Home/ 西邑拓真 西邑拓真 執筆者:西邑拓真 政調会成長戦略部会 止まらない円安スパイラル。日本経済の信用を取り戻すために必要な一手とは? 2024.05.08 *当記事は動画サイト「TruthZ」に連動しています。 下記の動画を併せてご覧頂き、チャンネル登録もよろしくお願いいたします。 https://youtu.be/bTZgWzhypRI 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 ◆生活に直撃している円安 円安・ドル高水準が続いています。円相場は一時、1ドル=160円台にまで下がり、34年ぶりの円安ドル高水準となりました。 円安は輸入物価の上昇で、生活必需品となる食品の値上がりを招いており、私たちの生活を直撃しています。 34年前、1ドル=150円台の水準に達したのは、円安から(アメリカのドル高を是正する)プラザ合意を経て)円高に向かう流れであり、今は反対に円高から円安方向に突き進んでいます。 円が安くなることで、日本がだんだん貧しくなっている状況にあると言えます。34年前の米国の物価は日本の半分だった一方で、現在は2〜3倍になっていると言われています。 円安の影響で、今のGW(ゴールデンウイーク)の旅行先についても、「国外に行きたいが、円安が進みすぎているため、行くなら国内(*1)」といった声も出ており、円安を理由に海外旅行を敬遠する動きも現に見られます。 ◆円安・ドル高の傾向に影響を与える要素とは 円安・ドル高の傾向に大きく影響を与えている要素が、日米の金融政策の方向性の違いです。 例えば、日本国債よりも米国国債の方が、金利が高い場合、高い運用益を得られるとして投資家などによる円売り・ドル買いの動きが進みます。このように、日米の金利差の大きさが為替相場に大きく影響を与えているのは事実でしょう。 米国は特に2022年6月以降、金融引き締めをして政策金利の引き上げを行っている一方、日本は今年3月にマイナス金利を解除したとはいうものの、本格的な利上げまでには至っていません。 政府・日銀は円安是正のため、ドルを売って円を売る為替介入を、4月29日には5兆円規模で、2日にも3兆円規模で行ったとされています。一時、円高方向に動いたものの、円安基調が変化しているとまでは言えず、為替への影響は限定的で、焼石に水と言えるでしょう。 日本時間の2日未明、米国FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれ、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を5.25-5.5%に据え置くことが決められました。早期に利下げが行われるという観測が後退し、やはり当面は円安・ドル高基調が続くとみられます。 もちろん、金利で為替の全てが決まるわけではありません。この30年、日本経済はゼロ成長が続き、財政状況も悪化の一途を辿り、政府の債務は1200兆円超にのぼる状況です。今、円が売られているということは、日本経済に対する期待、信用が失われていることをも意味します。「強い円」に戻るには、日本は健全財政の下、「正しい政策」で力強い経済を取り戻さなければなりません。 ◆円安・ドル高を抑えるために本来必要となる「減量」 さて、当面の円安傾向に歯止めをかけるには、何が必要なのでしょうか。日銀が利上げすれば良いかといえば、そう簡単なことではありません。 日銀が利上げを行い、国債金利の上昇を許容すれば、これは政府にとっては利払費が増え、財政のやりくりが今よりさらに厳しいものになることを意味します。日銀が金利を上げたくても上げられないのは、やはり政府の財政状況が悪いという側面があるのです。 やはり、少なくとも、金融政策に自由性を持たせるためには、政府は無駄な仕事をなくす「減量」を徹底的に行い、歳出の見直しをかけなければなりません。 一方、米国の場合、政策金利が高止まりしているのは、米国でしつこいインフレが継続し、それを鎮圧しようとしているに他なりません。 しかし、FRBが金利を上げれば、インフレは本当に収束するのでしょうか。 一時15%程度の物価上昇をも記録した、80年代初頭に米国で生じたグレートインフレーションに対し、当時のポール・ボルカーFRB議長は強烈な金融引き締めで対応しました。 BNPパリバ(エコノミスト)の河野龍太郎氏は、石油ショックを機に顕になった当時の米国でのインフレは、実はジョンソン政権、ニクソン政権における拡張財政路線が大きく影響を及ぼしており、インフレを鎮めたのは実は、「小さな政府路線」を掲げ、社会保障費を大きく抑制したロナルド・レーガン大統領によるところが大きい、との旨述べています(*2)。 インフレが収まらない米国で、今後もさらなる金融引き締めを余儀なくされれば、今度は、景気が大幅に悪化して、インフレと景気後退が同時に生じるスタグフレーションが本格的に到来するかもしれません。 ◆日米ともに、「減量」しか道はない 今、日米ともに、財政インフレーションの側面から「しつこいインフレ」に喘いでいますが、いかに経済・財政のクラッシュを避けて、経済成長路線へと向かわせるかが両国にとっての共通課題となっています。 トランプ前大統領は先月23日、34年ぶりの円安・ドル高水準について、米国の製造業にとって「大惨事だ」と述べており、これまでも、民主党バイデン大統領による放漫財政をはじめとする政権運営や、FRBの金融政策の方針について、疑問を呈してきました。 今、日米両者に必要となっているのは、かつての米国レーガン政権のように、「小さな政府」路線をとることです。 大川隆法党総裁は『危機に立つ日本』の中で、「『小さな政府』を目指し、政府として必要最小限のところに税金の使い途を絞らなくてはなりません。また、民間の力を抑えているもの、民間の活動を規制し、抑えている法律や条例などがあったら、これを取り除いて、民間の活力を呼び戻すことが必要です。」と述べています。 行きすぎた社会保障の見直しなどによる歳出削減や不要な規制の撤廃など、今こそ、政府の無駄な仕事の「減量」を行うことが必要ではないでしょうか。 (*1)TOKYO MX(2024年4月29日)「GWの過ごし方も変化…国内旅行が人気 歴史的な円安の影響で」より。 (*2)河野龍太郎, 『グローバルインフレーションの深層』(慶應義塾大学出版会、2023年)より。 4月から始まった制度改正――日本に必要とされる「勤勉革命」 2024.04.11 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 当記事は、下記の動画と連動しています。ぜひ、ご覧ください。 https://youtu.be/BGBWAB_AQu4 ◆新年度の開始で、暮らしはどう変わるか 新年度が始まり、私たちの生活に影響を与える、料金の値上げや制度改正が行われています。何が変わったのか、簡単に見てまいります。 一つ目は、食品や宅配料の値上げです。 4月に値上がりする食品は、価格を変更せずに中身を減らすという「実質値上げ」を含めると、2806品目に及びます。 宅配料金は、佐川急便で平均7%、ヤマト運輸で平均2%の値上げに踏み切っています(*1)。様々な商品の値上がりが続いており、今後、生活はますます苦しくなっていくと懸念されます。 二つ目は、時間外労働の上限規制の適用です。 安倍晋三政権の下で進められた「働き方改革」により、2019年以降、一般の労働者の時間外労働、残業に対して、年間で720時間の上限規制が設けられましたが、運送業、建設業、医師については、人員確保が難しいなどという理由から、その適用が5年間猶予されていました(*2)。 しかし、猶予期間が過ぎる今、こうした業種が、労働時間の減少により現場で支障が出る、いわゆる「2024年問題」に対して十分に対応できているとは言えないでしょう。 今後、宅配料などの更なる値上げ、場合によっては地域で医師が不在となるケースが生じるなど、私たちの生活に打撃を与えかねません。 三つ目は75歳以上の一部の方を対象にした公的医療保険の保険料引き上げ、四つ目は、森林環境税の導入です。森林環境税は、国内の森林整備を目的に、住民税に上乗せされる形で、年間一人あたり1000円が徴収されるという新しく導入された税金です。 こうした保険料の引き上げや新税の導入は、国民負担をさらに増大させることになります。 五つ目は、ライドシェアの一部解禁です。 これまで、タクシー以外の自家用車が客を運ぶ「白タク」行為は原則禁止となっていました。 しかし、タクシー不足や地域における移動手段を確保するという観点から、今月1日より、東京や京都など一部地域を対象に、ライドシェアが部分的に解禁されることになりました。 