Home/ 西邑拓真 西邑拓真 執筆者:西邑拓真 政調会成長戦略部会 成長戦略インサイト(2)「安倍政権に残る『レガシー』はあるか」 2020.01.26 政調会成長戦略部会は、「成長戦略インサイト」を発行しました。今回は、1月25日号「安倍政権に残る『レガシー』はあるか」をお送りします。 ———————————– 成長戦略インサイト「安倍政権に残る『レガシー』はあるか」(2020年1月25日号) http://hrp-newsfile.jp/2020/3799/ 幸福実現党成長戦略部会長西邑拓真 ――20日、安倍晋三首相は、衆参両院の本会議で施政方針演説を行った 今回は東京五輪・パラリンピック関連の話題が前面に出た内容となり、ここで「今大会を成功させる」との決意も述べられました。 第2次安倍内閣が発足して現在、8年目に入っています。自民党総裁任期の満了まで残り1年9カ月となる今、昨今の情勢を踏まえ、本来はどのような政権運営が行われるべきか、改めて問われる必要があるでしょう。 ――演説でも触れられた「全世代型社会保障改革」について 「全ての世代が安心できる制度」というのは名ばかりなのが実態です。 国の財政がひっ迫する状況の中で、政府はこれまで、「全世代型社会保障」と称して教育の無償化を進めてきましたが、国の財政がひっ迫する状況を考えても、これは合理性を欠如したものと言わざるをえません。 国の債務はいまや約1,100兆円にものぼる状況です。安倍政権でも増税・バラマキが繰り返しされ、政府の肥大化を進展させてきました。 そもそも、少子化対策の一環として進められてきたはずの「社会保障の充実」ですが、これは少子化対策にとって真逆の結果を生み出しかねないというのが事実でしょう。 子供がいなくても老後は国家が面倒を見てくれるのであれば、子供を持たなくても良いという人も出てくるでしょうし、度重なる増税で経済が上向かないばかりか、社会保障の充実が将来的な増税を想起させるものと捉えられれば、若者世代の経済的不安はますますかきたてられ、子供を産みたくても産めないという事態に陥ることにもなるでしょう。 また、今回、高齢化が今後一層進展するのを踏まえ、「(社会保障に関する)現役世代の負担上昇に歯止めをかけることは待ったなし」との考えも示されました。 ただ、実際のところ、今の「社会保障改革」は、弥縫策が繰り返されているとの印象です。年金の積み立て方式への移行や、医療分野の規制分野を大胆に進めるなど、税金の無駄を徹底的に排除するための本質論に迫ってほしいものです。 第二次安倍政権が誕生してからこれまで、アベノミクスは「三本の矢」のうち「成長戦略」が不在であると言われ続けてきました。「景気対策」を繰り返すのではなく、今は、いかにこの国を持続的に成長させるかを考えるべき時です。 総じて、長期的な国の発展に向けては、少子高齢化からの脱却や将来的な移民の積極的な受け入れを念頭にしながら、起業家含め各企業が事業を成功しやすくするための、国としての環境整備が必要です。 こうした意味でも、政府のスリム化とともに大胆な減税策を実施しながら、規制緩和など歳出をできるだけ要しない成長戦略を行うことも肝要です。 ――さて、施政方針演説で「台湾」に言及されたことも話題となった 演説では、東京五輪・パラリンピックにおいて、岩手県野田村が台湾のホストタウンになる旨述べられました。 首相の施政方針演説で、日本と国交がない状態にある「台湾」に触れられることは異例のこととされています。 これについて、台湾の蔡英文総統は自身の公式ツイッター上で、「実に嬉しい」としています。しかし、安倍首相にはもう一歩踏み込んだ発言もして頂きたかったとも思います。 遡って12日、台湾総統選で蔡英文総統が再選を果たしました。過去最多となる800万票超の得票となり、対立候補を圧倒する結果となりました。 日本にとって台湾は国防面で見ても運命共同体の存在と言えます。 日本は、国防・経済の両面において台湾と手を携え、政府として中国の覇権主義を止めるとの立場を明らかにしなければなりません。中国・習近平国家主席を国賓として日本に招くなどもってのほかです。 ――今月19日、日米安全保障条約が改訂されて60年となった 安保条約を根幹とした日米同盟による抑止力が、戦後日本の平和に対して大きな役割を果たしてきました。 ただ、同条約に関しては、トランプ米大統領が不満を示す通り、片務性があるのは確かでしょう。こうした意味でも、自主防衛体制の強化を急ぐべき状況に置かれています。憲法9条第2項の削除など9条を全面改正することにより、この国を守り抜くための体制整備が必要です。 安倍政権下での憲法改正が実現するには、残された時間は少なく、既に、拙速な議論は許されない状況にあります。「次の世代へタスキを渡した」で終わってしまうのであれば、それは「レガシー」とは断じて言えません。 まずは、憲法改正の本格議論に入ることを急ぐべきです。 以上 成長戦略インサイト(1)「令和日本の行く末は」 2020.01.16 政調会成長戦略部会は、「成長戦略インサイト」を発行しました。今回は、1月14日号「令和日本の行く末は」をお送りします。 成長戦略インサイト「令和日本の行く末は」(2020年1月14日号) http://hrp-newsfile.jp/2020/3787/ 幸福実現党成長戦略部会長 西邑拓真 ◎先月18日に閣議了解された政府経済見通しについて 政府は、2020年度の実質国内総生産(GDP)成長率の見通しを1.4%としています。民間消費、民間設備投資の成長率はそれぞれ、1.0%、2.7%成長としており、10月の消費増税前よりも改善するとの見通しになっています。 消費増税の影響をもろに受け、自動車や家電など小売が軒並み低調となっているほか、製造業で10月の有効求人倍率が前年同月比15.6%減と、前年同月比で9か月連続のマイナスを記録しています。 日本経済の足腰が弱い中、政府による経済見通しは、国民の実感からはあまりにも乖離していると言わざるをえないでしょう。 ◎先月20日に閣議決定された、令和2年度税制改正大綱について 今回の税制改正は、次世代通信規格「5G」の整備を加速、ベンチャー企業への出資を促進するなど、企業向けの政策減税が目玉となっています。 