Home/ 2024年 February 2024年 February 『金利ある世界』に向けて必要な『覚悟』とは 2024.02.28 https://www.youtube.com/watch?v=qIofw00WPrc 幸福実現党 西邑拓真 ◆「金利ある世界」に向けて、今、議論が進められている 日経平均株価がバブル経済期の史上最高値を塗り替え、活況にわく株式市場ですが、株式市場や為替相場に大きく影響を与えるのが「金融政策」です。一見難しいと言われる「金融政策」について、今回は難解な理論は省き、なるべくわかりやすくお伝えいたします。 金融政策とは、日本の中央銀行である、日本銀行が行っているものであり、金利を上げたり下げたりしたり、世の中に流れるお金の量をコントロールすることで、景気の変動を調整、物価の安定を実現しようとするものです。 日銀の黒田東彦前総裁は「異次元の金融緩和」、いわゆる「黒田バズーカ」というものを行い、日銀が10年ものの長期の国債を金融機関から大量に買うことによってその金利を0%に抑えること、また、金融機関が日銀に預けているお金の一部に手数料をつける、いわゆる「マイナス金利」政策を行ってきました。 黒田前総裁は昨年4月、10年の任期を終えて退任し、黒田氏の後任として、日銀総裁に植田和男氏が就任しました。植田総裁の下、今、日銀は「異次元緩和」を見直し、「金利ある世界」に戻ることを模索していると言われています。 ◆「異次元緩和」の代償 では、そもそも、黒田前総裁による黒田バズーカは、正しかったと言えるのでしょうか。そして、「金利ある世界」に向けては何が必要となるのでしょうか。こうしたことについて、今回は以下の3点から考えて参ります。 (1)成長路線に戻ることに失敗 一つは、黒田総裁は景気回復のために、金融緩和に奮闘したものの、金融緩和一辺倒だけでは、日本経済が成長路線に戻らなかったということです。 金利が低ければ、お金が借りやすくなりますので、個人が新築の家を建てたり、企業が設備投資を行うという動きが活発になり、景気は回復に向かうはずです。しかし、黒田前総裁の任期中、消費税が8%、10%と二度上がったことが災いし、異次元緩和も虚しく、経済はほとんどゼロ成長となりました。 異次元緩和で、日銀は金融機関が持っている国債を買い続けた結果、日銀の国債保有比率は、黒田総裁就任前の2012年には10%程度だったのが、2023年9月末時点で53.86%となり、国債発行額1066兆円のうち、実に日銀保有分は574兆円となりました。その分、金融機関などにこうした多額のお金が入っていくわけです。しかし、アベノミクスの下で2度の消費増税が行われて実体経済が傷つけられたことで、お金が世の中に回っていかない、という状況となったのです。これを人間の体で例えると、血液が大量に注入されているけれども、それがまさに循環しない状況と言えるでしょう。日本経済は、消費税という血栓ができて、心筋梗塞や脳梗塞が起きる寸前だと言えるかもしれません。 (2)資本主義の精神を傷つけている 二つ目は、「資本主義の精神を傷つけている」という点です。 経済学の父、アダム・スミスは、生前、「各人が節制、勤勉に励めば、国家全体としても自ずから豊かになる」と述べています。つまり、人が勤勉に働き、節制して富を蓄積し、その富を自分自身が事業を行うか、あるいは企業家にお金を貸して、工場を建てたり、人を雇ったりして、何かを付加価値のあるものを生産する。そして、得られた富で、さらに付加価値あるものを作っていくという好循環ができるわけです。これはまさに、「資本主義の精神が国家を繁栄させる」ということです。 かつては、銀行に定期預金を預けておけば、6%程度の利子がつき、貯金をある程度蓄えておけば、年金がないとしても利子収入だけで老後は安泰と言われてきました。 ゼロ金利の時代の今、お金を貯めても利子がほとんどつかず、資本主義の精神が働きにくくなっていると言えるでしょう。 特に、「マイナス金利」というのは、資本主義に逆行するものであり、もってのほかです。