【トランプ訪朝】米国任せではノドンミサイルから日本を守れない
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HS政経塾スタッフ 遠藤明成
◆米大統領が初めて北朝鮮に足を踏み入れた
トランプ大統領は、6月30日に南北朝鮮の軍事境界線上にある非武装地域を訪問し、板門店で金正恩委員長と会談しました。
朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた板門店で握手し、共に北朝鮮側に入った後に韓国に戻る映像がニュースに流れ、トランプ大統領が金委員長をホワイトハウスに招待したことなどが報道されました。
物別れに終わった2月の会談後の関係修復がはかられたのですが、この時に、トランプ大統領が、日本にとって注目を要する発言をしています。
◆「我々は長距離弾道ミサイルについて議論をしている」
記者会見の終わり際に、最近、北朝鮮が行ったミサイル発射をついての見解を問われ、トランプ大統領は、(それは)「とても小さい。それらのミサイル実験はどの国もやっている」と答えていました。
「我々は、それらをミサイル実験とは見なしていない」
「我々は長距離弾道ミサイルについて議論をしている。彼らは今、それを発射していない」
「最も重要なのは、核実験が行われていないことだ」
そして、北朝鮮への「制裁を外せる日を楽しみにしている」とも述べていたのです。
◆米朝交渉の中心は「米国にとっての脅威の除去」とみられる
今回の訪朝で、トランプ氏は「長距離弾道ミサイル」と「核」に焦点を絞ってきています。
つまり、核開発を止めさせ、米国の脅威となる長距離弾道ミサイルを廃棄させることを優先しているのです。
韓国にとっては「短距離」のミサイルが大きな問題を占めるのですが、それは問題には挙げられませんでした。
日本の脅威となるのは、九州や中国地方に届くスカッドR(短距離弾道ミサイル)や全国に届くノドン(準中距離弾道ミサイル)ですが、これらの扱いも不明なままです。
◆日本を守るのは、やはり、日本自身の力
もし、北朝鮮の核兵器の全てが除去されるのなら、それをノドンやスカッドに積めなくなるので、日本の安全につながります。
しかし、北朝鮮の全域を捜索し、核兵器の全てを破棄させるのは、簡単なことではありません。
米国が1年交渉しても、いまだ核兵器を一つも廃棄できず、大統領が「核実験が止まった」ことを成果とせざるをえないのが現状です。
米朝交渉で、短距離や中距離のミサイルも廃棄対象になることを期待する方もいますが、今回、それは、主な議題ではないことが明らかになりました。
結局、日本は防衛力を強化し、「ミサイルを撃たせない体制」をつくらなければならないわけです。
◆「ミサイルを撃たせない」ための二つの道
日本には「ミサイル防衛システム」がありますが、北朝鮮は100発以上の弾道ミサイルで日本を狙えるため、これで落とせるのは一部に限られます。
北朝鮮のミサイルに対抗するには、核兵器を持った米軍の部隊を日本に展開させるか、攻撃を踏みとどまらせる「抑止力」を持つかしかありません
前者は、非核三原則の「持ち込ませず」をなくし、米軍の核部隊や核搭載の艦艇などが公然と日本に滞在できる体制をつくることです。
しかし、オスプレイだけで大騒ぎになる日本で、これを実現するのは、困難をきわめます。
また、もともと沖縄返還時に、そこにいた核部隊を引き揚げた米国に、いまさらこのプランを求めることにも、政策的な矛盾があります。
「『核抜き・本土並み』の返還を求めたのは、日本ではないか」と言われることは避けられないでしょう。
(冷戦期には核抑止力が必要だったが、非核三原則があるので、日本は、結局、ながらく核持ち込みを容認する「密約」を結んでいた)
◆ミサイルを撃たせないための「ミサイル導入」
こうした事情を踏まえ、日本でも実現可能な策として、米国からの「巡航ミサイル」の導入を提言する人もいます。
米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める北村淳氏は、約1000億円で自衛隊艦艇には800発程度のトマホークミサイルを搭載可能だとも指摘しています。
(今のミサイル防衛システムを拡大し、北朝鮮のミサイル群への迎撃体制を完備させる場合は、新装備も含めて約2兆円が必要になると試算。なお、トマホークは、トランプ大統領が習主席を初めて米国に招いた時に、シリアに撃って見せた巡航ミサイル)
安倍首相も、2018年にやっと北朝鮮が数百基のノドンミサイルを配備していることを公の場で語りましたが(18/2/14衆院予算委)、結局、これを「撃たせない」ためには、日本も反撃できる体制をつくり、攻撃を思いとどまらせるしかありません。
前防衛大臣の小野田氏はこの政策に前向きだったので、政府も「巡航ミサイル導入」の議論を進めようとしていました。
しかし、現在は、もはや忘れ去られています。
今のままでは、安倍首相の「脅威の認識」と日本に必要な抑止力のレベルがつりあわないのですが、自民党の議員は、その矛盾に口をつぐんでいるようです。
(※18年防衛白書も北朝鮮が「スカッド用のTEL(移動式発射台)を最大100両、ノドン用のTELを最大50両、IRBM(ムスダン)用のTELを最大50両」もっているとの米軍の分析を紹介しているが、その対策は不明)
◆日本を攻撃させないためにも「自衛隊の強化」が必要
生前、渡部昇一氏は、武の語源は、矛をもって矛を止めることだと言っていました。
つまり、ミサイルを持つことで、北朝鮮にミサイルを撃たせなくすることが大事です。
幸福実現党が、立党以来、北朝鮮への「抑止力」強化を訴えてきたのは、戦争がしたいからではなく、戦争が起きるのを防ぐためです。
巡航ミサイルの導入に関しては、自民党よりも前から必要だと主張しています。
(※「巡航ミサイルを備えた潜水艦隊を充実(2010主要政策)」「巡航ミサイルなどの敵基地攻撃能力を保有(2013主要政策)」など)
2017年に北朝鮮危機が本格化してから「巡航ミサイルの保有」を検討した国会議員は、18年に米朝交渉が始まったのをいいことに、全てを米国任せにし、この問題に口をつぐんでしまいました。
しかし、このたびのトランプ訪朝で、短距離・中距離弾道ミサイルに対しては、日本自らが「撃たせない」だけの抑止力を持つべきことがはっきりしたのです。
幸福実現党は、今後も、日本を攻撃させないためにも、平和を守る「抑止力」の必要性を、訴え続けてまいります。
【参照】
・ARIRANG NEWS(アリランテレビ):LIVE: [S.Korea-U.S. Summit] MOON, KIM, TRUMP HOLD HISTORIC THREE-WAY TALKS ON SOUTH KOREAN SOIL
本文に引用した発言は以下の通り。
“These are missiles that practically every country tests”
“We don’t consider that a missile test actually it wasn’t a test”
“But we’re talking about ballistic missiles, long-range ballistic missiles, and [North Korea] hasn’t even come close to testing”
“And most importantly, there were no nuclear tests”
“I’m looking forward to taking them off.”
・防衛白書(平成30年度)
・北村淳『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』 (講談社+α新書)
・日経電子版「日本射程ミサイル、数百基 首相が北朝鮮の脅威強調」(2018/2/14)