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老後「月5万赤字」の報告書撤回 年金の現実を直視すべき

http://hrp-newsfile.jp/2019/3596/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆「2000万円」報告書に揺れる安倍政権

「夫婦の老後資金に30年で2000万円が必要」と記した金融審議会の報告書をめぐって、安倍政権は紛糾しています。

政権の方針と違うという理由で麻生金融相が報告書の受取りを拒否し、与党幹部が審議会に抗議しました。

「話が独り歩きし、不安を招いている」(二階幹事長)

「極めてずさんな内容」(岸田政調会長)

「年金の不安をあおるような言動は罪深い」(公明党・山口代表)

その報告書では、無職の高齢夫婦の家計モデルで、支出よりも収入が5万円ほど少ないことや、年金減額の可能性が書かれていたので、「百年安心」をうたった与党の怒りを買ったわけです。

◆同じ内容が厚生労働省ではOK、金融庁ではNG

しかし、このモデルは、2ヶ月前に厚生労働省が出した資料の転載にすぎませんでした(「厚生労働省提出資料(2019/4/12)」

そのため、厚生労働省ではOKだったモデルが、金融庁では認められなかったことになります。

年金減額については、「中長期的に実質的な低下が見込まれている」(5/22時点)と書かれていた箇所が、6月3日に「今後調整されていくことが見込まれている」と修正されました。

ここも、実は、厚生労働省の資料に同じような記述があります。

「給付水準は今後、マクロ経済スライドによって調整されていくことが見込まれている」

結局、同じような論述に対して、安倍政権は「厚生労働省はOK」「財務省はNO」と判断したわけです。

◆「本当のこと」を書いただけなのに審議会を糾弾

しかし、減額についての記述は、間違っていません。

高齢者が増え、現役世代が減っているので、将来の年金減額は避けられないからです。

さらに、金融緩和で物価が上がれば、年金の給付額が同じでも実質的な価値が減っていきます。

ところが、政府は、選挙前にそれを正直に書いた審議会が許せませんでした。

「選挙に不利だから」というだけの理由で、客観的な分析が拒絶され、糾弾されたのです。

◆「月5万円不足」「30年で2000万円必要」の中身とは

今回、問題とされたのは、以下の記述です。

「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている」

「この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる」

この5万円は、年金ぐらしの夫婦の1カ月の収入から支出を引いた額です。

しかし、その支出には教育娯楽費などが含まれているので、この通りに赤字が出ても、生活難になるわけではありません。

26万4000円の支出のうち、教養娯楽費は25000円、その他支出が54000円とされ、かなり余裕のある生活が想定されているからです。

生きていくために必要な支出は18万5000円程度(「食料・住居・光熱・水道・交通・通信・衣料・家具・保険」+「税金」)。

年金などの給付金は19万2000円、その他収入が1万7000円とされているので、審議会は、もともと「年金で生きていけない」という事態を想定していませんでした。

報告書は、余裕のある老後を夫婦で過ごすには30年で2000万円ほど必要だと言って資産運用を薦めただけなので、審議会は、まさか、この記述が世を騒がすとは思わなかったことでしょう。

◆国民に根強い「年金への不安」

この報告書をめぐって大騒ぎが起きたのは、公的年金さえあれば老後は安泰だとする自公政権の方針とは違う記述が含まれていたからです。

政府の審議会が、公的年金だけでは収入が足りないと言って、民間の年金や株式、債権などでの資産運用を薦めれば、「公的年金は頼りにならないのか?」という疑問を抱く人が出てきます。

そのため、自公政権の幹部は「年金の不安を煽っている」と批判しました。

国民にも、少子高齢化のなかで年金への不安が根強くあるので、今回の報告書は、マスコミにとっても格好の「ネタ」になったのです。

◆年金をめぐる「正直な議論」を封殺する安倍政権

このやりとりで、政権に都合の悪い言論が封殺される過程が国民の前に明らかになりました。

しかし、大盤振る舞いが続く年金も、今後は、少子高齢化によって減額をよぎなくされます。

現役世代の負担はどんどん増えているからです。

国民年金ができた頃には、1人の高齢者を11人の現役世代で支えていましたが(※1960年。国民年金法は61年施行)、2020年には、1人の高齢者を2人の現役世代で支える事態がやってきます。

また、1960年の日本の平均寿命は、男性が65歳、女性が70歳でしたが、2016年の平均寿命は16歳以上も伸びています(男性81歳、女性87歳)。

報告書に書かれた通り、年金の給付金は「中長期的に実質的な低下が見込まれている」のです。

自公政権は、この問題を正直に認めることを拒み、野党は、それを政争のネタにしようと画策しています。

これでは、国会で、年金をめぐる建設的な議論が行われることは、まったく期待できません。

こうした現状を打破するためにも、国会に新しい勢力が台頭することが必要になっています。

幸福実現党は、社会保障においても真正面から正論を訴え、歳出の適正化や民間の役割拡大などを訴えてまいります。

【参照】

・毎日新聞「前代未聞の不受理劇 『老後2000万円』 選挙の影」(2019年6月12日 東京朝刊) 

・東京新聞「批判噴出で年金表現修正『老後2千万円』報告書」(2019年6月12日)

・金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)

・厚生労働省年金局 企業年金・個人年金課「厚生労働省提出資料 iDeCoを始めとした私的年金の現状と課題」(2019年4月12日)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

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