Home/ 西邑拓真 西邑拓真 執筆者:西邑拓真 政調会成長戦略部会 地方活性化に向けて(1)――群馬県上野村「農林業の6次産業化」の事例 2016.08.27 HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆危機にある「地方」 近年、「地方」が危機の中にあると叫ばれています。 国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、今後、人口が激減する自治体が急増し、2040年に人口5000人未満となる自治体は全自治体のうち5分の1以上を占めるであろうと予測されています。 特に、地方自治体のうち、2040年時点に20-39歳の女性人口が半滅すると推計される自治体は「消滅可能性都市」と呼ばれるようになりました。 これに関し、2014年5月に行われた「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会」において、2040年までに全国約1800市町村のうち約半数(896市町村)が消滅する恐れがあるということが発表されました。 このように、人口の大幅な減少により、いわば「存続の危機」に直面している地方は、今、その活性化のための施策の実施が急がれているわけです。 ◆人口の19%が「移住者」で占められる上野村 当稿では、地方を活性化させるための施策を考えるきっかけとして、群馬県上野村の事例を取り上げることに致します。 上野村は、人口1300人(2016年3月時点)で、群馬県内で最も小さな自治体です。 同村では定住人口を増加させるため、早期から高齢化や過疎化に対する様々な取り組みが行われてきました。 その結果、上野村へIターン(出身地とは別の地域に移住すること)を行った者は、平成元年からの総計で121世帯254名にものぼり、現在は、移住者が人口の約19%を占めるまでになりました。 また、上野村への移住者に対するアンケート調査によると、およそ5人に4人もの人が「今後も上野村で暮らしたい」と答えており、このことは、移住後の生活満足度も高いことを裏付けています。 そして、移住を行うかどうかに大きな影響を及ぼす要因になると思われるのが「雇用」や「所得の向上」です。 そこで、ここでは、上野村で行われている様々な施策のうち、地元産業の活性化策に焦点を当てて議論を行って参ります。 ◆上野村における農林業の6次産業化 上野村では、地元資源の活用を通じた「農林業の6次産業化」に向けた取り組みが行われています。 6次産業化とは一般的に、第1次産業としての農林業が、第2次産業である食品加工業や第3次産業のサービス業に進出することを通じ、特に地元経済を活性化させることを指します。 上野村における取り組みとして、まず取り上げられるのが「きのこ栽培」です。 同村では、以前より椎茸や舞茸の栽培が行われてきましたが、新鋭設備を有する「きのこセンター」の建設や、きのこ類の製造・販売など村の積極的な取り組みにより、きのこ類が村の基幹産業に育てあげられてきたわけです。 また、林業に関しては、9割以上が山林で占められる同村は、以前から行われていた丸太の出荷に留まらず、通例、伐採の際に出荷することができないとされる間伐材に着目しました。 それを木炭や木酢液、また、ストーブなどの燃料となる木質ペレットの生産に活用し、生産工場を村が直営で事業化しています。 さらに13年には、これら農林業に対する資金面や経営面でのバックアップなどを目的として、地域ファンド「上野村活性化投資事業有限責任組合」が発足しています。 このファンドは、地元金融機関ではなく自治体が主体的に組成している点で、非常に画期的なものとなっており、こうしたことからも、農林業の6次産業化の更なる推進の取り組みに対する自治体の積極的な様子が現れています。 ◆地方活性化策とは では、この上野村の事例から、どのような地域活性化に向けたヒントを見出すことができるでしょうか。 一点目は、上野村では林業やきのこ栽培に関する潤沢なる経営資源が有効利用されているという点です。まず、「地域」について知り尽くし、ヒト、モノ、カネ、情報などといった「強み」となる資源を見出していくことが必要であることを、この事例は物語っています。 二点目は、本来廃棄されるはずの間伐材の例のように、地元の経営資源をうまく転換しながら、それを「顧客の満足」につなげるためにあらゆる創意工夫が施され、様々な製品の製造や販売がなされているという点です。 そして三点目は、「外部との連携」を構築することです。上野村では、多くの移住者が林業やきのこ栽培に携わっているという点で、元々外部にあった「人的資源」がうまく活用されている一方で、上野村における今後の長期戦略として「販路の開拓」が課題の一つであるいう指摘もあります(竹本昌史『村ぐるみで6次産業化 シンボル事業を深堀り』参照)。 リーダーシップを発揮し、こうした「課題」の解決に導く人材が、村の内部にいるとも限りません。外部との人的ネットワークの構築等を通じた取組で、6次産業化のさらなる発展が望めるかもしれません。 このように、地域の活性化に対しては、(1)地元資源の最大活用、(2)創意工夫と試行錯誤によるオリジナリティの創出、(3)外部との連携強化という、三つのヒントを挙げることができるでしょう(週刊ダイヤモンド2014年4月12日号「地方復活の特効薬 “ジリキノミクス”」参照)。 また、この事例を見ても、地方活性化のための鍵は「国からの補助金」などの外部要因に求めることができるわけではないこともわかります。 やはり、地元の資源を生かし切ることで産業を推進させ、地域の魅力増大につなげていこうとする「自助努力の精神」にこそ、地域活性化のための根本的なヒントが隠されていると言えるのではないでしょうか。 (参考文献) 週刊ダイヤモンド2013年7月6日号「『イナカノミクス』成功の極意」 週刊ダイヤモンド2014年4月12日号「地方復活の特効薬 “ジリキノミクス”」 竹本昌史『村ぐるみで6次産業化 シンボル事業を深堀り』, 経済界2014年7月8日号. 佐藤知也 『移住者を後継者に変える村づくり』, 「農業と経済」2016年5月号. 止まらない社会保障給付増——―日本は、新たなグランド・デザインを描け! 2016.08.20 HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆増大し続ける社会保障給付費 国立社会保障・人口問題研究所は今月5日、2014年度の年金や医療、介護などの社会保障給付費が前年度比1.3%増の112兆1020億円だったと発表しました。 