Home/ たなべ 雄治 たなべ 雄治 執筆者:たなべ 雄治 HS政経塾 三期生 顕在化する米中覇権争い、潮目は台湾 2018.03.24 顕在化する米中覇権争い、潮目は台湾 幸福実現党・岡山県本部統括支部長 たなべ雄治 ◆「台湾旅行法」成立 アメリカと台湾の間の政府高官レベルの訪問を促進する法律「台湾旅行法」が、3月16日にアメリカで成立しました。 正式には国交のなかったアメリカと台湾の間で、準外交関係が成立することになりました。 アメリカからは3月20日に、国務省のウォン次官補代理が訪台しています。中国は反発しており、同日には中国海軍の空母「遼寧」が台湾海峡を通過しています。 ◆前哨戦は米中貿易戦争 「台湾旅行法」とは別に、アメリカは3月23日、幅広い国を対象とする鉄鋼とアルミニウムの関税引き上げを発動しました。国防産業の保護と対中貿易赤字の縮小が目的です。 さらにアメリカは、中国に対して知的財産権への侵害があるとして、米通商法301条に基づく関税引き上げなどの制裁措置も発動させる見通しです。 米通商代表部高官は、「中国に進出した米企業が不当な技術移転を求められたり、米企業の買収に政府の資金が使われたりするなどの『(知的財産権を侵害する)非常に明確な証拠がある』」と述べています。(3/23読売新聞3面) 中国の知財情報に詳しい専門家は、「中国の模倣活動は単なるモノマネではない。官民を挙げ計画的に実施してきたプロジェクトだ」と指摘しています。(3/23日経新聞2面) また米共和党議員3人が、中国政府が世界に展開している公的機関「孔子学院」などの監視強化を図る法案を議会に提出しました。(注1) 今年2月には、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官が「孔子学院が中国共産党思想の政治宣伝や中国政府のスパイ活動に利用され、『捜査対象』になっている」と公聴会で証言しています。(3/23産経新聞3面) あらゆる手段を駆使して影響力を伸ばしてきた中国に対して、アメリカが本腰を入れて対抗し始めました。外交や貿易の分野で、米中の覇権争いの前哨戦はこれから激化してくるものと思われます。 ◆台湾の重要性 軍事的な面では、台湾が非常に重要です。 習近平中国国家主席は「広い太平洋は、米中両国を十分に受け入れる余裕がある」と述べて、西太平洋進出への野望を明らかにしました。 アメリカは反発しましたが、中国海軍が西太平洋に自由に出入りできるようになるかどうか、これを決めるのが台湾です。 現在は、日本列島・台湾・フィリピン(第一列島線)に米軍の影響があり、中国は南シナ海・東シナ海にやや閉じ込められているような状況です。しかし、もし台湾が中国に占領されるようなことがあったら、台湾を拠点に中国は自由に太平洋に出入りできるようになってしまいます。 また、台湾には米軍の「目」ともいうべき施設があります。 一つは、米国の戦略弾道ミサイル警戒用の早期警戒レーダーをベースに開発された高性能レーダーです。中国の奥地から発射される大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、南シナ海の弾道ミサイル原子力潜水艦から発射される弾道ミサイル(SLBM)を早期に発見できると考えられています。(注2) もう一つは、南シナ海など海底に張り巡らされたソナー網(SOSUS)の基地が台湾にあることです。これにより、台湾近海を通過する中国海軍の潜水艦の動きを監視することができます。 台湾が中国に占領されることがあれば、これら「監視の目」も失うことになってしまいます。 ◆日本に迫る脅威 中国は台湾に対して、経済的にも軍事的にも非常に強い圧力をかけてきています。私達も危機を認識すべきです。 「軍事だけではない、台湾の主権弱体化を狙う中国の外交戦略」 2018年1月25日 HRPニュースファイル http://hrp-newsfile.jp/2018/3324/ 台湾を通過して中国海軍が自由に太平洋に出られるようになってくると、日本の貿易航路が危うくなります。中国が経済封鎖をほのめかして脅迫する恐れがあります。 日本のように天然資源の乏しい国が経済封鎖されると、座して死を待つか、撃って出て活路を見出すか、二者択一になってしまいます。大東亜戦争に突入せざるを得なかった状況と同じで、戦争の可能性が高まり、とても危険です。 以前にもこちらで言及されましたが、台湾防衛は日本にとっての死活問題です。 「台湾の独立を守れ」 2017年1月12日 HRPニュースファイル http://hrp-newsfile.jp/2017/3034/ 日本国内では、憲法9条の改正論議が与党の中で大詰めを迎えています。 台湾有事という日本の「存立危機事態」に対して、曖昧な「必要最小限度」ではなく、「十分かつ適切な」実力行使が取れる憲法改正となるかどうか、注視が必要です。 中国では基本的人権が著しく軽視され、報道の自由や言論の自由もありません。 国民の精神性を顧みない一党独裁の国家です。そのような中国がアジアの支配を広げるような事態は、各国の協力のもと全力をあげて防がなければなりません。 (注1)「米議員が『孔子学院』の監視強化法案を提出 ただの『文化交流機関』とは言えない」 3月23日 ザ・リバティWeb https://the-liberty.com/article.php?item_id=14278 (注2)「台湾山頂に聳える巨大レーダーの正体」 https://www.houdoukyoku.jp/posts/28331 シンガポールとの比較で見える日本医療の問題点 2017.09.12 シンガポールとの比較で見える日本医療の問題点 幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治 ◆忍び寄る医療保険制度の危機 私たちが診療所や病院で診察を受けると、自己負担は3割です。 