その背景には、昨年度時点で実に450兆円以上も積み上がった企業の内部留保を、少しでも成長投資に向けさせるとの狙いがあります。 こうした政府の狙いもわからないわけではありませんが、企業の立場から言えば、先行き見通しに不安がある以上、企業が自らの防衛策として内部留保を溜め込むこと自体、筋が通ったことと言えます。 税制面での優遇措置だけでは効果は限定的なものにならざるをえないというのが実際のところであり、経済見通しを良くしなければ、設備投資や研究開発、賃金などへと向かう流れが形成されることはないでしょう。 日本を成長軌道に乗せるためには、増税などもってのほかであり、減税するにしても小手先ではなく、本来は思い切った税制改正が必要です。 1980年代の米国では、レーガン元米大統領の下、レーガノミクスと呼ばれる経済政策が実行され、規制緩和などとともに、3年間、毎年所得税を一律10%引き下げるといった大胆な減税が実施されました。それが、その後の米国の長期的な経済成長に大きく寄与することになったのです。 現在の米国でも、トランプ大統領の就任以来、米国の実質GDPは毎四半期(前期比年率)でほぼ2%を上回るペースで伸びており、好調を維持し続け、再度成長軌道に乗り出しています。 その背景にあるのがやはり、大型減税や規制緩和などからなる経済政策「トランポノミクス」です。 法人税率を当初の35%から21%へと大幅に引き下げたり、環境規制を見直すといった、米国企業が活性化し新たな雇用を生み出す政策が実行されてきています。 それとともに、10年で総額2兆ドルのインフラ投資を行うとしています。政府がすべきことは政府で行いつつも、原則として「小さな政府」「減税」「規制緩和」とするトランプ大統領の哲学は、実に明快です。 翻って日本はどうでしょうか。日本は戦後、高度成長期等を経て米国はじめ他の先進国に「キャッチアップ」したのち、バブル崩壊とともに低迷が続きました。度重なる増税と歴代政権によるバラマキが繰り返され、ゼロ成長が30年もの間続くとともに、国の債務1,100兆円が積み上がっている状態です。 今の日本にはまさに成長戦略が求められていますが、いまだ明確なビジョンが提示されておらず、第二次安倍政権発足後のアベノミクスにおいても、大胆な金融緩和、機動的な財政に続く、「成長戦略」が不在となっていることが叫ばれ続けています。 バラマキが常態化し、政府にぶら下がってお上に頼り、怠け者で溢れかえるような国は、必ず衰退に向かうと言っても過言ではないでしょう。 自助努力の精神や勤勉の精神など、健全な経済倫理を取り戻す必要があると同時に、偉大な企業家が数多く輩出されるよう、どのような道からでも成功できるような環境を整えることこそ、本来の政治の使命であり、成長戦略を整える上での大原則であると思えてなりません。 日本は今こそ、トランポノミクスを一つのモデルとして「小さな政府」に回帰していくべきです。 以上 MMTは国家破滅への道 2019.08.24 幸福実現党政務調査会・成長戦略部会長・HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真 ◆MMTとは何か れいわ新選組などは消費税廃止を訴えていますが、この主張の論拠となっているのがMMT(現代貨幣理論)と言われるものです。 MMTとは、「金や銀などと交換できない不換紙幣を発行する国では、債務の返還に必要な通貨を自由に創造することができることから政府債務の不履行(デフォルト)は生じない。インフレにならない限りは、財政赤字をいくら膨らませても問題はないのだ」と主張するものです。 ◆MMTはハイパーインフレを防げるのか MMTに従うと増税しなくてもよいということで、この理論がもてはやされています。しかし、実は増税しなくてよいのはデフレの間に限ってのことであり、インフレを抑制しないといけない状況に転じた時には、増税をしなければいけなくなるほか、社会保障費を含めドラスティックな歳出削減を余儀なくされることになります。 こうした状況になれば、いくら安心な日本といえども、経済苦によって自殺者が急増するほか、治安が悪化するなどといったことは、避けて通ることはできないでしょう。 仮に、政府が円を大量に発行させると円の価値が低下して極端な円安となりますが、そうすれば、原油をはじめとした輸入物価が上昇しこれが様々な価格に波及して、インフレが起こることになります。 経済に貨幣がどれだけ供給されているかにもよりますが、場合によっては、一旦インフレになるとこれまでしまいこまれてきた貨幣が使われるようになって、ハイパーインフレに至るリスクもあるとの指摘もあります。そうすると、持っているお金が紙くずになるなどして、経済は大混乱状態に陥りかねません。 それに加え、増税や歳出削減は機動的には行うことができないがゆえに、それをインフレの抑制策として効果的に実施することができるかも疑問が残るところです。 ◆MMTは究極の愚民政策 MMTの論者は増税などを実施する状況に追い込まれることを避けるため、できるだけデフレが続いてほしいと願っているかもしれませんが、この30年間、日本経済が長期不況に陥り、家計や企業が経済的な苦しみに喘いできたのは、まさにデフレによるものです。 こうした意味で、MMTは民の苦しみの上に成立し、政治家にバラマキの財源をもたらす、究極の愚民政策と言えるのです。 不況に陥っている時に限っては、緊急避難的に政府がお金を使うことでデフレから脱却させるという考え方は間違ったものとは言えません。 しかし、政府の財政出動のみに頼るのは、“モルヒネ”を打ち続けるようなもので、その結果、国民から企業家精神などを奪って国力は落ち込み、もはや健全な姿を取り戻すことは難しくなります。 ◆必要なのは、健全な観念を基にした経済成長 この国に本来求められているのは、バラマキによる一時的な人気取りではなく、これまで日本経済の発展の礎にもなってきた自助努力や勤勉性といった、健全な観念を基にした経済成長なのです。これが、国や貨幣の信用力の土台ともなっているのです。 確かなデフレ脱却、持続的な経済成長の達成に向けては、経済成長につながる公共投資を行うだけではなく、民間部門がいかに回復を果たせるかが重要です。 