その内訳は、医療が前年度比2.0%増の36.3兆円、年金は、支給額減額の影響により0.5%減の54.3兆円、また介護などを含む「福祉その他」は4.6%増の21.4兆円となっています。 社会保障給付費は、毎年概ね1兆円増を繰り返しており、財政状況の大きな逼迫要因となっています。 また、国民から徴収する社会保険料収入では、増え続ける社会保険給付費を賄いきれていないのが現状で、公費負担つまり税金によってその埋め合わせが行われています。 このように、消費税を含めた増税議論の根本要因ともなっている社会保障給付費の伸びを、どのように押さえていくかということが今、国家的な課題となっています。 ◆給付費増大の構図 では、そもそも日本は、なぜこのような事態に直面しているのでしょうか。 それについて、日本で急速な「少子高齢化」が進行していることと、社会保障制度が「賦課方式」を採用していることに、その要因を求めることができます。 内閣府の「高齢社会白書(平成27年度版)」によると、総人口に対し65歳以上の高齢者が占める比率である「高齢化率」は、2014年現在で26%という実績が出ており、さらにこの割合が25年には30%、60年には40%に上昇すると推計されています。 高齢化が進行すれば、医療費等が高騰化するのは避けることができないのと同時に、高齢者の社会保証給付費をその時の現役世代が賄う仕組みである「賦課方式」が用いられれば、急激な高齢化が現役層の社会保障負担額に直結することになります。 例えば、以下のように一人の高齢者が、年金、医療費、介護費など、毎月30万円の社会保障費を費しているケースを考えれば、若者の負担の大きさを実感することができます(鈴木亘『社会保障の「不都合な真実」』参照)。 1960年代には、10人の現役世代が1人の高齢者を支え、その高齢者一人を支えるために、現役世代一人当たり3万円の負担のみが強いられる構図となっていました。 しかし、2010年代には、3人の現役世代が1人の高齢者を支えなければならなくなったため、一人当たりの負担は10万円に増加しています。さらには、2050年代になれば、30万円全ての社会保障負担額を一人の現役層が賄わなくてはならない状況になるとされています。 このように、日本の社会保障制度は、今後、制度そのものが維持できなくなる事態に発展しようとしているわけです。 ◆国の新たな「グランド・デザイン」明示の必要性 小泉内閣時代、「低福祉・低負担」の社会保障が標榜され、毎年2300億円もの歳出抑制を実行しました。 これは、「小さな政府」路線に沿った改革で、日本の現状を考えれば必然的な改革であったと言えます。 しかし、先述の通り、社会保障費が増大している額は毎年1兆円にものぼるため、これだけの歳出減を行った小泉改革であったとしても、それは多額にのぼる負担増を単に一部緩和したものに過ぎず、根本的な解決策を提示したわけではなかったと言えます。 また、その後の各政権においては、具体的な改革策が示されず、社会保障問題の先送りが繰り返されています。 そして、日本は今、目先の歳出抑制策だけでは十分ではないことが明らかになっている中で、国民にとって最適な社会保障政策の方向性を指し示す「グランド・デザイン」を描く必要性に迫られているのです。 ◆生涯現役社会の構築 日本の社会保障問題に対する根本的な取り組みを行うためには、人口増加のためのあらゆる政策の構築に取り組んでいかなければなりません。 同時に、現在直面している高齢化については、高齢者を「若者に支えられる立場」から、むしろ「現役世代」、すなわち「日本経済を支える立場」へと社会的に認識を変えていくことが必要です。 ここで、「高齢者白書(平成28年度版)」によると、60歳以上の方の約7割が就業を希望しており、その中の2割が「働けるうちはいつまでも働きたい」としています。 また、65歳以上の高齢者のうち、人口に占める「働く意思も能力もある人」の割合を示す「労働力率」については、日本は他の先進国に比べて高い水準を保っています。 また、高齢者が仕事を持って生きがいを持った生き方をすれば、それが健康増進につながり、高騰する医療費の抑制につながる可能性もあるでしょう。 これに関し、「一人当たり老人医療費」と「高齢者就業率」との間には、高い相関関係があるという指摘もなされています。 例えば、長野県の高齢者就業率は、男性38.5%、女性19.7%(平成24年)と共に国内トップである一方で、一人当たり実績医療費も78.9万円(平成25年)と、国内で三番目に低い水準となっています。 このように、働く意欲の高い高齢者の智慧が国・地域・各企業の発展に活かされる社会を構築していくと共に、高齢者が生涯にわたって健康的で「生きがい」を持って人生を全うできる「生涯現役社会」の構築が今、この国に求められているのではないでしょうか。 【参考文献】 鈴木亘『社会保障の「不都合な真実」』(日本経済新聞社) 日本経済新聞(電子版)2016年8月5日付「社会保障給付費112兆円に 14年度、介護伸び最高更新」 エンジェル投資で日本を元気に!――「既存企業によるベンチャー投資」編 2016.05.11 文/HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆日本におけるベンチャー投資 前回は、日本の起業立国化にとって重要なプレイヤーである「エンジェル投資家」に着目し、個人投資家によるベンチャー投資の拡大のために、エンジェル税制改革の一環として、その方式を「所得控除方式」から「税額控除方式」へ変更すべきことを提言致しました。 エンジェル投資で日本を元気に!−−−「個人投資家」編 http://hrp-newsfile.jp/2016/2649/ ただ、わが国でベンチャー投資を拡大していくためには、個人投資家だけに留まらず、現在、多額の内部留保を抱える一方で、成長面で「行き詰まり」に直面しつつある「大企業」に焦点を当て、ベンチャー投資の活性化策を打ち出す必要があります。 そこで当稿では、「企業版エンジェル税制」をテーマに、大企業によるベンチャー投資のスキームとしての「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(Corporate Venture Capital; CVC)」の推進の可能性を探って参ります。 ◆コーポレート・ベンチャー・キャピタルとは CVCとは、端的に言えば、内部資金を抱えた既存企業が経営支援(ハンズ・オン)などといったベンチャー・キャピタルと同様の活動を伴いながら、ベンチャー企業へ投資を行う主体のことを指します。 