残りの7割は保険から支払われるはずなのですが全体としては4割分しか賄えておらず、あとの3割は税金から支払われています。 これが後期高齢者医療制度(75歳以上)になると自己負担は1割で、残りの9割は保険料と税金です。 その保険料も、現役世代が加入する健康保険組合などの拠出金に支えられています。 健康保険組合連合会(健保連)が9月8日に発表した報告によると、2025年には健康保険組合の通常の保険給付支出を、後期高齢者医療制度への拠出金が上回るとの試算です。 この拠出金の負担が大きすぎて、多くの健康保険組合が解散するのではないかという懸念を表明しています。 (健保連「平成28年度健保組合決算見込の概要」より) 健保連はこの報告の中で、拠出金負担の軽減や高齢者医療費の抑制を求めています。 もはや抜本的な改革が不可欠ですが、どうすべきでしょうか。 他国の事例の中にヒントを見つけました。シンガポールです。 ◆シンガポールの病院 シンガポールの医療は、日本・欧州型の「社会保障」という考え方ではなく、アメリカ型の「サービス業」として捉えられています。 しかし医療費が高騰しているアメリカとは異なり、安価な医療も存在しています。 シンガポールの医療制度が、ローコストの公立病院と高品質の民間病院の二階建て構造になっているからです。 公立病院は包括医療制度(DPC。治療法ではなく症状で医療費が決まる制度。)であり、過剰医療は皆無ですが、むしろ淡泊すぎる医療が不満にはなっています。 一方の民間病院は、出来高制の自由診療で、競争原理の中でふんだんなサービスがなされています。 なおシンガポール国内の経済格差は大きく、民間病院を利用するのは2割の富裕層で、8割の庶民は公立病院を使っています。 ◆シンガポールの医療保険 保険制度にも見るべきものがあります。 国民皆保険ではなく、強制貯蓄制度による積立金(医療については「メディセーブ」口座)の中から、医療費や保険料を賄っています。 (これらの積み立ては、医療、年金、介護、教育、投資など、国が認める用途に限って引き出すことができる。) 医療保険(メディシールド)には、民間保険のような免責金額や生涯支給額上限があります。 基本的な医療支出はメディセーブと自費で賄われており、医療に対する国家支出は低く抑えられています。医療支出が財政赤字の主要因の一つになっている日本とは大違いです。 ◆シンガポールの医療の考え方 シンガポール保健省は、「個人責任」「地域互助」「政府による間接的援助」という3方針を明確に打ち出しています。 「自助努力」を基本原理にしていて、「収入に応じた医療を」という考え方です。 また、高齢者ほど自己負担が増えていく制度であるため、高齢者医療は家族が支えています。 「誰にでも平等な医療を」という日本とは大きく異なります。 シンガポールが開発独裁だから成り立つ考え方だという主張もありますが、大赤字を出してまで平等な医療を維持することが本当に正しいのか、考えるべき時でしょう。 ◆日本の医療に立ち返ってみると 私たちは、3割負担を良いことに、税金が支える保険診療を使い過ぎているのではないでしょうか。 医療経営の立場では、顧客の負担が3割だけで、残りを保険と税金で補てんしてもらって10割稼げるわけで、こんなおいしい商売はありません。過剰医療にもなるわけです。 保険診療は、使えば使うほど財政赤字が膨らみます。 保険の利用を抑制する動機付けが急務です。 保険を使わなかった人へのキャッシュバックという方法だってあります。 しかし、現政権にはこれが出来ません。 大票田である日本医師会の「ご意向」により、あるいは「忖度」によって、保険診療を減らす改革には手を出せません。これが今の政権与党です。 政権を維持するために、日本の社会保障制度が食い物にされ、このままだと国家が緩やかに滅んでいくわけで、ひとことで言うとシロアリ政権です。 医療分野に、セーフティーネットは残しつつ市場原理を取り入れることは可能です。 公定価格と規制を無くせば、シンガポール同様に、医療が成長産業として国家の発展を牽引してくれるでしょう。 いつまでも特定政党の票田確保のために、防衛費の何倍もの社会保障費が垂れ流される現状にストップをかけようではありませんか。 (参考文献) 「アジアの医療保障制度」井伊雅子編 オバマケアと医療保険 2017.07.08 オバマケアと医療保険 幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治 ◆オバマケアの廃止は決まらず アメリカでは、医療保険制度改革法(オバマケア)廃止に向けての共和党の代替法案が話題となっています。 オバマケアの廃止は、トランプ大統領の公約の目玉の一つでした。 5月に、オバマケアの代替法案は僅差で米下院を通過しました。 ところが先月末、上院での過半数獲得が見込めず採決が延期となりました。 今、アメリカの医療サービスに何が起きているのでしょうか。 ◆アメリカの医療制度 アメリカでは、医療保険制度の大部分を民間に任せています。先進国では例外的です。 公的医療保険制度もあります。高齢者・障害者向けの「メディケア」と、低所得者向けの「メディケイド」で、人口の3分の1の方がこの制度に加入しています。 上記以外は民間保険であり、多くの米国民は雇用先を通じて民間医療保険に加入しています。 ところがアメリカの医療費が非常に高いこともあって、民間医療保険の保険料も高額になっています。 保険料が払えない中低所得者などを中心に無保険者は10%を超えており、医療費の支払いに起因する破産などの問題がおきていました。 オバマケアとは、上述の問題を解決すべく、国民皆保険を目指して2014年から導入された医療保険制度です。 国民には医療保険への加入を義務付けて、民間保険会社には国民の保険加入を断れないなどの規制を設け、財政支援も加えました。