Home/ 外交・国際政治 外交・国際政治 「ユーロ」の行く末――ギリシャからイタリアへ 2018.07.17 「ユーロ」の行く末――ギリシャからイタリアへ HS政経塾 第7期生 安原 宏史(やすはら ひろし) ◆イタリア発の経済混乱 2018年3月4日。イタリアの総選挙で与党民主党が惨敗、コメディアン出身のディマイオ氏率いる「五つ星運動」と「同盟」の連立政権が誕生しました。 両政党ともEU懐疑派です。新首相のコンテ氏は、内閣発足時の所信表明演説の中で、最低所得保障導入(ベーシック・インカム)と減税に向けた税制改革など、両立しがたい政策を掲げました。(※1) 結果、急激なイタリア国債売りが進み、金利が急上昇、市場が混乱しました。今後、EU離脱に加え、イタリア発の経済危機にも備える必要がありそうです。 ◆欧州危機のからくり イタリアの経済危機はどう発生し、どう波及するのでしょうか。その鍵はイタリアの経済規模と債務の大きさです。 イタリアはギリシャの約10倍のGDP(約210兆円、2017年時点※2)です。債務は約265兆円(2016年時点※3)で、EUで1位、世界第4位の大きさです。 金融危機対応のための欧州システムであるESM(欧州安定メカニズム)準備金は約100兆円ですが、これを超えたらユーロ圏では対処不能、世界的規模の恐慌となる可能性があります。 国債の金利が7%近くなると、いわゆるジャンク債(紙切れ)扱いされ、デフォルト(債務不履行)の懸念が高まります。金利が上がれば上がるほど、債務国の財政負担はますます厳しくなり、新規国債発行も買い手がつきません。 国債は売られる一方で資金調達の術なく、破産状態に陥ります。これがユーロ危機のからくりです。 ◆ユーロ圏の抱える「構造的な問題」―為替変動と各国経済の乖離― ギリシャ、イタリア、スペイン、フランスなどの南欧では、財政赤字対GDP比3%以内、累積債務残高対GDP比60%以内などのEUが定める厳しい財政規律をクリアできずにおります。 この財政規律達成のためにも、国内産業育成による経済成長が必要です。 しかし問題なのが共通通貨ユーロというシステムです。共通通貨ユーロを採用するユーロ圏各国の金融政策はECB(欧州中央銀行)が一括で行い、各国経済に応じた独自の金融政策はとれません。 通常、各国の経済の強さに応じて為替は変動しますが、ユーロ圏各国では「ユーロ圏の経済力」として為替が推移します。 ドイツのような経済強国では、本来の為替より低く推移し、ギリシャのような経済弱少国では、本来の為替より高く推移します。 ドイツは輸出に有利、ギリシャは輸出に不利だと言えます。発展途上国の成長モデルでは輸出増が大切な要素ですが、ドイツ製の割安で質のいい製品ばかりを消費者が好むなど、国内産業が成長していきません。 ◆ユーロ圏の抱える「構造的な問題」―各国バラバラの財政政策― また、金融政策は統一にも関わらず、財政政策が各国独自である点も問題です。先に述べたイタリアの例が顕著です。 ただバラバラといってもルールはあり、ユーロ圏は財政面でも厳しい規律を求め、基準を超すとペナルティがあります。当然、バラマキや年金、雇用や労働規制についての構造改革は必要です。 しかし結果として、減税や公共投資なども絞られ、有効需要の創出まで削がれてしまいます。国内経済の成長戦略が採りづらいのが問題です。 ◆ヨーロッパ合衆国構想とユーロ圏の行く末 ただ、もしユーロ圏が金融・財政政策とも均一であれば、この危機を超えられるかもしれません。 つまり、ユーロ圏の各国が日本の都道府県やアメリカの州のような位置付けとなり、全体として合衆国的に動くということです。 ただ、そのためには財政政策の決定権等を中央に移譲せねばならず、国の主権放棄と言えます。それを各国が呑めるかといえば、現実的に考えて難しいのではないでしょうか。 思うに、EUの前身であるECができた時に英国首相サッチャーが参加を拒否したのは、主権の放棄につながると直感的に感じたからではないでしょうか。(※4) 結局ユーロ圏がユーロ圏である限り、改革不能な問題をはらみ続けております。未来にEUや共通通貨ユーロがあるかどうか―。 それは、(1)危機は構造上の問題 (2)EU合衆国実現の見通しも限りなく厳しい、ということから、「ユーロ圏はどこかのタイミングで体制の崩壊に繋がる可能性がある」と言わざるをえません。 【参考文献】 白井さゆり2011「ユーロ・リスク」 藤原章生2010「ギリシャ危機の真実 ルポ『破綻』国家を行く」 ※1日本経済新聞2018年6月5日「イタリア新首相『我々はポピュリズム政権』 上院で所信表明」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31416050V00C18A6FF8000/ ※2世界銀行データバンク https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?year_high_desc=true ※3IMFデータバンク http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2018/01/weodata/weorept.aspx?sy=2016&ey=2023&scsm=1&ssd=1&sort=country&ds=.&br=1&pr1.x=30&pr1.y=10&c=122%2C941%2C124%2C946%2C423%2C137%2C939%2C181%2C172%2C138%2C132%2C182%2C134%2C936%2C174%2C961%2C178%2C184%2C136&s=GGXWDN&grp=0&a= ※4大川隆法著「サッチャーのスピリチュアル・メッセージ」9「EUの失敗」は予測していたP.113 https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=933 「開国」から「経済建設」へ舵を切った北朝鮮――日本は勇気と気概を持った外交を!【後編】 2018.07.11 「開国」から「経済建設」へ舵を切った北朝鮮――日本は勇気と気概を持った外交を!【後編】 幸福実現党 宮城県本部統括支部長 HS政経塾第5期卒塾生 油井哲史(ゆいてつし) 【前編】に続いて本日は、【後編】をお送りいたします。 ◆北朝鮮の未来を描く「ビデオ映像」 米朝首脳会談の記者会見の冒頭、「男2人、指導者2人、一つの運命。」と題した4分間にわたるビデオ映像が流れました。 これは「結末は二つしかない。」として、前進するか、後退するかを迫るイメージ映像となっています。 前進は「経済建設」を選ぶ道で、株式市場や、荷物を運ぶドローン、自動車工場が映し出され、逆に後退の道は、空爆で破壊されたとみられる建物や発射台から上昇するミサイル、商品のない商店、戦闘機も映し出されています。 この映像は金正恩氏も見て、「気に入ってもらえたようだ。」とトランプ大統領は自賛。その上で、「これを現実の未来にすることができる」と述べ、非核化を選択することで北朝鮮に大規模な経済支援・投資を行うことを示唆しました。 さらに、不動産王のトランプ氏らしく、北朝鮮には素晴らしいビーチがあるので、それを活かしたマンションや世界最高のホテルを建設できると提案しています。 北朝鮮の未来の姿を示すこのビデオで、前進させるか、後退させるか、判断し行動することを促しました。 ◆積極報道されたシンガポール訪問 北朝鮮の公式メディアは、今回の米朝会談における金正恩氏のシンガポール訪問を北朝鮮は大々的に取り上げました。 「歴史的な米朝首脳会談のため」と積極報道し、北朝鮮がトランプ大統領と渡り合う国際的な地位を確保したことを宣伝。朝鮮中央放送など国営メディアはシンガポール外遊最中の最高指導者の動静を大々的に報じています。 今年3月以降、金正恩氏が2回の中朝首脳会談のため北京と大連を訪れた際には、平壌に戻るまで訪中自体を報じなかったことに比べれば、異例の報道を展開しています。 シンガポール市内の名所を観覧し、「多くの分野でシンガポールの立派な知識と経験に学ぼうと思う」と述べたと報じ、夜景を見下ろして、「シンガポールは聞いていた通り、清潔で美しく、すべての建物に特色がある」と称賛したことも伝えました。 ◆北朝鮮の「開国」で経済改革を加速 シンガポールの知識と経験に学び、それを北朝鮮に導入することは、北朝鮮の「開国」を意味します。北朝鮮が経済的に開国することで外資を誘致し、経済改革を加速させる意向を示していると考えられます。 実際、北朝鮮は今年4月の党中央委員会総会で「経済建設と核武力建設並進」の路線からの転換を宣言しています。 核開発を推進させて国際的な地位を高めることに勝利したという前提で、今後は、「経済建設のための有利な国際的環境を整える」と強調し、経済建設に集中することを宣言しました。 開国と言えば、日本では幕藩体制の解体を促進させ、明治維新と近代化の決定的条件となった出来事です。資本主義的世界市場に組み込まれ、政治、社会、経済、文化のあらゆる面で急激な変化をもたらしました。 北朝鮮が開国に向けて準備を進めているとなると、「歴史的な大転換」を迎えようとしているのです。 米朝会談で緩やかな「米朝同盟」ができました。北朝鮮が開国し、経済建設へと舵を切り、新しい時代の構築へと歩みだした事を認識すべきです。 もちろん、非核化に向けた査察の徹底など、合意の履行には十分な注視が必要ですが、日本として、この世界史的な大転換をしっかりと捉えて、未来志向で、勇気と気概を持った判断で外交を展開していくべきです。 【参考】 米朝首脳会議 共同声明の全文 ホワイトハウス公式会見録 米朝会談「歴史の新章」 トランプ大統領の会見全文 小学館 日本大百科全書 時事通信 「「前進か後退か」北朝鮮に迫る=米作製の映像、正恩氏お気に入り?」 2018年6月14日 時事通信 「ポンペオ米長官、「2年半以内」非核化を=軍事演習中止は交渉継続前提」 2018年6月14日 毎日新聞 「「国際的な地位確保」北朝鮮が大々的に報道」 2018年6月12日 毎日新聞 「ボルトン氏「協力あれば1年以内に廃棄」」 2018年7月2日 産経新聞 「ポンペオ米国務長官が訪朝 完全非核化の具体的措置で協議へ」 2018年7月6日 東京新聞 「北朝鮮、経済路線を国内で協調 「核保有」が前提」 2018年4月23日 朝日新聞 「「冷戦から新時代に」米ソ首脳会談で確認」 1989年12月4日 読売新聞 「米ソ会談 評価は歴史の中で」 1989年12月5日 高野孟 「高野孟のTHE JOURNAL」 2018年6月25日 「開国」から「経済建設」へ舵を切った北朝鮮――日本は勇気と気概を持った外交を!【前編】 2018.07.10 「開国」から「経済建設」へ舵を切った北朝鮮――日本は勇気と気概を持った外交を!【前編】 幸福実現党 宮城県本部統括支部長 HS政経塾第5期卒塾生 油井哲史(ゆいてつし) ◆世界が動向を注視した米朝首脳会談 先月6月12日、トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談がシンガポールで行われました。 両首脳は、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に取り組み、アメリカが体制保証を約束するとした共同声明に署名しました。 多くのメディアでは、いつまでに、どうやって、非核化を実現するのかが盛り込まれておらず、具体性に欠けた内容だったことから、「中身がない」という厳しい反応が見られます。 果たして、合意された「朝鮮半島における完全非核化」が実現されるか、世界が動向を注視しています。 共同声明だけ見ると、トランプ大統領が譲歩して、北朝鮮ペースで進んだようにも見えます。 当初、トランプ政権側は、「『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』がアメリカの受け入れられる唯一の成果だ」と述べていました。 それにもかからず、「『板門店宣言』を再確認したうえでの、朝鮮半島の非核化」となり、非核化の具体的な方法まで踏み込まれていません。 さらに、「北朝鮮に安全の保証を与えること」という約束までしました。 ◆だまされ続けてきた「北朝鮮の非核化」 これまで北朝鮮における非核化の約束は覆されてきたため、今回の北朝鮮の対応に懸念するのも理解できます。 例えば、日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の6か国が集い、外交会議にて北朝鮮の核問題の解決に向けた六者会合があります。 