大企業側は潤沢な資金力を生かして「新しい事業の種」を獲得し、「行き詰まり」を打開する必要に迫られています。 他方で、「新しい種」を持つ可能性を有するベンチャー企業側は、資金や、経営ノウハウ、販路網といった比較的大企業が強みを持つような経営資源を必要としています。 こうした双方のニーズを満たすのがCVCです。 すなわち、両者のニーズを満たし、双方にとってwin-win関係を構築させるスキームこそCVCであるわけです。 ◆企業のベンチャー投資促進税制 日本において、CVCの重要性が認識され、それを推進しようとする動きはあるものの、その動きは、大企業のごく一部に留まっているのが現状です。 この状況を踏まえ、日本商工会議所が「平成26年度税制に関する意見」の中で「法人版エンジェル税制」の必要性に言及したり、あるいは、ベンチャー業界からも、十分な資金量を確保する必要性などから、当税制の実現を望む声が以前から多く挙がっていました。 このように産業界からの「法人版エンジェル税制」実現に対する強い声が上がる中で、2014年1月に安倍内閣において「企業のベンチャー投資促進税制」が実現しました。 これは、国が認定したベンチャー・ファンドを通じて、企業がベンチャー企業へ投資を行うとき、出資金額の80%を「損金算入」とすることを認めることで、法人税の減税措置が受けられるという制度です。 しかし、当税制が施行されて2年あまり経過しましたが、現在、政府から認定を受けているファンドはたったの3つしかなく、当税制が十分に機能せず有効利用されていないのが現状です。 したがって、当税制の問題点を排除することで、税制の活用を推し進めなくてはなりません。 ◆税制改革に向けて 当税制の阻害要因の一つに、「出資金額の合計が20億円以上でなければならない」という、ファンド規模に関する対象要件の存在が指摘できます。 これに関し、企業経営者から「この税制を通じて減税措置を受けたいものの、この要件はハードルが高すぎる」という声が挙がっているのが現状です。 この要件を緩和、あるいは撤廃することによって、減税策を受けられる裾野を広げるべきです。 2013年に、安倍政権がアベノミクス「三本目の矢」である「成長戦略」の一環として「産業競争力強化法」を成立させ、その中で「ベンチャー企業への資金供給を増大させる必要性」が謳われています。 しかし、もし税収減等を恐れて対象要件の見直しに着手できないというのであれば、「競争力強化法」本来の意義に沿わないことは明らかです。 またその他にも、ファンドを通じた「間接出資」だけでなく「直接出資」も減税措置の対象に加えたり、2017年3月までの時限立法措置を改変してこれを恒久化させることで、「今後も持続的に、企業によるベンチャー投資を国として広く推進していく」というシグナルを浸透させていく必要があります。 日本は、起業立国の実現に向けて、CVCを推進させる可能性を持つ「法人版エンジェル税制」に当たる「企業のベンチャー投資促進税制」を実質的に機能させるよう、その大幅な見直しに今迫られています。 エンジェル投資で日本を元気に!−−−「個人投資家」編 2016.03.01 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆起業家にとっての 「エンジェル」の役割 3月19日(土)より、映画「天使にアイム・ファイン」が全国で公開されます。 映画「天使にアイム・ファイン」 http://www.newstar-pro.com/tenshi/ 天使は、目には見えませんが、人生における苦難や困難の中にある人々を救済するために、地上に生きている私たちを見守り続ける存在です。 一方で、起業家にとって欠かせない存在が「エンジェル投資家」です。 起業家は実際に事業を興したり、それを拡大したりする際に、資金調達を行う必要性が生じます。 エンジェル投資家が、起業家にとって必要な資金を提供することで、その成長を後押しするわけです。 日本における「開業率」は5%程度で、欧米に比べて半分程度の低水準となっており、日本は起業を推進する必要に迫られています。 「アイデア」を持つ人が実際に「起業しやすい」環境を整えるためには、起業家を「バックアップ」する存在としてのエンジェル投資家が、今後、多数輩出されることが求められます。 ◆日本の「エンジェル」事情 では、日本のエンジェル投資は現在、どのくらいの規模なのでしょうか。 近年のデータを見ると、個人による年間のエンジェル投資金額について、日本が約200億円であるのに対し、エンジェル投資が盛んなアメリカは約2.5兆円と、日本の年間投資額はアメリカの0.8%にとどまっているのが実態です(奥谷貴彦(2012)『ベンチャー企業の資金調達』(大和総研)参照)。 また、個人投資家の数も、アメリカが約23万人であるのに対し、日本が1万人に留まっており、わが国ではエンジェル投資が小規模に留まっていることがわかります。 ◆エンジェル税制とは 日本では、エンジェル投資を喚起する目的から、1997年よりエンジェル税制が敷かれており、2008年にはその拡充を図るため、税制改正がなされています。 このエンジェル税制では、「投資家がベンチャー企業に投資をする時点」と、「ベンチャー企業の株式を売却する時点」の、二つの時点における税制面での優遇措置が設けられています。 まず、投資時点の減税措置は、所得税算出時において、投資した額をその年の「総所得金額」から控除することで、所得税の減税措置を受けることができるというものです。 一方、投資家が持っている「ベンチャー企業の株式」を売却する時点については、損失(キャピタル・ロス)が発生した場合に、売却後3年間で発生した他の株式投資の収益から、その損失分を控除するという減免措置を受けることができます。 こうした二つの時点での優遇措置を設定することで、エンジェル投資を活性化させようというわけです。 (注1)「総所得金額」からの控除額の上限は、「総所得金額×40%」と「1000万円」のいずれか低い方となっている。 (注2)「投資時点」の減税措置は、上記のように「総所得金額」からの控除を受けるか(優遇措置A)、あるいはベンチャー企業への投資額を、他の株式を譲渡した時に発生した利益から控除を受けるか(優遇措置B)の、どちらかを選択するしくみとなっている。 ◆更なる 「減税策」の必要性 しかし、税制を改正した2008年以降、日本におけるエンジェル投資はやや拡大する傾向は見せているものの、起業大国アメリカの規模にはまだまだ及ばないのが現状です。 