併せて、メディケイドの条件を広げ、加入しやすくしました。 こうすれば、確かに無保険者は減っていくはずです。 ◆オバマケアの評価 では、オバマケアは成功したのでしょうか。 確かに、医療保険の加入率は上がりました。 一方で、保険料が平均25%も値上がりし、オバマケアを提供する保険会社が相次いで撤退するなど、見通しの明るいものではありません。 その原因は、公営の社会保険ではなく、民間保険だからです。 民間保険の場合、リスクの高い人には高い保険料を求めますし、場合によっては加入を断ることもできます。 ところがオバマケアの規制により、リスクの高い国民の加入も断れなくなったため、保険給付が増え、その分を保険料の引き上げで補う必要が出てきたわけです。 さらに、収益を見込めない保険会社が撤退し始めました。 2018年には全米の約半数の州で、オバマケアの保険商品を提供する保険会社が1社以下になるという予想も出ています。 1社だと競争原理が働かず、保険料のさらなる値上がりも懸念されます。 オバマケアは成功とは言えません。 ◆オバマケアの代替法案 対して、共和党によるオバマケア代替法案とは、以下のようなものです。 ・国民への加入の義務付けを外す。 ・保険会社は、リスクの高い人の加入を断ることができる。保険内容に関する規制も緩和する。 ・拡大したメディケイドは、段階的に元に戻していく。 完全にオバマケア以前に戻すわけではありませんが、かなりの部分で規制が緩和されることになりそうです。 しかしこの代替法案が可決されると、再び無保険者が増加していくという分析があります。 上院では共和党の中にも代替法案に反対する議員が現れ、冒頭で述べた採決延期につながりました。 ◆医療保険のあり方 多くの先進諸国で、医療を含む社会保障が財政を圧迫しています。 医療のように、自由化して市場原理に任せればよいと単純には言えない分野が存在します。 まだどの国も、医療保険のあるべき姿を見つけ切れていないのではないでしょうか。 これからも様々な社会実験をしていくことになるでしょうが、方向性を示すことは可能だと思います。 それは、「公共の資源を食いつぶさない」という「インセンティブ(動機)」を与えることです。 日本では安くて高品質な医療サービスがいつでも受けられます。 しかし、私たちが窓口で支払う診察料の2倍以上の額が、国民の税金から支払われていることを忘れてはなりません。(自己負担3割) 「保険診療を無駄遣いしない」という「インセンティブ」が望まれます。 その一例として、岡山県総社市の「総社市国民健康保険 健康推進奨励金制度(総社市国保「健康で 1万円キャッシュバック」)」を挙げます。 一年間保険診療を使わず、かつ健康診断を受けている世帯に対して、1万円を還付するという制度です。 また、夕張市のような事例もあります。 http://hrp-newsfile.jp/2017/3209/ あるいは、保険診療の利用額が少ない人に、年金給付を増額して還付する方法も考えられます。これらは、生活習慣改善へのインセンティブにもなることでしょう。 正しいインセンティブを与えつつ、効率化は市場原理にゆだねる。これが医療保険のあるべき姿だと考えます。 「地域医療構想」を疑ってみる 2017.05.13 「地域医療構想」を疑ってみる 幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治 ◆地域医療構想の分析結果 厚生労働省は今月10日、各都道府県による「地域医療構想」の分析結果を公表しました。 「地域医療構想」 とは、団塊の世代が後期高齢者に入る2025年時点の医療提供体制を想定したものです。 在宅医療を推進しつつ病床数を調整し、コストを抑えて効率的な地域の医療提供体制を整えるのが目的です。 全国341の区域についての分析結果によると、長期療養向けの入院ベッド「慢性期病床」および救急医療や先進医療を担う「高度急性期病床」と「急性期病床」の数は減少する傾向です。 一方でリハビリ患者らが入る「回復期病床」については高齢者のニーズが高まり、多くの地域で増加するという結果が出ていますが、全病床トータルでは減少する見込みとなりました。 ところで、なぜここで「病床数」を気にしているのでしょうか。 それは、病床を上述のとおり4分類して、その数に規制をかけているからです。 地域ごとにニーズを吸い上げ、それに合わせて病床数を規制して、管理によって医療提供を効率化しようというのが「地域医療構想」の方針なのです。 ◆管理による効率化の危険性 ところが管理による効率化には、失敗してきた黒い歴史があります。 需要と供給のバランスで価格が決まる市場経済とは異なり、管理された経済では競争原理が働きませんし、変化に対する自動調整も働きません。 まさに日本の医療分野においても、これで失敗した事例があります。 看護師を手厚くした病床の診療報酬を引き上げたところ、多くの病院がそちらに偏り過ぎて、医療費の値上がりと看護師不足を招いたことが実際にありました。 市場経済にはない、不安定さがどうしても付きまといます。 ◆では市場経済が良いのか では反対に、医療を手放しで市場に任せても良いものでしょうか。 実はそう簡単ではありません。経済学においては一般的に、医療は市場経済になじまないと言われています。 医療には、市場経済を働きにくくする要因がいくつかあるからです。 例えばテレビを買いたい場合、店頭やカタログ、ネットの評価など、色んな情報を参考にしながらじっくり選ぶと思います。 ところが医療サービスを受ける場合、買い手(患者)は十分な情報を得ることができません。医療においては高度な専門知識が要求されるからです。 電気屋さんに、「このテレビを買いなさい」と強制されることはあり得ません。 しかしお医者さんに「その症状にはこの治療が必要です」と言われたら、「そうですか」としか言いようがありません。 