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緊迫する中東情勢――日本文化・教育の輸出で中東の平和と安定に貢献を!

文/HS政経塾 第1期卒塾生 彦川だいし

◆「イスラム国」騒動の影で拡大するイランの影響力

3月25日、イラク政府の要請により、米軍など有志連合が北部ティクリートの奪還に向けた空爆支援を開始しました。

ティクリートはイスラム国の拠点であるモスルと首都バグダッド結ぶ交通の要衝であり、イラク治安部隊が戦闘を展開する上で重要な地域です。

米国防総省のウォーレン報道部長は、ティクリート奪還作戦はイラク治安部隊が主導しており、同作戦の成功は「米軍が最も頼りになる連携相手だとイラク側が理解することが重要だ」と指摘しています。

この発言は、対「イスラム国」戦争の影でイランがイラクに対する影響力を拡大していることを念頭においたものと思われます。

というのも、3月2日にティクリート奪還作戦が開始された当初、シーア派民兵約3万人を含むイラク治安部隊の戦闘指導が同じシーア派国家であるイランの軍人が行っており、米軍に対してイラク政府側から支援要請がなかったという経緯があったからです。

イラク戦争後、「民主的な」プロセスを経て成立した政府がシーア派系イラク人による政権だったとしても、それが対「イスラム国」戦争を通じてイランの息のかかったシーア派系国家に変質することは、イランの核開発を問題視する米国として、とうてい受け入れられる事態ではないと言えます。

◆イエメン内戦に見る、「イスラム世界」の厳しい覇権争い

イランの影響力が拡大することを受け入れられないのは、米国だけではありません。イランが中東で影響力を拡大するとなれば、サウジアラビアなどスンニ派諸国との緊張が高まる恐れがあります。

例えば、先ごろからシーア派反政府組織による内戦が激化していたイエメンを見ると、同国のハディ暫定大統領がサウジアラビアなど湾岸諸国に軍事介入を要請したため、3月26日よりサウジ軍などからシーア派反政府組織「フーシ」に対する空爆が開始されています。

イランはこのような湾岸諸国による軍事介入に対して、「イエメンの主権侵害に当たる」として非難すると共に空爆の即時中止を求めました。

当のイランは今年、「フーシ」が内戦で優位に立つとすぐに経済使節団を交換していたほか、「フーシ」支配地域と航空機の定期便を就航させるなど、実に「手際の良い」対応をとっています。

イランはイエメンの「フーシ」に対する支援を公には認めていませんでしたが、水面下の支援なくして、とうていありえない対応だと言えるのではないでしょうか。

仮にイエメンとイラク、二つのイラン系シーア派国家が誕生したとしましょう。その時一番困るのは、これら両国に直接南北を挟まれることになる、サウジアラビアだと考えられます。

サウジアラビアは、かつて2011年にトゥルキ・ファイサル王子がイラン、イスラエルと二つの核武装国に囲まれた場合、自らも核武装のオプションを検討せざるを得ないと発言していることから、イランの勢力伸長に対して強い警戒心を持っていることが伺われます。
 
対「イスラム国」の戦争を通じてイランの影響力が増し、緊張が過度に拡大しないよう、米国としても神経を尖らせているのではないかと推察します。冒頭のウォーレン報道部長の発言からは、そうした印象が伺えます。

◆中東の平和と安定のために、日本ならではの貢献を

中東情勢が不安定になった場合、原油価格・資源価格の上昇という形で我が国の経済は打撃を受けてしまいます。遠い中東の地であったとしても、中東の混乱を放置するわけにはいきません。

エネルギー安全保障の観点から、シーレーン防衛を固めるのはもちろん必要ですが、重要な点はイスラム圏の意識改革です。イスラム文化の良さを壊すことなく、経済と社会の発展を実現できる日本的な「和の精神」を広めていく仕組みをつくることが必要だと考えます。

具体的には、イスラム圏でも評価の高い日本型の学校教育を輸出し、日本にあこがれを持つ若者を育てること。さらにそのような若者を、留学生として日本の大学に迎え入れ、日本と本国の架け橋となる人材として送り出すという仕組みを作ることです。

戦前、日本が多くの若者の留学を受け入れ、母国を発展させる人材として送り出したことを、もう一段大きなスケールで実行するわけです。

日本経済を発展させた、日本人の商道徳。多様な文化を受け入れ、新たな価値の創造を可能にする和の精神。それらの根本にある日本人の倫理観や宗教観。

こう言った有形無形の文化体験を通じて、日本と中東の架橋となり、母国の発展を後押しできる人材を育てることが重要だと思います。

彦川 だいし

執筆者:彦川 だいし

HS政経塾第1期卒塾生/党政調会・外交部会

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