そして、増税に頼らずとも、持続的な経済成長の達成によって、税収を増やしていき、健全財政を実現することができるのです。 幸福実現党政務調査会・未来ビジョンの策定に向けて 2018.08.17 幸福実現党政務調査会・成長戦略部会部会長・HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真 幸福実現党政務調査会では、成長戦略部会を中心に、日本の目指すべき「未来ビジョン」を検討しています。 その基本的な考え方を、以下のとおりご紹介いたします。 ■幸福実現党政務調査会・未来ビジョンの策定に向けて 平成30年8月16日 幸福実現党 政務調査会 成長戦略部会 https://info.hr-party.jp/2018/6933/ ◆成長戦略ビジョン 〇国力倍増に向けた成長戦略の構築 ・実質成長率3%超(名目成長率5%超)の持続的な経済成長の実現により、早期のGDP倍増、3倍増の達成を目指す。その実現に向け、消費税増税の中止と税率5%への引き下げ、法人実効税率10%台への大幅な引き下げといった大胆な減税政策、徹底的な規制緩和やリニア新幹線などの交通インフラ、新たな基幹産業となりうる分野へ大胆投資を行うなど、国として明確な成長戦略を構築する。 ・移民の受け入れ拡大など人口増に向けた積極的な政策の実施、大胆な未来産業投資・インフラ整備などを進めることで、現行1%未満とされる潜在成長率を、3%程度までに引き上げることを目指す。 〇人口・社会保障 ・人口(とりわけ労働力人口)が国の経済成長の重要な規定要因の一つとなっていることを踏まえると、昨今のわが国の人口減少傾向は国力低下に直結することは言うまでもない。こうした現実が到来することを忌避し、日本は確かな人口増政策を打ち出すべきと考える。 ・世界を牽引し新たな日本モデルを形成するに相応しい「3億人国家」を目指すが、当面は「人口1億5千万人」国家を目標とし、出生率の改善策や、将来的には毎年50万人規模の移民受け入れ策を視野に入れたい。同時に、移民拡大や人口構造の変化に適した環境整備を図るべく、将来的な労働法制のあり方などを検討する。 ・労働力人口を増大させることを念頭に、「安心な社会保障」の実現を目指す。「生涯現役社会」の実現に向け、平均寿命の延伸に合わせた年金受給年齢の引き上げや定年制の延長・撤廃を検討するとともに、「高齢者」の定義見直しを図る。また、「自助と家族の支え合い」をベースにし、年金・医療の制度改革を図り、「積み立て方式」への随時移行を検討する。 〇財政再建・税制 ・国家財政に経営的視点を持って眺めつつ、正しい経済政策と明確な経済成長戦略の実施による経済成長の達成で、中長期的な財政再建・健全財政の実現を目指す。基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標を廃止するとともに、「累積債務残高/GDP」を財政再建の指標として採用する。 ・公正かつ安くて簡素な税体系の構築を目指す。消費税・法人税減税を実施すると同時に、所得税に関しても一律減税を図るとともに、過度な累進制度の見直しを図る。中長期的には給付付き税額控除や、フラットタックスを将来的に導入することを検討する。 〇未来産業振興・インフラ整備 ・技術革新や新産業の方向性は、企業などが経済活動を行う中で「自生的」に決まっていくのであり、ベンチャー企業を含めた民間企業こそが新産業を創出する主体なのであると捉える。したがって、国は、民間部門が新産業の種を次々に生み出すことができるよう、減税や規制緩和など経済活動の「自由の領域」の拡大に努める必要があると考える。そして、技術革新や産業の発展度合に応じた法整備を随時検討していく。 ・基幹産業化が期待される分野のうち、宇宙産業など、研究開発に巨額の資金を必要とし、民間企業だけに委ねていると投資が充分に行われないような分野に関しては、国は戦略性をもって大胆投資を行い、その振興を図っていく必要がある。 ・中長期的な財政計画と整合性を持たせながら、リニア新幹線の全国整備を含めたハード・インフラの整備と維持・補修を図るとともに、AIや自動運転をはじめとした未来科学の到来を念頭にしたソフト・インフラの整備、物流網のあり方を含めた都市計画について検討を進めていく。 ・農林水産業の魅力向上と国際競争力向上を図る。さらには世界の人口増に伴って生じる食糧危機を回避すべく、陸上養殖技術の向上など新しいカロリー源の開発に向けた支援策を講じる。 〇エネルギー ・GDP倍増に伴う電力需要に見合ったエネルギー・ミックスのあり方について検討を進める。「安価で安定的な電力供給網」の整備を念頭に、原発の再稼働や新増設を進めるとともに、核融合、地熱発電などに対する新エネルギー開発も合理性をもって進める。また、エネルギー安全保障の観点から、エネルギー資源調達の多様化を図っていく。 〇教育 ・日本の未来を開く人材の輩出に向けた教育を実現。国家統制型の教育を改め、教育の自由化を推進して公教育の質向上を促進する。また、道徳・宗教・歴史教育を充実させることで子供たちの人間性、愛国心を育み、企業家教育の充実により起業家精神やリスク管理について学べるようにし、日本経済を牽引する企業家を輩出する土壌を形成する。 ◆国防・外交ビジョン 〇国防の抜本強化 ・国の独立や国民の生命・安全を守り抜くために日米同盟を強固なものとしつつ、誇りある主権国家として、「自分の国は自分で守る」体制構築を図っていく。 ・憲法9条の全面改正や防衛費の持続的拡大、中長期的な防衛装備のあり方の検討などに取り組み、抑止力の抜本的強化を図る。 ・産業競争力強化につながる防衛技術力の向上を念頭に、防衛産業への投資拡大のあり方について検討する。 〇明確な外交戦略の構築 ・安全保障協力や同盟関係の構築、経済・貿易の協力関係の構築、神の正義に基づいた国際ルール作り、戦略的なODAの実施、広報文化外交、民間外交のあり方など、自由、民主、信仰の実現に向けた明確な国家戦略を構築する。 ・日米同盟を基軸としつつも、英国やロシアとの関係強化も図るなど、展開すべき外交戦略を検討する。 〇対中・対北朝鮮 ・地域の平和確保のための最重要課題として、覇権主義にひた走る中国の抑止、人権抑圧的な体制変更に向けて取り組んでいく。 ・日米が結束して、引き続き非核化に向けた対北圧力をかけ続けるとともに、国際社会の監視のもと、着実に非核化プロセスを進展させ、北朝鮮の改革を進めていく。 国家ビジョンの策定に向けて――(1)「将来不安」を根本的に払しょくするための成長戦略を 2018.01.07 幸福実現党政務調査会・成長戦略部会部会長・HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真 ◆はじめに 1月8日は、成人の日です。 新たに成人の日を迎える皆様に、心よりお祝い申し上げます。 大切に育てていただいたご両親へのご恩を胸に、新成人の皆さんが、これから社会人として大きく飛躍されることを、心からお祈りしております。 ◆「アベノミクス景気」に実感はあるか 昨年12月、第二次安倍政権の発足から5年が経過しました。 政権発足時に始まった景気の回復基調の長さは、昨年9月に58カ月となり、戦後2位の「いざなぎ景気(65年11月~70年7月)」越えを果たしています。 しかし、「アベノミクス景気」に生活実感が伴っていると言えるのでしょうか。 平成28年の「国民生活基礎調査(厚生労働省)」によると、生活意識について全世帯のうちの57.2%と半数以上が「大変苦しい」または「やや苦しい」と答えており、昨年10月の実質賃金(「毎月勤労統計調査(厚生労働省)」)は前年同月比-マイナス0.1%を記録しています。 一部では「結婚はぜいたく品だ」とも言われるようになりましたが、こうした傾向は、少子高齢化をさらに加速させる可能性を有します。 したがって、「いかにして実感のある景気回復を果たしていくか」ということが重要となります。 ◆ゼロ成長からのテイク・オフに必要な「将来不安の払しょく」 実感ある景気回復に向けて大きなカギを握るのは、「個人消費」の拡大です。 昨今の円安基調による影響で、輸出関連企業を中心に企業収益は好調を持続していますが、日本経済の6割を占める個人消費がここ数年伸び悩んでいます。 では、何が消費を停滞させているのでしょうか。その要因としてまず挙げなければならないのが、消費増税です。 幸福実現党は、経済への悪影響を懸念して消費増税の中止を声高に訴えていましたが、2014年4月に消費税率が引き上げられ、その結果として日本経済に大きなブレーキがかけられることになりました。 他の要因として、先ほど述べた「実質賃金」の水準に改善傾向が十分に見られないこともあります。さらに、もう一つ「将来に対する不安」も挙げることができるでしょう。 「あなたは、自分の将来について明るい希望を持っていますか」という問いに対し、「希望がある」と答えた各国の若者は、アメリカが91.1%、ドイツは82.4%、韓国では86.4%にそれぞれ達していますが、日本の値は61.6%にすぎず諸外国と比較しても低い水準となっています。 最近、「バブルを経験していない若者は、消費に関して堅実な傾向がある」とも言われていますが、確かにバブル期の30-34歳の1989年の可処分所得に占める消費の割合(すなわち「消費性向))は80%台後半にあったとされていますが、2014年時点で、同年代の消費性向は73.8%となっています。 これは各時代における将来に対する認識が、消費行動に影響を与えている一例と言えます。 では、どうすれば「将来に対する不安」を払しょくすることができるのでしょうか。 これに関し、吉川洋氏は、17年12月1日付日本経済新聞の「経済教室」欄にて、「政府が責任ある税・社会保障プランを明示する必要がある」とする旨を述べています。 確かに、年金制度などを含めて先行きが見通せない今の社会保障制度が、一定程度、国民の不安を呼び込んでいる面は否定できないでしょう。 しかし、HSU経営成功学部の西一弘アソシエイト・プロフェッサーは、「低成長が続いたまま『充実』した社会保障を確立させた場合、将来的に大増税が実行されることが予測され、結局は国民の間で将来不安が消えることはないのではないか」と述べています。 吉川氏の主張には、こうした観点が欠けているのではないでしょうか。 ◆日本の「未来」を築く成長戦略を アメリカでは、法人税や個人所得税の減税といった「トランプ減税」法案が成立し、現在、アメリカの株価も軒並み上昇しています。トランプ大統領は、先月13日、「米経済に新たな奇跡が起きようとしている」と述べており、経済成長率が年4%を超える可能性について言及しています。 一方、日本では給与所得の縮小やたばこ税の増税、「出国税」といった新税の導入など、「増税ラッシュ」が見られます。 2018年の日本経済は、好調な米国経済の恩恵を受ける面が大きくなると予想される向きもありますが、場合によっては日本の増税路線がゼロ成長からのテイク・オフの機会を損失させることにもつながりかねません。 やはり、「超高齢社会の到来の下、確かな社会保障制度の構築のためには、増税は行って然るべき」とする論調に待ったをかけるべきです。 幸福実現党はリニア新幹線を含めた「新幹線網改定案(注)」を発表していますが、将来の先行き見通しを明るくするためには、こうしたインフラ整備のほか、大胆な減税や徹底的な規制緩和、新しい基幹産業の創出、多数の有力な起業家輩出などに向けた、明確な未来ビジョンの策定が必要です。 日本は今、「低成長やむなし」といった前提を排し、マインド・セットを変えた上で、日本の未来を明るくする国家ビジョンについて、根本議論する必要があるのではないでしょうか。 (注)幸福実現党「2017年10月主要政策集」(p.21)参照 (http://publications.hr-party.jp/files/policy/2017/012/origin/all.pdf) (参考) 吉川洋, 日本経済新聞2017年12月1日付「アベノミクス5年(中)消費回復へ将来不安払拭を 税・社会保障の将来像を示せ」 吉川洋他, 日興リサーチセンター2017年10月30日「低迷する消費」 アベノミクスの「成果」に疑問を呈す 2017.09.07 アベノミクスの「成果」に疑問を呈す 幸福実現党政務調査会・成長戦略部会部会長・HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真 ◆2017年4-6月期GDPの発表 内閣府は8月14日に2017年4-6月期の総生産(GDP)を発表し、実質成長率が前期(1-3月)比で1.0%増えて6四半期連続のプラス成長になったことを明らかにしました。 