極端に悪い表現をするなら、売り手(医者)の言い値で買わされる状況なのです。 これが、医療で市場経済がうまく働かないとされる大きな要因の一つです。(経済用語で「情報の非対称性」と言います。) ◆医療を市場経済に任せた失敗事例 そんな中、医療を市場経済の競争原理に任せた国があります。それがアメリカです。 その結果どうなったかというと、医療費が高騰しています。 例えば、初診料3万円。虫歯一本10万円。盲腸手術100万円・・・。お医者さんの言うままに、高値が付けられているという状況なのかも知れません。 また、それにつられて医療の保険料も跳ね上がり、一家四人で月15万円にもなるとか。 先進的な医療技術が多くて研究開発の元を取るために高価になったり、(訴訟国家だけあって)医療訴訟保険料に連動して医者の人件費が上がったり、アメリカ特有の要因であることはあるのですが。 それにしても怖いです。 ◆医療をどう捉えるか 医療を安易に市場経済に委ねるわけにはまいりません。 しかしだからと言って、競争原理を諦めるのも早計です。 成功報酬制度を導入して、制限的に競争原理を取り入れたイギリス医療の実例もあります。 あるいは、公共と民間が並立して競争している分野もあります。例えば学校ですが、公立学校の存在が私立学校の学費の高騰を抑制しています。 同様に、国選弁護士と私選弁護人のような関係の制度も存在しています。 はたまた、混合診療を解禁することで保険外診療が浸透すれば、その分野で競争原理を働かせることもできていくでしょう。 完全には市場経済に任せないことで、アメリカのような医療費高騰を防ぐことは可能です。 行政が進めている「効率化された管理」だと、状況が変化すると途端に非効率化してしまします。 部分的にでも競争原理を取り入れていき、「競争による効率化」を導入すべきでしょう。 効率的な状況を維持するためには、これが必要です。 国民皆保険の未来 2017.03.12 文/幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治 ◆安心安全!?日本の医療 行かないに越したことがないのが病院ですが、皆さんは年に何回通院されますか? 日本人の医師受診回数の年平均は13.1回だそうで、OECD加盟国の中でトップです。 それもそのはず。日本にいると安心して、安くて優れた医療を受けられるからでしょう。 最先端の医療技術ながらも、「医療保険」のおかげで自己負担は3割に抑えられています。 ◆保険とは何か この「医療保険」は、政府が運営する「社会保険」の一つです。強制加入であり、国民皆保険とも呼ばれています。 また、社会保険とは別に、民間企業が運営する「生命保険」「自動車保険」「民間医療保険」などの多種多様な「民間保険」があります。 ところで保険とは、あるリスクに対して、その発生確率に見合う保険料を加入者が出し合って、万が一の時には積立金を支給してもらう相互扶助の制度です。 リスク発生時の支払いの総額を、徴収する保険料の総額で相殺できなければ、保険としては成り立ちません。 医療保険のように、たとえ強制加入であっても、たとえ社会的意義が大きいとしても、この原則には変わりはありません。 ◆日本の社会保険の現状 とても使いやすい「医療保険」ですが、収支はどうなっているのでしょうか。 まず社会保障全体で見てみましょう。 118兆円の社会保障給付費のうち、「年金」は約48%、「医療保険」が約32%、「介護保険+その他」で残りの約20%という比率です。社会保障支出の多くの割合を社会保険が占めます。 その財源にあたる保険料収入はというと、社会保障給付費のうちの60%にも満たない有様です。年金、医療保険ともに、同様の比率です。 そして残り40%の財源には、税金が投入されているのです。 バブル崩壊の1990年以降、概ね毎年15~50兆円の財政赤字が発生しています。 もし社会保障給付費が保険料で賄えていたとすると、この財政赤字は丸々発生していなかったことになります。 政府の借金が1,000兆円を超えたとも言われますが、その原因は社会保障支出であり、政府の保険制度設計の不備が原因だったということです。 ◆今後のトレンド 続いて、今後のトレンドを見てみましょう。 少子高齢化社会と言われて久しい日本ですが、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳)となります。世に「2025年問題」と言われるものです。 その時には、人口比約30%が高齢者になります。 また、生涯医療費の49%が70歳以上の医療費にあてられるという推計もあります。 年金は言うに及ばず、医療保険にとっても、時間が経てば経つほど負担は大きくなってきます。 ◆政府の方針は? 社会保障費増大の予想に対して、政府は消費税の増税で対応しようとしています。 2019年には消費税の10%引き上げが予定されていますが、税収増の見込みは、5%からの換算でも年間13.5兆円に過ぎません。 ところが、社会保障費の不足は現時点でも44.8兆円もあります。消費税増税は解決策ではありません。 それどころか、逆に景気を悪化させ、持続可能な財政再建を阻む愚策です。 保険料を賄おうとするならば、GDPを増やすしかありません。 増税で政府にお金を集めて、GDPを稼がない官僚の人員を増やしても意味はありません。 逆に減税で、民間がお金を使えるようにして、GDPを生み出す民間に資本を集中させるべきです。 ◆どうすればよいのか 医療保険料が高くなるのは望ましくありません。診療報酬の自己負担が増えてしまうのは困ります。 しかし、自分にとって都合が悪くなるからと言って、現状維持で良いはずはありません。 医療保険が賄えるような適正な保険料が求められます。低所得者層には、医療バウチャーの導入も必要でしょう。 