現在、日本以外でマイナス金利を採用している国は見当たりません。マイナス金利政策については早急に解除すべきです。 一般的に、金融政策は短期的には経済を刺激して効果があると言われていますが、長期に見ると、疑わしい面があります。 経済学者の小林慶一郎教授は、「ゼロ金利環境では低収益の事業でも採算性があると見なされるので、現状維持の消極的な経営が蔓延」することから、イノベーションが停滞し、日本経済が今停滞しているとの可能性に言及しています(*1)。ある意味で、経済を成長させようとしているゼロ金利が、かえってゼロ成長を生んでいるとも言えるでしょう。 また、「政府がいくらバラマキを続けて国債を発行したとしても、日銀が買ってくれるから安心だ」という構造、日銀の姿勢が、政府のばら撒き体質を支えてきたと言えます。ただ、この膨らんだ財政赤字が国民の将来不安の要素となって、これも、低成長を呼び寄せていると言えます(*2)。 こうしたことを踏まえ、長期にわたって異次元の金融緩和を続ける日本は今、抜本的な見直しが必要になってきているのではないでしょうか。 (3)日銀が「あの世行き」になる可能性 3つ目は、まさかの日銀倒産リスクです。 日銀がまさか倒産するなんてあり得ないと思う方もおられるかもしれませんが、もし、政府の財政が今後も悪化し続け、日本の国債は危ないと、人々が思うようになれば、皆、国債を手放すようになり、国債は大暴落して、紙切れになるかもしれません。そうなると、どうなるでしょうか。 幸福実現党の大川隆法党総裁は『秘密の法』の中で、次のように述べています。 「借金が一千百兆円も一千二百兆円もある国が出している国債を、日銀が直接買っているということですから、もしこの国債が“紙切れ”になるものだったなら、日銀まで一緒に“あの世行き”ということになります。その可能性も、今、近づいてはいるのです。」 日銀が買ってきた国債は、日銀のバランスシートから見たら「資産」となります。国債が紙切れになったら、資産は大きく目減りし、債務超過に陥り、場合によっては、「破綻する」危険性も否定できない、ということです。 ◆「金利ある世界」に向けて必要な「覚悟」とは 大規模緩和にはさまざまな副作用があり、日銀は今、いよいよ方針転換に迫られているわけですが、植田総裁の下で「金利ある世界」を実現するためには、何が必要となるでしょうか。 政府の財政状況を見ると、歳出額114兆円(*3)のうち、およそ25兆円が、過去の借金の返済と利息分による「国債費」となっています。 現在、政府は国債を含め、約1200兆円の債務を抱えていると言われています。細かな計算は省き、単純計算をするとすれば、今、0%の国債金利が1%になると利子支払いだけで毎年12兆円、2%だと毎年24兆円に向かうことになります。つまり、2%になるだけで、今の国債費分の利払費が発生することになり、元本を返すのが難しい状況となってしまいます。 今後も、政府がバラマキを続け、借金を増やし続ければ、国債を返す費用は増加の一途を辿ることになるのです。 金利が上がることは、日銀自体の経営にも影響を及ぼします。植田総裁は2月22日、衆院予算委員会で「金利全般が1%上昇したという場合に、保有国債の評価損は約40兆円程度発生する」としています。国債が「紙切れ」にならずとも、「金利ある世界」になれば、その反面で、国債の価格が下がるということにつながるわけで、日銀にとっても極めて苦しい経営状態となるのです。 従って、「金利ある世界」に戻るために必要なのは、政府の「バラマキ体質」から脱却することに他なりません。今、異次元緩和からの「出口戦略」の議論だけが先行しており、ある意味でその前提条件とも言える政府の健全財政については、議論が十分に進んでいないように思われます。 金利ある世界、資本主義の精神のもとで確かな経済成長を果たしていくために、政府は、財政の「体質改善」をするという覚悟を持っていただきたいと思います。 (*1)小林慶一郎『日本の経済政策』(2024年)より (*2)HRPニュースファイル「バラマキのオンパレードで到来するマズイ未来とは?」(2024年2月20日)参照 < http://hrp-newsfile.jp/2024/4475/ (*3) 2023年度予算。財務省HP (https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-structure/index.html)参照 バラマキのオンパレードで到来するマズイ未来とは? 2024.02.20 https://youtu.be/Hs7wA_DRHa0 幸福実現党政調会・西邑拓真 ◆日本政府の財政は加速度的に悪化している 今月9日、財務省は、国債などの政府の借金が2023年末時点で、1286兆4520億円になったと発表しました。 現在、2024年度予算案の国会審議が行われていますが、昨年末に閣議決定された当初予算案では、2年連続で110兆円超えとなる112兆717億円となっています。 歳出と税収の時系列の動きを表したものを「ワニの口」と表現されますが、歳出は上がり続ける一方、ゼロ成長が続いたことで、税収はほとんど増えなかったことから。ワニの口が開き続けています。 歳出を税収で賄えない部分は国債で穴埋めされますが、財政健全化の見通しがつかない中で、政府の借金は構造的に膨らむ一方となっています。 岸田文雄首相は昨年、「次元の異なる少子化対策」として、児童手当の拡充など、今後3年間で子ども・子育て関連予算を年3兆5000億円積み増し、将来的には倍増することを掲げました。 その財源として、現在、医療保険の枠組みを使い、社会保険料を増加することで賄う方向となっていますが、当初は財源を明確にしないまま、お金を使うことだけを先に決めてしまいました(※1)。 安倍晋三政権をはじめとする歴代政権が、一時的な歳出は行うにしても、恒久的な歳出の拡大は行ってこなかったのとは対照的に、岸田政権では財源の見通しを立てないままに恒久的な歳出の拡大を決定した点で、政府の財政のスタンスが「変質」したとする向きもあります(※2)。 つまり、日本政府の財政は、現政権下で不健全化が加速している状況です。 岸田政権ではこれまで、少子化対策や原油高対策の補助金策などを行ってきましたが、では、こうしたバラマキはどのような帰結を招くのでしょうか。今回は以下の3点に焦点を当てて、議論を進めてまいります。 ◆バラマキがもたらすもの(1)大増税 一つは、言わずもがな「増税」であり、もう少し正確に言えば、「国民負担率」が増加するということです。 政府の歳出が拡大し続ければ、増税圧力が必然的に増すことになりますが、増税という形でなくても、岸田政権における少子化対策の財源のように、社会保険料が高くなるという場合もあります。 いずれにせよ、国民負担率は上昇し、国民に負担が重くのしかかることになります。 現在、おおむね50%の国民負担率も、現在の財政スタンスが維持されれば、将来的な国民負担率は60%、70%へと増大することは避けられないでしょう(※3)。 ◆バラマキがもたらすもの(2)世代間格差の拡大 バラマキがもたらす弊害として、二つ目に挙げられるのが、世代間格差の拡大です。 政府がこのままバラマキを続け、その原資を増税や社会保険料負担ではなく、国債発行に頼るとすれば、どうなるでしょうか。 この時、国債を60年かけて返済するといういわゆる国債の「60年償還ルール」の下で、政府によりこしらえられた借金のツケは、若者や将来世代に回されることになります。 高齢者に手厚い今の社会保障制度の下で、負担の将来への先送りを続ければ、高齢者と若者、あるいは現在世代と将来世代との間における世代間格差が拡大することになります。 島澤諭氏の推計によれば、今の社会保障制度を維持するという前提で考えた時、生涯にわたる社会保障給付やその他の歳出により生じる負担から受益分を差し引いた「生涯純負担額」について、0歳児は一人当たり3,737万円の純負担となり、負担よりも受益の方が大きい90歳に比べて、およそ9,000万円の格差が生じるとしています(※4)。 