ただ、海外とは違い、ドライバーはあくまでタクシー業界に雇用される形に留まっており、ライドシェアが運行できる区域や時間帯も限られています。 このように一見「規制緩和」に見える「ライドシェア一部解禁」は、不足する移動手段を穴埋めする「その場しのぎ」の策にすぎません。タクシー業界が政治に守られていることで、料金は高止まりしてしまっています。 それによって生じる損失を被っているのは、私たち消費者です。利便性を高めたり、安全性を担保するルールを整備しながらも、地域の足を確実に確保するという観点から、タクシー業界以外にも有償運送業への参入を認める「全面解禁」を目指すべきではないでしょうか。 ◆経済成長路線への回帰に向けて必要な「勤勉革命」 今の日本は、様々な業界が既得権益で守られているほか、増税や社会保険料の引き上げで、「大きな政府」化が進んでいます。 一方で、日本経済はこの30年、低迷が続いています。昨今、GDP3位の座をドイツに明け渡し、近く、インドにも追い抜かれるのではないかとも言われています。 日本が経済成長路線に回帰するには、何が必要なのでしょうか。その大きな鍵となるのが「勤勉」という価値観ではないでしょうか。幸福実現党の大川隆法総裁は、『減量の経済学』の中で、次のように述べています。 「自由的な意志による努力の継続があって、そして経済的繁栄は来るのです。 過去、こういう『勤勉革命』というのは、イギリスで二回ほど起きています。十六世紀、十八世紀ごろに、それぞれ起きていますが、これでイギリスの国力がガーッと上がっているわけです。 要するに、『個人個人が、自由意志に基づいて勤勉に働いて、世の中を発展させようとする』、『自分自身も豊かになって、世の中も豊かになるように努力しようとする』―、世間の風潮がそういうふうになってきたときに、産業革命が起きたりして、国がもう一段上がっているわけです。」 ◆勤勉革命がイギリスで起こった背景とは ここで、18世紀ごろのイギリスに焦点を当てると、1700年から1870年までの170年間で、イギリス経済の規模は、10倍にまで拡大しています(*3)。 この経済成長を裏付ける要素の一つが、労働時間です。特に18世紀後半、1760年から1800年において、年間の平均労働時間は約2631時間から3538時間へと35%増加しています(*4)。 当時、工場での生産活動が行われていましたが、それは、労働者による長時間労働があってこそ、運営が成り立つものでした。確かに、あまりにも長い労働を強いられたり、場合によっては児童労働が起こったケースもあったのは事実でしょう。しかし、プラスの面に焦点を当てると、人々の勤勉性が国全体としての活発な生産活動に繋がっていき、これがさまざまな「技術革新」が生み出された、「産業革命」にもつながったのは確かです。 ではなぜ、当時のイギリス人は労働意欲が高かったのでしょうか。 一つは、「財産権」が保障されていたこと、すなわち、国家が個人や企業の財産を没収するといったリスクがほとんどなかったことです。 1688年に起こった「名誉革命」以降、イギリスでは議会政治が確立し、国家権力はある程度制限されていました。国民は自らの財産が政府に奪われる心配もなく、安心して労働に励み、富を築くことができたのです。 もう一つは、信仰観です。マックス・ウェーバーが説いたように、当時のイギリスの人々は「魂の救済は、あらかじめ神によって決められている」というカルバンの「予定説」に従って、自らが「選ばれし者」であることを示そうと、勤勉に働いて富を蓄積していったのです。 16世紀以降、世界経済のフロントランナーを走ったのはオランダ、イギリス、米国とプロテスタントが優位な国々であることからも、宗教が国の経済的な繁栄に大きく影響を及ぼしてきたと言えるでしょう。 いずれにしても、経済活動の自由や民主主義、そして信仰をベースとする考え方が、勤勉革命が起こった素地になっていたのではないでしょうか。 ◆日本経済が成長するのに必要な「小さな政府・安い税金」 今、日本では、バラマキが横行しています。バラマキは必ず、増税など国民負担の増大につながります。増税は、働いたり知恵を出して稼いだお金が強制的に国家に没収されることに他なりません。これはある意味で国民の財産権に対する侵害です。 バラマキ・増税は、働かなくてもお金がもらえること、また、働いても重い税金で自由に使えるお金が少なくなるということから、労働意欲をますます低下させることにつながります。ましてや今、政府は働く自由を阻害する新たな規制まで設けています。 日本経済が成長するためには、確かな信仰観の下で、政府はバラマキや要らない規制をなくして、「小さな政府、安い税金」を目指すべきではないでしょうか。 (*1)ヤマト運輸は、大型の宅急便やクール宅急便など、佐川急便は飛脚宅急便を対象としている。 (*2)建設業の労働者に適用される上限規制は、他の業界と同様、年720時間が上限となる。運送業のドライバーは年960時間、医師は、休日労働を含めて年1860時間となる。いずれも、特別な事情がある場合に限られる。 (*3)マーク・コヤマ他『「経済成長」の起源』(草思社、2023年)より。 (*4)永島剛「近代イギリスにおける生活変化と勤勉革命論」(専修大学経済学会, 2013年)より。 マイナス金利が日本経済にもたらした3つのこと。17年ぶりの「金利ある世界」に戻るために必要な心構えとは? 2024.03.21 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 当記事は、動画チャンネル「TruthZ」に連動しています。 下記の動画もぜひご覧ください。チャンネル登録もお願いいたします。 https://youtu.be/oODks5s9Xkc ◆日銀はマイナス金利政策の解除を決定 3/18-19日、日銀の金融政策決定会合が行われ、焦点となっていたマイナス金利政策の解除が決定されました。 先週にも、株式市場で「日銀がマイナス金利を解除する可能性が高い」と見られ、一時株安が進みましたが、その後は反発するなど、株価、円相場は大きく変動しています。 先般、日経平均株価は最高値を更新しましたが、生活実感に乏しいというのが現状です。株高をもたらした影響としては、直近では、中国経済のバブル崩壊の懸念から、中国に流れていたマネーが日本株に流れるといった影響も挙げられます。また、この10年スパンで見ると、家計(売り越し25兆円)、日銀(買い越し36兆円)、企業(買い越し16兆円)、海外勢(買い越し5.7兆円)と、日銀が日本株を買い支えていたことが明らかであり(*1,2)、この点からも、この株価は「官製株高」と言えるでしょう。 いずれにせよ、金融政策というのは、株式市場に大きく影響を与えるわけですが、今回は、マイナス金利が日本経済に何をもたらしてきたのかについて、見てまいります。 ◆マイナス金利政策とは 2013年4月以降、黒田前総裁は、世の中に大量にお金を流す「量的・質的緩和」を行い、家計や企業がお金を借りやすくして景気を良くし、デフレから脱却することを目指してきました。しかし、2014年に行われた8%への消費増税が大きく影響し、デフレ脱却には至りませんでした。 そこで、日銀は、金融緩和策の深掘りを行います。それが2016年1月に導入が決まった、マイナス金利政策です。 マイナス金利政策とは、民間の金融機関が、日銀に預ける預金の一部にマイナス金利を適用するというものです。マイナス金利政策が経済にもたらしてきた影響を3つ取り上げます。 ①資本主義の精神を傷つける 1つ目は、そもそも、マイナス金利政策は、資本主義の精神を傷つける、というものです。 資本主義は、いわば「勤勉と節制で富を蓄積し、その富で新しいものを作る。そして更なる富を獲得して、さらに付加価値あるものを作っていく」という好循環を生み、国家に繁栄をもたらすものですが、マイナス金利は、考え方の根底において、資本主義の精神とは逆行するものと言えます。 小峰隆夫教授(大正大学)も、マイナス金利について、「お金を預けると減っていき、お金を借りると増えていくという世界になる。そんな世界はありえないと思う」と述べています(*3)。 ②景気回復にほとんど効果がなかった 二つ目は、景気回復にほとんど効果がなかったことです。 マイナス金利政策では、一般の金融機関は日銀にお金を預けておけばマイナスの金利、すなわちペナルティーが課せられます。日銀の狙いは、日銀に預けられたお金を企業や家計への貸し出しに回させようとするものでした。 しかし、そもそも極めて低い水準の金利が多少低くなったからと言って、企業や家計が借入を増やすことはなく、日銀の意図の通りにはいきませんでした。 ③銀行の経営を圧迫 三つ目は、銀行の経営を圧迫したという点です。 一般的に、信用が同じ程度の債券の場合、長くお金を貸す方が返済されないリスクも高まるため、短期よりも長期の金利の方が高くなります。 