併せて、医療業界全体の改革に着手しなければならないでしょう。 今の医療業界は、参入の規制があり、診療報酬に規制があり、自由な競争状態にはありません。 診療報酬を監査する審査団体すら、厚生労働省の天下り先になり、不備も指摘されています。 そのような既得権益と戦いながら、国民の痛みを伴う改革を覚悟し、国民に対して正直に説明ができる政治が望まれます。 そのためにもまず私たち国民が、痛みを伴う改革を覚悟し、選択する必要があるのではないでしょうか。 次世代にツケを残さないために、今こそ、新しい選択を!幸福実現党は戦い続けます。 トランプ革命後の日印外交を考える 2017.02.16 幸福実現党・岡山県本部代表たなべ雄治 ◆トランプ大統領の外交手腕 安倍総理がトランプ米大統領から破格の厚遇を受け、日米首脳会談は終わりました。 しかし、大統領選以降の流れの中で見えたのは、トランプ新政権のしたたかな外交手腕です。 昨年12月2日、トランプ氏は蔡英文台湾総統と電話会談を行ない、安全保障にまで踏み込んで話し合っています。 米台首脳の会談は、1979年以来となる異例の出来事でした。おりしも、習近平中国国家主席がキッシンジャー元米国務長官と会談をしているその日のことです。 「一つの中国」として台湾を認めていない中国は激しく反発しました。 その一方で、安部総理が米国に到着する1月9日には、トランプ大統領と習近平主席が電話会談を行なって、「1つの中国」政策の維持で合意しています。 台湾独立がシーレーン防衛の生命線である日本に、プレッシャーをかけた形です。 最終的には良好な日米関係を演出しましたが、関税・為替で交渉相手となる日中両国に十分な揺さぶりを掛けたという所でしょう。 ◆トランプ外交で中国はどうなるか 台湾問題では中国に妥協した形の米国ですが、これは対中の関税を引き上げる予兆ではないかと予想します。 公約では、中国製品に45%の関税をかけることになっています。 ところで中国はここ20年以上にわたり、毎年10%以上というすさまじい軍拡を続けています。 その軍拡を支えてきたのが、中国の経済成長です。 中国は、西側諸国と貿易をしながら、為替は元安にコントロールしてきました(管理変動相場制)。 さらに、採算度外視の安売りができる国有企業で構成されています。 そうして成り立つ安価な製品の輸出によって、中国経済は急成長を遂げました。 現在米国の貿易赤字の約半分は対中国であり、中国によるグローバリズムの悪用と言えます。 トランプ大統領が掲げる対中関税は、軍拡を支えてきた中国経済に打撃を与える政策です。 南シナ海のサンゴ礁の軍事基地化など、中国の軍拡に脅威を感じている東南アジア諸国とっては朗報でしょう。 しかし、その後の中国の動きは予断を許しません。 というのも、経済で行き詰った中国が戦争特需をつくり出すことが予想されるからです。 ◆アジアの安定に不可欠な日印関係 とは言え、中国の軍拡をこのまま放置するわけにはいきません。 やはり米国の対中国の関税政策には賛成です。 そのうえで、中国の暴発を前提とした対策が求められます。 そのために連携すべき国は、同盟国の米国の他に、中国を北と南から挟むロシアとインドでしょう。 ここでは、インドについて考察してみます。 ◆トランプ大統領と似ている!?モディ印首相 2014年、インドでは10年ぶりの政権交代が実現しました。そこで登場したのが、ナレンドラ・モディ首相です。 モディノミクスと呼ばれる自由主義経済政策や製造業振興政策「メーク・イン・インディア」により、就任前には5~6%だったGDP成長率は7%台をキープしています。 そんなモディ首相ですが、トランプ大統領やドゥテルテ比大統領と比肩される大胆さがあります。 昨年11月8日の夜、突如として高額紙幣の無効化を宣言しました。その目的は、GDP2割を占める地下経済の撲滅とデジタルマネー推進を狙ったものです。 発表からわずか4時間で、通貨発行額の86%が無効となりました。(年内は銀行で交換ができた。) 日本で例えると、財布の中の一万円札と五千円札が突如使えなくなるわけです。 しばらく経済の混乱は続きましたが、国民の少なからぬ人数がモディ首相の政策を理解していたようです。 地下経済と汚職に対する不公平感と不満が鬱積していたということでしょう。 また、昨年の夏には、GST(物品・サービス税)の導入に目途を立てました。 GSTとは、州ごとに独自だった間接税率を一律化し、複雑だった税制を簡素化するものです。 州をまたぐ商売の効率化や減税効果などで、GDP1%にあたる経済効果が見込まれると言われています。 そのために必要な憲法改正を、上下院で可決させたのです。 改革の遅さや高額紙幣無効化で批判もあるモディ政権ですが、3月11日開票のウッタルプラデシュ州を含む5州のインド州議会選挙で、その信任が問われると見られています。 ◆したたかなインド外交 インドは伝統的に「非同盟主義」、「全方位外交」を方針としていますが、モディ首相もこれを踏襲しています。 ISの問題でも、イスラム過激派のテロに悩まされてきたインドなのに、67カ国のIS対策有志国グループには加盟していません。 また、中国を仮想敵国としながらも、日中や米中を両てんびんにかけて経済的な利益を引き出すなど、「インド第一主義」外交を続けてきました。 インドにとって中国は、仮想敵国であると同時に最大の貿易相手国です。 複雑な印中関係があり、建て前として同盟を嫌うインドに対して、日本はどのような外交方針で臨むべきでしょうか。 ◆主軸は安全保障 トランプ外交によって米中貿易の先細りが予想されます。 その影響で印中貿易が膨らみ、両国の経済関係は強化されるでしょう。 経済に関しては、インドによる日中の両てんびん外交には目をつぶらざるを得ないでしょう。 反面、安全保障に関しては、中国の脅威を被る国同士として、要点を押さえた協力関係を構築すべきです。 