数年かけて時給を1000円に上げようとしていますが、立憲民主党と共産党は「一律1000円」をすぐに実現しようとしています。 つまり、立民と共産のほうが「強制力」による引き上げというカラーが濃厚に出ているのです。 そして、財源を富裕層と大企業に求める共産党だけが「賃上げ支援1000倍」と「1500円」という途方もない数字を掲げています。 この2党に労働政策を任せた場合、中小企業の負担にお構いなく、一気に「強制賃上げ」を行うので、人件費の拡大に耐えきれない企業が、バタバタと倒れていくでしょう。 ◆日商と東商が「最低賃金引き上げ」について政府と各党に苦言 現在、政治家は「立法」という強制力をちらつかせながら、「私達が賃金を上げます」とささやき、国民の歓心を買おうとしています。 しかし、問題なのは、その賃上げが、経済の実態から見て、本当に可能なのかどうか、ということです。 それを見越してか、日本商工会議所(日商)と東京商工会議所(東商)は5月末に賃上げに対して「中小企業から大きな不安を訴える声が高まっている」と訴えました。 最低賃金の引き上げに対して、多くの中小企業が「設備投資の抑制」や「正社員の残業時間の削減」「一時金の削減」で対応すると答えたことを指摘し、「最低賃金に関する緊急要望」を発表したのです。 ◆「3%以上の賃上げ」と「強制力」を用いた賃上げにダメ出し その要望書では、「3%以上の賃上げ」と「強制力」を用いた賃上げに反対しています。 ・経済情勢や中小企業の経営実態を考慮せず、政府が3%を上回る引上げ目標を設定することに強く反対 ・中小企業の賃上げ率(2018年:1.4%)などを考慮し、納得感のある水準を決定すべき。3%といった数字ありきの引上げには反対 ・強制力のある最低賃金の引上げを政策的に用いるべきではない。中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備すべき (※原文はやや読みにくいので、ある程度、平易な言葉に直しています) ◆「最低賃金1000円」になったら中小企業はどうする? この要望書では現在、全国で874円の最低賃金が政府目標の通り、「年率3%」で数年後に1000円になった場合、約15%の大幅引上げとなり、企業にとって「一人あたり年間で約30万円の負担増」になると指摘していました。 30円~40円の引上げとなった場合に「影響がある」と答えた6割の企業の対応策(複数回答)の筆頭には「設備投資の抑制等」(40%)があがっており、それ以外には、人件費の削減案が目白押しでした。 ・正社員の残業時間を削減する:27.8% ・一時金を削減する:23% ・非正規の残業時間・シフトを削減:21% ・正社員の採用を抑制する:17.2% ・非正規社員の採用を抑制する:13.8% ・非正規社員を削減する:9.2% ・正社員を削減する:3.2% 結局、別の形で給与減や社員削減が進むので、最低賃金の引き上げが必ずしも全体の賃金増に結びつかないことが見えてきます。 日商と東商の調査によれば、すでに中小企業の6割は「業績の改善が見られない中での賃上げ」をしており、それを続ける余力がなくなってきています。 8割の企業は賃上げ分の人件費を価格に転嫁できておらず、設備投資を抑えたり、他の人件費を削ったりするしかありません。 ここ7年間で63万社の中小企業が減ったことを踏まえ、この要望書は、「最低賃金の大幅な引き上げが地域経済の衰退に拍車をかける懸念」があると主張していました。 ◆本来、あるべき賃金政策とは 日商と東商の調査を見ると、国民の歓心を買いたがる政治家と、賃金を支払う中小企業との間に、埋めがたい落差があることがわかります。 結局、数年かけて1000円を目指す自公政権の賃上げでも、日本の民間雇用の7割を担う中小企業を押しつぶす結果になりかねません。 これは、政治家が企業に自分たちの人気取りへの協力を強要しているだけです。 こうした危険性があるために、幸福実現党は、長らく「経済界への賃上げ要請や最低賃金の引き上げなど、政府による過度な民間への介入姿勢に反対」してきました。 また、最低賃金法には、根本的な欠陥があります。 それは、需要と供給によって決まる賃金に対して、全国で一律に最低額を決めた場合、不適合を起こす地域が出てくるということです。 最低賃金を強制的に高値で固定すると、企業は雇用増に尻込みするので、それがなければ職につけた人が失業者になるという逆説が発生します。 前掲の中小企業の返答に「採用抑制」が並んでいたことは、それを裏付けていますし、これは経済学的にも理にかなっています。 そのため、幸福実現党は「最低賃金法の廃止」まで政策に入れました。 これは、2012年に日本維新の会が世の批判に恐れをなして公約から撤回した政策でもあります(結局、「市場メカニズムを重視した最低賃金制度への改革」と書き直した)。 しかし、幸福実現党は、そのようなことはしません。 立民と共産は中小企業の負担を無視した賃上げを主張し、自公政権は「国民は愚かだからわかるまい」とバカにして、中小企業を苦しめ、全体の給料増にもならない公約を並べました。 実現党は、そうした「強制賃上げ党」の数々とは一線を画し、本当の適正賃金が実現する雇用政策の実現を目指してまいります。 【参照】 ・自民党「令和元年政策BANK」 ・公明党「2019参院選 重点政策5つの柱」 ・立憲民主党「基本政策」 ・共産党「2019参院選 HOPE is 明日に希望が持てる政治に」・日本商工会議所「最低賃金に関する緊急要望(概要版)」 ・同上「最低賃金に関する緊急要望(本文)」 ・同上「最低賃金引上げの影響に関する調査結果」 ・J-CASTニュース「維新の会、「最低賃金制」を「廃止」から「改革」に修正」(2012/12/5) 逡巡するトランプに、日本はイラン攻撃反対を伝えるべき【後編】 2019.06.23 逡巡するトランプに、日本はイラン攻撃反対を伝えるべき【後編】 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆米国は、また「神を信じる人々」を殺すのか 前回、述べたように、イランの体制は、結局、北朝鮮や中国のような、唯物思想の人権弾圧国家とは違います。 