このエントリーをはてなブックマークに追加

消費増税をあおる報道――不可解な前提に基づく財務省の試算

文/HS政経塾部長 兼 政務本部部長 幸福実現党東京都第9選挙区支部長 吉井としみつ

◆財務省の「財政に関する長期推計」

次の記事を読んで、どのような印象を抱きますか?

財務大臣の諮問機関である、財政制度等審議会の分科会で財政再建に取り組まず、当面の目標である基礎的財政収支の黒字化が達成できなかった場合、2060年度の国の借金は、GDP比で約5.6倍の約1京1400兆円に膨らむとの試算が示されました(産経4/29)。

さまざまな感じ方があると思いますが、「大変な債務を日本政府は抱えているんだな」という漠然とした不安を抱かせるのではないでしょうか。不安を持たせて「政府の財政は大変だ。このままでは持たない、じゃあ消費増税は仕方がないのでは…」と誘導する、財務省のお得意のやり方です。

そこで、今回示されている「我が国の財政に関する長期推計」
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia260428/08.pdf

上記で示されたシミュレーションの不可解なポイントを押さえて、消費増税を煽動する報道への免疫を高めておきましょう。

(1)現状:政府が掲げる財政健全化の目標

財政の健全化を示す指標として、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)という言葉があります。

これは、公共事業や社会保障など政策にかかる費用と、税収等の収入の差額のことです。この差額を、日本政府は2020年までに黒字化することを目指しています。

(2)高すぎる名目長期金利の想定

今回のシミュレーションの前提として、10年国債の金利が0.623%(4/30現在)であるにもかかわらず、名目長期金利は3.7%と高めに設定されています。

一方、日銀が2%インフレターゲットを掲げているのに、物価上昇率は1%と低めに設定されています。物価上昇率が低めに抑えられることで、名目経済成長率も低くなります(名目経済成長率=物価上昇率+実質経済成長率)。

財政の健全化に道筋を示す「ドーマー条件」という考え方によると、名目経済成長率に比べて名目金利が高くなれば、財政は悪化します。複利計算なので、今回のような50年程度の長期推計で計算すれば、前提条件を少し変えると大きく結果は変わります。

不自然に高い金利と不自然に低いインフレ率から考えると、嘉悦大学の高橋洋一教授も指摘するように、今回のシミュレーションで「財政危機」が演出されていることが読み取れます。(“答えありき”が疑われる財政の長期推計・「詠み人知らず」の報告書を出す財政審の実態 http://diamond.jp/articles/-/52341

財政危機を示すために演出された統計をもとに、50年後に、国の借金1京円を超えるなど、負債額の大きさをセンセーショナルに宣伝して、不安感を煽動する報道が、今後も出てくると考えられますが、冷静に以下の3点を確認しましょう。

1)統計の前提となる金利水準は高すぎるのではないか。
2)インフレ率は妥当か。
3)実質経済成長率が低すぎるのではないか。

これらに引っかかる場合は、要注意です。さらにいえば、そもそも50年間も想定しているモデルが当てはまるのか?という疑問も持つべき視点といえます(ちなみに、EUの「Fiscal Sustainability Report2012」の試算期間は20年)。

◆2004年のときは、100年安心だった年金プラン

このような長期統計には、本当に注意が必要です。なぜなら、2004年のときには、100年安心プランと銘打って、年金改革がおこなわれました。

そのときのカラクリは何か。それは、あまりに楽観的な経済見通しです。
2009年には財政検証結果では、年金積立金の運用利回りを4.1%に設定していました(厚生労働白書H22年度版http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22011104.pdf)。

現在、約128兆円の年金積立金があり、その約55%が国内債券で運用されています。先ほども挙げたように、10年国債の利回りは0.62%程度であり4.1%の高い運用利回りを達成できるのでしょうか。

以前の記事(元気な経済あっての年金制度――消費増税は年金破たんへの道 http://hrp-newsfile.jp/2013/883/)でも指摘させていただいた通り、好調な経済でなければ、本当に安心な社会保障の実現はできないのです。

◆詐欺まがいの議論はもうやめるべき

消費増税したいために経済成長率を低く見積もる。しかし、年金は安心と見せるために経済成長を前提とする。国民不在のアベコベ議論が続いています。これを詐欺という以外に、何と言えるでしょうか。

今後も増税をあたかも必要とさせる不安煽動記事が出てくると思われますが、想定条件に要注意です。財政再建するにも、社会保障を安心にするにも、消費増税している暇はないのです。ノーモア・タックス。答えは「いかに経済を元気にさせるか」に見出すべきです。

――――――――
◇お知らせ:You Tubeチャンネル「HS政経塾オピニオン」について
HS政経塾生の研究をいかして、踏み込んだ視点でニュースの裏の裏を解説します。
ご覧いただければ幸いです。

HS政経塾オピニオンはこちらから
https://www.youtube.com/user/HSSeikeijukuOpinion

吉井 利光

執筆者:吉井 利光

HS政経塾部長(兼)党事務局部長

page top