そこで、エンジェル投資のさらなる活性化のためには、より思い切った税制改革が必要です。 まず、投資時点における所得税減税策については、現行の「所得控除方式」から、イギリスなどにおけるエンジェル税制の事例を参考にし、「税額控除方式」に切り替えることが望ましいでしょう。 「所得控除方式」の場合、控除が納税額を算出する過程で行われ、いわば控除の措置が「間接的」なものに留まり減税幅も限定的なものとなる一方、「税額控除方式」を採用すれば、「納税額」から「直接的」に控除額が差し引かれるので、減税幅も大きくなります。 例えば、年収1000万円のAさんが、100万円のベンチャー投資を行い、税額控除幅を投資額の50%とする場合、「所得控除」から「税額控除」に切り替えることで、Aさんが受ける減税幅がおよそ20万円から50万円と大幅に増大することになります。 その他、ベンチャー企業の株式を売却する時点の優遇措置についても、「売却益(キャピタル・ゲイン)が発生した時の優遇策」を盛り込み、売却益の「課税対象額」を圧縮することで、キャピタル・ゲイン税の負担率を低下させることも、有効な策と言えるでしょう。 (注3)Aさんの事例では、その他の所得控除として、基礎控除、社会保険料控除、給与所得控除を勘案している。 ◆「起業家」にとっての「エンジェル」を多数輩出せよ! このように、起業家にとって「天使」としての役割を果たす「エンジェル投資家」にとって、メリットがより大きくなるようなエンジェル税制の大幅な改革が求められます。 新産業を創出し、「ジョブ・クリエーション」を行う可能性を持つ起業家をこの国に多数輩出していくためにも、日本は、こうした減税策を実現することで、起業家がとりわけ資金調達の面で活動を行いやすい環境を整えるべきです。 マイナンバーの罠――プライバシー消滅の危機 2016.01.05 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆運用開始も、多難な船出 2016年1月1日より、ついにマイナンバー制度の運用がスタートしました。自治体などの窓口が開く4日以降、行政手続き等でマイナンバーが実際に使用され始めています。 しかし、その一方で、番号を知らせるための「通知カード」は、全体の約1割にあたる約558万通が未だ受け取られておらず、これらが市区町村に保管されている状況となっています。 また、制度運用に伴い、既に各企業で従業員から番号を収集する作業が始まっていますが、中小企業では制度に関する認知度が十分でないという実態もあります。 昨年12月に行われた信金中央金庫による調査(第 162 回全国中小企業景気動向調査)では、中小企業の約6割が「十分な対応ができていない」状況にあることが明らかになるなど、多難な船出となっています。 ◆国民の不安が解消されていない そして、マイナンバー制度の大きな懸念事項の一つが、個人情報の漏えいです。昨年12月の「全国面接世論調査」によると、マイナンバー制度に対して「不安だ」と感じている人は全体の77.7%にのぼり、「不安ではない」と答えた20.6%を大きく上回っています。 不安を感じている人のうち、半数以上が「最も不安に感じていること」を「個人情報の漏えい」と答えています。 また、政府がこの番号を幅広い分野で利用することを想定し、今月中旬より、希望者に「個人番号カード」の交付が行われます。 このカードは顔写真付きの身分証明書として利用できるようになるほか、2017年1月からは、カードを使用することで、パソコンやスマートフォンにより行政手続きを行えるようになるとされています。 しかし、カードを発行しても、それを紛失してしまった時などに、個人情報の漏えい被害や、各種申請時になりすまし被害に遭う可能性が、格段に高まることが危惧されます。 こうした不安を背景に、同調査において、カード取得を希望する人は全体の31%に留まっていることが明らかとなっています。 つまり、一連の調査により、政府がマイナンバー制度の利用拡大を着々と狙う一方で、国民の「マイナンバー制度に対する不安」が置き去りにされていることがわかるわけです。 ◆個人の「人物像」まで流出する!? 個人情報保護法制等について研究を行う中央大学准教授の宮下紘氏は、マイナンバーの最大の懸念事項は「プロファイリング」であるとしています。 すなわち、大規模なデータが集積する「ビッグデータ」の時代、共通番号が介在することで、様々な個人情報が集積され、特定の個人像が浮かび上がるという危険性があると指摘しているわけです。 例えば、同氏も指摘している通り、納税情報と預金情報が結びつき、収入と預金額がわかるだけで消費額が割り出されます。 そして、その情報を見るだけで、その人が「節約家なのか浪費家なのか」という「人物像」を特定することができるというわけです。 こうしたことを考えると、今後、同制度の利用拡大を推進し、例えば金融資産や医療情報などといった情報もマイナンバーと結びつけていくことは、プライバシーの観点から見て大きな危険性があると捉えることができます。 ◆マイナンバーの「利用拡大」を阻止しよう! マイナンバー制度について「個人情報は、情報を扱う各機関が分散管理するため、仮に番号が漏れたとしても、すぐに芋づる式に全ての個人情報が漏えいするわけではない」と述べられてはいます。 しかし、大阪府堺市の職員が、全有権者約68万人分の個人情報をインターネット上で公開していたことが発覚したり、国内企業・団体において流出、またはその恐れがある個人情報が207万件にも上ることが報道されるなど、情報を扱う側の「情報管理力」の脆さが大きく露呈しているのが現状です。 各機関で相次いでサイバー被害が生じたり、不正流出が行われたりすることで、重要な個々の情報が漏えいするだけでなく、共通番号による「情報の結びつき」が行われる危険性を無視することはできないでしょう。 そして、情報には「不可逆性」、すなわち、情報を流出することは簡単にできても、一度漏れてしまった情報は、漏れる前の状態へと戻すことは決してできないという性質があります。 こうしたことを鑑みても、様々な個人情報を「共通番号」によって一括管理することは、これを通じて多くの国民のプライバシーが侵害されるであろうことなど、リスクがあまりにも大きく、利用拡大を進めるのは「非合理的である」と言わざるを得ません。 幸福実現党では現在、マイナンバー制度のこれ以上の利用拡大を阻止するべく、「マイナンバー制度の廃止を含めた抜本的見直しを求める署名」運動を展開しております。 この運動にご賛同くださる方は是非、署名にご協力頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。 ■マイナンバー制度の廃止を含めた抜本的見直しを求める署名 http://info.hr-party.jp/2015/5007/ ※署名用紙はこちらからダウンロードできます。 http://info.hr-party.jp/files/2015/12/WkID9rtF.pdf 【署名活動期間】 2015年12月4日(金)~2016年4月30日(土) ・第一次締切:2016年3月31日 ・最終締切 :2016年4月30日〔党本部必着〕 【署名送付先】 〒107-0052 東京都港区赤坂2-10-8-6F 幸福実現党本部 TEL:03-6441-0754 揺れる南シナ海問題――東南アジアの自由と繁栄を守れ 2015.11.10 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆ASEAN拡大国防省会議(ADMMプラス)とは 今月の11月4日に、マレーシアのクアラルンプールで、第3回拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)が開催されました。 参加国は、ASEAN域内の10ヶ国と、それに域外国8ヶ国(日本、米国、中国、豪州、インド、ニュージーランド、韓国、ロシア)を加えた全18ヶ国で、日本からは中谷防衛大臣が参加しました。 2006年よりASEAN域内での防衛当局間の閣僚会合として、ADMMが創設されましたが、2010年からは「ADMMプラス」として、同会議にASEAN域外国も参加するようになります。 この創設について、「地域の安全保障・防衛協力の発展・進化の促進という観点から、極めて意義の大きいこと」と評価されています。 ◆宣言を採択できなかった今回のADMMプラス 今回のADMMプラスで最大の争点となったのが、中国の人工島造成を背景に緊張が高まっている南シナ海問題です。 アメリカやその同盟国が、貿易の要衝である南シナ海で中国が存在感を高めていることに対する警戒感から、同海域における「航行の自由」を求める旨を共同宣言に盛り込むべきことを主張していました。 しかし、そのことに対し中国が強く反発したことから、結局、会議が創設されて以来初めて、共同宣言の採択が見送られることになりました。 最終的には、拘束力のない議長声明を出すことに留まり、その表現も「航行の自由」についての言及はなく、「南シナ海における行動規範の早期締結の重要性」について言及することに留まっています。 ◆背景にあるASEANを巡る「米中綱引き」 共同宣言を採択することができなかった背景として、アメリカ・中国間でASEANを巡る激しい「綱引き」があり、それによってASEANが一枚岩になりきることができていないという現状を指摘することができます。 ASEAN各国の立場は、(1)中国との領有権問題を抱え、米国との連携強化を進める立場、(2)米中両国に配慮する中立の立場、(3)中国を支持する立場、の大きく3つに集約することができます。 つまり、(1)の立場に立つフィリピンやベトナムが、「航行の自由」を掲げるべきだとする日米豪を支持する一方で、(2)の一部や、ラオスやカンボジアをはじめとする(3)に分類される国々が中国を支持していることにより、ASEANの結束力が十分でない状況となっているわけです。 ◆カギとなる、米国の軍事的影響力とTPP そのような中で、(2)の立場を取り、これまで中立を保ってきたマレーシアやインドネシアが、南シナ海における中国の行動に対して反発する立場を取り始めていました。 その背景として、アメリカが、人工島12カイリ内へ軍艦船を派遣したことに表れているように、アメリカが中国に対する態度を変え、「圧力」を高めたことに求めることができます。 それについて、「米国が関与拡大を明確にしたことで、中立国も対中批判を公言しやすくなった」とする声も挙がっています。 また、TPP交渉が大筋合意に達したことが、中立国が経済成長を実現するために、アメリカとの関係強化を図ろうとする動きにつながりうるとの指摘もあります(10/31日本経済新聞電子版「東南ア、中国けん制へ傾く 米の関与拡大に呼応」参照)。 このように、ASEAN諸国が団結を強め、南シナ海における中国の侵略的な行動に歯止めをかけるためのカギとなるのが、米国の軍事的存在感の拡大と、TPPによる自由主義経済圏の拡大を通じた「経済成長」への期待と言えるでしょう。 ◆東南アジアの自由と繁栄の実現のために 一方で、ADMMプラスの終了後、中国の周近平国家主席は、ベトナム、シンガポールを訪問、首脳会談を行うなどして、中国側も、経済関係の強化を通じた東南アジア各国の中国への取り込みを図り、その影響力の拡大を狙う動きを活発化させています。 こうした中、今月17日から19日にかけて、フィリピンのマニラでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれ、ここで南シナ海問題に関する協議やTPP首脳会談が行われるとされています。 こうした場でアメリカなどは、大きな経済的メリットと、中国包囲網としてのTPPの機能を訴え、ASEAN諸国を取り込む必要があります。 ただ、アメリカの軍事的影響力については、長期的視座に立てば、ベビーブーム世代が大量に引退し、年金等の国家負担が増大することで兵力の削減は不可避となり、世界の二地域で同時に大規模な戦争を遂行する能力はもはやなくなるのではないかという指摘もあります。 こうした実情によりオバマ大統領が南シナ海で影響力を行使できないだろうと踏んでいるからこそ、中国は同海域での挑発的行動を活発化していると言えますが、アメリカの影響力低下を抑制するためには、今後、日本の国防上の影響力拡大が望まれるところでしょう。 このように、中国による侵略的行為から東南アジアを護り、同地域における自由と繁栄を実現するためには、TPPを機に自由主義経済圏を拡大させることと同時に、日米同盟を基軸にしながら、日本が国防上のリーダーシップを発揮していくことが今後必要になってくるのではないでしょうか。 参考文献 伊藤貫(2012)『自滅するアメリカ大国-日本よ、独立せよ』 文藝春秋 日本経済新聞(電子版)「南シナ海で問われるASEANの結束」2015年11月6日 日本経済新聞(電子版)「 米中、東南ア取り込み過熱 南シナ海問題」2015年11月5日 安保法の次のステップ――「憲法9条改正」を急げ! 2015.09.22 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆新安保法の成立 与野党の激しい攻防の中、19日未明、集団的自衛権行使を限定的に容認する安全保障関連法が、参議院本会議で可決、成立しました。