「時代相応に自由化も必要だ」とは言えますが、他国が武力で変革を迫らなければいけないような、悪しき独裁国家ではありません。 イランを「悪」とみなして、その国を滅ぼせば、大義もないままに、神を信じる人々を戦火に巻き込むだけです。 (※「9.11」以降、「テロとの戦い」により、イラクやアフガン、パキスタンで発生した暴力による死者は約50万人ともいわれている) また、アメリカは、1億5000万人を超えるシーア派のイスラム教徒を敵に回すので、さらなる「テロとの戦い」を強いられます。 イランはイラクの4倍近い面積があり、人口は2倍いるのですから、勝利しても、その後の統治は困難を極めます。 地域が不安定化し、エネルギー供給も危機にさらされるので、何もよいことはありません。 ◆同じ「造物主」を信じる者が争うという愚 そして、最も大事なことは、キリスト教とイスラム教は、もともとは同じ「造物主」を信じる宗教だということです。 それが認められず、延々と戦いが続いていることが、最大の問題です。 ムハンマドは、自分を導く神は、旧約聖書、新約聖書に出てくる神でもあると考えましたが、ユダヤ教徒やキリスト教徒は、今に至るまで、彼を預言者とは認めていません。 これは、愛を説いて死んだイエスと、兵を率いたムハンマドとでは生き方が違いすぎるので、両者の教えが同じ神から来たとは思えないということなのかもしれません。 しかし、ムハンマドが、実際に目指していたのは、イエスと同じく、人々が愛し合う世界をつくることでした。 その理想は、最後にメッカ入城を果たした時に、明らかになりました。 彼は、捕虜となった民に「おまえたちには、いかなる責を問うこともしない」「さあ、立ち去れ、おまえたちは自由である」と述べたからです。 彼が、今なお、人々に尊敬されているのは、勝利の後に復讐を禁じ、敵を許すことを人々に教えたためです。 自分を迫害した部族を許した彼の姿をみて、メッカの民は、彼が本当の預言者だと信じるようになりました。 そこには、イエスが説いた「神の愛」と同じものが流れています。 結局、キリスト教においても(※)、イスラム教においても、戦争は、自衛のための最後の手段でしかありません。 大義名分が立たない戦いを起こし、無駄に命を奪うことは、相手が異教徒であったとしても、イエスやムハンマドの教えにかなう行為ではありません。 (※キリスト教の戦争観の例をあげると、トマス・アクィナスの『神学大全』では、避けられない自衛の戦いは「正戦」という論法になっている) ◆日本が戦争を調停できる国となるために 今回、安倍首相は米・イラン関係の改善を図ろうとしましたが、その試みは「タンカー攻撃」という、残念な結末になっています。 「石油のバイヤー」でしかない日本の首相が、出ていっても、「アメリカの犬、帰れ」という厳しい反応で終わったわけです。 これは「エコノミック・アニマル」の限界だとも言えます。 日本が、本当に、戦争を調停できるようになるためには、少なくとも、世界から尊敬される国でなければなりません。 こうした日本の限界については、今から25年前に、幸福実現党・大川隆法総裁が、すでに指摘していました。 「宗教から遠ざかりさえすれば、第二次大戦のような惨禍は避けられるものと、ひたすら無宗教化をすすめてきた。その結果得られた、世界からの評価は、色・金・欲にまみれた経済奴隷としての日本人の姿に象徴される」(『信仰告白の時代』) これを脱却するためには、まず、民主主義の基礎である「個人の尊厳」は、人間が神によって造られ、自由を与えられたことに由来する、という真実を思い出すことが大事です。 日本は、経済大国になった後、次の目標を見失いましたが、これからは、その自由を用いて世界の繁栄に貢献し、後世に残るような「精神の高み」をつくることを目指すべきです。 日本が国の根本にあるべき「宗教的な価値観」を取り戻し、「徳ある国家」をつくることができたならば、争いを続ける国々も「日本の首相の話を聞いてみたい」と思うようになり、キリスト教国とイスラム教国との対立を仲裁できるようになるはずです。 そのためには、まず、戦後体制から脱却し、「自分の国は自分で守る」誇り高い国家を取り戻すべきですし、その上に、世界を感化できるだけの精神的主柱が必要になります。 そうした理想を抱き、幸福実現党は、真の民主主義と徳ある国家を建設すべく、力を尽くしてまいります。 【参照】 ・AFP通信「米『テロとの戦い』の死者、約50万人に 調査報告」(2018.11.9) 50万人という数字の出所は「米ブラウン大学 ワトソン国際公共問題研究所」 ・ビルジル・ゲオルギウ(中谷和男訳)『マホメットの生涯』河出書房 ・大川隆法著『信仰告白の時代』 逡巡するトランプに、日本はイラン攻撃反対を伝えるべき【前編】 2019.06.22 逡巡するトランプに、日本はイラン攻撃反対を伝えるべき【前編】 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆トランプ大統領がイラン攻撃承認を撤回 6月20日にイランが米国の無人機を撃墜したことを発表し、トランプ大統領は、イラン攻撃をひとたびは承認しました。 しかし、その後、攻撃開始の10分前に撤回命令を出しています。 「攻撃への許可を出して30分以内に150人の死者が出る。