【連載第3回】「温室効果ガス46%削減」 政府の「中国化」政策をストップせよ
http://hrp-newsfile.jp/2021/4103/
幸福実現党 政務調査会エネルギー部会
◆「46%削減」なら、再エネで嘘をつくしかない政府
現在、経済産業省が「46%削減」に合わせて新しいエネルギー政策を策定中です。一部の報道によれば、7月21日に素案が審議会に提示され、8月に政府原案を決定。9月中旬にパブリックコメントを開始し、10月までの閣議決定を目指すとされています(※1)。
第2回で述べたように、報道等で示された電源構成(火力比率40%)をもとにこれを推定すると、仮に政府が2030年度の発電量を現行の長期エネルギー需給見通しの発電量(10,650億kWh)よりも1割抑制すると考えれば、火力による発電量は約3,800億kWh、2割抑制する場合には約3,400億kWhと推定されます。
この場合の「電力由来CO2排出量」は、計算上それぞれ2.3億トン、2億トンまで減ることになります。
しかし、発電量のうち残りの60%を原発と再生可能エネルギー等のゼロエミッション電源で発電することには、非常に大きな困難を伴います。
まず、自公連立政権は幸福実現党と違って「原発推進・新増設」を言えません。
このため、検討中のエネルギー基本計画の骨子案では、「原発は必要規模を持続的に」という非常にあいまいな表現にとどまり、新増設や建て替え(リプレース)の記載は見送っています(※2)。その結果、原発比率は現行見通しの水準(20~22%)を維持することになっています。
もっとも、日本では原発の廃炉が世界最速で進み、再稼働が遅々として進まない状況です。2030年まで9年もない現時点においては、仮に新増設を計画に盛り込んだところでほとんど違いはなく、2割程度の原発比率を維持することさえ非常に厳しいといえます。
このような理由により、「46%削減」と辻褄を合わせてエネルギー政策を策定するには、わずか9年で太陽光発電を中心とする再エネが「爆増」するという、荒唐無稽な計画を立てるしかないのです。
◆日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされる
政府は「46%削減」に合わせて2030年度にゼロエミッション電源比率を60%とし、再エネ比率を30%台後半まで高めることを検討しています(※3)。
しかし、再エネといっても、僅か9年で水力や地熱を大量に開発することはほぼ不可能であるため、信じられないほど非現実的な量の太陽光発電を導入することによって、再エネを大量導入する絵姿を描くことになります。
小泉進次郎環境大臣は4月に、「住宅への太陽光パネル設置の義務化も視野に入れる」と発言し(※4)批判を受けましたが、住宅への義務化は見送られたものの、あらゆる公共建築物に原則として太陽光パネルを設置する方針となりました(※5)。
環境省は7月、2030年度の太陽光発電の導入目標を、現在の導入見通しの約88GW(8,800万kW)から20GW積み増すことを表明しました(※6)。
現行見通しにおける2030年度の太陽光発電の導入量は64GWですが、政府の強力な支援により太陽光発電は当初想定よりも急速に増加し、2030年には約88GWに達する見込みです(※7)。
環境省はさらに20GWを積み増し108GW程度とする方針で、2019年度末の導入実績(約56GW)から倍増することになります。
もしこれが実現すれば、日本中の屋根に中国製の太陽光パネルが設置され、斜面からは樹木が剥ぎ取られて中国製の太陽光パネルが敷き詰められるという、おぞましい光景が広がることになります。
保水機能(水を貯える力)を持つ森林がことごとく破壊され、土石流などの深刻な水害が全国で多発する可能性もあります。
一部の太陽光発電業者やその工事請負業者は儲かるかもしれませんが、大多数の国民はこんな未来を望んでいないはずです。
◆莫大な国富が中国に吸い取られるが、それでも「46%削減」は無理
これらの太陽光パネルが日本製品であれば、まだ一定の経済効果が期待できます。
しかし、太陽光パネルの約8割は中国製であり、現在のサプライチェーン(供給網)のままなら、これらの投資の大部分が中国に流れ、政府の言う「グリーン成長」どころか、莫大な国富の流出になり、日本のGDPの増加はほとんど期待できません。
また、仮に国民が莫大なコストを負担して108GWの太陽光発電を導入できたとしても、その発電量は1,200億kWh余り(※8)で、政府が30%台後半を再エネで賄うという2030年度の電源構成のうち僅か10~15%程度に過ぎません。
太陽光発電は昼間の明るい時間にしか発電できないため、現在の技術では設備利用率(稼働率)が13~15%程度にとどまることが理由です。
マスコミは上記の環境省による「太陽光発電20GW積み増し」を、「原発20基分相当」と報じましたが、これは誤りです。原発は設備利用率85~90%で安定運転が可能で、同じ出力の太陽光発電の7倍近い電気を発電することができます。
したがって、「46%削減」の辻褄を合わせるためには、並行して洋上風力発電の大量導入なども検討されているものの、適地が限られていることから、さらに太陽光発電を100GW規模で積み増すくらいしか方法がありません。
政府内でも「46%削減」の目途は全く立っておらず、「各省とも、もん絶しながら施策を出している」との報道もあります(※9)。
官邸や小泉進次郎環境大臣は、直ちに「46%削減」の誤りを認め、各省に荒唐無稽な辻褄合わせをやめさせるべきです。
◆屋根を見上げれば「ジェノサイド」
太陽光発電は、日本がその開発で先頭を走っていた頃から、「クリーン」で「グリーン」なイメージがつくられてきました。しかし、中国製品が大部分となった今、その化けの皮は剥がれつつあります。
太陽光発電にはさまざまな方式がありますが、現在最も安価で大量に普及しているのは「多結晶シリコン方式」です。太陽光パネルの心臓部である「多結晶シリコン」の約8割は中国製で、その半分以上は新疆ウイグル自治区で生産されているため、世界に占める新疆ウイグル自治区のシェアは45%に達すると推計されています(※10)。
今年の初めに米コンサルタント会社のホライズン・アドバイサリーが、中国における太陽光パネルの生産に新彊ウイグル自治区の強制労働が関わっている可能性を指摘しました(※11)。
この問題は英語圏のメディアがすぐに報道し、米国太陽光発電協会は2月に、太陽光パネルのサプライチェーンで強制労働を排除することを表明しました(※12)。
日本の有識者ではキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が、いち早くこの問題の重大さを訴えました(※13)。しかし、ザ・リバティを除く日本のメディアはなかなか報道せず、4月頃にようやく産経新聞が採り上げました。