2003年8月に第1回目の協議が開催され、外交交渉で朝鮮半島の非核化を目指すとともに北東アジアの平和と安定の維持について話し合われました。 2005年に北朝鮮の核放棄などを盛り込んだ共同声明を採択しましたが、翌年の2006年に核実験を強行し、世界から非難を浴びました。 その後も、2009年、2013年にも核実験を行い、ミサイル発射実験を繰り返しています。 ◆トランプ政権は「2年半以内」に非核化を実現したい だまし続けてきた北朝鮮が今回の共同声明に対して揺るぎのない約束を果たせるのか、そして、金正恩氏を信用できるのか、トランプ大統領は記者会見で問われています。 トランプ大統領はこれまでの歴史を見て、まっとうな質問であることを認め、金正恩氏を「信頼している」と答えました。 金正恩氏の強い意志を感じており、包括的な文章に沿って行動することを期待しているといいます。 さらに、トランプ大統領を支えた交渉チームが今回の成果に大きく貢献しており、彼らの活躍を評価しています。 米朝交渉の当事者であるポンペオ国務長官は、平壌で北朝鮮側の交渉責任者らと面談し、核戦力や核・弾道ミサイル開発に関連する情報の全面開示を要請するなど、非核化の詳細を詰める作業を進めています。 彼は、トランプ大統領の1期目の任期が満了する2021年1月を念頭に「2年半以内」に「完全な非核化」の成し遂げたいという期限に言及しました。 ボルトン大統領補佐官も北朝鮮が核・ミサイル施設に関する情報を完全に開示し協力するなら、「1年以内」に大部分の達成が可能との見方を示しています。 まだ、予断を許しませんが、トランプ政権は強い意志を持って、非核化を成し遂げようとしています。 ◆共同宣言すら出されなかった「マルタ会談」 また、米朝会談の共同声明が具体性を欠き、不備が目立つと批判する声もありますが、「冷戦から新時代へ」と新しい世界秩序形成の節目となった1989年の「米ソ首脳会談(マルタ会談)」では首脳がそれぞれ10分間程度ずつ声明を読み上げただけで、共同宣言は出されていません。 当時の反応も懐疑的なものもあります。「共同宣言がなく、今一つ合意内容がはっきりしない印象を受ける。」「これといった具体的成果も生み出さずに徹頭徹尾、米ソ両首脳の意見交換の場になった」という意見も出ていました。 しかし、マルタ会談で世界安定化に向け幅広いテーマが話し合われた後、数次にわたる外相レベルでの準備会談を経て、翌年、本格的な米ソ首脳会談が行われました。 この首脳会談で多くの文書が合意され、署名に至り、歴史的な大転換となっています。 ジャーナリストの高野孟氏は「首脳同士が合うこと自体が、時代の貴重な一大転換を象徴するという場面はあるものであって、シンガポール会談もその1つだったと言える」と評価しています。 ◆米朝会談での異例な出来事 歴史的な米朝会談では、初めから1対1の首脳会談で始まり、異例ともいえる出来事がありました。 それが、4分間にわたる「ビデオ映像」と北朝鮮メディアの「積極報道」です。北朝鮮が新たな明るい未来に向けて第一歩を踏み出したということを感じさせるのです。 次回、【後編】では、4分間にわたる「ビデオ映像」がどんな内容であったのか、そこから米朝会談の本質に迫り、日本はどうあるべきかについて述べて参ります。(つづく) 米朝首脳会談――戦後史の変動にどう向き合うか 2018.06.19 米朝首脳会談――戦後史の変動にどう向き合うか 幸福実現党 政調会外交部会副部会長 彦川太志(情報分析担当) ◆米朝首脳会談におけるトランプ大統領の計算 6月12日、シンガポールで米朝首脳会談が開催されました。 北の非核化に向けた具体的ロードマップが示されない中、トランプ大統領が北朝鮮に対して「体制保障」を与えたことで世界中に衝撃が走りました。 関連する発表や報道を良く見ると、北朝鮮の非核化に向けたトランプ大統領の冷静な計算が背景にある様子が浮かび上がります。 ◆金正恩の「非核化」をバックアップするトランプ大統領の「体制保障」 まず、トランプ大統領が北朝鮮に提示した「体制保障」とはどのようなものだったのでしょうか。米朝会談が行われた2日後、韓国で開催された日米韓外相三者会談の共同声明を見てみましょう。 韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は次の様に発言しています。 「トランプ大統領が北朝鮮に体制保障を与える間、金委員長が確固としたゆるぎない半島の非核化完了に向けた関与を行うことを承認した、シンガポール共同声明の採択を我々は歓迎する。」(※1) 韓国外相の発言からも分かる様に、トランプ大統領が与えた「体制保障」とは、金正恩が非核化を実施するための「保障」であり、決して北を「核保有国」と認めたり、自身の政治的なパフォーマンスのために行った取引ではない事が分かります。 ◆トランプ大統領が「人権問題」に踏み込まない理由 米朝会談に関する世界のもう一つの関心事は、拉致被害者や北朝鮮国内の強制収容所の存在と言った「人権問題」の扱いについてでしょう。 トランプ大統領自身、首脳会談直後の記者会見で、「あなたは北朝鮮の体制を正当化する事で、(人権侵害を受けている)彼らを裏切るのか」などと厳しい質問を受けていますが、トランプ大統領はその様な意図はないと否定しつつ、今やるべきことは「北の核開発の停止」であると回答しています。(※2) つまり、「北朝鮮問題の解決には順序がある」という事です。 どういうことかと言うと、北朝鮮の「人権問題」を追及すると言う事は、北に「情報公開」を突き付ける事に他なりません。 「非核化」と言う武装解除と「情報公開」を北に同時に求めた場合、かつて「ペレストロイカ(改革)」と「グラスノスチ(情報公開)」を同時に進めた結果、体制改革をソフトランディングさせることが出来ず、「守旧派」の反発や軍のクーデターを引き起こしてしまったソ連のように、かえって北朝鮮に大混乱を引き起こす可能性が予想されます。 トランプ大統領が米朝共同声明で人権問題に強く触れなかったのは、このあたりの事情が背景にあるものと推察します。 安倍政権としても、この点を良く考慮して北朝鮮問題にコミットしていくべきだと言えるでしょう。 ◆金正恩は北の「経済開国」を進めたい 米朝会談最大の関心は「果たして金正恩は信用できるのか」と言う点に集中すると言えますが、これは米朝対話に動き出した「金正恩の狙い」を推し量ることが困難であったことに起因するのではないでしょうか。 