欧米に同調してロシアの経済制裁に加わったばかりに露中の関係を強化してしまうような、外交の失敗を繰り返してはなりません。 昨年、2年越しで締結した日印原子力協定のように、インドにとって譲れないポイントでしっかりと信頼関係を築いていく必要があるでしょう。 交通やエネルギーなどのインフラ、防衛装備移転など、技術面での日印の関係強化も望まれます。 最優先は安全保障です。中国という脅威への対応を軸とした、日本独自のブレない判断が求められます。 政治の役割を考える 2017.01.15 幸福実現党・岡山県本部代表たなべ雄治 ◆トランプ外交に負けないために トランプ次期大統領の約半年ぶりとなる記者会見が、報道をにぎわせました。 対日貿易の不均衡是正への言及をはじめ、トランプ氏の発言に注目が集まっています。 しかし、トランプ氏が何を目指しているのかということよりも、まず日本の国が何を目指しているのか、ということの方が重要であるはずです。 日本の政治は一体何を目的としているのでしょうか。 ◆そもそも政治の役割とは 政治とは、秩序の構築であったり、統治に関するものだとも言われますが、もっと根本的な役割があるように思われます。 より重要な政治の役割とは、「国民の『集合想念』の形成」なのではないでしょうか。 例えば一昔前であれば、王様に統治される農民は、自分の身の上に何の疑問も持たなかったかも知れません。 しかし、ひとたび民主主義を知ってしまった私たちが、再び王様に支配されることを受け入れることはできないでしょう。 王政を敷いたとしても、身分制による支配を許すまじという「集合想念」が生じたならば、早晩その王政は崩壊するしかありません。 良き法律、良き仕組みを作るよりも前に、それを運用する国民の良き「集合想念」が大切です。 アメリカでは、大統領選を通じて、そしてトランプ新大統領就任後にかけて、「アメリカを再び偉大な国にする」という「集合想念」が形成されつつあると言えるでしょう。 そしてこの集合想念が、実際に未来のアメリカを創っていく原動力になるはずです。 ◆良き「集合想念」を形成することが政治の役割 日本も、政治を通じて良き「集合想念」を形成していくべき時に来ているのではないでしょうか。 政治は国民の幸福のため、とは誰しも言うことですが、その幸福の中身が問われなければなりません。 例えば、ただ楽に生きていけることが幸福でしょうか。 死んだら無になるとするような世界観だと、ただ楽に、苦しみの少ない人生を目指すことになるでしょう。 ただ自分が楽をするために、自分の利益をもたらしてくれる政策・政党に一票を投じるという、利己的な考え方が「集合想念」として形成されたなら、民主主義は欲望の多数決になってしまいます。 もらえる社会保障なら、もらって楽をしてしまえ、という考え方が出てきます。利益誘導と利益の奪い合いで、国の財政はますます悪化するはずです。そのような国家はいずれ滅びることになるでしょう。 ◆日本は何を目指すべきか そうならないためには、そして日本を良い国にしていくためには、どのような「集合想念」を形成していくことが理想なのでしょうか。 例えば、上述とは逆の考え方でしょう。自分だけではなく、周りの多くの人の幸福をも願う考え方です。より多くの人を幸福にできる存在へと成長することこそ幸福だ、という人生観です。 あるいは、困難を乗り越える過程で得る智慧こそ人生の意義であり、生まれ変わりを繰り返して、自分の魂は無限に成長することができるのだ、という世界観です。 人の幸福を願い、人間性の向上を願う「集合想念」を形成することができた国はどうなるでしょうか。間違いなく大発展するはずです。 そして、全ての人の幸福を願う「集合想念」を形成していくことこそ、私たち幸福実現党の使命だと考えます。 皆様ぜひ、私たちの活動により一層のご支持・ご支援を賜りたく存じます。 儲かる林業の可能性――財政出動の在り方を問う 2016.11.19 幸福実現党・岡山県本部副代表たなべ雄治 ◆林業に未来はあるのか 後継者不足の産業にはいくつかありますが、代名詞の一つと言えるのが林業でしょう。 どうして後継者が不足するのでしょうか。それは、儲からないからです。儲かる限り、後継者は自ずと出てきます。 ではなぜ、林業は儲からないのでしょうか。あるいは、本当に儲からないのでしょうか。現在の林業を儲からなくしている要素がいくつかありますので、見てまいりましょう。 ◆経営規模の制約 山の所有者の方から、冗談半分にこんなことを言われたことがあります。「運び出して売るんだったら、俺の山の木をあげるよ。」と。 お話を伺ってみると、木を切り倒しても運搬に大変コストがかかるのだそうです。林道が整備されていないことがその要因です。 林道を作れば良いのですが、それもなかなか容易ではありません。なぜなら、昨今は山の所有が細切れになっていて、適切なルートで林道を通すことが困難だからです。 近年、所有していても利益にならない山は、遺産相続のたびに深く考えられることもなく気軽に分断されてしまいます。 分断された山の土地は、大変使い難くなります。林道を通したくても、他人の山に勝手に道を作るわけにはまいりません。 運搬に必要以上のコストがかかったら、売れる木材も売れなくなってしまいます。これが問題の一つです。 ◆外材に勝てないのは、値段ではなくて質の問題 たとえ木を安く伐り出すことができたとしても、外材(輸入木材)の値段には太刀打ちできない、という説もあります。 そう思われがちですが、この説は正しくありません。 建築現場で外材が選ばれる理由の一つは、寸法が正確だからです。アジアなどから輸入されてくる外材は、乾燥処理がされているために変形が少なく、木材の寸法が正確なのです。 一方で国産材の7割は乾燥処理がされないまま加工されており、切った後で収縮・変形します。さらに反りなどを補正するための追加工が施され、その結果として国産材の寸法足らずが常態化しています。 