銀行は、基本的に、預金など短期のお金を低い金利で借り入れて、長期のスパンで企業や個人に貸し出しますが、高い金利で貸し出した部分と、低い金利で借り入れた部分の差が、銀行にとっての利益になります。 では、日銀がマイナス金利政策を実施した時、何が起きたかといえば、短期金利はすでにゼロ付近にあったことから、金利が低下する余地はほとんどなく、相対的に長期金利の方が低くなっていきました。 すると、銀行にとっては、利益が少なくなることになり、経営が大きく圧迫されることになりました。 経営難に陥った地銀など金融機関はリスクを避けるようになり、日銀の意図とは裏腹に、むしろ貸出を躊躇するという動きも見られました。 幸福実現党・大川隆法総裁は『富の創造法』の中で、マイナス金利政策によりもたらされる銀行の経営難が、日本経済に与える影響の可能性について、次のように述べています。 「銀行が危なくなると、銀行から大口の融資を受けているところもみな危なくなるので、経済政策が失敗すれば、大きなドミノ倒し型というか、将棋倒し型で経済の「負の連鎖」が起き、ある意味での経済恐慌が起きる可能性もなくはありません。(中略)マイナス金利を、一時的な“カンフル剤”として使っているだけならば、そこまでは行かないでしょうが、もし、これが恒常的なものになってきた場合、産業の構造自体が壊れる可能性が高いのです。」 銀行は、実体経済に血液としてのお金を送り込む、心臓のような存在とも言えます。心臓である銀行が機能不全に陥れば、日本経済は立ち行かなくなってしまいかねないのです。 ◆金融緩和の出口戦略に本来必要となる、政府の「覚悟」 以上、三点を踏まえても、今回のマイナス金利の解除は妥当と言えると考えます。 今回、日銀はマイナス金利政策を解除するとともに、長期金利を低く抑え込む長短金利操作(イールドカーブコントロール)の枠組みを終了することを決めています。 ただ、日銀は長期金利の急な上昇を避けるため、同枠組みの撤廃後も「これまでとおおむね同程度の金額で長期国債の買い入れを継続する」としています。 重要な点としては、今後、国債の金利が上がる場合、それは政府財政における利払費が増加することも意味します。 政府は今、1000兆円を超える国債を既に発行していると同時に、放漫財政を続けていることにより、毎年多額の新規国債を発行しています。政府が利払費の増加で財政が破綻に向かうことを防ぐためには、政府は、バラマキはやめ、歳出のあり方を根本的に見直す必要があります。日銀の出口戦略の本格化に向けては、政府歳出の抜本的な「減量」が必要なのではないでしょうか。 (【Truth Z】「株価史上最高値更新もこのままだと日銀倒産?「金利ある世界」に求められる覚悟とは?」(https://www.youtube.com/watch?v=qIofw00WPrc&t=2s)もご覧ください。) (*1)テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(2024年2月26日)」、日銀「資金循環統計」より (*2)今回の日銀の金融政策決定会合において、日銀はリスク資産の買い入れ縮小策として、金融市場に大量の資金を供給する目的で行ってきたETF(上場投資信託)と不動産投資信託(REIT)の新規での購入を終了すると決定した。 (*3) 小峰隆夫『平成の経済』(日本経済新聞出版, 2019年)より 政治家の「ムダ遣い」のツケを支払わされるZ世代。若者に無関心の日本政治、未来を変えるためにはどうすべき? 2024.03.16 幸福実現党政調会:西邑拓真 当記事は、下記の動画と連動しています。ぜひ、ご覧ください。 https://youtu.be/zWVT9hHdYpY ◆政府の来年度予算案が衆院で可決 3月2日、2024年度の政府の予算案が衆議院の本会議で可決され、年度内の成立が確実となりました。 今回決まった予算では、一年間で政府が使うお金、歳出額は112兆5717億円と多額にのぼり、昨年度に次ぐ過去2番目の規模となっています。 現在、政府の収入にあたる税収はおよそ70兆円です。歳出額は110兆円ですから、その差は実に40兆円です。 政府はこの差額40兆円を借金、国債で賄っているのです。俯瞰的にみて、およそこの30年は、税収がそれほど増えない中で、歳出は拡大を続け、毎年多額の借金を生み出してきました。 そして、その国債はいわゆる「60年償還ルール」の下で、今の若い世代、また、これから生まれる世代が、そのツケを払うことになります。 政府が歳出を拡大することは、実は、将来世代への負担の押し付けで成り立っているのです。 ◆世代間格差を生み出すバラマキ こうした状況をなくしていくためには、そもそも財政の構造を変えなければなりません。 政府が使うお金の最大の項目は「社会保障」費です(*1)。そもそも、年金や医療などの社会保障給付の財源は、私たちの収入から天引きされる社会保険料ですが、それだけでは巨額の社会保障給付を賄いきれないために、社会保障費に多額の税金が投じられています。 今、少子高齢化が急速に進んでいるため、今後、社会保障給付は拡大し続けていくと予想されています。社会保障のあり方を今、抜本的に見直さなければ、今後、さらに国債を発行する、あるいは大増税、社会保険料の大幅な引き上げに迫られることになります。 こうしたことについて、年金制度を例に見てみましょう。 年金制度ではそもそも、「将来、自分達が高齢者になって受ける年金は、自分達が現役の時に積み立てる」という「積立方式」が採用されていたのですが、1970年代に年金給付の大盤振る舞いを始めて、積立方式が成り立たなくなり、「賦課方式」、つまり、「今、高齢者が受けている世代の年金は、今働いている現役層がこしらえる」という方式に実質的に移行したのです。 現役層の人口が拡大する局面では、こうした賦課方式は成り立つのですが、今はまさに少子高齢化が進んでおり、「支えられる高齢者層」が増える一方、「それを支える現役層」が減少の一途を辿っています。 1950年には、12人の現役層で高齢者1人を支えているという構造でしたが、現在は概ね、現役層2人で高齢者1人を支えている状況となっています。そして、およそ40年後の2065年には、1人の高齢者を1人の現役層で支えるという状況となるのです。 それは、例えば自分の給料が30万円だとすると、この30万円で自分や家族を支えるとともに、社会保障制度のもとで、「見知らぬ、誰かわからない高齢者一人」を養うということを意味するのです。 このように、社会保障の賦課方式が採用されている中で、少子高齢化が急速に進むという、日本では今、「最悪のコンビネーション」が成り立ってしまっているわけです。 鈴木亘教授(学習院大学)は、厚生年金、すなわち、会社などに勤務している人が加入する年金について、若者と高齢者層など、世代間でどのくらいの格差があるかについて試算しています(*2)。 年金の大盤振る舞いの恩恵を受けた世代は、年金の支払う額よりも貰う額の方が多い「もらい得」となっている一方、若い世代は、貰う額よりも支払う額の方が多い「払い損」となっています。例えば、2000年生まれの方は、2610万円の「払い損」になるという試算となっています。 3460万円の「もらい得」となっている1940年生まれの方と比べると、実に、6000万円ほどの開きがあるのです。 そもそも、保険というのは、「加入者同士がお金を出し合い、将来のリスクに備える」ためにあり、年金も「年金保険」というくらいですから、本来は、保険の一つであり、「長生きしすぎて資産がなくなり飢え死にする」というリスクを社会全体でカバーしようとするものです。決して、年金は、世代間での「所得再分配」を行うための道具ではないはずです。 若い世代はいわば、「加入すれば必ず損する保険」に、強制的に入らされている状況にあると言えます。こうした年金制度の歪みを、無視し続けるわけにはいきません。年金をあるべき姿に戻すために、本来の年金制度のあり方について、徹底的な議論を行うべきでしょう。 ◆シルバー民主主義の横行は、若者の未来は暗くさせる 幸福実現党・大川隆法総裁は『地球を救う正義とは何か』において、少子高齢化がもたらす政治的問題について、「今後、『シルバー民主主義』といって、高齢者たちが選挙民として増えてきます。高齢者の場合、投票率が高く、だいたい六十数パーセントの人が投票します。一方、若者は三十数パーセントしか投票しません。二倍ぐらい違うわけです。そうすると、政治家としては『年を取った方の票を集めたい』という気持ちになるのです」と述べています。 2022年7月に行われた参議院選挙における年代別投票率(*3)を見ると、60歳代(65.69%)、70歳代以上(57.72%)と高い水準にある一方で、10代(35.42%)・20代(33.99%)は、少子化で有権者数自体が少ないにも関わらず、投票率も高齢層に比べて、半分程度に止まっています。 