Home/ 山城頼人 山城頼人 執筆者:山城頼人 HS政経塾 12期生 台湾有事に備えて、国民保護法の改正を!沖縄県民の生命を守るためには 2024.03.13 http://hrp-newsfile.jp/2024/4485/ HS政経塾第12期生 山城頼人 ◆台湾有事に備え、沖縄等の避難想定が進むも、現状では大事な視点が足りていない 近年、中国の習近平国家主席は台湾の統一についての発言を繰り返しており、専門家の間では、習主席の任期が終わる2027年までに、台湾の統一に向けて動くのではないかと言われています。 こうした台湾有事の際に国民の生命を守るために、「どのようにして避難をするか」ということが真剣に検討され始めています。 沖縄県の先島諸島(与那国島や石垣島、宮古島など)をはじめ、今年の1月には鹿児島県の離島の住民避難を想定した図上訓練が行われました。 今まで台湾有事に備えた訓練は行われていなかったため、実際に訓練を行って、課題を洗い出すことは重要なことです。しかし、大事な視点が抜け落ちています。それは、住民に対して「避難指示が出るタイミング」です。 ◆戦闘が目前にならないと避難指示を出せない!? では、なぜ「避難指示が出るタイミング」が問題なのでしょうか。それは、台湾有事が起きて、先島諸島周辺が戦闘区域に入ってしまえば、避難が困難になるからです。 特に与那国島は台湾から約110キロの近さに位置しているため、真っ先に巻き込まれてしまいます。ですから、いかに早く避難を始めるかが重要なのです。 しかし、現行の国民保護法だと避難は間に合いません。その理由は大きく二つあります。 一つ目は、現行法では「武力攻撃予測事態」にならないと国民への避難指示が出せないためです。武力攻撃予測事態とは、「他国からいつ攻撃を受けるか分からない切迫した事態」です。 例えば、沖縄の離島が軍艦で囲まれ、明確に攻撃が行われると予想される事態などがあげられます。つまり、もう戦闘が目前に迫っている状態なわけです。こうした状況下で避難指示が出たとしても、先島諸島の避難には間に合わないのです。 なぜこのような法律になっているのでしょうか。それは、戦後の行き過ぎた平和主義から諸外国や自治体に必要以上に配慮して、法律を整備し、複雑化していったからです。 二つ目が、住民を輸送する手段が事実上ないということです。そもそも、自衛隊は住民避難への輸送に協力する余裕はありません。自衛隊の主要な任務は外敵(敵国)の排除になります。 軍事大国である中国を相手に戦うと考えると、住民避難のための輸送力を提供するのは困難であるのが実情です。大地震のときのように人命救助に徹することはできません。 また、民間の運送会社(航空会社、海運会社)が住民避難の輸送に協力してくれるかも、実際のところ分かりません。 そもそも、民間の運送会社に、住民避難を手伝う義務はありません。もし、武力攻撃事態に至れば、民間船が攻撃されるリスクもあります。 このようなリスクを背負ってまで、運送会社が自社の社員を現地に送り出すのかは疑問に思います。 前提として、そのような危険な状況下で、民間企業に避難を行わせるような計画を当初から考えるべきではありません。 ◆早いタイミングで避難指示を出せるようにするには 以上の理由から、武力攻撃予測事態よりも、早いタイミングで避難指示を出すことができるように、国民保護法の改正を行うべきです。具体的には軍事衝突が深刻化していない段階である、「存立危機事態」と「重要影響事態」の両事態でも避難指示を出せるようにすることです。 存立危機事態とは、「日本と密接な関係にある国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる事態」のことを意味します。 例えば、米軍が中国から攻撃を受けた事態などがあげられます。重要影響事態とは、「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」のことを意味します。例えば、南シナ海における中国とフィリピンの軍事衝突などがあげられます。 先島諸島の住民が、安全な間にすばやく島外避難を行えるようにするには、このような法改正をするべきです。 そして、政府は、存立危機事態と重要影響事態の解釈の範囲に、「台湾と中国の軍事衝突」、また「軍事衝突の予兆」を含めて、普段からシミュレーションを行っていく必要があります。 その上で、国民保護法を改正して、早いタイミングで避難指示を出せるような体制を構築すべきです。 もちろん両事態でも、自衛隊は敵国への対応を強いられるので、災害時のように人命救助のみに力を割くことはできませんが、武力攻撃予測事態よりも時間的には余裕が生まれます。 