また近年は、安定供給という面でも国産材は外材に勝てなくなっています。 外材の方が高価格な場合すらあります。人工乾燥などの設備の整った外材に、国産材は値段ではなく質で負けているということなのです。 ◆財政出動の在り方を考え直そう 現在の林業の多くは補助金に頼っています。間伐については、7~8割を補助金がまかなっています。 しかし、主伐しても売れない材木のための間伐に、税金を投入し続けたところで何かを生み出すわけではありません。財政出動の在り方を考え直すべき時です。 本来、公共投資とは、民間による投資が困難な部門を担うべきものです。 民間の投資が難しいのは、例えば大規模なインフラ投資や、基幹産業の育成、基礎研究への投資や、宇宙開発などの大規模投資など、将来必要とされながらも、すぐに利益を生み出せない部門です。 利益が生まれ始めて市場が形成されたら、そこから先は民間の役目であり、政府は手を引くべきです。 逆に、補助金などをあてにして政府に依存する民間も、自身の役割を勘違いしていると言えるでしょう。 ◆儲かる林業を生み出すための財政出動を 一方で、儲かる林業のモデルとなる、国内林業の成功事例もいくつかあります。 土地の所有権はそのままに、地上権だけを委託してもらって最適な林道を引くなど、山全体での最適な林業経営を実現した岡山県西粟倉村の例があります。 また、森林組合と山の所有者との信頼関係を築き、受託契約率が100%に近い、京都府の日吉町森林組合があります。 いずれも、権利関係の整理や地籍調査が成功の鍵です。それには、全国に散らばった地権者の同意を取らなければならず、大変な作業となります。 こういう部門こそ、政府は支援すべきでしょう。補助金の投入によりこの作業が進めば、全国各地で大規模かつ統一的な林業経営が実現できます。 あるいは、人工乾燥施設の設備投資への減税も一つの手でしょう。 国民の血税が充てられるわけですから、間伐などの、その場限りの補助金ではなく、将来のビジョンの伴う財政出動であるべきです。 現時点で様々な引っ掛かりがあるのが現在の日本の林業ですが、これらの引っ掛かりを取り除くことで、「儲かる林業」は十分に実現可能なのです。 引っ掛かりを取り除くために、規制緩和と併せて、効果的な財政出動を利用すべきです。 幸福実現党は、選挙のための票の買収と見られかねない財政出動は自粛して、未来ビジョンの伴う財政出動の実現に尽力してまいります。 未来の見える農業政策とは 2016.09.24 文/幸福実現党・岡山県本部副代表 たなべ雄治 ◆今の農業政策に未来はあるのか 農業に関して取り沙汰されて久しいものに、後継者問題があります。なぜ後継者がいないのでしょうか。答えは簡単で、儲からないからです。もし農業が儲かる職業ならば、人手不足にはならないはずです。 今、日本の農業は、補助金と関税により厳重に保護されています。米であれば、価格維持のためにも予算が使われてきた経緯があります。GDP比で1%に満たない農業に、国家予算の7%を超える額が充てられてきました。 また、消費者の立場で言うと、市場原理から外れた高い米を買わされて、さらに農家のために税金が取られているのです。踏んだり蹴ったりです。 しかし、日本の農業は、そこまで保護しなければならないほど弱いのでしょうか。そして、このように保護されなければ成り立たない職業に、若者が魅力を感じるでしょうか。 ◆農業政策の問題点は政治のご都合・・・ 農家の7割が米農家ですが、生産額では農業生産高全体の2割に過ぎません。酪農と比較してみると、生産額で酪農は米の約半分ですが、戸数で比べると酪農家は米農家の100分の1しかいません。 儲かりにくい業種に、多数の労働力が集まっているわけです。なぜこんなことが起こるのでしょうか。 これこそ、政治の都合です。農業人口を維持してきたのは、選挙の得票のためです。補助金で手厚く保護して、政策を利用した買収行為により、自分たちの票を集めてきたのです。農業政策よりも、農家戸数の維持を優先するという、自民党政治の典型です。この他にも様々な業界に対して同じようなことをやって、その結果が1,000兆円を超える政府の借金です。これは責任問題です。 本当に国民のための政治をするならば、求められるのは農業従事者人口ではなくて、市場原理に基づいた安くて美味しく安全な農作物の供給であるはずです。 ◆農業を保護したい従来型政治の主張 農業を保護するべきだという論拠としてしばしば用いられるのが、農業規模の問題です。 農家一戸当たりの農地面積は、日本を1とすると、EUが6、アメリカが75、オーストラリアで1,309となります。だから勝てないという主張なのですが、しかしよくよく見てみると、オーストラリア1,309に対してアメリカの75が勝っているのです。 なぜこんなことが起きるのかというと、土地の肥沃度などでできる作物は変わりますし、単位面積当たりの収量も大きく変わるからです。 広いからそれだけで有利かと言えば、オーストラリアでは痩せた土地が多く、水などの環境の制約もあり、効率的な農業は実現できていないのです。 農業の現場を見て、もっと地に足を付けた議論をしなければなりません。 ◆日本の農業の強み 日本の農業の最大の強みは、水利でしょう。非常に恵まれています。 水田の多さにその特徴が表れています。水で洗い流すので塩害を防ぐことができており、水で覆うために土壌浸食を防いでいます。また水田が保水をしながら、土砂流出の抑制もしており、土地の保全に重要な役割を果たしているのです。 また、作付面積からすると一見不利に見える棚田ですが、かけ流し灌漑といって、水を上手に利用しています。水利で見た時に、日本の米作の優位は抜きん出ています。海外の米作が、実はそれほど日本の脅威にはならない大きな理由の一つです。 日本の米作の成功事例を挙げると、中山間部の高低差を利用した、田植えや稲刈りの時期をズラす農業があります。