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環境省「火力発電の新増設停止」の不条理

http://hrp-newsfile.jp/2019/3500/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆原発再稼働が進まないのに、火力発電の「新増設を停止」?

3月28日、原田環境相は、大型火力発電の新設や増設を認めない方針を出しました。

これはパリ協定に基づく二酸化炭素(CO2)の排出削減目標を達成するための措置です。

環境省は、「経済的観点からの必要性しか明らかにされない」場合や、CO2削減の「目標達成の道筋」がはっきりしない場合には、新設や増設の計画を認めないことを決めたのです(「電力分野の低炭素化に向けて」)。

石炭火力は、最新鋭の設備でも、LNG火力の約2倍のCO2を出すので、特に、後者の条件を満たすのは困難です。

つまり、この方針が実施されれば、事実上、石炭火力は増やせなくなるのです。

◆朝日新聞は、日本は「脱石炭」に後ろ向きだと批判するが・・・

このニュースを夕刊一面で報じた朝日新聞(3/28)は「温暖化に歯止めがかからないなか、世界的に『脱石炭』の動きが広がっており、後ろ向きな日本は批判を浴びている」と書き立てていました。

現在、約30の火力発電所を新増設する計画があることを指摘し、「世界が脱石炭にシフトするなか、日本の動きは国際的なトレンドに逆行している」と述べているのです。

まるで日本が悪いことをしたかのような書きぶりですが、それは本当に正しいのでしょうか。

◆世界の石炭消費量は「大幅に増えた」あとに「減った」

まず、「脱石炭」についてですが、アジアやアフリカ、南米などでは石炭消費量が増えています。

世界のすべての国がヨーロッパのような「脱石炭」に賛成しているわけではありません。

なかでも、最大の消費量を抱える中国、経済が伸び盛りのインド、資源輸出国のオーストラリアやロシア、インドネシアなどは、石炭火力を放棄できません。

朝日新聞は「脱石炭」を「国際的なトレンド」と見ていますが、世界の石炭消費量は、2006年から16年までの間に2割増しになりました。

政府系団体の調査によれば、2006年の消費量は61億トン。16年の消費量は75億トンでした

(※以下、石炭消費量の数値はJOGMEC〔石油天然ガス・金属鉱物資源機構〕の調査による。数値は四捨五入)

2013年の80億トンがピークで、16年までに5億トン減ったものの、10年単位で見ると増えた額のほうが大きいのです。

近年、減っていても、それ以前にもっと大きく増えていたわけです。

◆石炭を最も消費しているのは中国 その次がインド

2016年の世界の石炭消費量のなかで、トップ3を占めるのは、中国(48%)、インド(12%)、米国(9%)です。

中国の消費量は36億トンです。10年で1.5倍に増えました(2006年:23億トン)

インドは9億トン。こちらは10年で約2倍になっています(2006年:5億トン)

この2国が、なんと世界の石炭消費の6割を占めています。

アメリカはオバマ政権の頃に石炭消費を減らしましたが、トランプ政権は、環境規制を緩和して石炭や石油産業のテコ入れを図っています。

資源国のオーストラリアやロシアも石炭消費を増やしています。

こうした国々は、「脱石炭」に熱心ではありません。

日本の石炭消費量は2016年で約2億トンです。

世界の2.5%の規模であり、10年前と比べても5%程度しか増えていません。

数字の規模で比べると、中国やインドのほうが、「脱石炭」に後ろ向きであることは明らかでしょう。

◆CO2削減のために火力発電の進化を犠牲にするのか

2016年に日本が排出した二酸化炭素(CO2)は1年で11億トンです。

日本のCO2排出は4年連続で減っており、昨年11月には、国連環境計画(UNEP)の報告書でも、CO2削減が進んでいる国の一つに名をつらねていました。

CO2削減が進んでいる要因には、原発が再稼働して火力発電の割合が下がったことや再生可能エネルギーの活用などが挙げられています。

これは日本の火力発電の効率がよいことに助けられた数字だとも言えます。

しかし、それでもパリ協定の目標には届かないので、環境省は、火力発電所の新増設を抑える方針を出しました。

この方針には大きな問題があります。

それが実現すれば、「CO2排出の多い中国やインド、米国などは火力発電を強化できるのに、CO2を減らした日本はできない」というおかしな事態になるからです。

2016年のCO2排出量は、中国が91億トン、米国が48億トン、インドが21億トン、ロシアが14億トンでした。

中国やインドはGDP比のCO2削減目標ですから、GDPが伸びれば排出可能なCO2も増え、たいした削減をしなくても済んでいます。

それなのに、パリ条約を厳格に守った日本のほうが火力発電の自粛を強いられるわけです。

◆日本の火力発電を友好国に国際展開すべき

ここで考えるべきことは、パリ条約を「バカ正直」に守ることではありません。

日本の火力発電は、世界最高の熱効率を持ち、環境対応能力の高さで知られているわけですから、これをインドや米国、インドネシアなどの友好国に広め、国内企業を苦しめずに「世界のCO2を削減する」べきです。

経産省の審議会では「石炭火力の需要が増大するアジア諸国」などに「次世代技術」を広めれば、最大で「15億トン」のCO2削減効果が期待できるとの試算も出されています(「次世代火力発電に係る技術ロードマップ 中間とりまとめ(案)」2015年7月)

(※資源エネルギー庁には「12億トン」との記述もあり)

この方式であれば、日本の火力発電の国際展開に関して、他国に何ら非難される筋合いはありません。

CO2削減のために日本の火力発電の新設・増設を封印するのは愚の骨頂です。

また、原発を再稼働することで、火力発電への依存率を下げることも可能です。

後ろ向きな政策で、世界最高水準の火力発電の進化を止めるべきではありません。

世界の火力発電市場は「2040年にかけて石炭火力では約520兆円、LNG火力では約560兆円」の規模が見込まれています(「次世代火力発電に係る技術ロードマップ)。

この市場で日本のシェアを高め、火力発電の先進化によって、実益と国際貢献を両立させるべきなのです。

参考

・環境省HP「電力分野の低炭素化に向けて ~新たな3つのアクション~」
・朝日新聞夕刊(2019年3月28日付)
・新エネルギー・産業技術総合開発機構「平成21年度 海外炭開発高度化等調査『世界の石炭事情調査 -2009年度-』」
・同上「「平成29年度 海外炭開発高度化等調査『世界の石炭事情調査 -2017年度-』」
・マット・マクグラス(BBC環境担当編集委員)「世界のCO2総排出量、4年ぶりに増加=国連」(2018/11/28)
・共同通信「温室ガス排出量、4年連続減少 17年度、再生エネ導入と原発で」(2018/11/30)
・環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2016年)」
・次世代火力発電の早期実現に向けた協議会「次世代火力発電に係る技術ロードマップ 中間とりまとめ(案)」(2015年7月)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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