これを受け、幸福実現党は党声明を発表しています。 「安保関連法の成立を受けて(党声明)」 http://info.hr-party.jp/press-release/2015/4718/ ◆集団的自衛権とは何か この「安全保障関連法制」は、自衛隊法など10の既存法をまとめて改正する一括法の「平和安全法制整備法」と、国際平和のために活動する他国軍を後方支援することを可能にする「国際平和支援法」からなりますが、この安保法制の柱は「集団的自衛権行使の容認」です。 この法案が成立したことにより、アメリカなど「密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合、わが国の「存立危機事態」と認定されれば、集団的自衛権の行使が可能になりました。 集団的自衛権とは、同盟国などが攻撃されたとき、自国への攻撃と見なし、共同で攻撃に対処できる権利のことを言います。 この行使については、国連憲章第51条に自衛権の一種として認められており、国際社会では集団的自衛権を行使できるのは当たり前であると捉えられています。 尚、新安保法制が必要に迫られた背景には、「中国の軍事力拡大」と「北朝鮮の核問題」があります。安全保障環境の悪化傾向が著しい中で、日本は自国の防衛力の拡大の必要性に迫られているわけです。 ◆新安保法制の意義 1960年に岸内閣の下で改訂された新日米安全保障条約の第5条には、わが国に対する武力攻撃があった場合、日米両国が共同して対処することが定められています(米国の日本防衛義務)。 この条約下では、日本側は必ずしもアメリカを防衛することは必要ない状態となっていますが、それは、これまで日本は憲法上の解釈の制約により、個別的自衛権の行使に限定されるという方針を採ってきたからです。 このことに対し、アメリカでは、「費用面において軍事的負担がアメリカ側に多くなりすぎている」「アメリカが日本を防衛する義務のみ定められた状態では、日本がアメリカにとっての潜在的な敵対国と協調を採る余地が残っている」などといった批判も一部で存在していました。 日本が今回、憲法解釈の変更を下に、新安保法制を成立させ集団的自衛権の行使が可能になったことによって、上のような安保法制に対するアメリカ側の懸念を緩和することができ、日米の信頼関係の醸成を期待することができるわけです。 つまり、この新安保法制は、東アジアの安全保障環境の悪化を背景に、日米が互いに守り合う関係を築いて日米同盟を深化させることで中国・北朝鮮に対する「抑止力」を強化し、戦争を未然に防ぐための基盤を整えたところに、大きな意義を見出すことができるわけです。 ◆次のステップとして、「憲法9条の改正」へ 安保法の成立に対し、米国防総省のアーバン報道官は18日、「日本が日米同盟を強化し、地域と国際社会の安全保障に、より積極的な役割を果たそうと努力し続けることを歓迎する」という声明を発表しています。 また、オーストラリアや、中国と南シナ海において領有権を争っているフィリピンなどといった国々も、同法案の成立に対し歓迎の意を表明しています。 こうした声を鑑みても、「日本が国際平和により積極的に貢献する」ということに対し、世界から大きな期待が寄せられていることがわかります。 日本は、こうした期待に応えて協力関係にある各国と手を携え、侵略的な意図を持つ国家から「自由」を守り抜くために、更なる防衛力強化のための環境を整える必要があります。 そのためには、憲法解釈議論から脱し、堂々と「憲法9条改正」を行うことが今後必要となっていくでしょう。幸福実現党は、「憲法9条改正」の実現に向け、「信念」を持って取り組んで参ります。 「コーポレートガバナンス強化策」の是非と、「長期金融制度」の必要性 2015.07.21 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら・たくま) ◆安倍政権によるコーポレートガバナンス強化策 安倍政権は、アベノミクス「第三の矢」である「民間投資を喚起する成長戦略」の一環として、コーポレートガバナンスの強化を推し進めています。 コーポレートガバナンスとは、企業の法的な所有者である株主の利益が最大限に実現化されることに向け、企業を監査するための仕組みを指します。 この強化策の背景として、これまで、日本はコーポレートガバナンスが低く、経営の透明性が低かったことから、特に外国人投資家が積極的に日本株を購入していなかったことが挙げられます。 企業統治を強化して企業の収益性・生産性を高め、企業価値を向上させることを通じ、株式市場をより活性化させようとするところに、その狙いを求めることができます。 また、今年の6月には、金融庁と東京証券取引所により、コーポレートガバナンス・コードが導入されました。これは、株主の権利や取締役会の役割などといった、上場企業の行動規範を表したもので、上場企業はコードに同意するか、同意しない場合はその理由を投資家に説明することが求められるというものです。 企業統治の強化策としてのコードの導入により、上場企業は、資本効率を向上させることをより強く求められるようになったわけです。 ◆政策の効果 日本企業における「経営の透明性」が低いことの一要因として、長年の「株式持合い」という慣行の存在が挙げられています。 「株式持合い」を行えば、長期的に株式が保有され、相手株主から厳しい口出しがなされない「ぬるま湯的体質」が生じるとされます。持合いが解消し、経営陣が投資家によって厳しく精査されることで、経営効率が改善するだろうということが、この政策の狙いの一つであるとされています。 また、現に、このコーポレートガバナンス強化策を行った成果として、企業が取締役会に対する監督強化を図ることを念頭に、「社外取締役」を選任する上場企業が、昨年12月の72%から、今年の6月には94%以上に増加したとする報告もあります(米 Institutional Shareholder Services社調査)。 ◆外国人投資家 日本の株式市場における売買シェアの約6割を占めるのが、外国人投資家です。 外国人投資家とは、海外を拠点に活動する、ヘッジファンドを含めた短期売買の投資家や、欧米の年金基金・投資信託など長期運用を行う投資家を指します。 この外国人投資家は、企業が資本を使ってどれほど効率的に利益を出しているかを示す「自己資本利益率(ROE)」を重視する傾向にあると言われています。 