この間に、民間とも協力しながら、住民の輸送を行うべきです。 ◆沖縄県民の生命を守るために、一刻も早い法改正を もちろん、他にも課題は山積みです。例えば、避難にあてる具体的な輸送力の確保、避難場所の確保、空港の滑走路の延伸工事や港の岸壁の工事、または島内にも避難できるように地下シェルターの建設などが必要となります。 しかし、そうした準備を行っていたとしても、避難指示の出るタイミングが遅ければ、沖縄県民の生命を守ることはできず、本末転倒になってしまいます。 このような事態を招かないためにも、一刻も早く国民保護法の改正を行うべきです。 そして、そもそもこうした事態を招くことがないよう、同時に国防の強化と戦略的外交を展開していくべきです。 沖縄県那覇市に核シェルター設置を 2022.10.06 http://hrp-newsfile.jp/2022/4358/ HS政経塾12期生 山城 頼人 ◆核攻撃の危険性があるが避難場所がない日本 中国による台湾侵攻に際して、日本への核・ミサイル攻撃の可能性も考えなければなりません。 現状の日本の地下駅舎では、「核兵器攻撃による放射能物質の流入を防ぐのは困難」であると政府が判断していたことが、産経新聞の報道にて明らかになっています(※1)。 つまり、核攻撃から身を守れる公共の避難場所が、日本国内には存在しないことを意味しています。 そのような中、台湾有事に備えるために、政府が先島諸島に住民避難用のシェルターを整備する方向で検討に入っていると報道がありました(※2)。 先島諸島のみならず、日本の各都市には、最悪の事態である核攻撃から国民を安全に守れる、「核シェルター」の設置が急務です。 ◆核シェルターの特徴 核シェルターとは、核・ミサイル攻撃による閃光や衝撃、放射能や生物化学兵器などによる有害物質から身を守るための避難場所を指します。 核シェルターは、鉄鋼建築による強度性と外気を完全遮断できる機能(複数の扉など)を備え、核兵器による放射線物質の室内侵入を防ぐ「特殊空気ろ過装置」と、電力発電所からの電力供給の停止を考えた「自家発電装置」の設置が必須です。 また、核爆発後に生じる放射線の減衰期間から考え、最低でも2週間はシェルター内に滞在できるよう、食料や水、簡易トイレ、生活物資の備蓄が必要です。 海外では、個人用核シェルターを持っている人も多く、自宅の地下室や庭などに地上型か地下型のいずれかで設置しています。また、ビルの地下空間や地下鉄駅、地下駐車場などが、公共用核シェルターの機能を兼ねている場合が多いです。 スイスの人口あたりの核シェルター普及率は100%以上(※3)、スウェーデンは約70%(※4)、台湾台北市には、台北市人口の4倍を収容する4600箇所もの核シェルター施設があり、市の人口の4倍以上にあたる約1200万人を収容できると言われています(※5)。 シンガポールでは1998年以降、新築住宅にはシェルター設置を義務付ける措置をとるなどして国民保護を国家事業として行っています。 ◆ドイツの地下鉄駅兼核シェルター(※6) ドイツの都市ボンにあるボン地下鉄駅は、最大14日間、約4,500人を収容できる核シェルターでもあります。 1960年代に、東側諸国との武力衝突の危険性から、地下鉄駅内の改修工事が始まり、1979年に地下鉄駅兼核シェルターとして完成しました。 ボン地下鉄駅には、都市の送電網に障害が発生した場合も想定して、非常用電源装置が備えられており、平時の際はボン市営鉄道の鉄道運行のための非常用電源装置として機能しています。 飲料水タンクやシェルター避難者の排熱を減らすために独自の井戸水を利用した水冷式冷却装置、空気ろ過機も備わっています。 ボン地下鉄駅の改修工事は、政府による補助金のみで1,110万DM(ドイツマルク※7)、当時の円レートにして約12億円を費やしています(※8)。 日本も既存の地下施設の改修工事をして、核シェルターとして活用する方法が良いでしょう。 ◆公共と民間の地下施設を、核シェルターとして活用 そこで、国防の最前線地である沖縄県の那覇市に、公共と民間の地下施設を活用した核シェルター設置の実現性を考えてみたいと思います。 那覇市にある公共地下施設は、「県民広場地下駐車場」、「なは市民協働プラザ」の計二箇所になります。本二箇所は県が管理する地下施設であり、既に「緊急一時避難施設」として県が指定しています(※9)。 那覇市にある民間地下施設は、「パレット久茂地地下駐車場」、「泊ふ頭地下駐車場」、「首里城公園地下駐車場」の三箇所の地下駐車場があげられます。 民間地下施設を避難場所(核シェルター)として活用するには、都道府県知事が施設管理者の同意を得られれば、可能となります(国民保護法第148条)。 