しかし、アベノミクスによる「景気回復」に「実感」が伴っていないというのも実際のところです。当稿では、アベノミクスの「成果」について疑問を呈して参ります。 ◆リーマン・ショック前の水準に戻ったに過ぎない、名目GDPの水準 今回、「6四半期連続のプラス成長」となりましたが、この間の成長率は極めて低い水準に留まっています。 第2次安倍内閣時において、確かに回復基調を示してはいますが、その速度は極めて緩やかで、GDPもようやくリーマン・ショック前の水準に戻ったにすぎません。 安倍内閣は4年半かけて、ゆっくり「回復」させたにすぎず、「経済成長」を達成しているわけではないのです。 2014年の5%から8%への消費増税などにより、景気回復が「人為的」に遅れたことを問題視すべきではないでしょうか。 また、この度の4-6月期のGDP速報(1次速報値)では、実質GDPの成長率は前期比1.0%増(年率換算4.0%増)を記録したものの、今回の数値に寄与した個人消費の伸びについては、リーマン・ショックの後に景気対策として打ち出された家電エコ・ポイント制度によって購入された白物家電の買い替え需要による影響や、前年度補正予算の執行による効果が大きいとされています。 したがって、今回発表された比較的高い成長率が、今後も持続するとは限りません(*2)。 さらに、有効求人倍率は、43年5カ月ぶりの高水準(2012年12月0.83倍⇒2017年7月1.52倍)にあるとされていますが、その理由として、団塊世代の大量退職に伴い、構造的な人手不足が続いていることが指摘できます(*3)。 パートやアルバイトなど非正規雇用の賃金は上昇しているものの、正規雇用含め、就業者全体の賃金は上昇トレンドにあるとは言い難い現状にあります(*4)。 *1 デフレ期には、統計的に加工された「実質GDP」ではなく、所得の実額を反映している「名目GDP」が生活者の「実感」に近い。ゆえに、「デフレ脱却」を議論する際には「名目GDP」の水準がどれだけ上昇したかに注目しなければならない。 *2 茂木敏充経済再生担当大臣は、8月14日の記者会見で「消費が完全に回復したかというと、力強さに欠けている面も残っている」との認識を示している。 *3 ブルームバーグ2017年5月30日付「有効求人倍率43年ぶり高水準、株式市場で小売り株期待の声―総賃金伸び」より *4 ニューズウィーク日本版2017年8月17日付「雇用が回復しても賃金が上がらない理由」より ◆デフレ脱却はなお道半ば 日銀は2%の物価上昇率目標を掲げ、マイナス金利を含めた金融緩和政策を実施しています。 安倍政権として、金融政策や財政政策、成長戦略の政策パッケージでデフレ脱却を目指しているものの、(第二次)政権発足後4年半たった今もなお、道半ばです。 消費者物価指数の値(*5)を見ると、2014年には2%以上を記録していますが、これは単に消費税の増税分の物価上昇に過ぎません。その後、2015年に急落し、2016年には総合指数、生鮮食品を除く総合指数でマイナスを記録しています。 また、月次ベースで見ると、2017年7月に、0.5%以下の値をとっています。 尚、消費者物価指数は、実際の値より、1%ほど上振れる傾向にあるとする指摘もあります。したがって、1%未満のインフレ率が観察されたとしても、実際にはデフレ脱却が果たされたとは言い切れないでしょう。 そして、イオン(*6)やセブン・イレブン(*7)などプライス・リーダーシップを持つ企業が軒並み値下げを行っており、その他にも家具大手のイケア(*8)なども値下げを敢行しています。 デフレとは、物価が下がっていく中、所得が減少していき、「国民が貧しくなっていく現象」のことを言います。物価の低下が企業収益の減少を招いて賃金は減少。そして国民の所得の低下により消費が抑えられ、さらにモノの値段が低下していきます(デフレ・スパイラル)。 安倍政権は「アベノミクスの成果」を強調していますが、デフレからの脱却は果たされておらず、その行き詰まりは明らかです。 *5 総務省統計局HP(http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.htm)より *6 日本経済新聞2017年8月23日付「イオンまた値下げ『インフレ目標で価格決めない』」より *7 朝日新聞デジタル 2017年3月29日付「セブンイレブン、日用雑貨61品値下げ 最大20%オフ」より *8 日本経済新聞2017年8月24日付「イケア、890品を2割値下げ」より ◆明確な「国家ビジョン」や確かな「成長戦略」に欠けるアベノミクス 経済水準が、リーマン・ショック前のピーク時に回復後、どれほど伸びるかが重要ですが、現政権には「国家ビジョン」に当たるものが必ずしも明確ではなく、今後、「力強さ」のある成長を十分に期待することができません。 デフレからの脱却、長期的な成長を実現するためにも、消費減税や法人減税などにより需要喚起を行うと共に、「国家百年の計」として、リニア新幹線、宇宙、防衛産業など未来産業に対する重点的な投資を国として行うべきです。企業による技術革新を推し進める上でも、研究開発促進税制の拡充も図っていくべきでしょう。 また、若者は、「生涯所得が少なくなることへの不安が根強い(*9)」と言われています。幸福実現党は、明確な「国家ビジョン」を描いて長期にわたる経済成長を実現して経済的不安を払しょくし、将来に希望を持てるような政策パッケージを提示して参ります。 *9 東京新聞2017年8月15日付「GDP年4.0%増なのに景気実感 なぜ薄い? 正社員の賃金低迷 若者に将来不安強く」より 第3次補正予算が成立—見え隠れするアベノミクスの限界 2017.02.04 HS政経塾第4期卒塾生 西邑拓真 ◆第3次補正予算が成立 2016年度第3次補正予算が先月31日の参院本会議で、賛成多数で可決、成立しました。 一会計年度の年間予算として成立した当初予算に対し、補正予算は、会計年度途中に予算の追加や変更が生じた際に、議決を経て組まれる予算のことを指します。 