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邦人の救出を常時可能にする体制の整備を

https://info.hr-party.jp/2021/11970/

幸福実現党政務調査会

No.24(2021.9.9)

日本政府がアフガニスタンにいる現地邦人などを退避させるため、同国に自衛隊機を派遣したものの、実際に退避させることができたのは計15人に留まり、当初想定していた500人にはるかに及ばない形となりました。

自衛隊の行動などを定める「自衛隊法」。今回の事例を受け、自民党総裁選に立候補を表明している岸田文雄氏は、自衛隊法改正に前向きな姿勢を示しており、同法改正が自民党総裁選の争点になる可能性も指摘されています。

今回は同法について改正すべきポイントに迫ります。

◆対応が後手に回った日本政府

8月15日にタリバンが首都を制圧したことを受け、米国をはじめとする諸外国が大使館員の退避を決定。米国は16日、その他の国もその翌日頃には軍用機や民間機を派遣して救出作戦を敢行します。

一方、日本がNSC(国家安全保障会議)で自衛隊輸送機の派遣を決定したのは23日と、他国に対して大幅に遅れを取ることになりました。

外務省は6月25日の時点で既に、アフガニスタン全土に退避勧告を発令しており、邦人に対して積極的な注意喚起を行ってきました。日本はこの時点で、邦人救出についての具体策を打つべきではなかったでしょうか。

日本政府の判断が遅れた背景の一つには、自衛隊を派遣するにあたって、今回のケースが自衛隊法に定めた在外邦人の保護や輸送についての規定に抵触しないかどうかなどについての検討に時間がかかったとみられます(※1)。

自衛隊の派遣が遅れたため、日本の大使館員12人は、英軍機の助けを借りることによってUAEのドバイに退避することができましたが、もし、その輸送機に日本人を乗せるだけの余裕がなければ、このような手段をとることができなかっただろうと考えられます。

こうして考えても、日本は今回の事態を重く受け止めるべきでしょう。

◆対応が遅れる大きな要因となった、自衛隊法の「不備」

今回の自衛隊の任務は、自衛隊法第84条の4(在外邦人等の輸送)を根拠に行われましたが、それには、「輸送を安全に実施できる」との要件が課せられています(※2)。

今回のケースで言えば、米軍が警備し、基本的に安全が保障されると思われるカブール国際空港での任務は可能と考えられますが、米軍が警備していない場所への自衛隊の派遣は、困難が予想されました。

実際のところ、8月26日に日本政府がアフガン人をバスで空港に輸送しようとしたところ、空港周辺で自爆テロが起こったため、その任務は断念されることになりました。

自衛隊法第84条の3(在外邦人等の保護措置)を根拠とする枠組みを用いれば、任務遂行のために武器を使用することも可能となり、空港外のような、より危険度が高い地域にも自衛隊を派遣できるとの見方もありました(※3)。

しかし、同条を根拠にする場合には、現地政府に同意を取り付けなければならないといった要件が厳格に定められています(※4)。

アフガニスタンを実効支配するタリバンは、「治安に責任を持てる状態」ではなく、「同意」を取り付けられる主体たりえないとして、同項を適用した活動は、選択肢から排除される形となりました(※5)。

◆自国民の救出を行える体制整備を

しかし、生命の危機にさらされる環境下において、自国民等を救出できないということには大きな問題があります。危険な場所であるからこそ、自衛隊を派遣することに意味が見出せるのではないでしょうか。

状況が目まぐるしく変わる中で、自衛隊の行動が規定に抵触しないかどうかを、ケースバイケースで検討することを強いられる自衛隊法の規定はナンセンスであり、憲法13条の「幸福追求権」に抵触すると言えます。

自国民を救出することは、国家の大切な責務であることにほかなりません。米国などは、独立国家であれば当然有する権利である「自衛権」などを根拠に、「在外自国民保護活動(NEO)」として、自国民の安全確保に向けた活動を展開しています(※6)。

日本についても本来は、「戦闘地域」であるか否かにかかわらず、「自衛権行使」を根拠とした邦人救出のための措置を講じるべきです。

日本政府は現行憲法の下、「国家」に対して武力攻撃が発生した場合については、自衛権を行使することは認められていると解釈しています。

しかし、現状では、「在外自国民」の保護、救出に対して自衛権を行使することは、困難だと考えられます。

日本政府は、「国民を守る」という国家としての使命を果たすために、滞在場所を問わず、「国民」が生命の危機に直面した場合などに、自衛権の行使が認められているとの解釈を明確に行うべきです。

その上で、自衛隊法第84条の3について、「戦闘行為がないこと」との記述を削除し、また、「当該国の同意」を緊急時には必要としないとの文言を追加するとした法改正を行うべきと考えます。

しかし、自衛権の行使できる範囲について、憲法9条の解釈を変更するだけであれば、議論の余地を残すことになりかねません。

本来は、国民の生命・安全を護れるよう体制整備を進めていく上で、憲法9条の第2項「戦力の不保持」「交戦権の否認」を削除するなど、全面改正する必要があると考えます。

(※1)日本には、国家として適切な判断を行うにあたってのインテリジェンス機能が脆弱であるという指摘もある。今回のようなケースにおいて、迅速な対応を行うためには、国家としてのインテリジェンス機関の設立も検討すべきと考えられる。

(※2)自衛隊法が1994年に改正され、「在外邦人等の輸送」が可能となったが、法改正された当時、連立政権の一角を占めていた社会党が「自衛隊の海外派兵に道を開く」として、同改正に反対する姿勢を取り、「安全が確保されない場合には邦人輸送を行わない」との条件が課せられることになったとの背景がある(織田邦男『アフガン脱出に速やかな自衛隊派遣を、問題点と解決策』(2021年8月23日, JBpress))。

(※3)自衛隊法84条の4(在外邦人等の輸送)でも、武器の使用が認められているのは「自分自身や自己の管理下に入った人の生命を守るため」に限られるが、84条の3(在外邦人等の保護措置)では、これに加えて「任務遂行」のための武器の使用も認められている(同法94条の5, 94条の6)。

(※4)自衛隊法84条の3では、外国で起きた緊急事態によって生命や身体に危険が及ぶ日本人を守る目的で自衛隊を派遣する場合、①相手国において戦闘状態とならないこと、②日本人保護を行うために自衛隊を派遣することについて相手国が認めていること、③安全に保護活動ができるよう相手国との連携や協力が見込まれること、という3つの要件を満たす必要がある。

(※5)産経新聞(2021年9月1日付)「自衛隊 邦人退避に憲法の壁」より

(※6)政務調査会ニューズレターNo.22「万一の場合には、自衛権を根拠に邦人救出を」参照

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執筆者:webstaff

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