そして6月23日には、米国の商務省が、新疆ウイグル自治区にある太陽光パネル関係企業5社を、「ウイグル族らへの強制労働や恣意的拘束などの人権侵害に関与した」として、輸出禁止措置の対象に指定しました(※14)。
この一連の強制労働を排除する動きの結果、太陽光パネルの主原料である多結晶シリコンの価格は、5倍に高騰しています(※15)。太陽光発電は本当に安かったわけではなく、「強制労働だから安かった」ともいえます。
中国共産党による新疆ウイグル自治区における人権弾圧は、強制労働、強制収容所への拘束、移植用の臓器の強制摘出、組織的なレイプ、強制不妊手術など広範囲に及ぶことが指摘されており、米国はトランプ政権もバイデン政権も、これらを「ジェノサイド(集団殺戮)」と認定しています。
日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされ、国民が知らずしらずに新疆ウイグル自治区での強制労働に加担しているとしたら、どうでしょうか。この事実を知っても、見て見ぬ振りをできるでしょうか。
屋根を見上げれば、「ジェノサイド」の悲痛な叫びが思い起こされる――そんな日本にしてはいけません。
◆温暖化よりも「中国化」を恐れよ
これまでに述べてきたように、政府が進めている「46%削減」のための新しいエネルギー政策が決まってしまえば、日本の経済・安全保障は壊滅し、日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされ、政府の「グリーン成長戦略」という名の莫大な国民負担をしても、そのお金は中国に吸い取られてしまいます。「グリーン成長戦略」の本質は、日本の「中国化」政策にほかなりません。
しかし、幸いにも、まだエネルギー政策の決定までに時間があります。
6月にスイスでは、CO2削減に向けた方策が盛り込まれた法律が国民投票で否決されました(※16)。わずかなCO2削減のために莫大なコストをかけ、炭素税や航空券への課税強化を行うことに過半数の国民が反対しましたが、これによって、スイスのパリ協定での削減目標は達成が困難になるとみられています。これでよいのです。我が国も見習うべきです。
国民の皆さんは党派を超えて、幸福実現党とともに、この「百害あって一利なし」の政府の無謀なエネルギー政策に、反対の声を上げていただきたいと思います。
私たちも頑張ります。
まずは、「46%削減」に合わせたエネルギー政策の検討をストップし、莫大なコスト負担や「中国化」の問題について、ありのままの事実を国民に説明することを求めます。
参考
※1 「原発『必要規模を持続的に』 エネ基骨子案判明」 2021年7月6日 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/
※2 「原発政策あいまい エネ計画骨子案 脱炭素へ活用不可欠」 2021年7月6日 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20210706-X5SE5IQ42BLV5PG5XHFBQX5JKI/
※3 「電源構成とは」 2021年5月25日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2459Z0U1A520C2000000/
※4 「住宅の太陽光義務化『視野』 温暖化ガス目標強化に意欲―小泉環境相」 2021年4月17日 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041601209&g=soc
※5 「太陽光パネル、公共建築物は原則設置 住宅は義務化せず 政府が脱炭素に向け素案」 2021年6月3日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA022QH0S1A600C2000000/
※6 「太陽光発電の目標上積み、原発20基分相当…環境省」 2021年7月6日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210706-OYT1T50052/
※7 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第40回会合)資料2 「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」 2021年4月13日 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/040/040_005.pdf
※8 設備利用率を13%とすると、108GW×8,760時間×13% = 1,230億kWh
※9 「46%削減へ再エネ上積み、難行苦行/各省『追加策、これ以上ない…』」 2021年7月9日 電気新聞
https://www.denkishimbun.com/archives/133815
※10 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1
※11 「太陽光パネルもウイグルの強制労働によって作られていた!? 米コンサルタントが報告」 2021年2月12日 The Liberty Web
https://the-liberty.com/article/18073/
※12 Solar Companies Unite to Prevent Forced Labor in the Solar Supply Chain 2021年2月4日 Solar Energy Industries Association (SEIA)
https://www.seia.org/news/solar-companies-unite-prevent-forced-labor-solar-supply-chain
※13 「『太陽光発電』推進はウイグル人権侵害への加担か」 杉山大志 2021年2月22日 Daily WiLL Online
https://web-willmagazine.com/energy-environment/8Rhc7
※14 「米、ウイグル強制労働で中国の太陽光パネル企業に制裁」 2021年6月24日 サンケイビズ
https://www.sankeibiz.jp/business/news/210624/cpc2106241055003-n1.htm
※15 「ウイグル問題、太陽光発電に影 パネル主原料5倍に高騰」 2021年7月4日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21EG30R20C21A5000000/
※16 「スイス、CO2削減法を否決 パリ協定の目標達成困難に」 2021年6月14日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1333L0T10C21A6000000/
執筆者:webstaff