新築住宅への「太陽光発電パネル設置の義務化」の不条理【前編】
http://hrp-newsfile.jp/2022/4284/
HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆「新築住宅への太陽光の発電パネル設置の義務化」とは
東京都は、2030年までにCO2を2000年比で半分にする(50%減)という目標を掲げています。
それを実現するための政策の一つとして、全国に先んじて、新築の一戸建てやマンションへの太陽光の発電パネル設置を義務化する方針が出されました。
昨年12月、小池都知事が、新築住宅を対象にして、住宅メーカーに太陽光パネル設置を義務化する方針を打ち出しました。
その半年後、5月に開催された都の有識者検討会(東京都環境審議会)の答申案(※)にも、その内容が盛り込まれました。
ただ、この政策は、まだ、国レベルでは実施されていません。
昨年の6月、政府が公共建築物を新築する場合、原則として太陽光発電設備を設置する方針を決めましたが、負担の重さなどを理由に、新築住宅への設置義務化は見送られたのです。
しかし、この政策が、今後、国や他の自治体に取り入れられる可能性があるので、注意する必要があります。
(※本稿で参照する「答申案」の出典は「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について~カーボンハーフの実現に向けた実効性ある制度のあり方について~(中間のまとめ)」)
◆「太陽光発電パネル設置の義務化」の不条理(1) パネルを付けた後にビルが建ったらどうする?
新築住宅への太陽光の発電パネル設置の義務化といっても、一応、答申案では「隣接建物による日陰等」と例をあげ、「設置に不向きな場合を考慮する」としています。
(※日当たりが悪い地域では、代替案として他の再生可能エネルギーの設置や再エネ電力購入などを講じる方針)
そのうえで、答申案は、85%の住宅がパネル設置に「適」しているとしています。
しかし、そこには、「条件付き」の「適」が含まれています。
(※これは「東京ソーラー屋根台帳」という小平市の「環境部 環境政策課」が作成したWEBマップの数字)
統計や地図上では可能に見えても、現地の「条件」を見たら無理だった、ということがありえるわけです。
太陽光パネルの設置前には、高層ビルの有無や、土地の高低差、近隣の建物の並び方、日射取得率などから発電のシミュレーションを行います。
また、日影規制や斜線制限(建築基準法)、高度地区の高さ制限(都市計画法)といった規制に合わせなければいけません。
一つ一つの案件を見ていかなければならないので、太陽光パネルの設置は、一律の「義務化」にそぐわないところがあります。
さらに言えば、家を建てた時は太陽光発電ができても、その後、近隣にビルが建てば、十分な発電量が確保できなくなります。
住宅が太陽光パネル設置に適していると判定されても、その状態が続くかどうかは限らないわけです。
◆「太陽光発電パネル設置の義務化」の不条理(2) メーカーの負担増 住宅販売減
もう一つの問題は、太陽光パネルの費用(100万円程度)が住宅価格に上乗せされるということです。
木材などの資材の価格が上がる中で、さらに値上がりするのです。
また、半導体不足で太陽光パネルの供給が遅れているという問題もあります。
その中でパネル設置を義務化すれば、住宅の完成も遅れます。
住宅をつくる際にも、売る際にも、マイナスの影響が出ます。
「太陽光パネル設置の初期費用は、パネルの余剰電力売却金で回収できる」という意見もありますが、家の値段は高いので、消費者の中には「パネル代まで払えない」という人が出てきます。
また、「初期費用を住宅メーカーが負担し、後で、それをパネルの余剰電力売却金から回収する」という方法も考えられています。
しかし、この場合でも、回収が終わるまでの負担がメーカーにのしかかります。
政府が企業や消費者を補助金で支援したとしても、結局、そのお金の出どころは税金か国債です。
やはり、この政策が国民の負担増につながることは否定できません。
◆「太陽光発電パネル設置の義務化」の不条理(3) 義務目標が未達の場合、事業者名を公表
答申案の内容から「義務化」の対象になるのは、大手住宅メーカー50社程度とみられています。
(「環境審議会がまとめた案では、一戸建てなど中小規模の建物では、建築主ではなく、中小規模の建物の供給量が都内で年間2万平方メートル以上の住宅メーカーに義務が課される。都内で年間に販売される新築住宅の5割強が対象になる見通しだ」東京新聞WEB版 2022年5月27日)
都は住宅メーカーなどに、環境対策についての報告を求め、基準未達成の場合は「都による指導、助言、指示、勧告、氏名公表などを通して、適正履行を促していくべきである」と書かれています。
従わなければ業者名を公表し、国民の前でさらし者にするという、恐怖政治的な手法が取り入れられているのです。
◆「太陽光発電パネル設置の義務化」の不条理(4) ウィグル自治区でつくられた太陽光パネルでもおとがめなし?
この政策は事業者にとっては負担増になるため、コストを切り詰めなければいけなくなります。
この政策が実施されれば、多くの企業が、中国製の安い太陽光パネルを使うことになりそうです。
しかし、キャノングローバル戦略研究所の杉山大志氏によれば、最も安い結晶シリコン方式の中国製パネルのうち、半分近くが新疆ウイグル自治区で生産されているそうです。
「いま最も安価で大量に普及しているのは結晶シリコン方式であり、世界における太陽光発電用結晶シリコンの80%は中国製である。そして、うち半分以上が新疆ウイグル自治区における生産であり、世界に占める新疆ウイグル自治区の生産量のシェアは実に45%に達する。」
(杉山大志「新築住宅への太陽光義務化 見送りは妥当か否か」(2021.8.2) キャノングローバル戦略研究所HP)
しかし、都の有識者会議の答申書では、なぜか、この問題は取り上げられていませんでした。
(後編につづく)