また、現在沖縄県によって進行中の「沖縄鉄軌道計画」では、那覇市内に鉄道を通すにあたって「地下駅」が構想されているので、本地下鉄駅もボン地下鉄駅のように核シェルターとして活用できるよう計画を進めていくべきでしょう。 ◆核シェルター設置への課題 那覇市への核シェルター設置に向けての課題は二点あります。 一点目が、予算の問題です。上述したように、核シェルターには様々な設備工事が必要になり、最低でも2週間は滞在できるように、食料や水、簡易トイレ、生活物資などの備蓄が求められます。ボン地下鉄駅の例であるように、改修工事には数億から数十億円の出費が伴われます。 さらに維持費も考えなければなりません。とはいえ、既存の地下施設を核シェルター化に向けた改修工事は急務であります。財源としては沖縄振興予算からの捻出が考えられます。 二点目が、既存の地下施設のみでは市民全員を収容できないことです。 避難所において一人当たりの必要な収容面積は3.5平方メートルと言われています(※10)。那覇市の人口は約32万人(317,406万人)(※11)です。 那覇市民を地下施設に避難させるにあたり、単純計算で合計112万平方メートル(32万×3.5平方メートル)の面積を要した地下施設が必要になります。 上述した公共地下施設である県民広場地下駐車場は、地下三階建ての計10,688平方メートルの地下面積を要しており、仮に収容人数を約3,000人(10,688平方メートル÷3.5平方メートル)と考えます。 つまり、県民広場地下駐車場ほどの面積を要した地下施設が、市内に約110箇所(32万人÷3,000人)必要という計算になります。 ◆行政が取り組むべきこと 本二点の課題は、那覇市のみならず各都市でも直面する課題でしょう。まず行政が取り組めることは、新規で建物を建設する際に、核シェルター設置が容易にできる法整備(固定資産税の優遇など)です。 さらに、既存の建物にも核シェルター設置を推進し、個人用核シェルターの設置も市民に普及させていくべきです。 また、核シェルター建設費として、国家予算の公共事業関係費などを増額する必要があります。 本記事では、那覇市を例に考えましたが、核シェルターの設備工事は、日本の各都市が取り組むべき喫緊の事業になります。 抑止力としての防衛力も高めていく一方で、国民の命を守る国民保護にも意識を向けなければなりません。 (※1)産経新聞朝刊(2022年8月1日) (※2)時事通信社(2022年9月16日) (※3)swiaainfo.ch 《https://www.swissinfo.ch/eng/prepared-for-anything_bunkers-for-all/995134》 (※4)Swedens`news in English 《https://www.swissinfo.ch/eng/prepared-for-anything_bunkers-for-all/995134》 (※5)ロイター『有事に備える台湾防空壕整備』(2022年8月4日) 《https://jp.reuters.com/article/taiwan-defence-shelters-idJPKBN2P90IY?feedType=RSS&feedName=special20》 (※6)「Der Großschutzraum in der U-Bahnstation Bonn Hauptbahnhof 」geschichtespuren.de 《https://www.geschichtsspuren.de/artikel/bunker-luftschutz-zivilschutz/172-bunker-u-bahn-bonn-hauptbahnhof.html》 (※7)DM=ドイツマルク。1948年6月20日から1998年12月31日までのドイツ連邦共和国(1990年のドイツ再統一までは西ドイツ、それ以降はドイツ)の法定通貨。 (※8)1971年1月から1980年12月までの各月を円レートで平均し、1DM=111円となった。 《https://fx.sauder.ubc.ca//data.html》 (※9)「内閣官房国民保護ポータルサイト」 《https://www.kokuminhogo.go.jp/hinan/index.html》 (※10)スフィアハンドブック-人道憲章と人道支援の最低限基準2018年- 《https://jqan.info/wpJQ/wp-content/uploads/2019/10/spherehandbook2018_jpn_web.pdf》 (※11)那覇市公式ホームページ(2022年7月末時点) 《https://www.city.naha.okinawa.jp/》 すべてを表示する