こうしたことから、今の政治において、相対的に若い年代の声が届きにくくなっているのが事実でしょう。 これまでの政治において、社会保障のあり方を見直そうという動きが、出ていないわけではありません。 しかし、結局のところ、その場しのぎとして制度の微修正にとどまってしまい、制度を根本的に変えるというところまでは到達していません。 それは、有権者の多くを占めるのがシルバー層であり、こうしたシルバー層の利益を優先する政治が行われてきたからにほかなりません。臭いものに蓋をし、制度改革の先送りを続けてきたこれまでの政治こそが、「シルバー民主主義」が横行してきた証明と言えるのではないでしょうか。 ◆若者が「政治参加」しない限り、未来は変えられない 関東学院大学・島沢諭教授が『教養としての財政問題』などでも触れていますが、政治学の中で、シルバー民主主義の脱却に向けて、若者の声を政治に届けるための新しい選挙制度のアイデアが、様々提案されています。 例えば、投票権をまだ持たない子供を養う親に、子供の人数分の選挙権を付与する「ドメイン投票制度」、「20代選挙区」「60代選挙区」など、年代別の選挙区を設ける「年齢別選挙区制度」、あるいは、人間の限界の余命を例えば、125歳とした時に、90歳なら125-90=35票、20歳なら125-20=105票を付与するなどして、若いほど自分が持つ票数が増える「余命投票制度」というものがあります。 こうした奇抜なアイデアがあるわけですが、結局のところ、高齢者が多数を占める「シルバー民主主義」の下では、高齢者が損失を被るような制度改革の実現は難しいと言えるでしょう。 幸福実現党は、上記のような選挙制度の変更を唱えているわけではありませんが、若者にとって希望の持てる未来を到来させるには、年金など社会保障のあり方を真っ当なものに変えることは必要と考えています。また、これからの世代にツケを回す、バラマキをなくさなければなりません。 日本の政治を変えるには、特にZ世代の皆さんの政治参加が必要不可欠です。幸福実現党は、若い世代、Z世代の皆さんとこれまでの日本を創り上げてきた世代の方との架け橋になるような政策提言を行っていけるよう、今後とも努めてまいります。 (*1)財務省「令和5年度一般会計予算歳出・歳入の構成」など参照。 (*2)幸福実現党2022年4月主要政策、鈴木亘『年金問題は解決できる!』(日本経済新聞出版社)参照。 (*3)総務省「参議院議員通常選挙における年代別投票率(抽出)の推移」参照。 https://www.soumu.go.jp/main_content/000646811.pdf (*4)全体の投票率は、52.05%。 『金利ある世界』に向けて必要な『覚悟』とは 2024.02.28 https://www.youtube.com/watch?v=qIofw00WPrc 幸福実現党 西邑拓真 ◆「金利ある世界」に向けて、今、議論が進められている 日経平均株価がバブル経済期の史上最高値を塗り替え、活況にわく株式市場ですが、株式市場や為替相場に大きく影響を与えるのが「金融政策」です。一見難しいと言われる「金融政策」について、今回は難解な理論は省き、なるべくわかりやすくお伝えいたします。 金融政策とは、日本の中央銀行である、日本銀行が行っているものであり、金利を上げたり下げたりしたり、世の中に流れるお金の量をコントロールすることで、景気の変動を調整、物価の安定を実現しようとするものです。 日銀の黒田東彦前総裁は「異次元の金融緩和」、いわゆる「黒田バズーカ」というものを行い、日銀が10年ものの長期の国債を金融機関から大量に買うことによってその金利を0%に抑えること、また、金融機関が日銀に預けているお金の一部に手数料をつける、いわゆる「マイナス金利」政策を行ってきました。 黒田前総裁は昨年4月、10年の任期を終えて退任し、黒田氏の後任として、日銀総裁に植田和男氏が就任しました。植田総裁の下、今、日銀は「異次元緩和」を見直し、「金利ある世界」に戻ることを模索していると言われています。 ◆「異次元緩和」の代償 では、そもそも、黒田前総裁による黒田バズーカは、正しかったと言えるのでしょうか。そして、「金利ある世界」に向けては何が必要となるのでしょうか。こうしたことについて、今回は以下の3点から考えて参ります。 (1)成長路線に戻ることに失敗 一つは、黒田総裁は景気回復のために、金融緩和に奮闘したものの、金融緩和一辺倒だけでは、日本経済が成長路線に戻らなかったということです。 金利が低ければ、お金が借りやすくなりますので、個人が新築の家を建てたり、企業が設備投資を行うという動きが活発になり、景気は回復に向かうはずです。しかし、黒田前総裁の任期中、消費税が8%、10%と二度上がったことが災いし、異次元緩和も虚しく、経済はほとんどゼロ成長となりました。 異次元緩和で、日銀は金融機関が持っている国債を買い続けた結果、日銀の国債保有比率は、黒田総裁就任前の2012年には10%程度だったのが、2023年9月末時点で53.86%となり、国債発行額1066兆円のうち、実に日銀保有分は574兆円となりました。その分、金融機関などにこうした多額のお金が入っていくわけです。しかし、アベノミクスの下で2度の消費増税が行われて実体経済が傷つけられたことで、お金が世の中に回っていかない、という状況となったのです。これを人間の体で例えると、血液が大量に注入されているけれども、それがまさに循環しない状況と言えるでしょう。日本経済は、消費税という血栓ができて、心筋梗塞や脳梗塞が起きる寸前だと言えるかもしれません。 (2)資本主義の精神を傷つけている 二つ目は、「資本主義の精神を傷つけている」という点です。 経済学の父、アダム・スミスは、生前、「各人が節制、勤勉に励めば、国家全体としても自ずから豊かになる」と述べています。つまり、人が勤勉に働き、節制して富を蓄積し、その富を自分自身が事業を行うか、あるいは企業家にお金を貸して、工場を建てたり、人を雇ったりして、何かを付加価値のあるものを生産する。そして、得られた富で、さらに付加価値あるものを作っていくという好循環ができるわけです。これはまさに、「資本主義の精神が国家を繁栄させる」ということです。 かつては、銀行に定期預金を預けておけば、6%程度の利子がつき、貯金をある程度蓄えておけば、年金がないとしても利子収入だけで老後は安泰と言われてきました。 ゼロ金利の時代の今、お金を貯めても利子がほとんどつかず、資本主義の精神が働きにくくなっていると言えるでしょう。 特に、「マイナス金利」というのは、資本主義に逆行するものであり、もってのほかです。現在、日本以外でマイナス金利を採用している国は見当たりません。マイナス金利政策については早急に解除すべきです。 一般的に、金融政策は短期的には経済を刺激して効果があると言われていますが、長期に見ると、疑わしい面があります。 経済学者の小林慶一郎教授は、「ゼロ金利環境では低収益の事業でも採算性があると見なされるので、現状維持の消極的な経営が蔓延」することから、イノベーションが停滞し、日本経済が今停滞しているとの可能性に言及しています(*1)。ある意味で、経済を成長させようとしているゼロ金利が、かえってゼロ成長を生んでいるとも言えるでしょう。 また、「政府がいくらバラマキを続けて国債を発行したとしても、日銀が買ってくれるから安心だ」という構造、日銀の姿勢が、政府のばら撒き体質を支えてきたと言えます。ただ、この膨らんだ財政赤字が国民の将来不安の要素となって、これも、低成長を呼び寄せていると言えます(*2)。 こうしたことを踏まえ、長期にわたって異次元の金融緩和を続ける日本は今、抜本的な見直しが必要になってきているのではないでしょうか。 (3)日銀が「あの世行き」になる可能性 3つ目は、まさかの日銀倒産リスクです。 日銀がまさか倒産するなんてあり得ないと思う方もおられるかもしれませんが、もし、政府の財政が今後も悪化し続け、日本の国債は危ないと、人々が思うようになれば、皆、国債を手放すようになり、国債は大暴落して、紙切れになるかもしれません。そうなると、どうなるでしょうか。 幸福実現党の大川隆法党総裁は『秘密の法』の中で、次のように述べています。 「借金が一千百兆円も一千二百兆円もある国が出している国債を、日銀が直接買っているということですから、もしこの国債が“紙切れ”になるものだったなら、日銀まで一緒に“あの世行き”ということになります。その可能性も、今、近づいてはいるのです。」 日銀が買ってきた国債は、日銀のバランスシートから見たら「資産」となります。国債が紙切れになったら、資産は大きく目減りし、債務超過に陥り、場合によっては、「破綻する」危険性も否定できない、ということです。 ◆「金利ある世界」に向けて必要な「覚悟」とは 大規模緩和にはさまざまな副作用があり、日銀は今、いよいよ方針転換に迫られているわけですが、植田総裁の下で「金利ある世界」を実現するためには、何が必要となるでしょうか。 政府の財政状況を見ると、歳出額114兆円(*3)のうち、およそ25兆円が、過去の借金の返済と利息分による「国債費」となっています。 現在、政府は国債を含め、約1200兆円の債務を抱えていると言われています。細かな計算は省き、単純計算をするとすれば、今、0%の国債金利が1%になると利子支払いだけで毎年12兆円、2%だと毎年24兆円に向かうことになります。つまり、2%になるだけで、今の国債費分の利払費が発生することになり、元本を返すのが難しい状況となってしまいます。 今後も、政府がバラマキを続け、借金を増やし続ければ、国債を返す費用は増加の一途を辿ることになるのです。 金利が上がることは、日銀自体の経営にも影響を及ぼします。植田総裁は2月22日、衆院予算委員会で「金利全般が1%上昇したという場合に、保有国債の評価損は約40兆円程度発生する」としています。国債が「紙切れ」にならずとも、「金利ある世界」になれば、その反面で、国債の価格が下がるということにつながるわけで、日銀にとっても極めて苦しい経営状態となるのです。 従って、「金利ある世界」に戻るために必要なのは、政府の「バラマキ体質」から脱却することに他なりません。今、異次元緩和からの「出口戦略」の議論だけが先行しており、ある意味でその前提条件とも言える政府の健全財政については、議論が十分に進んでいないように思われます。 金利ある世界、資本主義の精神のもとで確かな経済成長を果たしていくために、政府は、財政の「体質改善」をするという覚悟を持っていただきたいと思います。 (*1)小林慶一郎『日本の経済政策』(2024年)より (*2)HRPニュースファイル「バラマキのオンパレードで到来するマズイ未来とは?」(2024年2月20日)参照 < http://hrp-newsfile.jp/2024/4475/ (*3) 2023年度予算。財務省HP (https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-structure/index.html)参照 バラマキのオンパレードで到来するマズイ未来とは? 2024.02.20 https://youtu.be/Hs7wA_DRHa0 幸福実現党政調会・西邑拓真 ◆日本政府の財政は加速度的に悪化している 今月9日、財務省は、国債などの政府の借金が2023年末時点で、1286兆4520億円になったと発表しました。 現在、2024年度予算案の国会審議が行われていますが、昨年末に閣議決定された当初予算案では、2年連続で110兆円超えとなる112兆717億円となっています。 歳出と税収の時系列の動きを表したものを「ワニの口」と表現されますが、歳出は上がり続ける一方、ゼロ成長が続いたことで、税収はほとんど増えなかったことから。ワニの口が開き続けています。 歳出を税収で賄えない部分は国債で穴埋めされますが、財政健全化の見通しがつかない中で、政府の借金は構造的に膨らむ一方となっています。 岸田文雄首相は昨年、「次元の異なる少子化対策」として、児童手当の拡充など、今後3年間で子ども・子育て関連予算を年3兆5000億円積み増し、将来的には倍増することを掲げました。 その財源として、現在、医療保険の枠組みを使い、社会保険料を増加することで賄う方向となっていますが、当初は財源を明確にしないまま、お金を使うことだけを先に決めてしまいました(※1)。 安倍晋三政権をはじめとする歴代政権が、一時的な歳出は行うにしても、恒久的な歳出の拡大は行ってこなかったのとは対照的に、岸田政権では財源の見通しを立てないままに恒久的な歳出の拡大を決定した点で、政府の財政のスタンスが「変質」したとする向きもあります(※2)。 つまり、日本政府の財政は、現政権下で不健全化が加速している状況です。 岸田政権ではこれまで、少子化対策や原油高対策の補助金策などを行ってきましたが、では、こうしたバラマキはどのような帰結を招くのでしょうか。今回は以下の3点に焦点を当てて、議論を進めてまいります。 ◆バラマキがもたらすもの(1)大増税 一つは、言わずもがな「増税」であり、もう少し正確に言えば、「国民負担率」が増加するということです。 政府の歳出が拡大し続ければ、増税圧力が必然的に増すことになりますが、増税という形でなくても、岸田政権における少子化対策の財源のように、社会保険料が高くなるという場合もあります。 いずれにせよ、国民負担率は上昇し、国民に負担が重くのしかかることになります。 現在、おおむね50%の国民負担率も、現在の財政スタンスが維持されれば、将来的な国民負担率は60%、70%へと増大することは避けられないでしょう(※3)。 ◆バラマキがもたらすもの(2)世代間格差の拡大 バラマキがもたらす弊害として、二つ目に挙げられるのが、世代間格差の拡大です。 政府がこのままバラマキを続け、その原資を増税や社会保険料負担ではなく、国債発行に頼るとすれば、どうなるでしょうか。 この時、国債を60年かけて返済するといういわゆる国債の「60年償還ルール」の下で、政府によりこしらえられた借金のツケは、若者や将来世代に回されることになります。 高齢者に手厚い今の社会保障制度の下で、負担の将来への先送りを続ければ、高齢者と若者、あるいは現在世代と将来世代との間における世代間格差が拡大することになります。 島澤諭氏の推計によれば、今の社会保障制度を維持するという前提で考えた時、生涯にわたる社会保障給付やその他の歳出により生じる負担から受益分を差し引いた「生涯純負担額」について、0歳児は一人当たり3,737万円の純負担となり、負担よりも受益の方が大きい90歳に比べて、およそ9,000万円の格差が生じるとしています(※4)。 生まれた途端におよそ4000万円の負担を背負うと同時に、こうした世代間格差に直面することになるわけですから、これはまさに「財政的幼児虐待(※5)」と言えるでしょう。 バラマキで借金を積み増せば、これから人生を歩む世代の負担は、さらに高まっていくことになります。 経済学の格言で「フリーランチはない」というものがありますが、これは、すなわち、「何も失わずに何かを得ることはない」ということを表しています。 これは政府によるバラマキも同じです。例えば、一人当たり10,000円の現金給付を行う場合、国民からお金を徴収し、それを配るというコストを考えれば、10,000円以上のお金が必要となりますが、こうしたお金は、増税、社会保険料で現在の世代か、あるいは国債発行で将来の世代かが、必ずツケを払わなければならないのです。 ◆バラマキがもたらすもの(3)インフレ 3つ目は、物価高騰、すなわちインフレです。 13日、米国の1月の消費者物価指数の上昇率が、前年同月比で3.1%になったことが発表されました。米国の物価はやや落ち着きを見せてはいるものの、まだ高インフレから脱却したとは言えない状況が続いています。米FRBは早期の利下げには慎重な姿勢を見せており、円安・ドル高の基調はしばらく続く可能性が高いと言えます。 さて、これまで、日本や米国をはじめとする先進各国が高インフレに苛まれたのは、コロナ禍による供給網の遮断や石油価格の高水準が続いたことなど供給側の要因だけではなく、コロナ禍における財政出動が過大だったという、需要側のいわば「財政インフレ」の面もあるのは確かです。 このことは、コロナ対策としての財政出動が限定的だった新興国は、資源高が収まると、先進国よりも早くインフレが低下する方向に向かっていったことからも言えるでしょう。 河野龍太郎氏は、1980年代の米国における高インフレを抑えたのは、「小さな政府」路線を掲げ、社会保障など歳出を抑制したレーガン大統領の財政スタンスにあったと指摘しています(※6)。 日本はもとより、先進各国が「しつこく高いインフレ」から抜けるには、今こそ「小さな政府」路線へと舵を切り、歳出のあり方を見直す必要があるのではないでしょうか。 ◆必要なのは「返済計画」と、財政を健全にするという政府のコミットメント 財政出動は一般的に、景気を刺激するとされていますが、歳出が拡大し、債務が積み上がると、人々は増税や財政破綻への不安を覚えるようになり、政府の意図とは裏腹に、家計や企業は消費や設備投資を控えるようになってしまいます。結局のところ、バラマキで経済がよくなることはないのです。 腰の入った景気回復に向けて、今、日本政府が行うべきは、国民の「将来不安」を払拭することにほかなりません。将来不安の一要因となっているのがまさに、日本の財政です。 大川隆法党総裁は、『減量の経済学』の中で、今必要なのは、「政府の借金を返す計画である」とする旨を言及しています。 