それは好ましくない」 「(無人機撃墜と)釣り合いが取れていない」 21日のNBCインタビューでは、理性的に思い直したことを明かし、「私は戦争を望んでいない」と述べています。 ただ、同時に、戦争となれば、「(イランは)完全に破滅する」とも警告しているので、イラン攻撃については、予断を許さない状況が続いています。 ◆イランのハメネイ師が米国との対話に応じない理由 トランプ氏は外交ルートを通じてイランとの対話も模索していますが、ハメネイ師は応じていません。 イラン側は、「いかなる攻撃も地域的、国際的に重大な結果を招く」と返答しています。 こうした険しい姿勢となったことには、十分な理由があります。 米国は対外的な合意(イラン核合意)を「政権が変わったから」という国内の事情で破談にし、制裁まで課しているからです。 イスラエルの核を黙認しながら、イランの核を「悪」とみなす米国の矛盾に我慢して合意したのに、それを破棄されたハメネイ師は「面目丸つぶれ」です。 イラン側から見れば、とても、最高指導者が話し合いに応じられるような状況ではありません。 ◆イランは「ならずもの国家」? トランプ政権は、2017年に出した「国家安全保障戦略」で、イランを北朝鮮とともに「ならずもの国家」(the rogue states)と批判しました。 そして、2018年に就任した大統領補佐官(安全保障担当)のボルトン氏は、イランを「悪の枢軸」と呼んだブッシュ政権の頃の国連大使です。 現政権においてもイランは悪しき独裁国家にカウントされており、強硬派の閣僚は、攻撃の機会を伺っています。 ◆イランの最高指導者と、北朝鮮の金一族とは何が違う しかし、イランと北朝鮮の体制には、大きな違いがあります。 まず、北朝鮮では、金日成はスターリンや毛沢東の支援を得て、軍を編成しました。 そして、領土を奪い、人々に、社会主義と金一族を崇めるイデオロギー(主体思想)を強制しました。 これは、反対者が強制収容所に入れられる、スターリン型の独裁体制です。 ところが、イランの体制は、その成り立ちが違います。 イランでは、欧米の傀儡となり、イスラムを軽んじた皇帝(パフレヴィー2世)に徒手空拳の信徒が戦いを挑み、民族の伝統と宗教に根ざした国をつくりました。 この「イラン革命」の指導者がホメイニ師であり、今のハメネイ師は、後継者にあたります。 イスラムの場合、教えを解釈する高位の法学者は、生き方だけでなく、政治の指針を示します。 (イスラム教の場合、僧侶や牧師ではなく、教えを解釈する「法学者」が信徒の指導役となる) ハメネイ師が、ロウハニ大統領のように国民投票で選ばれないのは、その体制が、彼らの信じるシーア派イスラム教に基づいているからです。 これは、ローマ法王をキリスト教圏の住民投票で選ぶわけにはいかないのと同じことです。 その正統性は、彼らが、自分たちの信じる教えに基づいて国を立てたことに由来しています。 結局、イランでは、人々の支持を得た宗教運動の結果、国ができたのであり、金日成のように、軍隊によって人々を力づくで従わせたわけではありません。 また、北朝鮮に比べると、大統領選や議会選で国民が政治家を選べることも、大きな違いになっています。 イランの体制には、北朝鮮に比べると、十分な正統性があるのです。 ※シーア派イスラム教とイランの政治体制 シーア派では、ムハンマドの従弟のアリーが殺された後、教えの解釈を担う後継者(イマーム)が12代目まで続いたが、12代目が「お隠れ」してしまい、いつの日か「マフディー」(救世主)として帰ってくると信じられている。その救い主が帰ってくるまで、人々を導き、政治にも指針を示す役割を担うのが「法学者」。ホメイニ師やハメネイ師は、その法学者の最高位にあたる。 ◆イランの体制は抑圧的か イランの体制は、シーア派イスラムの教えのもとで、可能な限り、近代の政治制度を取り込んだものです。 これは、欧米から見れば「異質」な体制ですが、それだけで「悪」と決めつけるべきではありません。 また、イランの体制については、人権抑圧的だという批判が繰り返されています。 例えば、米国務省は、毎年、イランは信教の自由を迫害していると批判しています。 ただ、英米はもともと宗教弾圧を行ったパフレヴィー朝を支援していたのですから、これは、あまり説得力のない話です。 イランは女性の人権を抑圧しているとも、よく批判されますが、同国の大学は、男性よりも女性の学生のほうが多く、女性の社会進出は意外と進んでいます。 ロウハニ政権では、2013年8月に発足した時、11人の副大統領(大臣に相当)のうち、3人の女性が任命されました。 同国では、女性の政治家や経営者、スポーツ選手なども数多く活躍しています。 サウジアラビアで女性の運転が解禁されたのは、つい最近ですが、イランでは1940年代から女性の運転が認められていました。 人権面では、改善すべき点も残っていますが、「イラン女性が虐げられている」というイメージには、誤解も含まれているようです。 【参照】 ・産経ニュース「『戦争ならイラン破滅』トランプ氏がテレビインタビューで発言」(2019.6.22) ・同上「【中東見聞録】ハメネイ師、安倍首相への『伝言なき』メッセージ」(2019.6.22) ・鵜塚健『イランの野望 浮上する「シーア派大国」集英社新書 エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(10) 地球温暖化政策を無害化 2019.06.21 エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(10) 地球温暖化政策を無害化 幸福実現党 政務調査会エネルギー部会 ◆一種の「ポリコレ」となった地球温暖化説 幸福実現党は、人為的な温室効果ガス(GHG)の排出が地球の気温上昇の主な原因であるとする仮説には大きな不確実性があることから、地球温暖化政策を抜本的に見直すべきであると主張してきました。 