今回の補正予算の歳出総額は6225億円を計上しています。 また、今回、税収の見通しが当初の見込みよりも1兆7440億円引き下げられたことから、その不足分が赤字国債の発行で穴埋めされます。 年度途中に赤字国債を追加発行するのは、リーマン・ショックの影響を受けた2009年度以来、7年ぶりです。 ◆見え隠れするアベノミクスの限界 税収が当初の見込みよりも落ち込んだ要因として、「円高」に端を発した「法人税収の伸び悩み」に求められています。 しかし、第二次安倍政権の発足以来掲げられたアベノミクスの限界が、国内景気の悪化を招いて税収減をもたらしているのが実態であり、それゆえにこそ今回、赤字国債の追加発行に踏み切らざるをえなかったとみるべきではないでしょうか。 アベノミクスにより、金融緩和策と消費増税をはじめとした一連の増税策が行われ、日本経済はまさに「アクセル」と「ブレーキ」を同時に踏み込んでいる状況です。 先月には、給与所得控除の引き下げによる増税策が始まりました(注1)。 また、今年4月には、タワーマンションの建物の固定資産税評価見直し、18年には預貯金口座へのマイナンバー付番開始が予定されるなど、安倍政権下で今後、「大増税パッケージ」実施が待ち構えています。 (注1)17年1月1日より、年収1000万円を超える会社員の所得控除額の上限が230万円から220万円に引き下げられた。財務省の試算によると、今回の税改正で、夫婦と子供二人の世帯で、年収が1200万円の場合3万円、1500万円の場合4万円の税負担がそれぞれ増加することになる。 ◆ 「トランプノミクス」に邁進するアメリカ 翻って米国は、トランプ新大統領により、35%から15%への法人減税、所得税率の区分を7つから3つへの簡素化と最高税率の39.6%から33%への所得減税の実施を明示しています。 注目すべきは、大胆な減税策だけではありません。先月30日、トランプ大統領は、「一つの規制を作った場合、既存の二つの規制を廃止する」という旨の大統領令に署名しており、併せて、米国内の全ての規制の75%を廃止するとしています。 このように、「トランプ革命」へひた走る米国は今、大胆な減税と規制緩和策によって、経済の活力向上に大きく向かおうとしています。 ◆「日本ファースト」戦略により、大胆な減税・規制緩和策を 今、「シムズ論(注2)」に注目が集まっています。 かねてより大胆な金融緩和策によりデフレ脱却を図るべきだと訴えてきた内閣官房参与・浜田宏一氏は、当理論に影響を受けたとしたうえで、アベノミクスの手詰まり感を解消するために今必要なのは「財政拡大だ」とする考えを主張しています。(朝日新聞17年2月3日付「アベノミクスに手詰まり感―「生みの親」浜田・内閣官房参与に聞く」参照) ただし、今回の補正予算の成立で2016年度の歳出総額は100.2兆円にものぼることになりましたが、この理論によりやみくもな財政出動が合理化され、結果的に「大きな政府」へ向かうのは避けなければなりません。 民間活力の向上なくして、景気回復もなければ、経済成長もありません。 日本が本当に必要としている財政政策とは「減税政策」であり、これに大胆な「規制緩和策」を併せた「自由の領域」の拡大が今、この国に求められているのではないでしょうか。 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げ、前例なき施策を相次いで明らかにしている中、自国の発展と繁栄のために、日本も、とるべき政策を淡々と実行すべきでしょう。 (注2)クリストファー・シムズ米プリンストン大学教授が提唱する「物価水準の財政理論」では、金利がゼロ近辺まで低下すると量的金利が効果を持たなくなり、マイナス金利幅を拡大すると金融機関のバランスシートを損ねるとしたうえで、今後は減税も含めた財政の拡大が必要であるなどといった考えが述べられている。 参考文献 週刊エコノミスト「財政が物価水準を決めるシムズ論を読み解く」(2017年1月31日号) 週刊エコノミスト「徴税強化2017」(2017年1月31日号) 日本の製造業復活に向けて—大胆な法人税改革の実施を 2016.11.27 HS政経塾第4期卒塾生 西邑拓真 ◆日本経済の「牽引車」である製造業 安倍政権は現在、2020年ごろにGDPを600兆円に増やす目標を掲げているものの、いまだ低成長に喘いでいるのが現状です。 安倍政権が発足してまもなく4年が経過しようとしていますが、安倍政権の経済政策は、「アベノミクス」第一の矢である金融緩和策に大きく重点が置かれていますが、本格的な経済成長を実現するには、「いかに実体経済をよくするか」という視点が欠かせません。 ここで、戦後経済を振り返ってみると、日本の戦後復興期、高度経済成長期、その後の安定成長期の中で、産業構造の変化は見られたものの、概して言えば、製造業が日本経済を大きく牽引してきました(吉川・宮川, 2009参照)。 現在でも、製造業はGDPのおよそ2割と、サービス業と並んで最大の割合を占めています。また、それだけでなく、製造業は生産・雇用への波及効果が高い産業であるため、製造業が回復することによって日本経済の復活の道筋をつけることができるようになります。 こうしたことを考えても、今、日本経済の再起を考える上では、製造業の重要性を再認識し、その復活を期すための最大限の努力を行う必要があるでしょう。 ◆「六重苦」にあえいできた日本の製造業 では、製造業の再起を図るためには、どのような政策を実施する必要があるのでしょうか。 近年、日本の製造業は、行き過ぎた円高、法人実効税率の高さ、経済連携協定への対応の遅れ、厳しい環境規制、エネルギーコストの上昇、労働規制・人手不足からなる、いわゆる「六重苦」にあえいでいると言われています。 「六重苦」の一つである「超円高」は改善されているものの、他の項目に関しては、まだ課題が残されている状況にあります。 本稿では、製造業復活を喫すべく、特に「法人税」のあり方に焦点を当てて、議論を進めてまいります。 ◆法人税減税の効果 法人税減税の効果は、「立地競争力」が向上するところに求めることができます。 立地競争力というのは、企業が拠点などの立地選択を行う際の、国・地域が持つ競争力のことを指します。