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北朝鮮との交渉の行き詰まり 今こそ、「邦人救出」を自衛隊法に盛り込め

文/HS政経塾3期生 森國 英和

◆北朝鮮との交渉の行き詰まり

安倍晋三首相は10月27日から30日にかけて、日本人拉致被害者に関する再調査について、北朝鮮側の報告を受けるため、政府代表団を北朝鮮・平壌に派遣しました。

代表団の訪朝に先立ち、安倍首相は「拉致問題解決が最優先課題だ」と強調。しかし、今回の再調査報告において、北朝鮮側から得られた成果はほとんどありませんでした。

日本が、北朝鮮の拉致は「我が国に対する主権の侵害」と認識しながら、ほとんど進展させられない最大の原因は、(空想的)平和主義に縛られる日本側の「押し」の弱さにあるように見えます。

肝心の自衛隊が法制度に縛られて、特殊部隊による邦人救出・奪還といった強制力の行使を実行できないことが、日本側の弱みです。

◆従前の自衛権発動の基準に縛られる日本

今年の3月6日の参議院予算委員会で、「北朝鮮で内乱が発生した際、拉致被害者の救出を行えるか」との質問に対し、安倍首相は、「自衛隊の邦人救出には、相手国(北朝鮮)の同意が必要となるため困難。他国が国際法で認められているものも、現在の自衛権発動の基準のままでは難しい」と答えています。

現在の9条とその解釈が、自衛隊の行動を制約している現状を説明したものでした。実際に有事が起こったら、韓国やアメリカに奪還を依頼するしかないとの発言もあります(3月4日参予算委・安倍首相)。

このような、平時はもちろん有事の時にさえ「北朝鮮に自衛隊を派遣できない」という日本側の弱みは、拉致交渉の現場で北朝鮮に見透かされています。

現在の安倍内閣は、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更に夏まで取り組んできましたが、「拉致解決が最優先」と言うなら、邦人救出に関する憲法解釈も整理しておくべきでした。

◆社会党に骨抜きにされた自衛隊法の規定を変更せよ

今からでも遅くはありません。政府は早急に、自衛隊法84条の3「邦人輸送」の改正と憲法解釈の見直しに取り組むべきです。

これは、拉致被害者の救出のみならず、国外(特に政情不安定な途上国)に進出する日本企業の安全のためにも、必達の課題です。安倍首相は、政権発足直後に、アルジェリアで日本人10名がテロリストに拘束・殺害されたことを忘れたわけではないでしょう。

現行の自衛隊法の規定のままでは、在外邦人に迫る緊急事態に、自衛隊はほとんど対応できません。自衛隊の派遣は「安全が確保された場合」のみに限定されているからです。

元をたどればこの条項は、1994年11月に改正された際に盛り込まれたもので、改正当時は、村山富市(自社さ連立)政権でした。

立法の過程で、「邦人救出を名目として、自衛隊の海外派兵が可能となる」と主張した社会党の影響が色濃く反映され、結果として、「緊急事態だから自衛隊が求められているのに、安全が確保されない場合は派遣できない」という自己矛盾を含んだ規定になったのです。

根底に、「海外の居留民保護が、戦前の日本軍の海外派兵の口実となった」という歪んだ歴史観があることは言うまでもありません。このようにして、「邦人救出」は骨抜きにされたのです。

この規定を改正し、いざという時には、自衛隊の特殊部隊等による邦人救出作戦を実行できる法制度にしておくべきです。手持ちの外交カードに、このようなフィスト(げんこつ)を欠いているから、北朝鮮を譲歩させて拉致被害者を取り戻せないのです。

◆自衛隊が邦人救出をできなければ、日本の外交史上最大の汚点になる

今年再開された日朝交渉は、拉致被害者の奪還に加え、外交戦略上の意味も大きいと言えます。

東アジアの国際関係は、昨年末に北朝鮮のナンバー2・張成沢氏が処刑されて以降、中国と韓国の親密化、北朝鮮とロシアの接近という新たな様相を呈し始めています。

日本としては、戦後70周年に向けて反日攻勢を強める中国と韓国を牽制する上でも、北朝鮮との拉致問題をめぐる外交交渉を成功させることが重要です。

また、日本は朝鮮半島有事の際、北朝鮮国内の拉致被害者や在韓邦人3万人のみならず、諸外国人の救出の責任も求められます。

内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏は、「朝鮮半島有事の際は、2万人の在韓フィリピン人の救出をお願いしたい」との要請がフィリピン大使から来ている、との情報を紹介している(『彼らが日本を滅ぼす』佐々淳行著/幻冬舎)。

邦人救出では各国が連携することが多く、イラン・イラク戦争の時にはトルコが日本人200人を救出、アルバニアでの暴動の際にはドイツが日本人10人を救出しました。

朝鮮半島に最も近い日本が国際的道義を果たさないとなれば、日本外交史上最大の汚点となるでしょう。日本は国際的信用を失い、ASEANや印豪との連携強化、国連常任理事国入り等の取組みを大きく後退させることにもなるのです。

このように、拉致問題から見ても、日本の外交戦略としても、「邦人救出」をめぐる自衛隊法改正と憲法解釈の見直しは急務です。「

邦人救出」は、従来の自衛権発動の類型で捉えるべきではなく、憲法の趣旨に沿って再整理できると考えます。一刻も早くこの議論と立法に着手し、日本は、拉致問題解決のための交渉を有利に進めていかなければなりません。

森國英和

執筆者:森國英和

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