地球温暖化を専門とする世界の科学者の機関である、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、GHGの濃度が気温上昇に寄与する程度(平衡気候感度)についての不確実性を認めており(※1)、我が党は事実としてこれを指摘しています(※2)。 また、地球温暖化対策の国際枠組み(国連気候変動枠組条約、パリ協定)への参加は、国際衡平性が担保されることが大前提であり、日本が不利になるおそれがある場合には、枠組みからの脱退も含めた措置を講じることを訴えています。 しかし、このような主張を堂々と行う政党は我が党以外になく、特に温暖化の原因に踏み込むことは、政治家も財界人も避けています。この問題は一種の「ポリコレ」(※3)となり、私的にどう考えるかは別として、公的な場で発言すると激しい攻撃を受ける可能性があるからです。 米国のトランプ氏も実業家時代には果敢に“放言”していましたが(※4)、大統領就任後は穏当な発言に抑えています(※5)。 ◆パリ協定における削減目標と負担 パリ協定は、全ての国が参加する2020年以降のGHG排出削減の国際枠組みとして、2015年に採択されました。締約国は、産業革命以前からの地球の温度上昇を2℃より十分下方にとどめ、さらに1.5℃以下に抑えるよう努力することを合意しています。 各国が自国の事情に応じて提出した削減目標の達成には、国際法上の義務はなく、努力目標と解釈されます。 この点は、国連が先進国だけにトップダウンで削減義務を割り当て、中国を含む途上国には削減義務がなかった京都議定書(1997年採択)とは決定的に異なるものであり、日本や米国の主張が反映されています。(※6、※7、※8) しかし、削減目標の実質的な負担には、国によって大きな違いがあります。 日本は2030年に2013年比26%削減、米国は2025年に2005年比26~28%削減、欧州連合(EU)は2030年に1990年比40%削減など、基準年比で排出量を削減する目標を提出していますが、中国は「2030年までに2005年比でGDPあたりの排出量を60~65%削減」と、GDPが増えれば排出量も増やせる目標となっています。 米国トランプ政権は2017年に、米中間にはこのような差異があることを理由にパリ協定からの離脱の方針を発表し、我が党はこれを支持する党声明を発表しました(※2)。 2019年6月に20か国・地域(G20)エネルギー・環境相会合のために来日した米環境保護局(EPA)のウィーラー長官は、記者団の取材に応じ、パリ協定は「米国に不公平な内容だ」と批判しています(※9)。 地球環境産業技術研究機構(RITE)は、削減目標を達成するための2030年における限界削減費用(※10)について、日本は378ドル、EUは210ドル、米国は85ドル(2025年)、オーストラリアは33ドル、ロシアは4ドル、中国・インドはほぼ「ゼロ」と試算しており、日本の経済的負担がきわめて大きいことがわかります(※11)。 ◆国内での規制強化を狙う現政権 パリ協定の削減目標の達成には国際法上の義務がないため、仮に日本が2030年にこれを達成できる見込みがなくても、自国の安全保障や経済成長を犠牲にしてまで無理に達成する必要はないのです。 しかし、日本では環境省等の政府機関、東京都等の地方公共団体等が、まるで削減が義務であるかのように規制の強化や業務・権限の拡大を進め、マスコミや環境NGO等がこれを助長しています。 日本では1978年から、省エネの目的で石油石炭税が導入されていますが、2012年からは「地球温暖化対策のための税」(温対税)をこれに追加して段階的に税率を引き上げました。現在の税収は約2,600億円であり、経済産業省と環境省が半分ずつ所管し、この税収に対応する事業を執行しています(※12)。その税率は二酸化炭素(CO2)1トンあたり289円と、実際にCO2削減の誘因となるほどには高くありません。 しかし、環境省では、化石燃料を使いにくくするために、炭素税や排出量取引等のカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入を検討しており(※13)、その税率・価格は1トンあたり1万円以上ともいわれます。仮に1トンあたり1万円の炭素税をかけると、1リットルのガソリンには23円が課税されます(※14)。 ◆CO2排出規制は日本の安全保障と経済成長を脅かす 現在、日本の火力発電用燃料に石油はあまり使われておらず、液化天然ガス(LNG)が約50%、石炭が約40%という比率です(※15)。 1kWhの発電に伴うCO2排出量は、LNG火力(複合発電)の376gに対して、石炭火力では864gと2倍以上もあることから(※16)、高い炭素税をかければ石炭火力が経済的に不利になるため、石炭からLNGへの転換を誘導することができます。 しかし、LNGの多くはオーストラリア、インドネシア、中東等から南シナ海を含むシーレーンを経由して輸入されるため、中国が台湾や南シナ海で軍事行動を起こせば、供給が止まる可能性があります。 LNGだけに依存せず、不測の事態に備えて、LNGとは異なる資源分布をもち世界各地から輸入できる石炭も利用可能にしておかなければなりません。 また、現状の発電コストはLNGが石炭よりも高く、経済合理性を無視して石炭からLNGに転換すれば、高い日本の電気料金がさらに上昇して経済成長を妨げ、製造業の国外流出が加速するおそれがあります。 ◆不合理な規制は低炭素・脱炭素時代の到来を遅らせる なお、非常に大きな視点で見れば、世界が脱石油文明にシフトしていく潮流はもはや止まることがなく、いずれ低炭素・脱炭素時代が来ることは確実です(※17)。 