実例では、夫婦二人で30ヘクタールの耕作を実現できています。米作農家の平均が0.7ヘクタールですから、中山間部にして十分な大規模農業が実現されています。 別の工夫もあります。穀物と畜産の組み合わせた複合経営です。穀物は価格変動が大きいのですが、価格が上昇したときには穀物として売り、下落したときには飼料用作物として牛肉を売る、こういう事例もあります。 新しいチャレンジに挑む農家が、日本の農業に希望を見せてくれています。 ◆国際競争力を高めて、世界で勝負しよう! 保護政策のせいで、農作物が市場原理よりも高くなっていたら、海外で売れるわけがありません。 お米であれば、安くて美味しくて安全であるからこそ、海外で勝負ができるのです。そのために、まだまだやるべき事ができていないのではないでしょうか。 できることは残っています。それをやらずに現状維持を続けるのか。それとも市場原理を取り入れて、勝てる農業・儲かる農業を目指して一歩踏み出すのか。TPPを目前に控えて、日本の農業の分岐点は、今まさにそこまで迫ってきています。 広島宣言の欺瞞――理想と現実 2016.04.14 文/幸福実現党・岡山県本部副代表 たなべ雄治 ◆ヒロシマへの歴史的な訪問 広島で主要7カ国(G7)による外相会合が行われ、その中で核兵器なき世界を支持する「広島宣言」が採択されました。 ケリー米国務長官は、原爆を投下した米国の閣僚としては初めて広島平和記念公園を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花しました。「歴史的」との報道がされています。 ◆文言の変遷と発言を振り返る ここで、「広島宣言」の変遷を振り返ってみましょう。 日本は当初、核兵器による惨状について「非人道的」と表現しようとしていました。 ところが核兵器保有国が、国際法の「人道に対する罪」に当たると取られかねないと懸念したため、「非人間的な苦難」という表現に変更されました。 とすると、民間人への原爆の使用は「人道に対する罪」に当たらない、とでも言いたいのでしょうか。 次に、米国関係者の発言にも注目してみましょう。 米国務省高官が「米国務長官が謝罪のため広島に来たのかと尋ねられれば、答えはノーだ」「深い悲しみを覚えるかと言えば、答えはイエスだ」と語ったとCNNが伝えています。 不幸な出来事ではあったが米国が悪いわけではない、と言いたいようです。 ケリー氏はというと、今回の広島訪問について、「過去についてではなく、現在や未来についてのものだ」と岸田外相に対して語っています。 謝罪する気はさらさら無いようです。 ◆米国の立場としては当然の姿勢 オバマ米大統領の「核兵器なき世界」の宣伝のために「広島宣言」を利用することはあっても、米国は戦争犯罪を認めないでしょう。 この対応は、現代の外交においては常識的です。 というのも謝罪すると、賠償が発生しかねませんし、若者の愛国心を損なうかも知れません。米国の国益に沿わないからです。 また、仮に謝罪したくてもできない、民主主義特有の事情があります。 それが世論です。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、米国では広島・長崎の原爆投下について、過ちだったと考える人34%に対し、正しかったとする人が56%もいます。 謝罪は、野党共和党を利することになるわけです。 ◆事実としての米国の戦争犯罪 とは言え、米国の行為は過ちであり、その主張には嘘があります。 まず何をおいても、非戦闘員を狙って原爆を投下したという戦争犯罪を見過ごすわけにはまいりません。これこそ「人道に対する罪」です。 「早く戦争を終結させるため」という原爆投下の正当化も嘘です。原爆投下以前にすでに日本は戦争継続能力を失っていました。 さらに、終戦後には米軍が被爆者の診察をしていましたが、実際の治療は一切行わずに実験体として観察していたという説もあります。 このような欺瞞が、正当な人類の歴史として認められて後世に伝わることを、黙って見過ごすわけにはまいりません。 「何を正義とするか」という価値観の積み上げこそ、人類の未来を築いていく基礎になるからです。 ◆一方、現実を見ると とは言え、日本の最大の同盟国は米国です。米国との協力なくして、中国の軍拡と侵略には対抗できません。 ですから、一方的に米国を断罪して日米関係を悪化させることは良策とは言えません。 さらに北朝鮮は、核実験とミサイル実験に成功しました。 日本に核ミサイルが飛んでくるかどうか、これが北朝鮮の若き独裁者、金正恩に委ねられているという悲しすぎる現実があります。 皆様は、金正恩という人物の理性を信用できますか。私にはできません。 金正恩に核攻撃を思いとどまらせる唯一の方法は、「やられたらやり返される」と判断させることです。 ◆どうする日本!? 「核兵器なき世界」をめざすオバマ大統領には強く共感します。 しかしそれでも今の日本は、被爆国でありながら核武装の議論を迫られる国際情勢の中にあります。 したがって、理想と現実を整理する必要がありましょう。 まずは足元、短期的には現実的な政策を進めなければなりません。 中国・北朝鮮を抑止するには、日米同盟を堅持しながら、集団的自衛権の運用と、核武装まで視野に入れた国防の見直しが必要です。 併せて、理想に向けての長期的なプランと行動が求められます。それは、未来に残すべき価値の探求と具現化です。 上述、米国における原爆投下の是非に関する世論調査を紹介しましたが、30歳未満の若年層に限れば、逆転して原爆投下を否定する意見が上回っています。 日本の発信によっては、いずれ米国の理解が得られるのではないでしょうか。 歴史に対する適切な評価は、後世への遺産となり得るものです。 この仕事も幸福実現党の責任として担ってまいります。 すべてを表示する 1 2 3 Next »