今から振り返れば、米朝首脳会談に踏み切った金正恩の「狙い」が、北の「経済開国」の道筋をつける事にあった事は明白です。 実際、金正恩は2018年4月の党中央委員会で「経済建設」へのシフトを表明し、翌5月16日には代表団を中国に送り、中国の「改革開放」に学び、経済成長を進める意思を明らかにしています。(※3) ちなみに、米国のポンペオ国務長官やボルトン補佐官が非核化された北朝鮮への「民間投資」について言及したのが5月14日である事を考えると、5月中旬時点で北の「経済開国」の在り方を巡って米中の綱引きがあったのかも知れません。 ◆日本は北朝鮮の「開国」を契機に米露協調を実現せよ もちろん、これまでの北朝鮮の歴代指導者の振る舞いを考慮すれば、「経済開国」に向けた金正恩の意図に対して懐疑的にならざるを得ないでしょう。 しかし、「金正恩は信用できるのか」と言う懸念を率先して打ち消しているのは、他ならぬトランプ大統領です。 米国の大統領が、自身の「信用」を投じて北朝鮮に「保障」を与えようとしている事について、日本は真剣に受け止めるべきではないでしょうか。 また、今後、露朝首脳会談の開催が9月に予定されると共に、米露関係が急速に接近している国際情勢を考慮すれば、日本は北朝鮮の「武装解除」と「経済開国」の支援を通じて、米露協調を実現する「仲介者」として重要な役割を果たす事が出来るものと思われます。(※4,5) そのような情勢を考慮すれば、日本は北朝鮮と言う先軍政治国家の「武装解除」を着地させる事を先決とし、北を徐々に自由主義圏の一員に抱き込む過程で拉致問題の解決を図るべきであり、その際に必要な支援を行う事に躊躇してはならないと考えます。 (※1)2018年6月14日 Department of State Press Availability With Korean Foreign Minister Kang Kyung-wha and Japanese Foreign Minister Taro Kono (※2)2018年6月12日 White House Press Conference by President Trump (※3)2018年5月17日 解放軍報 習近平会見朝鮮労働党友好参観団 (※4)2018年6月14日 President of Russia Meeting with Chairman of the DPRK Supreme People’s Assembly Presidium Kim Yong-nam (※5)2018年6月16日 TASS Trump to meet with Putin in Europe in July – newspaper 米朝首脳会談――完全非核化の具体的道筋なし 2018.06.13 米朝首脳会談――完全非核化の具体的道筋なし 幸福実現党 外務局長 及川幸久 ◆日本はトランプ大統領に頼るだけでいいのか 米朝会談の結果、金正恩委員長は非核化を受け入れ、トランプ大統領は、その見返りに金正恩体制の保証と経済繁栄の機会を約束しました。 ただ、金委員長の言葉は本当に信用できるのでしょうか。 また、日本は非核化と拉致問題の解決をトランプ大統領に依存しましたが、依存するだけではなく、日本独自でできることはなかったのでしょうか。 ◆具体的内容に乏しい合意文書 今回の歴史的会談を評価するのは難しいでしょう。時間が評価を決めるからです。 昨日の米朝会談の場合は、金正恩が言葉だけでなく、行動で結果を出した時に初めて歴史的だったと言われることになるでしょう。 合意文書に、非核化の具体的内容は示されていません。非核化の手順は今後の協議に委ねられたといってもいいからです。 査察は徹底されるのでしょうか。非核化の膨大な費用は誰が払うのでしょうか。 それは、これから詰めるということですが、アメリカも国際社会も再び北朝鮮に騙される懸念が残ります。 やはり、北朝鮮の本音は、時間稼ぎなのかもしれません。 核の問題だけでなく、日本人の拉致や、北朝鮮国内にある強制収容所での非道な拷問という人権問題も大きいといえます。 トランプ大統領は会見の中で、人権問題について「長い時間をかけて話した」と触れましたが、詳細は不明です。 ◆アメリカ人拉致に即動いたアメリカ議会 一年前の6月、22歳のアメリカ人大学生、オットー・ワームビアさんが、一年半に渡る北朝鮮での拘束から解放され、帰国の数日後に死亡しました。 北朝鮮の観光ツアーに参加しただけなのに、政府転覆罪による拷問で脳に損傷を受けていたのです。 この事件をメディアは連日報道し、アメリカ国民は心底怒りました。 そして、彼の死からわずか三カ月後に、アメリカ下院議会では、北朝鮮に対して過去最高の経済制裁を課す法案が可決したのです。 その名前は、「オットー・ワームビア北朝鮮核制裁法案」。 法案の趣旨は、「北朝鮮と取引をしたものは、アメリカとの取引ができなくなる」というものです。 例えば、中国の銀行や企業が隠れて北朝鮮に貿易取引をしたら、アメリカとの取引は一切行わせず、その銀行は米ドルが扱えなくなります。 アメリカは世界の基軸通貨であるドルを持っている。ドルの蛇口を締めると、どんな国も企業も生きてはいけなくなります。 ◆日本の政治は拉致問題をどう扱ってきたのか 一人のアメリカ人が拉致され、死亡したことで、アメリカは北朝鮮に対して単独で制裁に出ました。 それでは、何百人の国民が拉致された日本は何をしてきたのでしょうか。 実は、拉致被害者の家族会は、日本単独でアメリカと全く同じように制裁を行うよう、何年も前から政府と政治家に求めてきました。 しかし、「日本が単独で制裁したら、北からミサイルで報復攻撃される」、「国際社会から非難される」という理由で実現しなかったのです。 日本の政治家、特に拉致問題に関係している大臣たちは、こういう言葉を使います。 「被害者とご家族の苦しみを思うと一刻の猶予も許されないという思いを共有し、この問題に最も効果的な具体策に取り組みます。」 その「取り組み」とは実際には、アメリカの国務省、国連、そしてトランプ大統領に「お願い」するだけだったのです。 ◆他国に頼るしかない日本でいいのか しかし、そのままで本当にいいのでしょうか。今こそ、日本は「自分の国は自分で守る」という大きな方針転換をすべきではないでしょうか。 