例えば、ある地域において、事業コストが高かったり、規制が厳格すぎる場合、企業は他の地域に拠点を置く方が事業を行う際に、より大きなメリットを享受することができます。したがって、「その地域の立地競争力は低い」ということになります。 経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、2013年の日本の製造業企業の海外生産比率は22.9%と比較的高い水準が記録されています。企業にとっての事業コストを削減させる法人税減税を実施することで、国の立地競争力が高まり、国内企業がこれ以上に海外流出することを食い止めることができるでしょう。 また、これにより、企業の利益の国内への還流や国内雇用の増大、さらには、国内製造業の知識や情報、ノウハウといった貴重な経営資源が国外へスピルオーバー(流出、波及)することを避けることも期待できます。 一方で、立地競争力の向上で、国外企業による国内投資が喚起されることも指摘できるでしょう。これにより、先ほどとは反対に、国外企業の経営資源が国内へスピルオーバーすることも期待でき、国内外の貴重な経営資源を国に蓄積することも可能となります。 ◆国際的な法人税減税競争の機運 今月8日に行われた米国大統領選に勝利したトランプ氏は、来年1月の就任後の100日間で、法人税率を現行の35%から15%へ一気に引き下げるなどして、「経済成長を加速させていき、最強の経済をつくる」としています。 これまで、米国企業は節税策として、法人税率が12.5%に設定されているアイルランドをはじめとした「租税回避地(tax haven)」への投資を活発化させ、そこを拠点としてきました。 今回、トランプ氏は、大胆な減税策を打ち出すことで、海外事業における利益や、米国企業の莫大な(2兆ドルとも言われる)貯蓄額をアメリカに還流させようとしているわけです。 また、EU離脱が決まっている英国においては、2020年までに法人税を現行の20%から17%に引き下げることが決まっていますが、EU離脱が国内経済へ悪影響を及ぼすことが懸念されています。こうした中、今月21日、英国のメイ首相が「法人税をG20で最低水準にする」と述べたことで、法人税の更なる引き下げが行われる可能性が浮上したわけです。 では、日本の法人税はどうでしょうか。日本の法人実効税率は、2014年3月に34.62%でしたが、法人税減税策により2016年度に29.97%に引き下げられ、2018年度には29.74%となる予定となっています。 確かに、安倍政権の中で法人税改革が取り組まれ、税率が「20%台」に引き下げられたことは事実ですが、国の立地競争力確保という観点を踏まえて法人税減税策が打ち出されている各国の動向を見た場合、まだまだ十分な改革が行なわれているわけではないというのが実際のところです。 ◆大胆な法人税改革の実施を 日本が立地競争力を高め、企業が日本で事業を行うことのメリットを享受するためには、法人税を10%台へ減税するなど、思い切った減税策が必要です。 法人税改革を進め、「小さな政府・安い税金」国家が実現した時、ものづくり大国・日本が復活し、再度、高度経済成長への軌道が見えてくるのではないでしょうか。 参考文献 吉川洋・宮川修子, 2009, 『産業構造の変化と戦後日本の経済成長』,RIETI Discussion Paper Series 09-J-024. 地方活性化に向けて(2)――岩手県紫波町「公民連携(PPP)による街再生」の例 2016.10.15 HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真(にしむら たくま) ◆駅前の未整備地区の開発に成功する「オガールプロジェクト」 岩手県盛岡市と花巻市の間に位置し、人口約33,000人を抱える同県紫波町に2012年、複合施設「オガールプラザ」がオープンしています。 「オガールプラザ」は、紫波町が取り組む都市開発事業「オガールプロジェクト」の中核施設となっており、図書館、民営の産直販売所、カフェ、医院などを備えています。 同事業が対象とする地区は、JR紫波中央駅前にある11.7ヘクタールの町有地です。この地区は、財政難により整備できない状態が続き、10年以上、未利用のまま塩漬け状態となっていました。 この状況を打破しようと、PPP(公民連携)を念頭に、当プロジェクトが2009年に開始されます。 「オガール」とは、「成長する」という意味の方言「おがる」と、フランス語で「駅」を意味する「ガール」をかけ合わせた造語を意味します。 同事業は「オガールプラザ」を核に、バレーボール専用体育館やホテルを有する「オガールベース」、紫波町が造成・分譲する住宅地である「オガールタウン」、日本サッカー協会公認グラウンド「岩手県フットボールセンター」などから成ります。 事業開始から7年が経ち、今や、町の人口の25倍に相当する、年間90万人近くが、同地区を訪れるような状況にまで発展しています。 ◆成功の「カギ」となったPPPの活用 このプロジェクトの成功の「カギ」となったのは、PPPです。 PPP (Public Private Partnership)とは、「官」と「民」が連携して公共サービスの提供を行うスキームで、事業の企画段階より民間事業者が携わる仕組みとなっています。 PPPを活用することによって、インフラ整備の際の財政負担を軽減することができるというメリットがあります。 オガールプロジェクトにおいても、東北銀行から融資を受けるなど、民間資金が十分に活用されています。 「PPPといえども、これは民間事業。金融機関がカネを出してくれなくては成立しない」という意識からも、オガールプラザの建設時には、大枠の施設の規模や建設費用が先に決められ、また、コストを極力抑制する建造設計がなされるなどしました。 その結果、オガールプラザの工事費は10億円余りと、公共建築としては極めて低コストに抑えることに成功しています。 また、「甘い見込みでテナントが埋まらないような駅前施設」にはしないために、設計前に見込みテナントが固められるなど、健全な経営感覚に基づいた判断がなされています。 