資本主義の危機と終焉、その対策
文/HS政経塾第二期卒塾生 川辺賢一
◆歴史的低金利が続く世界
今月24日、ジャネット・イエレン米国連邦準備理事会(FRB)議長は、10月を目途とした量的緩和終了後においても、即座の金利引上げを行わず、当面、金利は現在のゼロ%付近にとどめることを表明しました。
バブル崩壊後の日本に始まり、今、先進国は長期に渡る「超低金利」時代を経験しております。なぜ今、世界の中央銀行は歴史的な低金利を続けるのでしょうか。
それは企業にお金を借りてもらい、新しい投資を増やしてもらうためです。中央銀行は金利を低くすることで、資本主義のエンジンである企業の資金需要、投資需要を喚起させようとしているのです。
ところがリーマン・ショック後の世界においては、金利を限りなくゼロの下限に近づけても、企業の投資需要に火が付きません。人々が実業の未来に楽観できず、低金利であっても利潤を見込める新規投資案件を見出せないでいるからです。
このように金利と利潤は裏表の関係にあり、金利は資本主義経済の活性度を示す体温のようなものだと言えます。
そして、このようなゼロ金利に向かっていく世界を指して、幸福実現党・大川隆法総裁は「資本主義経済は終わりを迎えようとしている」と述べております。(参照:2014年3月30日御法話「未来創造の帝王学」)
◆資本主義が直面するいくつかの危機
さて、金利がゼロの下限に達しても、企業の資金需要が復活しない状態をJ・M・ケインズは「流動性の罠」と呼びました。
「流動性の罠」経済においては、政府が国債を発行して支出を増やさなければ経済は縮小均衡に陥ります。
もしも今、世界が「流動性の罠」に陥っているのだとすれば、世界は経済の縮小を避けるために「大きな政府」を志向せざるをえず、結果、民間活力が失われ、資本主義経済は危機に直面します。
一方、日本を含む世界の中央銀行家たちは、「たとえ政策金利がゼロの下限に達したとしても、量的緩和政策を継続することで、財政支出の拡大に頼り過ぎることなく、景気回復を後押しできる」とします。
実際、米国も日本も、量的緩和によって株式市場を活性化させ、株高によって経済全体を回復させる戦略を採用し、一定の成果をあげております。
ところがこうした状況に対して鋭い批判を向ける左派経済学者もおります。
『21世紀の資本論』を上梓して話題を呼んでいる経済学者トマ・ピケティ氏は、株や不動産などの投資によって得られる資本収益率が経済一般の成長率を常に上回っていることを統計的に示し、その結果、所得と富の不平等が21世紀を通じて拡大していくという理論を発表しました。
格差問題に関しては、実のところ世界の貧困率がここ数十年で80%程度も下がっていることから、重要な問題だと考えられません。しかし株や不動産による投資の収益率が常に経済一般の成長率、実業の成長率を上回っているという事実は、資本主義経済の本質的な不安定性を示していると言えるでしょう。
実際、1970年代以降の世界経済は頻繁にバブルの発生と崩壊を繰り返し、数十年周期で100年に1度と言われる金融危機が起っております。資本主義経済は新しいバブルを発生させることで延命を図っていると言えるのかもしれません。
◆その対策
さて、このように危機に陥り、終焉を迎えようとしている資本主義経済に対して、私たちはどのような対策を打ち、新しい経済モデルを創造していくべきでしょうか。
まず第1に金融緩和の出口を焦らないことです。90年初頭の日本も07年の米国も、バブル崩壊の直接的な要因は急激な金利引上げ、金融引締めに始まります。
高い利潤率を持つ革新的な実業が不足しているにもかかわらず、株や不動産などの資産市場が高騰しているという理由で金融緩和を止めてしまえば、さらに実業が圧迫されます。
特に25年近くも株価最高値を更新できていない日本においては、むしろ日銀は追加金融緩和を打ち出し、さらなる株高を演出しても良いのではないでしょうか。
第2に法人税の大減税です。もしも経済が「流動性の罠」に陥り、できることが政府支出の増大しかないのであれば、まず企業の自由を増やす法人減税を断行すべきです。
第3に産学連携の活性化です。企業が持つ自前の工場や研究室は短期的な利益追求には向きますが、息の長い基礎研究に始まる革新的な研究シーズの追求には不向きです。
しかし、求められるのは利潤率の高い実業であり、そのために必要なのは現時点では海のものとも山のものとも分からない研究を温め、それを実業化し、産業化していくことです。そうした研究は大学や政府系の研究所だからこそ追求できるものです。
次世代を創るイノベーションを誘発させ、第二、第三の産業革命を起こしていくために、新しい研究や技術、企業が交流する場、智慧のマーケットの創造が求められます。