北朝鮮問題の次は中国の脅威が問題になるのは必至です。平和を脅かす覇権主義に対して、日本は自由の砦でなければいけません。 そのためにも、日本は他国に頼ってばかりの姿勢を早急にやめ、自衛戦力を持つ必要があります。憲法の改正も急がねばなりません。 米朝首脳会談を受けて(党声明) 2018.06.12 本日は、昨日の米朝首脳会談を受けて、下記の党声明を発信いたしましたのでお知らせいたします。 ■米朝首脳会談を受けて(党声明) https://info.hr-party.jp/press-release/2018/6529/ 平成30年6月12日 幸福実現党 このたび、米朝首脳会談で、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことなどで合意がなされました。 北朝鮮の非核化に向けたトランプ米大統領の努力は評価いたしますが、合意内容は極めて大括りであり、非核化の手順も今後の協議に委ねられているのが実情です。 査察の徹底や非核化の費用負担のあり方も含め、合意の履行には十分な注視が必要となるほか、米朝合意が北朝鮮に対し、さらなる軍事開発やトランプ米大統領退任までの時間稼ぎを許すことになりかねない危惧もあります。 北朝鮮はわが国を射程に収める弾道ミサイルを数百基実戦配備しているとみられるだけに、日本の安全確保のためには、核や生物・化学兵器といった大量破壊兵器や、あらゆる射程の弾道ミサイルなどの完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄が不可欠です。 北朝鮮問題解決のため、日本政府として実効ある対北制裁措置を講じるとともに、米政権に対して、北朝鮮の完全武装解除に向け、軍事圧力をかけつつ、経済制裁を実施し続けるよう求めるべきです。また、拉致問題を抱える日本が主導し、拉致や政治犯収容所など、非道極まる人権問題の解決を北朝鮮に迫るべきと考えます。 地域の安定を大きく脅かすのは北朝鮮に限りません。強大な軍事力を背景に対外膨張を図る中国を抑止するとともに、その人権抑圧的な体制を改めさせることは、地域の平和確保のための最重要課題となっています。 こうしたなか、国の独立や国民の生命・安全を守り抜くには、日米同盟を強固なものとしつつ、独立主権国家として「自分の国は自分で守る」体制構築を早急に図らねばなりません。国防の手足を縛る憲法9条の改正、防衛費の倍増による防衛装備の充実強化などに取り組み、抑止力を抜本的に強化すべきです。 また、憲法改正には一定の時間を要することから、有事の際、自衛隊による拉致被害者救出を可能にするためにも、政府には、北朝鮮など「平和を愛する諸国民」とは言えない国家に対する憲法9条の適用除外を決定するよう求めます。 加えて、戦略的な外交の展開により、日本として地域の平和構築に貢献するとともに、自由や民主、信仰といった価値が広く守られる世界の実現に寄与すべきだというのが、わが党の考えです。 この国を守り抜くとともに、日本を地域の平和や繁栄の実現に貢献できる国家へと新生させるべく、わが党は引き続き力を尽くす決意です。 以上 香港における自由の革命と日本が果たすべき使命 2018.05.22 香港における自由の革命と日本が果たすべき使命 幸福実現党 青森県本部統括支部長 HS政経塾7期生 三国ゆうき ◆激化する宗教弾圧 中国共産党による宗教弾圧が激しさを増しています。 2018年1月9日、中国北部の山西省にある金灯台教会が「違法建築」を理由に爆破されました。数千とも言われる教会が一方的に取り壊され、昨年だけでも20万人以上のキリスト教徒が、自宅の強制捜査、投獄、拷問、といった迫害を受け続けています。 イスラム教徒のウイグル民族に対しても、中国語の強制、虐殺、闇の臓器売買といった非道の限りが尽くされています。 その中心にいるのは、終身独裁を目指している習近平国家主席。3月の全国人民代表大会において、任期制限が撤廃されたことで、益々権力が大きくなり、東アジアにおける覇権を拡大しています。 習近平国家主席は、5月4日、マルクス生誕200年を記念する大会において「党がマルクス主義を旗印にしたのは完全に正しい」と宣言しました。 マルクスの唯物論を信奉する中国共産党が政権を握っている限り、信仰者に信教の自由は永遠にやってきません。 ◆香港に蒔かれた自由の種 2009年4月30日、幸福実現党は「マルクスの共産党宣言を永遠に葬り去る」という旗印の下に立党し、立ち上がりました。 そして、2011年5月22日、大川隆法党総裁は「Fact and the Truth」(事実と真実)と題する英語説法を香港で開催。法話の中において「『自由』と『平等』のどちらかを選ばなければならないのなら、まず、『自由』を選ばなければなりません」と力強く述べられ、香港に自由の種を蒔かれました。 3年後の2014年、親中派が多数を占める行政長官選挙を自由化するための大規模な運動が起きました。それが、総参加者120万人とも言われる「雨傘革命」です。 「雨傘革命」によって、香港の多くの人たちが政治的自由の大切さを知りました。そして、「香港が中国化されるのではなく、中国を香港化していくこと」これが目指すべき方向性であるということに目覚めました。 ◆選挙権の剥奪、収監、そして反撃 「雨傘革命」の中心的リーダーであった黄之鋒(Joshua Wong)「学民の女神」と呼ばれた周庭(Agnes Chow)らが中心となって立ち上げた政治団体・香港衆志(デモシスト)は、選挙権の自由を求めて親中派との闘いを続けています。 闘いを続ける中で、黄之鋒は二度の収監と実刑判決(執行猶予中)を言い渡され、周庭は香港立法会選挙への立候補を表明するも、選挙権を剥奪されるという憂き目に遭っています。 周庭の選挙権剥奪によって、活動が下火になったかに見えた香港衆志ですが、5月8日、選挙結果の司法審査を求めて請願書を高等法院(高裁)へ提出。再び、反撃の狼煙を上げ始めています。 雨傘革命後、まったく譲歩しない香港政府、中国政府の対応を見て、若者たちの間には失望感が広まっていました。しかし、どんな理不尽があっても周庭は街頭に立ち続けていました。 周庭は、記者のインタビューに対して「希望が見えるから街に立つというのではなく、デモをする人が街に立ったら、希望が見えてくるようにしたい」と答えています。 