やはり、こうした返済計画を立てると同時に、その計画を政府が着実に履行するというコミットメントを与えることが必要です。政府はバラマキはやめ、抜本的な歳出削減を実践することも行っていくべきです。 (※1)今月16日、少子化対策の財源として、医療保険料とあわせて徴収する「子ども・子育て支援金」を活用することなどを盛り込んだ、少子化対策関連法案が閣議決定されている。 (※2)河野龍太郎『グローバルインフレーションの深層』(2023年, 慶應義塾大学出版会)より (※3)将来的な国民負担率の増大に影響を及ぼす最大の要因は社会保障費と考えるが、紙幅の関係により、今回は議論を割愛した。 (※4) 島澤諭『教養としての財政問題』(2023年, ウェッジ)より (※5)「財政的幼児虐待」という用語は、米国の経済学者ローレンス・コトリコフ教授が唱えたもの。 (※6)河野龍太郎『グローバルインフレーションの深層』(2023年, 慶應義塾大学出版会)より 現政権の子供政策は、本当に子供のためと言えるのか 2023.04.05 http://hrp-newsfile.jp/2023/4425/ 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 ◆こども家庭庁が発足 4月1日、こども家庭庁が発足しました。 こども家庭庁は、子どもに関する政策を束ねる「司令塔機能」を担う目的で創設されました。 政府の財政が緊迫度を高めるなか、新たな省庁を設置するのには膨大なコストがかかります。今、「こども家庭庁」を設置することに、果たして意義は見出せるのでしょうか。 ◆「縦割り」は残ったまま これまで、政府の子ども政策は主に、文部科学省、内閣府、厚生労働省が担当してきました。こども家庭庁発足の背景には、省庁の縦割りを廃して、救済の手から取りこぼれた子どもを救済し、本当の意味で、子どものための政策を打ち出すべきとの考えがあります。 しかし、こども家庭庁を発足しても、「縦割り」は依然として残り続け、子どもや若者、子育て支援策を「一本化」するというのは名ばかりというのが現状です。内閣府の認定こども園、少子化対策、厚生労働省の保育所、虐待防止などは、こども家庭庁に移管されますが、幼稚園や義務教育、いじめ対策は文部科学省に残ることになったのです。 特に、幼稚園、保育園、認定こども園は、それぞれ別の省庁が管轄していましたが、これを一体化する「幼保一元化」を進めることで、各施設の無駄が解消できるのではないかとも言われていました。しかし、今回の「こども家庭庁」では、幼保一元化が実現できませんでした。 こども家庭庁は、子供政策について、文科省と連携するほか、対応が不十分な場合には、勧告権を持つことになっています。しかし、法的拘束力があるわけではなく、実効性が十分にあるかは定かではありません。 概して言えば、厚生労働省や内閣府の関連部署が集められたにすぎず、政策の一元化が必ずしもできるとは限りません。新たな閣僚ポストや新しい組織を立ち上げるためにかかる費用に相応しい効果があるかは明確ではないのであれば、何のために新たな省庁を作ったのでしょうか。 ◆税金を使っても少子化が「反転」するわけではない 子ども予算の一環として、3月31日には、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台が明らかになりました。そこには、児童手当の所得制限の撤廃や支給年齢を18歳以下まで引き上げること、さらには男女ともに、出産後に育児休業を取得した場合に、休業前の手取り収入の10割を給付する案が盛り込まれており、まさに「大盤振る舞い」です。 岸田首相は、「子ども予算を倍増させる」としていますが、何を基準に倍増するかも明らかになっていません。このことから、子ども政策や少子化対策の内容を定めることなく、ただ「倍増」という言葉ありきの発想で進められた施策だったと言って過言ではないでしょう。 そもそも、税金をつぎ込んだところで、政府の行う「少子化の反転」に効果があるのかは大いに疑問です。 「子ども予算を拡充すべきだ」という主張の論拠として、よく、「OECD 諸国と比較して、日本は子ども予算がGDPに比べて少ない」ことが挙げられています。 しかし、子育てに関する手厚い保障で先進地域にあるされてきた北欧の出生率は、実は、ここ10年で、大きく下がっているのです。スウェーデンの出生率は1.98(2010年)から1.66(2020年)、フィンランドで1.87(2010年)から1.37(2020年)、アイスランドが2.20(2010年)から1.72(2020年)と、いずれも大きく落ち込んでいます。 北欧諸国における出生率の急落は、「新福祉主義」国家へとひた走る日本がどのような運命を辿るのかを、物語っているかもしれません。 政府による手厚い保障をしたところで、少子化の流れに歯止めをかけることはできないでしょう。むしろ、手厚い保障が、税や社会保険料からなる国民負担を拡大させて若者の経済的不安を高め、少子化を「反転」どころか「加速」させるのではないでしょうか。 本来、少子化対策に向けては、国民負担を下げるという意味でも、社会保障の抜本改革を行うという観点は欠かせないはずです。(幸福実現党政務調査会ニューズレター「バラマキありきの対策では、少子化に歯止めはかからない」(https://info.hr-party.jp/2023/13280/)参照)。 ◆本当の意味で、子供のための政治を こども家庭庁に掲げられた、「こどもの最善の利益を第一に考える」などといった理念は理解できなくもないですが、同庁の実態としては、新たなバラマキの温床として使おうとする「大人」の思惑が見え隠れしています。 どのような形で財源を確保しようが、生き過ぎた福祉は高負担社会につながることに変わりありません。将来の納税者である子ども達に負担を強いる社会は、「こどもまんなか社会」とは到底言えません。 少子化対策だけではなく、いじめや児童虐待の対策についても、犯罪に当たる行為を厳格に処罰したり、正しい宗教・道徳的価値観を教育したりすれば十分対処可能です。 子供たちにとって必要な政策は、あえて新たな省庁を作らなくても実施できるのです。 (参考) ・大山典宏「『こども家庭庁』どこへ行く?このままでは看板倒れに(前編)」(Wedge ONLINE, 2023年1月2日付) ・小倉健一「『異次元の少子化対策』が逆に少子化を進める理由、フィンランドの失敗に学べ」(ダイヤモンドオンライン, 2023年2月7日付) ・木内登英「こども家庭庁の発足と先進国中ほぼ最下位の日本の子どもの精神的幸福度」(野村総合研究所, 2023年3月2日付) ・八代尚宏「『こども家庭庁』で少子化は止まるか? 行方を占う3つのポイント」(日経ビジネス, 2022年1月7日付) 次期日銀総裁に課せられた「難題」—「減量」なくして「出口」なし 2023.02.22 http://hrp-newsfile.jp/2023/4420/ 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 ◆「内定」した日銀新総裁人事 政府は今月14日、日本銀行の次期総裁に植田和男氏を充てる人事を国会に提示しました。 植田氏は金融論、マクロ経済学で国際的な経済学者であり、過去には日銀の金融政策を決める日銀の審議委員を務めるほか、日本政策投資銀行で社外取締役として活動するなど、実務面での経験を持つ人物として知られています。 日銀はこれまでの10年、デフレ不況からの脱却を果たすために「異次元」と呼ばれる金融緩和を行ってきましたが、今、その「副作用」も露わになりつつあります。この「副作用」こそ、日銀の新総裁に課せられた「難題」に他なりません。 当稿では、なぜこれからの日銀が極めて難しい舵取りを強いられるのかについて、難しい議論はできるだけ簡略化して、ポイントを整理いたします。 ◆「黒田バズーカ」の残したツケ 黒田総裁がこれまで行ってきた大規模金融緩和は「黒田バズーカ」と呼ばれます。 黒田バズーカとは、簡単に言ってしまえば、「民間の金融機関や個人が持っている国債を日銀が大量に買い取り、日銀が発行するお金(円)を世の中に大量に流す」というものです。 これまで、長期金利の指標として「10年もの国債」の金利を0%にするよう国債の買い付けを行い、これに連動して世の中の金利を低く抑えることで、企業や家計がお金を借りて設備投資等を行いやすくするとともに(※)、世の中にお金を流して2%のマイルドなインフレを作ることで、「価格の上昇→企業の売り上げ増→給料増→消費拡大→売り上げ増…」といった好循環を作ろうとしました。 しかしながら、黒田総裁の任期中に、時の政権が消費税率を5%→8%→10%へと2度も増税して実体経済が大きく冷え込み、将来の先行き見通しが暗くなってしまいました。 