マスコミが報じない「電力需給危機」のなぜ【後編】
幸福実現党党首 釈量子
◆「電力自由化」の誤り
エネルギー政策、第三の誤りは、「電力自由化」です。特に2016年からの小売全面自由化と、2020年からの発送電分離という制度があるからです。
当初、「電力自由化」というと、「電気料金が下がる」ともてはやされました。ところが、日本より前に電力自由化を行ったヨーロッパの国では、電気料金は上昇していました。
そして、日本でもやっぱり電気料金は上がっています。
前述の通り、太陽光発電のような再エネの不安定さをバックアップするために火力発電が必要です。
しかし、「電力自由化・発送電分離」で、発電する会社と送電する会社を分けています。
送電は、旧大手の電力の仕組みのままなので、発電する会社は、稼働率の低い火力などを、いざというときのために残しておくと経営悪化につながるため、切り捨てていきました。
「電力自由化・発送電分離」の前には、電力会社は供給義務を負っていました。
停電を極力させないように十分な設備を維持する一方、そのコストを長期的に回収できるよう、電気料金を国が規制する「総括原価方式」が取られてきました。
これは優れた考えで、「電力の安定供給」と「安い電気料金」の落としどころを探る制度であり、「電力の鬼」と言われた松永安左エ門氏の智慧ともいうべきものです。
ところが、電力自由化・発送電分離によって、発電会社は自由にフリーダムとなり、送電網だけを持つ会社が、供給義務を負うという図式になってしまったのです。
◆エネルギー政策の見直しを
さらに、「脱炭素」の大号令のもとで、太陽光発電などの再生可能エネルギーが急増し、これらを火力発電よりも優先して供給する措置が取られています。
政府が主導して進めた電力自由化・発送電分離で、電力の安定供給に誰も責任を負わなくなってしまったという、究極の「無責任体制」と言っても過言ではありません。
さらに、固定価格買取制度(FIT)で実質的な補助金をばらまき、「すねかじり」のような発電業者をたくさんつくってしまいました。
結局、現在の電力の安定供給を軽視している現状を改めない限り、同じような電力のひっ迫は繰り返し起こり、本当に大規模停電の事態が引き起こされてしまうと思います。
現在、世界は戦争状態であり、エネルギー価格も高止まりしていて、まさに緊急時の状況が続く見通しです。
現在の電力自由化・発送電分離を白紙に戻し、電力体制を見直していかなくてはなりません。
FITなどの実質的な補助金による再エネ優遇を見直し、安定供給を行うため、石炭火力の投資を進め、そして原子力発電を再稼働させるべきです。
◆ロシアとの関係も重要
また、今回の停電危機とは直接的な関係はありませんが、危機に強い電力体制をつくるという意味では、ロシアとの関係も重要です。
台湾有事などで南シナ海のシーレーンが麻痺すれば、中東などからの石油や天然ガスは入ってこなくなってしまっています。
一方、ロシアのサハリンからの輸入であれば、そうした有事の際も、供給を続けることができます。価格面でもロシアからの撤退は大きな影響が出るようです。
長期契約しているサハリン2から撤退すれば、短期の購入契約しか方法はなくなり、世界のLNG争奪戦に巻き込まれて高いLNGしか買うことはできなくなります。
日経新聞の試算になりますが、サハリン2の撤退によって、21年のLNG輸入額は約4.3兆円が、約5.8兆円となり、35%増えると見積もられています。
日本エネルギー経済研究所の2017年の試算によれば、LNGの価格が10%上昇すると、電気代が2.2%上昇します。
35%であれば、電気代が7.7%上昇することになり、家計のダメージは大きなものとなります。
また安定した供給が止まってしまえば、国家存亡の危機です。政府には、今回の停電危機を単なる一時的な問題で終わらせることなく、抜本的な解決を求めます。