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「医療費40兆円」時代の制度改革 所得に応じた窓口負担へ

http://hrp-newsfile.jp/2019/3487/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆経済成長率 VS 医療費の伸び率

2001年に31兆円だった日本の医療費は、2017年に42兆円に増えました。

16年で1.35倍なので、医療費の伸び率は1年あたり1.9%。

この勢いは、日本の実質GDPの伸び率の二倍以上なので、今の日本では「医療費を誰が負担するか」が、大きな問題になっています。

経済のパイはたいして大きくならないのに、医療費にさかれる割合が上がり、現役世帯の国民健康保険料が上がり続けているからです。

(※01年~17年の実質GDPの平均伸び率は0.8%)

◆病院に行くのは虫歯と風邪ぐらいなのに・・・

2017年の医療費を人口で割ると、一人あたり33万3千円。

12ヶ月で割ると、1ヶ月あたり27750円。

ただ、これは人口割なので、現役世代は、もっと多くのお金を支払っています。

例えば、東京の文京区で年収が432万円の方には、年間で50万円ぐらいの国民健康保険料がかかります。

(※これは文京区HPの簡易計算ページで算定。432万円は2017年の平均年収)

年収の1割以上の保険料なので、虫歯の治療と風邪の検診ぐらいしか病院に行かない人には、高すぎる数字です。

◆後期高齢者医療の費用は現役世代の4倍以上

朝日デジタル(2018/9/21)は、医療費増の要因として「75歳以上の後期高齢者の医療費が伸びたこと」をあげ、その費用は「全体の増加分の7割超を占めた」と報じています。

国民一人あたりの医療費を見ると、75歳以上の医療費は94.2万円。

75歳未満は22.1万円なので、高齢者医療には、現役世代の4倍以上のお金がかかっています。

◆高齢者の医療費が「1割」で済む背景

しかし、多くの後期高齢者が支払う医療費は「1割」で済んでいます。

「現役世代並み」の収入があれば高齢者も3割負担になるように改革されましたが、その認定基準が緩いからです。

―――
〇75歳以上の高齢者が世帯に1人。収入額が383万円未満 ⇒医療費は1割

〇75歳以上の高齢者が世帯に2人。収入額合計が520万円未満 ⇒医療費は1割
―――

そのため、たいていは1割負担となり、足りない分の医療費は現役世代の保険料と公費でまかなわれています。

◆今の日本では、貧しい若者が豊かな高齢者の医療費を負担? 

むろん、生活に困った高齢者に対しては、セーフティネットとしての医療が必要なので、「1割」という負担額がちょうどよい方もいます。

しかし、この制度には「貧しい若者が豊かな高齢者の医療費を負担する」事態が生じかねない、という問題があります。

そのため、総務省の「家計調査報告」から、世代別にみた資産の平均値を見てみましょう。

〔以下、年代:純資産(貯蓄-負債)で表記。単位は万円〕

―――
〇 40歳未満:-521万(602万-1123万)
〇 40~49歳:19万(1074万-1055万)
〇 50~59歳:1082万(1699万-617万)
〇 60~69歳:2177万(2382万-205万)
〇 70歳以上:2264万(2385万-121万)
―――

あくまでも平均値なので、個々の世帯はいろいろですが、このデータからは、お金に困っていない高齢者もかなりいることが推測できます。

◆後期高齢者の医療負担は「年齢」ではなく「所得」で決めよう

平成29年度の医療費を見ると、総額42.2兆円のうち、75歳以上の医療費は16兆円なので、総額の4割(38%)を占めています。

そして、後期高齢者医療は「公費が5割、現役世代の保険料が4割、自己負担が1割」なので、16兆円のうち約1.6兆円が自己負担分とみられます。

残りの14.4兆円は74歳以下の保険料や公費でまかなわれているのです。

これを所得に応じて医療費を負担する仕組みに変え、後期高齢者が平均で2割を負担すれば1.6兆円の医療費が軽減されます。

これから75歳以上の方が増えていきますが、「団塊世代の中には、受け取る年金だけでも、夫婦で400万円を超える世帯も珍しくない」(土居丈朗氏・慶大経済学部教授)ので、かなりの世帯は負担増に堪えられるはずです。

低所得者もいるので、みなで3割負担は難しくとも、「2割以上の負担」が実現すれば、公費と現役世代を足した負担分を2兆円近く減らせる可能性があるのです。

◆少子高齢化の進展により、「1割負担」の改革は不可避

少子高齢化が進み、現役世代が支える高齢者の数は増え続けているので、「1割負担」をいつまでも続けられるとは思えません。

『高齢社会白書(平成30年版)』は、65歳以上人口と15~64歳人口の比率の推移を比較しています。

そして、高齢者1人あたりの現役世代の数を、以下のように見込んでいたのです。

―――
〇1950年:現役世代12.1人
〇2015年:現役世代2.3人
〇2020年:現役世代2人
〇2035年:現役世代1.7人
―――

現役世代が減れば、一人あたりの社会保障費の負担はどんどん重くなります。

若い世代に多くの社会保障費を課せば、日本の活力も失われていきます。

現役世代には、子育てや新たな仕事の創造など、未来のために使えるお金が必要だからです。

そのため、高齢者の医療負担は「年齢」ではなく、「所得」に応じた基準に改める必要があるのではないでしょうか。

※高齢者が高額の医療負担に直面したらどうするのか。

日本では高額療養費制度によって自己負担の限度が定まっているので、前掲の変革で医療費の上限は変わらない。低所得者に限定して「1割負担」を残せば、セーフティネットとしての医療は維持できる。

【参考】

・日経電子版「国民医療費とは 15年度42兆円 1人あたり33万円」(2018/9/17)
・朝日デジタル「昨年度の医療費、過去最高42.2兆円 2年ぶりの増加」(2018/9/21)
・文京区HP「国民保険料簡易計算」
・総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-平成29年(2017年)平均結果―(二人以上の世帯)」
・厚生労働省保険局調査課『-平成29年度 医療費の動向-』
・東京都後期高齢者医療広域連合「医療費の現状」
・土居丈朗「高齢者の医療費は原則「3割」に引上げよ」(東洋経済デジタル版)
・内閣府『平成30年版高齢社会白書(全体版)』

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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