生まれた途端におよそ4000万円の負担を背負うと同時に、こうした世代間格差に直面することになるわけですから、これはまさに「財政的幼児虐待(※5)」と言えるでしょう。 バラマキで借金を積み増せば、これから人生を歩む世代の負担は、さらに高まっていくことになります。 経済学の格言で「フリーランチはない」というものがありますが、これは、すなわち、「何も失わずに何かを得ることはない」ということを表しています。 これは政府によるバラマキも同じです。例えば、一人当たり10,000円の現金給付を行う場合、国民からお金を徴収し、それを配るというコストを考えれば、10,000円以上のお金が必要となりますが、こうしたお金は、増税、社会保険料で現在の世代か、あるいは国債発行で将来の世代かが、必ずツケを払わなければならないのです。 ◆バラマキがもたらすもの(3)インフレ 3つ目は、物価高騰、すなわちインフレです。 13日、米国の1月の消費者物価指数の上昇率が、前年同月比で3.1%になったことが発表されました。米国の物価はやや落ち着きを見せてはいるものの、まだ高インフレから脱却したとは言えない状況が続いています。米FRBは早期の利下げには慎重な姿勢を見せており、円安・ドル高の基調はしばらく続く可能性が高いと言えます。 さて、これまで、日本や米国をはじめとする先進各国が高インフレに苛まれたのは、コロナ禍による供給網の遮断や石油価格の高水準が続いたことなど供給側の要因だけではなく、コロナ禍における財政出動が過大だったという、需要側のいわば「財政インフレ」の面もあるのは確かです。 このことは、コロナ対策としての財政出動が限定的だった新興国は、資源高が収まると、先進国よりも早くインフレが低下する方向に向かっていったことからも言えるでしょう。 河野龍太郎氏は、1980年代の米国における高インフレを抑えたのは、「小さな政府」路線を掲げ、社会保障など歳出を抑制したレーガン大統領の財政スタンスにあったと指摘しています(※6)。 日本はもとより、先進各国が「しつこく高いインフレ」から抜けるには、今こそ「小さな政府」路線へと舵を切り、歳出のあり方を見直す必要があるのではないでしょうか。 ◆必要なのは「返済計画」と、財政を健全にするという政府のコミットメント 財政出動は一般的に、景気を刺激するとされていますが、歳出が拡大し、債務が積み上がると、人々は増税や財政破綻への不安を覚えるようになり、政府の意図とは裏腹に、家計や企業は消費や設備投資を控えるようになってしまいます。結局のところ、バラマキで経済がよくなることはないのです。 腰の入った景気回復に向けて、今、日本政府が行うべきは、国民の「将来不安」を払拭することにほかなりません。将来不安の一要因となっているのがまさに、日本の財政です。 大川隆法党総裁は、『減量の経済学』の中で、今必要なのは、「政府の借金を返す計画である」とする旨を言及しています。 やはり、こうした返済計画を立てると同時に、その計画を政府が着実に履行するというコミットメントを与えることが必要です。政府はバラマキはやめ、抜本的な歳出削減を実践することも行っていくべきです。 (※1)今月16日、少子化対策の財源として、医療保険料とあわせて徴収する「子ども・子育て支援金」を活用することなどを盛り込んだ、少子化対策関連法案が閣議決定されている。 (※2)河野龍太郎『グローバルインフレーションの深層』(2023年, 慶應義塾大学出版会)より (※3)将来的な国民負担率の増大に影響を及ぼす最大の要因は社会保障費と考えるが、紙幅の関係により、今回は議論を割愛した。 (※4) 島澤諭『教養としての財政問題』(2023年, ウェッジ)より (※5)「財政的幼児虐待」という用語は、米国の経済学者ローレンス・コトリコフ教授が唱えたもの。 (※6)河野龍太郎『グローバルインフレーションの深層』(2023年, 慶應義塾大学出版会)より すべてを表示する