日本の株価が上昇している一つの背景には、政府がコーポレートガバナンス強化を推進することで、日本企業のROEが上昇し、外国人投資家が日本に株式投資を積極化させていることがあるわけです。 ◆強化策に対する否定的な見方 しかし、そもそも「企業と投資家の交渉は、本来は市場メカニズムによって行われるべき」で、特にコードの導入は「経営者の手足を縛る内政干渉」であり、こうした一連の政策を「官製コーポレートガバナンス」であるとして、それを否定的に捉える向きもあります。 また、中長期的な経営の視点から見れば、例えば、多額で長期的な研究開発費を賄う方策として、株主からの調達に関しては、「ハイリスクな投資に否定的な株主が多い」のが現状であり、「ROEの低下要因である内部留保を使うことが現実的である」とする観点もあります(原丈人著『21世紀の国富論』参照)。 このような視点から見れば、政府によるコーポレートガバナンス強化策が、必ずしも中長期的な経済成長に寄与するとは限らないことがわかります。 ◆長期金融制度の必要性 日本は戦後復興時より、日本長期信用銀行などの長期金融機関が、高度経済成長を金融面でサポートしてきました。 今後、日本が長期的な成長を実現し、ゴールデン・エイジを実現していくにあたっては、株式市場の活性化も必要ですが、それだけではなく、国内での新たな長期金融制度の創設もまた必要であると考えます。 参考文献 小田切宏之著 2010 『企業経済学』 東洋経済新報社 原丈人著 2007『21世紀の国富論』 平凡社 「大阪都構想」の是非を問う住民投票を振り返って 2015.05.25 文/HS政経塾四期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆大阪都構想を巡る住民投票を振り返って 5月17日、「大阪都構想」の是非を問う住民投票が実施されました。 結果は、反対が70万5585票、賛成が69万4844票と、1万票余りの僅差で「大阪都構想」が否決される形となりました。 「大阪都構想」は、東京都と23特別区をモデルに、大阪市を解体して特別区に再編しようとするものです。 この度の住民投票で、賛成が一票でも上回っていたならば、政令指定都市初の「廃止」が決定し、大阪市が五つの特別区に分割されることになっていました。 これまで、大阪では、府と市の間の「二重行政問題」が問題視されてきました。 それぞれの主張の食い違いから協力体制を十分にとることができない行政の姿から、府と市の関係は、「府市合わせ(不幸せ)」であると揶揄されてもきました。 そのような状況の中で、大阪維新の会は、「都構想によって知事と市長を一本化することで、二重行政問題を解消しよう」という主張を繰り広げてきました。 しかし、都構想を実現するには、莫大な費用がかかることが徐々に明らかとなります。 初期費用として、区役所建設やシステム改修など最大約680億円かかることが明らかとなると共に、新たに設けられる特別区において、議会、教育委員会などを新設するに伴って生じる、高いランニング・コストの存在も指摘されていました。 一方、大阪維新の会が主張してきた、都構想を実現することによる「大きな経済効果」は、昨年の大阪市の集計によると、わずか年1億円に過ぎないことが判明しています。 このように、都構想実現によって「莫大な費用がかかる」といったことや、大阪市民から「無駄と切り捨てられる公的サービスに病院なども含まれている。必要なサービスまで簡単に削られそう(2015年5月18日付 日本経済新聞電子版)」などいった声が聞かれたように、「政令指定都市である大阪市が、一般市以下の権限になり、行政サービスが低下する」という反対派の主張が、わずかながらも、大阪市民に届いた形になったと言えます。 ◆地方分権推進の危険性 この住民投票が行われた同日、沖縄県那覇市で、「米軍普天間基地の辺野古への移設に反対」するための集会が開かれていました。 もし、大阪が「都構想」の実現に向けた住民投票で、賛成多数という結果であったならば、地方の権限肥大化を招き、「国家としての外交・安全保障政策などの遂行に困難が生じかねない」とする動きが、今後、沖縄などでより活発になっていたであろうと予想されます。 やはり、地方が、国とは独立した外交戦略等を行えば、国家として一体感のある安全保障政策を施行することに困難が生じかねないことを指摘する必要があります。 日本は、「防衛力の構築は、発展のためのコストである」ということを、今一度再確認し、地方分権を進めることが、実は、防衛力の低下を招き、結果的には大きな代償を払わなければならない可能性があることを認識する必要があるでしょう。 ◆残された課題に対し、真摯に取り組む必要性がある 再度、話題を大阪都構想に戻しますと、今回の拮抗した住民投票の結果を見ると、「大阪のあり方を改善してほしい」という声も多数存在することを読み取ることができます。 都構想賛成派の中には「(市の第三セクター破綻など)ずっと大阪の失敗を見続けてきた。現状を変えてほしい(2015年5月18日付 日本経済新聞電子版)」との声が現に上がっています。 また、財政的には、大阪市は2.9兆円、大阪府は5.3兆円という多額の赤字が存在するなど、大阪には多くの課題が山積しています。 今後は、市民のこうした声を重く受け止めつつ、「二重行政問題」など様々な問題の解決に向け、府と市が全面的に協力し合う必要があると共に、大阪維新の会が十分に提示できなかったと言える、大阪のこれからの明確な「未来ビジョン」が提示される必要があると言えるでしょう。 ◆東京・大阪間のリニア新幹線の早期開通をはじめとして、各都市と国が一枚岩となった改革を では、具体的にどのような取り組みが必要になってくるのでしょうか。 今、必要な改革の方向性とは、地方分権ではなく、地方や各都市と国が一枚岩となって発展を実現するというものだと考えます。 その取り組みの一つが、リニア新幹線の早期開通です。2027年には、東京・名古屋間でリニア新幹線が開通し、両区間をわずか40分で結ばれることになります。 40分という「移動距離」というのは、一般的な通勤圏だと考えられますので、東京・名古屋が一つの都市圏になるわけです。 これに対し、東京・大阪間を1時間強で結ぶリニア新幹線が開通するのは、東京・名古屋間開通から18年後である、2045年が予定されています。 名古屋が発展を遂げる18年の間に、関西・大阪において相対的に経済の地盤沈下が起こることが懸念されるわけです。 藤井聡氏の試算によると、大阪・名古屋のリニア同時開通によって、2044年時点で、大阪府の人口は26万人、大阪府の経済規模は1.3兆円増加するとされています(藤井聡著『大阪都構想が日本を破壊する』参照)。 