街宣旗と共に、常に街頭に立ち続ける周庭の姿は、17歳にして軍事指揮者として立ち上がり、オルレアンを解放に導いたジャンヌ・ダルクを彷彿とさせるものがあります。 それは、香港の方々が今、命を賭けて中国共産党と闘い、勝ち取ろうとしている自由です。 日本は、明治維新から今年で150年。今私たちが享受している自由は、先人の方々が命を賭けて勝ち取ってきました。 だからこそ、日本には香港衆志を中心とした新しい自由の芽を、中国共産党に絶対に潰させないこと、香港における自由の革命の後押しをする義務があると考えます。 【参考文献】 ・Truth Youth 2016.4.29香港探訪記「初めて会う、革命のリーダーたち」 http://truthyouth.jp/2016/174/ ・withnews 2018.1.9 「ぴくりとも動かない中国政府、それでも黙らない「女神」立候補へ」 https://withnews.jp/article/f0180109001qq000000000000000W07y10101qq000016553A ・産経 2018.5.4 習近平氏「マルクス主義選択は完全に正しい」生誕200年で講話 https://www.sankei.com/world/news/180504/wor1805040040-n1.html ・The Liberty 2018.6 神を信じると罪になる国 https://the-liberty.com/article.php?item_id=14381 ・「信仰の法」大川隆法著/幸福の科学出版 https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1952 ・「洪秀全の霊言」大川隆法著/幸福の科学出版 https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1961 金正恩の再訪中と李克強首相の初来日 2018.05.10 金正恩の再訪中と李克強首相の初来日 HS政経塾担当チーフ 古川裕三 ◆金正恩が再訪中 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が7日から8日にかけて中国の習近平国家主席と大連で再び会談しました。 3月26日に初の中朝首脳会談が行われたばかりでしたが、なぜこの短期間で金氏は再び中国を訪れたのでしょうか。 背景には、米朝首脳会談に向けた事前協議がもつれていることがあげられます。 トランプ大統領は、5月4日時点で首脳会談の「日時と場所は決まった。すぐに発表できる」としていましたが、発表はなされず、6日には北朝鮮外務省報道官が「圧迫と軍事的威嚇を引き続き追及するなら問題の解決に役立たない」と述べてアメリカへの反発を強めました。 トランプ大統領は、非核化が達成されるまで最大限の圧力を続ける姿勢を崩していないため、米朝首脳会談前に改めて中国の後ろ盾を得る必要があったのでしょう。(5/9読売新聞) トランプ大統領には、引き続き、融和ムードに流されることなく、北の核開発施設、実験基地、長距離・中距離・短距離弾道ミサイル基地、施設、装備の完全放棄ないし、壊滅、さらには化学兵器、生物兵器、攻撃機、潜水艦、戦車、大砲、電磁パルス攻撃システムにいたるまで完全破壊すべく、断固たる覚悟をもって米朝会談に臨むよう期待します。 ◆李克強首相が初来日 一方、日本では9日、日中韓首脳会談や、日中首脳会談、中韓首脳会談などの日程をこなすため、中国の李克強首相が8日に初来日しました。 来日に先立ち、5月8日付の朝日新聞に李氏が寄稿した記事が掲載されました。 それによると、本年が日中平和友好条約締結40周年にあたることなどに触れ、日本との関係改善に向けて、具体的には「人民元適格国外機関投資家」(RQFII)の投資枠を日本に付与することをはじめ、日中通貨スワップ協定締結を目指すことなどが明らかにされました。 日本との関係改善に向けた李首相の発信を受けて朝日新聞は好意的に報じました。 ただし、朝日新聞への今回の李氏の寄稿の全文には、「近代に入ってから、日本軍国主義が起こした侵略戦争は中華民族に深刻な災難をもたらし、日本人民も大きな被害を受けた。」と記されている箇所もありました。 しかし、それを言うならば、中国国内において民主化を求める学生たちを解放軍が粛清した「天安門『大虐殺』」について、国際社会に説明責任を果たすべきです。 ◆中国のチベット侵略 そもそも、中国の歴史は侵略の歴史です。中華人民共和国が建国した1949年の翌年には、チベットを侵略しました。 中国は、当時チベットには外国人がほとんどいなかったにもかかわらず、「人民解放軍の基本的課題は、本年中にチベットを帝国主義者の手から『解放』することである」と宣言しました。 この「解放」を名目に、1950年10月には中国の人民解放軍が数万人規模で侵略軍を組織し、東チベットに侵攻しました。 時あたかも、朝鮮戦争開戦当時で、中国は火事場泥棒的にチベットを奪い取ったわけです。 侵略後、チベットは「自治区」とされましたが、民族の自治、信教の自由は認められず、貴重な仏教寺院は破壊され、多くの僧侶、尼僧が残酷な拷問の末に処刑されました。 ◆日本への警告 『犠牲者120万人 祖国を中国に奪われたチベット人が語る侵略に気づいていない日本人』の著者ペマ・ギャルポ氏は、日本人に警鐘を鳴らします。 侵略され始めた当時、チベット全土が標高4000メートル以上の高地にあり自然要塞として外的から守られてきたことで、ある種の「平和ボケ」があったことや、世界情勢への無知、さらに決定的だったのは、国防のための近代的な軍隊の必要性をチベット人が重要視しなかったことなどが侵略を許した原因とペマ氏は指摘します。 同書には「現在の日本国の憲法前文、そして第九条と、それを守るべきだとする日本の知識人、政治家の発言は、私には、かつてのチベットを滅ぼした言説とまるで同じ幻想にとらわれたもののように思える」と書かれています。 日本も、今が正念場です。自分の国は自分で守る当たり前の国になるか、中国あるいは統一朝鮮の属国になるのか、選択が迫られています。 