既に世界で再生可能エネルギーに関する急速な技術革新が始まり、今後は次世代の原子炉や核融合に関する技術や、送電等のエネルギーの輸送方法、交通の電動化なども大きく進化すると考えられます。 しかし、それは政府の規制ではなく技術革新によって起こることであり、規制によって経済成長を阻害すれば、民間による技術開発の原資や低炭素化に向けた投資意欲を奪い、むしろ低炭素・脱炭素時代の到来を遅らせることにつながります。 我が党はCO2排出規制の撤廃を繰り返し訴えていますが、それは当面の日本の安全保障と経済成長を守るためだけではありません。経済成長の中で潤沢な資金を技術開発に回し、新技術を次々と生み出して技術革新を一段と進め、化石燃料に依存しない「新文明」の到来を早めるためでもあるのです。 参考 ※1 「地球温暖化の科学的不確実性」 杉山大志 キヤノングローバル戦略研究所 2018年4月23日 https://www.canon-igs.org/column/energy/20180423_4978.html ※2 「米大統領によるパリ協定離脱表明を受けて(党声明)」 幸福実現党 2017年6月3日 https://info.hr-party.jp/press-release/2017/4762/ ※3 ポリコレ: ポリティカル・コレクトネス(political correctness)、政治的建前。 ※4 “The concept of global warming was created by and for the Chinese in order to make U.S. manufacturing non-competitive.” Donald J. Trump, Twitter Nov. 7, 2012 https://twitter.com/realDonaldTrump/status/265895292191248385 ※5 「トランプ米大統領、米政府の気候変動報告『信じない』」 BBCニュース 2018年11月27日 https://www.bbc.com/japanese/46354080 ※6 「『パリ協定』の曲解で国を滅ぼすことなかれ【前編】」 HRPニュースファイル 2015年12月29日 http://hrp-newsfile.jp/2015/2554/ ※7 「『パリ協定』の曲解で国を滅ぼすことなかれ【後編】」 HRPニュースファイル 2015年12月30日 http://hrp-newsfile.jp/2015/2556/ ※8 パリ協定では各国が当面の削減目標だけでなく、「長期低排出発展戦略」の策定を努力するよう定めており、日本は長期目標として、2050年までに80%のGHGの排出削減を目指すことを決定している。以下を参照されたい。 「『地球温暖化対策計画』の閣議決定について」 環境省 2016年5月13日 https://www.env.go.jp/press/102512.html ※9 「パリ協定は不公平=温暖化軽視を否定-米環境長官」 時事通信 2019年6月16日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2019061600290 ※10 限界削減費用: ここでは、追加的に1トンのCO2を削減するために要する費用(ドル/トン)。 ※11 「パリ協定国別貢献NDCの排出削減努力・政策評価」 秋元圭吾 地球環境産業技術研究機構(RITE) 2017年12月6日 http://www.rite.or.jp/news/events/pdf/akimoto-ppt-kakushin2017.pdf ※12 「地球温暖化対策のための税の施行について(お知らせ)」 環境省 2012年10月1日 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15769 ※13 「『カーボンプライシングのあり方に関する検討会』取りまとめ」 環境省 2018年3月 https://www.env.go.jp/earth/cp_report.pdf ※14 ガソリンのCO2排出原単位:約2.3kg/Lより、炭素税率を1トンあたり1万円とすれば、ガソリン1リットルあたり約23円。 ※15 エネルギー白書2018 資源エネルギー庁 ※16 「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」 今村栄一ほか 電力中央研究所 2016年7月 https://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y06.html ※17 「エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(6) 自給率を高めるには再生可能エネルギーが不可欠」 HRPニュースファイル 2019年5月30日 http://hrp-newsfile.jp/2019/3562/ 【ASEAN首脳会議】TPPがあればRCEPに力を注ぐ必要なし 2019.06.20 【ASEAN首脳会議】TPPがあればRCEPに力を注ぐ必要なし HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆ASEAN首脳会議 RCEPが主な議題か 6月20日から23日まで、タイのバンコクで、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議が開催されています。 そして、22日の財相会議では、日本や中国、インドなどのアジア諸国が交渉を続けているRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の年内合意に向けた話し合いが行われます。 (※RCEPは、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略) このRCEPは、日本と中国、韓国、インドとオーストラリア、ニュージーランドにASEANの10か国を足した16カ国でつくる経済連携協定です。 この広域FTAは、TPPに対抗したい中国と、TPPに参加できなかったインド等の思惑から生まれましたが、それが実現すれば、GDPと貿易総額で世界の3割を占める経済圏が生まれます。 それは、TPP11に匹敵する規模です。 しかし、このRCEPを主導しているのは、貿易の自由化が進んでおらず、TPPへの参加要件を満たせなかった中国とインドです。 そのため、RCEPは、TPPのように大きく関税を削減する協定ではないのですが、日本は、その規模の大きさに惹かれ、長らく交渉を続けてきました。 ◆広域FTAにおいても野心を露わにする中国 RCEPの交渉は、もともと18年内の妥結を目指していましたが、交渉は難航し、議論が19年にまで延長しています。 そして、最近は、中国がインド抜きのRCEP案を主張し始めました。 それだけでなく、19年4月には、ラオスで開かれた「ASEAN+日中韓」の会合で、インドとオーストラリア、ニュージーランドを除いた13か国で「東アジア経済コミュニティー」(EAEC)を推し進める構想を明かしました。 その折に提示された文書には、EAECの主要な協力分野に「FTAの構築を含む」と明記されていると日経が報じています。 (※EAECは、マレーシアのマハティール首相が1990年に打ち出した「ASEAN+3」の枠組み) 中国がこの時期に「ASEAN+3」を強調してきたのは、米国の「インド太平洋戦略」に協力する「印・豪・NZ」を排除し、中国主導の広域経済圏を目指すためだと考えるべきでしょう。 ◆TPP11があるのに、RCEPが本当に必要なのか? インドはもともと、大幅な関税削減には消極的なので、RCEPの交渉はなかなか進みません。 そして、中国は、インドを抜きにして、中国主導の経済圏をつくりたがっています。 そこで、問題となるのは、このRCEPに参加する意義が、どれだけあるのか、ということです。 ◆貿易交渉の専門家が評価した「RCEP」の中身 この問題について、元農水官僚の山下一仁氏は〈「中国」に惑わされず、RCEPよりTPP拡大を」〉と題した記事を公開しています。 (※山下氏は、GATTのウルグアイ・ラウンドでの交渉等を過去に担当した農政と貿易の専門家) その要旨は以下のとおりです。 ・RCEPは基準が緩く、ほとんど関税を削減せず、WTO以上のルールや規律も設定しないFTAなので、貿易の現状を大きく変えるものではない。 ・東南アジア諸国でTPP11とRCEPの参加国が重複するので、2つの関税、ルール、規則が錯綜して貿易が混乱する ・RCEPよりも貿易の自由度やルール面でレベルの高いTPPでアジア太平洋地域の経済を統合すべき ・質の高いFTAにならないRCEP交渉に貴重な人的資源を割くよりも、TPPの拡大に傾注すべき この記事には〈参加国のGDP規模を重視する日本政府。大事なのは「規模」より「規律」だ〉という副題がつけられていました。 これは、極めて理にかなった主張です。 すでにTPPがあるのに、それを生かさず、中国の影響が強い経済連携に入ることに力を浪費するのは、筋が通らないからです。 ◆RCEP交渉には「見切り」をつけよう RCEP交渉は2012年に始まりましたが、いまだに終わりが見えません。 しかし、すでにTPPは成立しているので、日本は、RCEP交渉よりも、こちらを活かしたほうが懸命です。 TPPに入っていないASEAN諸国に参加を促し、インドのような難しい国とは別個に交渉すればよいわけです。 日本には、日米貿易交渉や日露平和条約の締結、台湾との関係強化といった、重要な懸案事項が数多くあります。 RCEP交渉にいつまでも力を費やさず、こちらには見切りをつけるべきです。 幸福実現党は、主要政策において「中国主導の経済連携への参加は支持しません」と主張してきました。 今後も、米国との関係を重視しながら、アジアの自由主義国との貿易拡大を図り、日本経済とインド太平洋地域の発展を目指してまいります。 【参照】 ・日経電子版「インド外しRCEP、中国が提案 交渉停滞受け」(2019/6/18) ・山下一仁「中国」に惑わされず、RCEPよりTPP拡大を -参加国のGDP規模を重視する日本政府。大事なのは「規模」より「規律」だ-」(2018.07.11、キャノングローバル戦略研究所HP) 【米・イラン対立(後編)】安倍外交の失敗と日本がやるべき三つのこと 2019.06.19 【米・イラン対立(後編)】安倍外交の失敗と日本がやるべき三つのこと HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆イランは、米国がいうほど「悪い国」なのか? 昔、ブッシュ政権が「悪の枢軸」と呼んだように、米国は、長らくイランを敵国とみなしてきました。 確かに、米国と抗う中で、イランがミサイル開発などで北朝鮮や中国とのつながりを深めたのは事実です。 しかし、この両者には、決定的な違いがあります。 イランは、北朝鮮や中国とは違い、神を信じる人々が集う国です。 人権面では問題もありますが、選挙が行われ、一定の範囲で民意が政治に反映され、大統領は選挙で選ばれます。 このあたりは、北朝鮮や中国との大きな違いです。 イランの体制は、国民の大多数が信じるイスラム教シーア派に根差しています。 彼らが自分たちの宗教に根差した体制をつくることは、ごく自然な動きであり、それを「欧米と違うから」というだけで、悪だと決めつけることはできません。 ◆「アメリカの正義」には何が足りないのか イランでは「ホメイニ革命」の頃、多くの民衆が米国の傀儡政権を拒絶し、イスラムに基づいた独自の国を建てる道を選びました。 そのため、米国がイランの現政権を打倒し、武力で新政権を立てた場合、イランの民には、昔の傀儡政権の時代への逆戻りにしか見えません。 その場合は、イラク以上に激しい抵抗運動が起きることが予想されます。 イランの体制にも、多々問題はありますが、だからといって、それで米国がイランに傀儡政権を立てる正統性が生まれるわけではありません。 なぜかと言えば、国家は、単なるメカニズムではなく、歴史と伝統、宗教に根ざした共同体だからです。 人々が価値観を共にし、力を合わせ、それを実現しようとする中で国家が生まれ、それが世代を超えて継承されます。 だからこそ、米国が勝手に持ち込んだ価値観を受け入れる義理はないし、それを子供の代にまで受け継ぐいわれもないのです。 これが分からないアメリカは、「民主主義」という美しい言葉を並べて政権をつくり、イラク戦争やアフガン戦争の「統治」に甚大な犠牲を払いました。 結局、武力のみで自国に都合の良い政権を立てられるという発想には、根本的な欠陥があります。 それは、歴史の浅い国が陥りがちな間違いなのかもしれません。 ◆成果のない安倍首相のイラン訪問 今回、安倍首相がイランを訪問し、米国とイランとの間を取り持とうと試みました。 しかし、その結果、二隻の日本のタンカーが攻撃を受けました。 このパターンは、2015年に安倍首相が中東を訪問した後に、日本人がイスラム国に人質に取られた事件と似ています。 安倍政権はイラン訪問で日本の存在感を高められると見たのですが、結局、2015年の時と同じく、イスラム勢からの「返答」は厳しいものでした。 そうなったのは、政治・経済的な利害関係よりも上位にある価値観がなかったからです。 米・イラン対立の奥には、イスラム教とキリスト教を中心とした二大文明の衝突がありますが、そこに「石油のバイヤー」でしかない日本の首相が「トランプのお友達」としてノコノコと出ていった結果、「アメリカの犬、帰れ」という厳しい反応が返ってきました。 日本に、二つの宗教の相克を超える高度な価値観がない限り、仲裁などできるはずがありません。 ◆日本がやるべき三つのこと 最後に、今回のタンカー攻撃が日本に示唆することを整理してみます。 まず、第一に、幸福実現党が主張してきた原発再稼働の必要性が明らかになりました。 戦争などでホルムズ海峡から原油を送ることが無理になれば、日本のエネルギー供給も危険になるため、原発の必要性が高まります。 そうしたリスクがあるのに、原発を止めてきた政府の方針には間違いがあるわけです。 大川総裁は、2010年6月に日本のタンカーが攻撃される可能性に警告を発したことがあります(大川隆法著『アダム・スミス霊言による新・国富論』P20)。 幸福実現党は、立党時からシーレーン防衛の重要性を訴えてきたのですが、民主党政権が止めた原発は、いまだに再稼働がままならない有様です。 第二は、イラン攻撃には反対すべきだということです。 トランプ政権内に、それを望むかのような動きもありますが、日本政府ははっきりと反対すべきでしょう。 (※限定攻撃であっても、エスカレートすれば大規模化の可能性は残る) 前述のように、米国のイラン攻撃には十分な大義もなく、規模が拡大すれば米国に甚大な負担をもたらすからです。 幸福実現党・大川隆法総裁は、6月14日の講演会(「されど不惜身命!」)において(※)、イランへの「攻撃が結果的に非常に大きな被害を生むし、日本のエネルギー供給も危険になる」と警告しました。 また、アメリカとの同盟関係を大切にしつつも、日本が、独立国家として言うべきことは言う国家にならないといけないと提言しています。 この「独立国家」となるということが、三番目にやらなければいけないことです。 結局、日本はイランのことをあれこれ言う前に、マッカーサー憲法に基づいた体制を立て直さなければいけません。 幸福実現党は、立党時に、綱領において「大国日本の使命」を果たすことをうたいました。 「日本は宗教的寛容の精神の下、宗教が共存共栄し、人々が幸福を享受した歴史を有しています。こうした自由と寛容の精神に基づく平和を世界レベルで実現していくことこそ、『大国日本の使命』です」 この綱領の通り、戦後体制を脱却し、日本に新たな精神的主柱を立てるべく、力を尽くしてまいります。 ※幸福実現党・大川隆法総裁の講演については「幸福実現NEWS 特別号 6月15日『香港の危機は他人ごとではない 「正義」を世界に発信できる日本へ』を参照 https://info.hr-party.jp/files/2019/06/17114027/fk3ylfc2.pdf 【米・イラン対立(前編)】米軍のイラン攻撃はあるのか? 2019.06.18 【米・イラン対立(前編)】米軍のイラン攻撃はあるのか? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「タンカー攻撃」その後 中東のホルムズ海峡付近で日本と台湾のタンカーが攻撃され、米国とイランの間で緊張が高まっています。 トランプ大統領やボルトン補佐官、ポンペオ国務長官らが「イランの犯行だ」と主張するなかで、イランは攻撃への関与を否定。 事実や状況に基づいた証拠がないと米国に反論しました。 イランを警戒する米国は空母打撃群とB52爆撃機を中東に送っており、米軍1000人の増派も決まったので、今後の動向が注目されています。 ただ、この問題の結論を先に述べれば、日本は、イラン攻撃には反対すべきです。 イラン攻撃は、戦火の拡大を招く危険性がありますし、米国側の正当性も怪しいからです。 