このような都市圏の「統合」が進むことで、人・物・金・情報の行き来が活発になり、結果として、大阪だけではなく、日本全体としても大きな経済成長を見込むことができるでしょう。 そこで、今、JR東海が負担することになっている、大阪・名古屋間開通に必要な金額である約3.5兆円を、日本政府や関西の地方政府による負担や、「リニア債」の発行など、早期開通を実現するための何らかの具体策が示される必要があります。 ◆今、実現すべきは、「地方分権」ではなく、「オール・ジャパン」体制での経済発展 日本は、アメリカのカリフォルニア州と同等の面積しか有しません。高速鉄道網の整備が進む今日では、日本をいくつもの州に分断して、それぞれ独立的に発展を遂げようとすることは、やはり得策とは言えません(大川隆法著『政治の理想について』参考)。 日本は、地方が道州制につながる動きを賛同するなどといった動きをとるべきではなく、経済面・国防面の両面から見ても、「オール・ジャパン体制」を前提とした経済発展を成すことが合理的であると考えられます。 「電力自由化」の是非――安定的で安価な電力供給の確立を 2015.04.04 文/HS政経塾4期生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆政府の電力システム改革 2016年4月より、電力の小売が全面自由化されます。 これまでは、電気の大口使用者への小売事業への参入のみ認められていましたが、この度の全面自由化で、家庭などへの小売り事業に対する参入規制も撤廃されることになります。 現在、日本は、(1)電力需給をチェックする機関の設置、(2)小売事業の全面自由化、(3)大手電力会社から送配電網を分社化する(発送電分離)という3つの段階で電力システム改革を推進しています。 そして、今月3日、政府は改革の3段階目である発送電分離を義務付ける電気事業法の改正案を閣議決定し、2020年4月に発送電分離を実施することが目指されています。 ◆公益事業における規制緩和事情 電気は、国民の日常生活や生産活動にとって必要不可欠なことから、適切な料金で安定的な供給がなされる必要があります。 その一方で、同事業は規模の経済性などの自然独占性の性質を有することから、参入規制などを敷く必要がある事業として、「公益事業」に分類されます。 現今の「地域独占」に対し、規制を緩和し新規参入を認め、同事業に「競争の原理」を取り入れることで、利用者の選択の自由を増やすのが「電力自由化」です。 また、電気事業では発電、送電、配電、小売の業務が同一企業の下で維持されてきました。 これに対し、垂直的に統合された企業を業務内容別に分離する「発送電分離(アンバンドリング)」は、新規参入企業が、既存大手企業に比して公平な条件で送配電網を利用することができるようにさせ、これにより競争環境の改善が進むことが期待されています。 ◆電力自由化が価格に与える効果 では、電力自由化によって、実際に価格は低下するのでしょうか。 諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査において、「電力自由化開始当初に電気料金が低下していた国・州もあったが、概ね化石燃料価格が上昇傾向になった2000年代半ば以降、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じている」と指摘されています。 【参考】 『諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査(平成25年3月)』 http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E003213.pdf 「欧米諸国の先行例を改めて吟味する電力全面自由化はやはり愚策だ」 (石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表] http://diamond.jp/articles/-/47345 このように見ると、電力自由化は、必ずしも電気料金の低下につながるわけではないということがわかります。 ◆安定供給網体制の整備に対する懸念 また、電力自由化の重大な懸念事項として、「競争の導入によって、電力供給の安定性が失われる」ということが挙げられます。 その一例が、2000年夏から2001年冬にかけての「カリフォルニア電力危機」です。 アメリカ・カリフォルニア州では、1996年に電力自由化が実施されましたが、電力需要が拡大する中で、発電事業者が発電所新設に対し消極的姿勢をとったり、既存発電設備が運転停止になるなどして、電力需要は供給を大きく上回り、電力卸売価格は増大する一方となりました。 その中で、小売価格に対しては、政府によって価格規制が行われていました。 したがって、電力小売業者は卸売価格の上昇を、小売価格に転嫁することができなかったことから、「逆ざや」が生じました。 その中で、大手電力会社の一社が破たんに追い込まれる一方、発電事業者が代金回収に懐疑的となったことから「売り渋り」を行い、結果として輪番停電を行わざるを得ない状況にまで発展しました。 この事例から、電力自由化によって、国民生活にとって不可欠な電力が十分安定的に提供されなくなり、電気事業が「公益事業」としての役割を果たさなくなる可能性が懸念されるわけです。 ◆安定的かつ安価な電力供給網整備の前提条件は、原発の再稼働 日本の産業競争力の強化にとって欠かせない、安定的かつ安価な電力を供給することは、電気事業を担う者にとっての使命とも言えます。 その使命が十分に成就されるためにも、適切な競争環境の整備に向けた取り組みと共に、電力供給量の確保そのものに向けた取り組みが重要になります。 原発は、火力や水力発電に比べて、安価で大量の電力を提供することができるのは周知の通りです。この点から、競争の有無に関わらず、原発再稼働は電気料金低下にとっての大きな前提条件と言えます。 したがって、日本は、各地の原発の再稼働に向けた取り組みに邁進すべきことは言うまでもありません。 同時に、電力自由化を行った場合、「競争環境下において、重要な電源としての原発を、誰が維持・促進していくのか」などといった「設計図」が示される必要があります。 以上のことから、日本は今一度、「電気事業の公益性」という原点を鑑みた上で、「電力システム改革」の是非を検討すべきです。 すべてを表示する « Previous 1 2 3 4 5 Next »