参考文献:『犠牲者120万人 祖国を中国に奪われたチベット人が語る侵略に気づいていない日本人』ペマ・ギャルポ著 『China 2049秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』マイケル・ピルズベリー著 『李克強 次期中国首相本心インタビュー 世界征服戦略の真実』大川隆法著 『文在寅守護霊VS金正恩守護霊 南北対話の本心を読む』大川隆法著 『司馬遼太郎 愛国心を語る 天国からの緊急メッセージ』大川隆法著 早められたイラン核合意離脱の真意――トランプ大統領はイラン・北朝鮮の核を許さない 2018.05.09 早められたイラン核合意離脱の真意――トランプ大統領はイラン・北朝鮮の核を許さない 幸福実現党・山形県本部統括支部長 城取良太 ◆早められた合意破棄の発表 米国・トランプ大統領は8日午後、イランと欧米関係6カ国が締結した核合意から離脱することを発表しました。 その会見の中で、トランプ大統領はイランとの核合意を改めて辛辣に批判したうえで、最高レベルの経済制裁を科すと表明。 そして、イランが核開発計画を放棄しなければ「今までにないほどの大問題に見舞われる」と警告を投げかけました。 また、金正恩委員長の名前も挙がり、来たる米朝首脳会談の内容を想起させる言及や、日中韓との協力という言葉が出てきました。 予定されていた12日の発表を大幅に早め、日中韓首脳会談の日に合わせてきたトランプ大統領の意図があるようにも感じます。 ◆イランとの「核」対話路線が中東の混迷を助長させた さて、「核なき世界」を提唱し、就任早々にノーベル平和賞を受賞したオバマ前大統領が、自身の集大成の「レガシー」として注力したのが、このイラン核合意です。 この合意はイランが核開発を大幅に制限する代わりに、国際社会は経済制裁を解除するという取引でしたが、合意に至るまで「イランは未だかつて一度も核兵器開発を目指したことはない」という前提条件で協議されてきました。 しかし、イスラエルは4月末、イランが密かに核兵器開発を推進してきた「アマド計画」に関する証拠文書の存在を公開し、イランの虚偽に基づいた核合意を改めて批判しました。 トランプ大統領も昨日の会見の中で「イランの約束が嘘だという決定的な証拠がある」と述べていますが、当の本人は2016年の選挙戦の最中から、この合意内容の真偽や実効性に対し、既に強い不信感を露わにしており、再協議、または破棄すべきだという事を公言してきた経緯もあります。 オバマ氏は一貫してイランとの融和・対話路線を採ってきましたが、これが皮肉なことにイランの野望を増長させ、シリアを中心に中東全域の混迷を助長する結果となりました。 オバマ氏の8年間で更に複雑に絡み合ってしまった中東情勢を正常化させる第一歩として、トランプ大統領による核合意離脱は歴史的な分岐点と言っても過言ではありません。 ◆核合意離脱は北朝鮮に大きなインパクトを与える また、この核合意離脱は今後の米朝首脳会談の動向にも大きな揺らぎを与えることは間違いなく、少なくとも北朝鮮にとっては大きな衝撃であったはずです。 もともとイランと北朝鮮は80年代からつながりが深く、近年では核ミサイル開発で協力関係にあることは公然の事実であり、トランプ大統領は両国の深いつながりについて明確に認識し、言及もしています。 また、両国が国際社会から経済制裁措置を受けている間も、独自のルートを活用した武器弾薬等の取引が横行し、実際に中東・アフリカの戦場で多くの北朝鮮製の武器弾薬が使用されている痕跡もあります。 要するに、どちらかが核ミサイル開発を完全に成功させれば、どんなに厳しい制裁が引かれていても網の目をかいくぐって、直ちに核兵器が拡散する可能性は極めて高いということになるでしょう。 メディアの中には「イランに対する厳しい核合意離脱に比べ、北朝鮮との非核化の合意形成については楽観的すぎる」という批判的な見方もありますが、核弾頭の開発においてイランを先行している北朝鮮に対して、トランプ大統領が手を緩めるとは考えられません。 「完全なる核廃棄、それが出来なければ先制攻撃を正当化」が持論のボルトン氏の起用、直後のシリア攻撃を両国へのメッセージと考えれば、今回の離脱は北朝鮮に対して「時間稼ぎの対話と秘密裡の開発はこれ以上許さない」という明瞭な一線をトランプ大統領は示したと言えるでしょう。 ◆イスラエル、サウジアラビアから考える日本のあるべき姿 そんな最中、日中韓首脳会談を迎えましたが、日本はどうあるべきなのでしょうか。 シリア、レバノン等でのイランの勢力伸長に大きな危機感を募らせてきたイスラエルは同盟国の判断に完全なる支持を表明する傍ら、国境付近でイラン系勢力との一触即発の状態が続く中、自国防衛のために、米国に依存することなく先制攻撃を辞さない姿勢を示しています。 サウジアラビアも米国協力のもと原子力開発に着手し、核保有の可能性に言及するなど、イラン核保有となった際には、直ちに自国と中東の安定を守る体制を確立しようとしています。 翻って、日本の国会審議では野党のボイコットや国家の一大事とは程遠い枝葉の議論で終始し、憲法改正の議論は遅々として進まない状況です。 北朝鮮の完全なる核廃棄を米国が確実に実現すべくバックアップしながらも、イスラエルやサウジアラビアの姿勢に倣い、いざという時には自分の国は自分で守れる体制を構築すべく、憲法改正を推し進めていく使命が日本の政治家にはあるのではないでしょうか。 北の核の裏で進む中国の軍拡――日本に国家戦略はあるのか 2018.05.08 北の核の裏で進む中国の軍拡――日本に国家戦略はあるのか 幸福実現党 外務局長 及川幸久 ◆問題は北朝鮮だけではない 5月9日、東京で日中韓首脳会談が開かれます。 首脳会談では、中国の李克強首相と韓国の文在寅大統領が出席し、安倍首相は北朝鮮情勢を最重要課題として協議しようとしています。 北朝鮮との対話路線に日本を引き込む目論見が見える韓国と中国に対して、日本は開催国として成果を出すことはできるのでしょうか? 確かに、北朝鮮の核の脅威は日中韓の共通の問題です。しかし本当の問題は北朝鮮のバックにいる中国です。 北朝鮮の核に注意を奪われているうちに中国はアメリカを倒すほどの軍事拡大を進めています。 現在の世界の問題は北朝鮮だけではありません。 中国が自治区にしたウイグルでは、中国への異常な同化政策が行われています。(注1) まず、「ウイグル語が禁止」され、学校では中国語を強制しています。 家でもウイグル語が禁止され、全家庭に盗聴器と監視カメラがあり、完全な監視社会になっているのです。 