この攻撃には「『アメリカの犬』アベ帰れ!」という意図が含まれていたとみるべきだと考えます。 ◆本当にイランが犯人なのか? ポンペオ国務長官は、イランを犯人と断定した際には、以下の四点を主張しました。 ・機密情報(※原則非公開) ・使用された兵器や攻撃に必要な専門知識の程度 ・最近のイランによる類似したタンカー船攻撃 ・これほど高度な攻撃を実行できる勢力はほかにない ただ、これは、推測の域を超えていません。 米国側は、イラン海軍がタンカーから機雷を外す画像などを公開し、証拠隠滅をはかったとも述べました。 その通りなら、イランは首脳会談をしながら日本のタンカーを攻撃し、その後に自国の海軍で消火し、救助したことになります。 しかし、イランに、そこまで周到に日本をだまし撃ちしなければいけない理由があったのでしょうか。 日本はイランと深刻な対立関係にあるわけではありません。 その意味では、米国の主張には、大きな疑問点が残っています。 イラン海軍が、救援活動の延長として危険物を処理しただけなのかもしれないからです。 ◆米国とイランの大規模戦争はあるのか この案件で気になるのは、米国とイランとの間で武力紛争などが起きるかどうかです。 しかし、両国の軍事力の差や近年の中東情勢を考えると、これだけで大きな戦争を起こすのは、それなりに困難です。 米国にも、イランにも、それぞれ、大戦争をしがたい理由があるからです。 ◆イランと米国の戦力差は歴然 まず、イランが米国と大規模な戦争ができないのは、軍事力の差が大きすぎるからです。 そもそも、核兵器のないイランは核大国の米国には勝てません。 彼らの弾道ミサイルは中距離弾(シャハブ)でも中東全域と欧州の一部にしか届かないので、狙えるのは、イスラエルや中東の米軍基地などにとどまります。 イランがミサイルを撃っても、米国は多数の機動部隊を集めれば、千発以上のトマホークと爆撃でイランの要所を攻撃できます。 (※イラク戦争では空母6隻を中心に機動部隊が展開した) 開戦となれば、サイバー攻撃やミサイルで空港や通信施設が破壊されます。 イランにはホメイニ革命前に米国が売った戦闘機(F14やF4)やソ連製戦闘機(MiG29やSu24等)やソ連製防空システム(S300)があり、それなりの戦力ですが、これで、今の米空軍に対抗することはできません。 米国のステルス戦闘機(F22)や高度な情報ネットワークを備えた戦闘機部隊(空母はF18を運用)には勝てず、制空権は米国のものになります。 (※米空軍はデータリンクを用いて飛行隊の全機が敵情報を共有して戦うが、イラン軍は個々の戦闘機がそれぞれ敵を見て戦うだけ) イラクより時間はかかりそうですが、結局、米国は爆撃で陸上戦力を滅ぼしながら、陸上部隊を展開することができます。 本当にイラン打倒を図ったら、米軍が戦闘機や攻撃ヘリでイラクの戦車を狩っていったのと同じ光景が繰り返されるでしょう。 イラン海軍は潜水艦で奇襲し、駆逐艦やミサイル艇でペルシャ湾を荒らすことはできますが、規模が小さいので、その後に米軍に一掃されます。 イラン軍は、米国を核で威嚇することも、通常戦力で勝つこともできないのです。 ◆米国はイランに勝てても「治める」ことはできない しかし、だからといって、米国は安易にイランと戦争できません。 米国には、イラク戦争の手痛い体験があります。 米軍はイランを打倒できますが、戦後統治には重大な痛みが伴うことが、イラクやアフガニスタンで実証されました。 米国はフセインを打倒後、統治を楽観視しましたが、イラクは日本とは違い、天皇のような秩序の中心もなく、議会政治をきちんと運営してきた歴史もありませんでした。 そのため、戦後は統治不全地域となり、宗教紛争や反米闘争が相次ぎます。 約4500人の米軍人が死に、統治まで含めた国費は300兆円以上にのぼりました。 (※米経済学者スティグリッツ氏はその戦費を3兆ドルと試算) 「独裁者から解放されれば、民衆は喜んでついてくる」という幻想は無残に打ち砕かれ、ブッシュが率いた共和党政権は多くの国民の支持を失ったのです。 ◆米・イラン対立 ありそうなのは「限定攻撃」か? 結局、イランには米国と戦える戦力はありません。 また、米国はイランに勝てても、そのあとに「治める」ことができません。 イラク統治の崩壊の結果、生まれたものは「イスラム国」でした。 その繰返しを防ぐ方法を持たないまま、アメリカがイランに大きな戦争をしかければ、ブッシュ政権の二の舞になります。 トランプ大統領が「イランとの戦争は望まない」と言っているのは、そうした経緯があるからです。 そのため、今回の米国とイランの緊張関係は、まずは政治闘争の次元で進んでいくはずです。 トランプ政権が動いた場合、まずは、巡航ミサイルで基地を狙うといった限定攻撃がなされる可能性が高いといえます。 ◆紛争拡大の危険性があるので、日本はイラン攻撃に反対すべき しかし、限定攻撃であろうとも、エスカレートの危険性はあります。 武力衝突は、事態が制御不能になるリスクを伴うので、日本はイラン攻撃に反対すべきです。 攻撃がなされれば、その応酬として、イランが原油の輸送ルートであるホルムズ海峡を狙う危険性が高まります。 また、イランは宿敵イスラエルとの戦いや、イスラムの盟主を巡るサウジアラビアとの戦いを続けていることにも注意が必要です。 (※ペルシャ民族の雄であるイランとアラブ民族(諸国)との戦いも数千年の歴史がある。ペルシャ帝国の頃から両者の関係は険悪) イスラエルもサウジも自国の戦いに米国を巻き込みたがっているからです。 火に油を注ぐ危険性があるので、大局を見るならば、日本は、タンカー攻撃が仮にイラン軍だったとしても、米国のイラン攻撃には反対すべきです。 すべてを表示する « Previous 1 … 50 51 52 53 54 … 253 Next »