さらには、「来館者同士の交流を促進させ、活気を生み出す」というコンセプトの下、民間の知恵も大いに活用されました。 図書館の新設や産直所に関しては、住民の強い声を拾い上げた結果として、設置されたものとなっています。 このように、民間の資金と知恵を活かすPPPをうまく機能させたことが、同プロジェクトを成功へと導いたというわけです。 ◆民間活力を最大限活用することこそ、地方活性化の道! 大幅な人口減少と、深刻な財政難を抱える地方自治体は多く、確固たる「地方活性化策」の推進が今、急がれています。 しかし、国から、「危機」の中にある「地方」にお金を委譲して、それを使わせることだけが、必ずしも地方を活性化させるための最善策であるとは限りません。 やはり、地方活性化のためには、「民間のアイデアや資金を最大限活用する」という発想を持つ必要があるでしょう。 岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」は、健全で発展的な「まちづくり策」の良い例を示していると言えるのではないでしょうか。 参考文献 竹本昌史 『地方創生まちづくり大事典』, 国書刊行会, 2016. 日経アーキテクチュア2012年7月10日号「オガールプラザ 産直、カフェ、図書館が一堂に−コストを抑えた木造施設に、エリア全体で集客」 日本経済新聞(地方経済面東北版)2014年2月15日付「塩漬けの土地街の顔に」 日銀のマイナス金利政策を改めて考える 2016.09.29 HS政経塾4期卒塾生 西邑拓真 ◆日銀の「総括的な検証」 日銀は今月21日、金融政策決定会合でこれまでの金融緩和策について「総括的な検証」を行い、その上で「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を行うと発表しました。 これを受け、幸福実現党は声明を発表しています。 幸福実現党 党声明「日銀の『総括的な検証』を受けて」 (https://info.hr-party.jp/press-release/2016/3703/) ◆資本主義精神を失わせる「マイナス金利政策」 今回、日銀の発表した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」とは、概して言えば、「マイナス金利の維持を含めた金融緩和策の拡大」を実施することを意味します。 具体的には、「長短操作」とは、日銀が10年物の長期国債の買入れを行うことによって、長期金利をゼロ%程度に推移するようにする一方、市中銀行が日本銀行に預ける当座預金の一部を「マイナス金利」とすること等を通じて、短期金利を低水準にコントロールしようとするものです。 また、日銀の政策が意味する「量的・質的緩和」とは、大まかに言えば、 (長期を含めた)国債や上場投資信託等の金融資産を大量に買い付けることで、市場へ潤沢な資金を供給しようというものです。 大胆な金融緩和政策を行うこと自体は、日本の景気回復実現にとって重要であるのは事実ですが、「禁じ手」としての「マイナス金利政策」には、長期的に資本主義精神を損なわせるなど、様々な負の側面があることを否定できません。 ◆3メガバンクの利益が減少 そして、見逃すことができないものとして、マイナス金利政策が民間金融機関の利益に負の影響を与えているという点を挙げることができます。 8月1日付毎日新聞は、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3メガバンクの16年4-6月期の最終利益が、前年同期比で28%減少し、マイナス金利政策が銀行収益に悪影響を及ぼしたと指摘しています。 日銀のマイナス金利政策というのは、市中銀行が日銀に預けるお金の一部に対してマイナス金利が適用されることにより、市中銀行が日銀に預けているお金を積極的に貸出に回そうと動機づけるものです。 市中銀行が企業や個人にお金を貸し出す際の貸出金利が、日銀によるマイナス金利に呼応して下がる一方で、銀行の預金金利は既にほとんどゼロパーセントの水準にあることから、これ以上銀行は資金の調達費用を下げることができません。 したがって、市中銀行は貸出金利から預金金利を差し引いた「預貸金利ざや」が低下してしまうことになります。しかも、今の日本経済は「利ざやの低下を貸出の増加でカバーできる」ような状況にはないのが事実です。 こうしたことから、日銀のマイナス金利政策に端を発して、メガバンクの収益が悪化することになったわけです。 ◆地方中小金融機関へのダメージ 地方銀行への影響も深刻なものとなります。 全国地方銀行協会の中西勝則会長は6月、マイナス金利について「国内を中心にやっている地銀全体にとっては収益に深刻な影響を与えている」とし、「今年は大変厳しい経営を強いられると思っている」と述べています。 中小金融機関のうち有望な貸出先がない金融機関は、預金を国債で運用するところもありますが、日銀の金融政策により長期金利が低下したために大きな損失を被っていることも、マイナス金利政策により地銀がダメージを受けていることの背景の一つとして挙げることができるでしょう。 ◆政府は「日本の繁栄は絶対に揺るがない」未来志向型政策を! 基本的に、日銀によって行なわれている「特例的」な金融緩和策を実際に機能させるためには、いかに「資金需要を増大させるか」という視点が欠かせません。 メガバンクの首脳からは「企業は先行きに不安を抱えており、金融緩和をしても成長投資に資金を振り向けていない」との声も上がっています(日本経済新聞(電子版)7月22日付)。 やはり、日本の新・高度経済成長の実現のためには、「日本の繁栄は絶対に揺るがない」という先行きへの確信が持てる成長戦略を採用していく必要があります。 この戦略を推進させることによって、民間銀行が企業や個人に対する貸出を活発化させるでしょうし、これを通じてこそ、健全な経済成長の姿が見えてくるのではないでしょうか。 参考資料 2016年8月1日付 毎日新聞(電子版)「3メガ銀 利益28%減 マイナス金利が影響」 2016年7月22日付 日本経済新聞(電子版)「企業、国債敬遠し預金へ マイナス金利影響 銀行収益圧迫」 すべてを表示する « Previous 1 2 3 4 5 Next »