女性は中国人と強制結婚させられ、ウイグル民族を消滅させようとしています。 そして、中国は徹底的な「思想管理」も行っています。 過去の言動を調査され、少しでも中国批判があると「再教育キャンプ」という強制収容所に送られ、拷問を受けます。その多くが虐殺されており、これは「現代のホロコースト」です。 さらに、一説によるとウイグル人たちの臓器が臓器ビジネスで売られています。中国では、年間6~10万件の臓器移植が行われていると言われています。 かつて、ヒトラーがユダヤ人600万人を虐殺しましたが、同じことが今の中国で起きているのです。 ◆中国が着実に進める軍拡 次に、「中国の軍拡」です。中国は、いよいよ台湾を本気で取る気でいます。その時期は2020年とも、2021年とも言われています。 空母「遼寧」だけでなく、次々と大型戦艦を保有して台湾海峡を支配する計画です。さらに、台湾側の海岸線には185機の無人攻撃機を配備しています。 ある自衛隊筋の情報では、日本に対しても最新鋭の戦闘機を930機配備していますが、これは350機の日本の航空自衛隊の3倍で、日本はもう守りきれない状況です。(注2) 地上軍を運ぶ能力も3万人に増強し、3個師団を同時に運ぶことができます。これは九州の自衛隊の1.5倍です。つまり台湾も日本の島嶼もいつでも侵攻できる能力を持っています。 そして、中国には最強のミサイル「東風」(注3)があります。 「東風」は、マッハ10で飛び、アメリカを攻撃できるミサイルです。これで、中国が台湾侵攻してもアメリカが介入できないようにしたのです。 幸福実現党の大川隆法総裁は、最新刊『司馬遼太郎 愛国心を語る』(幸福の科学出版)で、中国の戦略は「天下二分の計」である指摘しています。 「ハワイを境に米中で地球を二分しよう」という計略です。 ◆本当に大切なのは「国家戦略」 中国は、台湾に侵攻し、アメリカに手を出させないようにし、日米を分断しようとしています。その日本に足りないものが「国家戦略」です。 中国は2020年代後半には、GDPでアメリカを抜くと予想されています。 習近平主席は、「中華民族の偉大な復興」という夢の実現を掲げ、人民共和国の建国100周年となる2049年に、軍事力でアメリカを抜き、世界一の覇権国家になると宣言しています。 トランプ政権は防衛戦略を作り直し、中国を敵国であるとはっきり明記しました。 その中で、日本は相変わらず「防衛費はGDPの1%以内」「必要最小限の防衛力」「専守防衛」、そして「憲法9条」を守り続けています。 今回の首脳会談で、安倍首相は李克強首相と北海道まで同行します。日本は従来の日中関係を大切にしようとしていますが、本当に大切なのは、「国家戦略」ではないでしょうか。 なぜ、中国の首相が北海道に行くのか、世界の覇権国家を目指す中国は太平洋への出口を確保しようとしているからに他なりません。 日本の仮想敵国はどこかをはっきりさせねばなりません。 ◆中国には砲弾ではなく「自由・民主・信仰」を 中国は独裁国家です。独裁国家には砲弾ではなく「自由」と「民主」という考え方を入れるべきです。 今の共産主義と対立する考え方を入れて、国内に思想の自由競争を起こすことで、独裁国家は自動的に崩壊します。 もう一つ必要な思想が「信仰の自由」です。中国はウイグル人を粛清し、イスラムの信仰を奪っています。ウイグルの人権を守るためには、信仰の自由を守るという思想が必要です。 独裁国家として「信仰の自由」を認めず、人権弾圧を繰り返す中国に世界の覇権を持たせては絶対にあってはいけません。 そのために、まずは日本が憲法改正をし、日米同盟を強化することで中国に対抗できる防衛力を持つことが大事です。そして中国に「自由・民主・信仰」という価値観を撃ち込む必要があります。 自由で、民主的で、信仰に基づく人権が保障される国家を日本が世界に示すべきでしょう。 私達幸福実現党は、北朝鮮の核の問題のみならず、その裏で進む中国の軍事拡大から世界の平和を守るために頑張って参ります。 (注1) 【参考】中国のウイグル弾圧 ■2018.01.05 AIに顔認証……中国がウイグルで実験し始めた監視社会の実態 https://the-liberty.com/article.php?item_id=13986 ■2018.02.13 BBCが新疆ウイグル自治区での現地取材 映像が伝えるリアルな「監視社会」 https://the-liberty.com/article.php?item_id=14117 ■2018.01.27 中国で急増する臓器移植 その臓器は「無実の囚人」から摘出されている https://the-liberty.com/article.php?item_id=14077 (注2) 関連記事「世界の軍事費、冷戦後最高 アジア大洋州が伸び率トップ」(5/8「朝日」) https://www.asahi.com/articles/ASL5232GGL52UTFK001.html 「過去10年の伸びをみると、軍事費世界1位が続く米国は17年に6100億ドルだが14%減ったのに対し、東アジアは68%増。2位の中国は推定2280億ドルと2倍強に増え、8位の日本は4・4%増の454億ドル、10位の韓国は29%増の392億ドルになった。」 (注3) ■「軍事研究」2016年11月号、田中三郎氏「日米ミサイル防衛網を無力化!」より 「人民日報網」は、中国の新型の極超音速滑空体(hypersonic glide vehicle)の7回目の飛行試験が先週(田中氏注:2016年4月17~23日と推定)、山西省北西部で実施され成功裏に終了したと報じた。東風‐ZF(DF‐ZF)滑空体はマッハ5~10の間で飛行できる。 ■「中国、新型ミサイル試射か 極超音速兵器向けに開発」(2017/12/30「産経」) https://www.sankei.com/life/news/171230/lif1712300016-n1.html 「東風17」(推定射程1800~2500キロ)の発射実験を2回実施した。東風17が2020年ごろに実戦配備が可能な能力を獲得すると米情報筋はみているという。極超音速兵器は現在のミサイル防衛システムでは迎撃困難。 すべてを表示する « Previous 1 … 28 29 30 31 32 … 98 Next »