このことから、日銀の大規模緩和策も虚しく、景気の好循環は生まれませんでした。 今は、原材料費の高騰などの影響で、給料アップ・好景気には必ずしもつながらない物価高が世の中を直撃しています。 結果として、日銀が目指していた「給料アップを伴う好景気を作る」目標は今もなお果たせていません。 (※)そのほか日銀は、民間銀行が日銀に預けている預金の一部にマイナス金利を適用する「マイナス金利政策」を実施してきましたが、幸福実現党は、同政策は資本主義の精神に反するとして、反対してきました。(幸福実現党声明「日銀のマイナス金利導入を受けて(2016年1月30日)」「日銀の『総括的な検証』を受けて(党声明)(2016年9月22日)」参照) ◆「出口戦略」論も主張されるようになってきた 日本が物価高に喘いできた原因の一つが、円安・ドル高基調です。 米国は日本以上の激しいインフレに対応するため、金利を引き上げる政策を実施しました。日銀が長期金利の目標を「ゼロ金利」に据え続ける中で、米国は金利を引き上げたことで、投資家による円を売ってドルを買う動きが強くなり、これが円安・ドル高を招きました。 円安は日本にとって輸入物価の高騰をもたらし、これが物価高を招きました。このことから、日本も米国などの金融政策に歩調を合わせて、ゼロ金利政策を解除する「出口戦略」を採るべきとの主張も聞こえるようになってきました。 そもそも、ゼロ金利政策は不況時の特効薬としては意味を持ちますが、長期にわたって継続させると、「資本を蓄積してそれをさらに価値を生むものに投下し、経済の善の循環を生む」という資本主義の精神を失わせ、長い目で見て日本経済の停滞を生む要素となります。 さらに言えば、国債を吸収する反面、お金を世の中に流すことで、今よりも深刻なインフレになる可能性を高めるなど、黒田バズーカには様々な副作用があるわけです。 ◆「出口戦略」は採りうるのか 政府は歳出が税収を大幅に上回る状況を続けてきました。無論、その差額は国債を発行することで充てられます。そして、この国債を日銀が買い続けた結果、総国債額のうち50.3%に当たる534兆円もの国債を保有するまでに至っています(2022年9月末時点)。 バラマキによる政府の国債発行とそれを日銀が吸収していくという構図は、大きな弊害を生んでいます。それは端的に言えば、金融政策の自由性を失わせることです。 日銀が今の構図のままで利上げに踏み切れば、政府にとって巨額の国債利払い費が発生して、政府の財政を圧迫することになります。 国債には償還期間が短期のものから長期のものまでありますが、仮に短長期問わず、また、新規に発行する国債とともにこれまでに発行してきた国債が新しい金利の水準で借り換えられ、全ての国債の金利が仮に1%になれば、毎年12兆円、金利が2%になれば、24兆円もの国債償還費が政府に課せられることになります。 このように利払い費が増えれば、借金の利払いのためにまた借金をこしらえるという、借金地獄に陥ることになってしまうのです。 「出口戦略」を急いで破綻に向かうのは政府だけではありません。日銀や民間金融機関も「あの世行き」になってしまうのです。 そして、国債の金利が上がるということは、国債の価格が下がることと同じ意味をなします。 国債を保有しているのは、日銀(50.3%)や保険会社(19.3%)、銀行(13.8%)などです。 国債の価格が下がれば、これら金融機関にとってのバランスシート上の「資産」の額が目減りして「負債」超過となって経営危機に陥ってしまうということです。 民間金融機関はもとより、日銀まで破綻するという日本経済にとって巨大な金融危機が発生する危険性を有しているのです。 ◆「減量」なくして「出口」なし そもそも、政府が借金を増やし続ければ、借金が返せなくなる事態、つまりデフォルトに陥ることになりかねません。 あるいは、デフォルトを避けるために、日銀が国債を引き受けたとしてもインフレが悪化するため、何れにしても広い意味での「国家破綻」は避けられなくなります。 国債の価値の裏付けとなるのは、人々の信用に他なりません。「日本政府の破綻は近い」と見られることは、国債の信用が失われることを意味し、国債は一気に手放されることにつながります。 そうなれば、国債価格が大暴落して、金利も急騰し、日本経済は「クラッシュ」することになります。 「信用」の一つの指標となるのが、欧米投資会社による格付けです。例えば、米国の格付け機関ムーディーズは今、日本の国債の格付けをA1とするなど、どの機関も日本国債を「リスク資産」と評価する一歩手前のところに位置づけています。 近く、一ランク格下げされるのではないかとの見方も出てきており、もし、実際に格下げされれば、民間金融機関は信用度の下がった金融商品は手放すことになるでしょう。 そうすれば、国債の金利高騰、価格暴落という状況が起こり、日本政府や日銀・金融機関は経営危機に陥ることになります。 何れにしても、「日本政府が借金を作って、これを日銀が買ってその場をしのぐ」という状況は、いずれかのタイミングで国債の「信用」を失わせるため、継続するのは現実的ではありません。 金利を徹底的に抑え込むという、危機時の金融政策を正常化に戻すためには、まずもって、徹底的な歳出改革が条件になることは明白です。減量政策で健全財政を実現させ、緩やかに出口戦略を実施することが、妥当と言えます。 岸田文雄政権は、バラマキ・増税路線を続けていますが、これは「経済見通しを暗くしてゼロ金利からの脱却に耐える環境を不可能にする」という意味と、「国債をさらに乱発して、利上げで国債償還額が爆増することになる」という意味合いから、日銀の出口戦略の可能性を失わせる方向にあると言わざるをえません。 以上のように、日銀は難しい局面に立たされているわけですが、植田氏が新総裁に就任されるのを機に、日本経済が浮上することを心より願います。 自分の国は自分で守る体制整備に向けた防衛費の確保を 2022.09.22 http://hrp-newsfile.jp/2022/4355/ 幸福実現党政務調査会 西邑拓真 ◆ 防衛費増額に向けた議論が活発化 今、日本の防衛費の増額をめぐり議論が活発化しています。 現在、日本の防衛費にあたる「防衛関係費」は5兆1,788億円で(※1)、GDP比でわずか1%弱の水準に留まっています。 一方、日本の安全を脅かす中国は、軍事費は毎年拡大を続けており、2022年度は前年比で7.1%増となる約26兆3000億円にすると明らかにしています(※2)。 政府は年末までに、安全保障の基本方針などを示す、いわゆる「安保3文書」を同時改定する予定であり、今、従来の安全保障政策を転換するタイミングとなっています。 特に、5年間の防衛費の総額を明示するのは「中期防衛整備計画」と呼ばれるものです。あるべき防衛費の水準を巡り、様々な意見が交わされている状況です。 ◆今、防衛費は「倍増」で足りるのか 日本は今、中国や北朝鮮のほか、日本が対露包囲の姿勢を明らかにしていることで、ロシアからも軍事的脅威を受ける状況となっています。 最悪の状況を想定して、然るべき防衛体制を整備する観点で考えれば、「防衛費倍増」では足りなくなっているのが現実ではないでしょうか。 日本の防衛費の使途内訳は大まかに、「人件・糧食費(2兆1740億円)」、「維持費等(1兆2788億円)」、「装備品等購入費(8165億円)」、「基地対策経費(4718億円)」、「施設整備費(1932億円)」、「研究開発費(1644億円)」などと分類されます(※3)。 自衛隊が十分な活動を展開するにあたっては、どの要素も不足しているというのが現状です。以下、4つのポイントを挙げてみます。 (1)正面装備・継戦能力 日本の防衛予算5兆円程度のうち、武器・弾薬戦車や戦闘機など、いわゆる「正面装備」に割かれるのはたった2割弱にすぎません(※4)。 また、日本の防衛体制について、武器弾薬、砲弾が足りず、継戦能力(戦闘を継続する能力)が圧倒的に不足していると指摘されてきました。例えば、中国が沖縄の離島へ侵攻するという事態を想定すれば、現状よりも弾薬が20倍以上必要である(※5)とされています。国を守る上で必要となる装備を維持、充実させるほか、有事を想定して十分な弾薬などを確保することは絶対不可欠でしょう。 (2)抗たん性の向上 抗たん性、すなわち「攻撃に耐える」力を向上させる必要もあります。日本がミサイル攻撃を受けるような最悪の事態において、たとえ「反撃能力」を有していたとしても、相手のミサイルにより戦闘機やミサイル、武器の補給庫などが攻撃されれば、もはや反撃することができなくなります。 日本のこれら自衛隊の装備品および補給庫は抗たん性に欠け、いわば丸腰状態にあるとも言われています。有事を想定して、こうした施設の抗たん性を強化しなければなりません。 (3)研究開発費 研究開発費も圧倒的に足りない状況です。米軍が研究開発費に16兆円を使っている一方で、日本の防衛省はわずかに2千億円程度にすぎません。 日本の武器調達は、FMS(※6)という枠組みを通じ、米国からの武器購入に大きく依存しています。しかし、米国が主導的に価格を設定するため、いわば「言い値」で武器を調達せざるをえなくなるため、この枠組みでは調達額の高騰化を余儀なくされます。 そのほか、装備品の体系が、米国の方針に影響を受けることになり、日米共同防衛のためにはたいへん有効であっても、一方で日本が主体的な防衛戦略を組み立てることが阻まれてしまうというデメリットも挙げられます。 以上を踏まえても、日本は防衛力強化に向けた研究開発費を大幅に引き上げるべきと考えます。最新鋭の武器を自国で生産する体制を整備すれば、国富の流出が抑えられるとともに、関連企業の活性化など経済面でもメリットがあります。 最近、ポーランドが韓国製の兵器を大量に購入しているように(※7)、武器を他国に売れるようになれば、これまで投じてきた研究開発費を回収できるほか、定期的なメンテナンス等により、輸出先国との関係強化に寄与することにも繋がります。 (4)自衛隊員の待遇改善 自衛官のなり手が減少している今、自衛官の生活環境や待遇を改善に向けて、「人件・糧食費」を拡大すべきとの声も高まっています。 以前、トイレットペーパーすら経費で賄えず、自衛官が自費で調達しなければならないとの実態が明らかになり、話題となりました。 このほか、訓練などで自衛隊員が移動するにも、予算から高速道路料金が捻出できず、節約のために一般道を走ったり、目的地から相当距離の離れたインターチェンジで高速から降りることなどを余儀なくされています(※8)。総じて、予算不足が明らかとなっているのです。 その他、サイバー防衛に向けた十分な体制を整備するための予算を確保するほか、電磁波領域の構築やレーザー兵器の実用化に向けた費用など、防衛予算は抜本的に拡充する必要に迫られているのです。 ◆防衛力強化に向けた本質的議論を 岸田文雄首相は、5月の日米首脳会談後の記者会見において、「防衛費の相当な増額を確保する」と表明したほか、自民党は今年6月発出の参院選公約で、来年度から5年以内に、対GDP比2%以上を念頭に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」との旨、記載しています。 しかし、国家存続の危機が迫る今、防衛費を「5年」で倍増するなど悠長なことを言っている場合ではありません。防衛費の水準も「倍増」ではもはや不十分でしょう。 トランプ政権で米国防省副次官を勤めたエルブリッジ・コルビー氏は「日本は直ちに3倍程度に引き上げるべきだ」としているほか(※9)、「3文書」改定にあたり、政府が行った有識者との意見交換の場で、有識者から「防衛費は3倍に増額すべき」との意見が出ていることが明らかになっています。 尚、鈴木俊一財務相は16日、海上保安庁予算など安全保障に関連する費用を、幅広く防衛費に組み入れるとの可能性に言及しています。 省庁間での予算の獲得に向けた駆け引きがあるにせよ、既に別の予算で計上されている費用を「防衛費」に組み入れるなどすれば、いくら防衛費を引き上げたところで、防衛力の強化にはほとんど寄与しないと言えます。 防衛費の引き上げに向けては、金額ベースの議論だけが一人歩きするようであってはなりません。 本来は、然るべき防衛戦略のアウトラインを示した上で、その際に必要となる防衛費の水準と、その確保に向けた議論を行うべきでしょう。 ◆防衛費の財源確保に向けては では、防衛費の増額分の財源はどう捻出すべきでしょうか。 まず、防衛費増は「増税」で賄うべきとの意見がありますが、コロナや物価高による経済低迷に対し、増税で追い討ちをかけることは避けるべきです。 長い目で見て、防衛力強化に向けては経済を成長軌道に乗せるとの観点は欠かせません。 では、「新規国債発行」はどうでしょうか。1,200兆円超の債務を抱える今、日本の財政は危険水域に達しており、新たに国債を発行する余裕はほとんどないのが現状です。 国防強化は喫緊の課題であり、国防強化をおろそかして、国家そのものがなくなってしまえば、元も子もありません。 そのため、短期的には、現実的には新規国債発行に頼ることもやむをえないのかもしれませんが、本来は、国の「無駄遣い」「バラマキ」を徹底してなくすほか、財政の構造的赤字の要因となっている社会保障の抜本的な制度改革に向けた議論を徹底するなど、財政健全化の道筋を付けることが必要です。 日本はリーダー国として、アジアにおいて「自由・民主・信仰」の価値観を守り抜く使命があるはずです。 日本の平和を米国に頼り切るという姿勢を改め、軽武装・経済優先の「吉田ドクトリン」から脱却し、「Be Independent」の精神を持って、真の意味で「自分の国は自分で守る体制」を整備するための防衛費を確保すべきです。 (※1)令和4(2022)年度当初予算。防衛省「我が国の防衛と予算〜防衛力強化加速パッケージ〜―令和4年度予算(令和3年度補正を含む)の概要―」より (※2)時事ドットコム(2022年3月6日付)「『強国』継続を明確化 コロナ禍も軍拡加速―国防予算、日本の5倍・中国全人代」より (※3)防衛省「日本の防衛―防衛白書―令和4年版」(p.220)より (※4)谷田邦一「防衛費の増額は、いったい何に使うべきなのか?」(nippon.com, 2022年7月6日)より (※5)産経新聞(2022年8月12日付)「<独自>対中有事で弾薬20倍必要 九州・沖縄の備蓄1割弱」より (※6)国立国会図書館(「調査と情報」)「有償援助(FMS)調達の概要と課題」(2022年3月1日)より (※7) dziennikzbrojny.pl, Korean Orders – The Armaments Agency reveals details(英訳) ( 2022/7/24, http://dziennikzbrojny.pl/aktualnosci/news,1,11672,aktualnosci-z-polski,koreanskie-zamowienia-agencja-uzbrojenia-ujawnia-szczegoly), 現代ビジネス(2022年8月29日)「【総額1兆円以上】ポーランドが韓国製兵器を爆買いするワケと日本の防衛産業がヤバすぎる」などより (※8)日本経済新聞(2022年9月7日付)「自衛隊、劣悪環境で人材難『人的資本』軽視のツケ」より (※9)日本経済新聞(2022年8月4日付)「『日本は防衛費を3倍に』元米国防省高官コルビー氏」より 成長戦略インサイト(9)「バラマキ合戦」の行き着く先は 2021.10.29 http://hrp-newsfile.jp/2021/4172/ 幸福実現党成長戦略部会 西邑拓真 ――衆院選(今月31日投開票)における各党の政策について 財務省の事務次官が某誌で揶揄したように、この選挙戦はやはり「バラマキ合戦」と言って間違いありません。 現金給付策や子育て支援策として、立憲民主党が「低所得者向けに年額12万円の給付策」、公明党が「18歳までを対象とする一律10万円相当の給付」、共産党が「収入減少者に対して、一人当たり10万円を基本とする給付金」、日本維新の会が「教育の全過程の完全無償化」、国民民主党が「一人当たり一律10万円と、低所得者には追加で10万円の給付策などと、バラマキのオンパレードとなっています。 そして、日本の債務が既に1200兆円超という、大変な危機的状況にあるにもかかわらず、各党は概ね、こうした政策の財源には国債の発行分を充てるとしており、財政状況が一層悪化することを危惧します。 自民党の岸田文雄総裁が衆院選に入る前に、金融所得課税強化に言及したほか、立民が法人税の累進課税の導入や所得税の最高税率引き上げなどを訴えています。 しかし、こうした高所得者層や大企業を狙い撃ちにした増税策を行えば、「分配」を行う前に日本経済は奈落の底へと沈みかねません。 努力して稼いだお金も、多くが税金として政府に持っていかれるのであれば、誰も努力をしなくなります。努力を認めない不公平な社会は絶対に認めるべきではありません。 また、コロナ対策として、自民党は、「選挙後、速やかに数十兆円規模の経済対策を取りまとめる」、立憲民主党は「30兆円以上の補正予算案をただちに編成する」などとしていますが、このような大規模な対策を行う財政的な余力はあるのでしょうか。 営業の自由を奪うなど、これまでの「統制経済」的と言えるコロナ対策の方向を転換し、「民間の知恵」をベースとした感染症対策を前提に、経済を最大限に回して、経済対策に伴う歳出は、必要最小限に抑えるよう努めるべきです(※1)。 (※1)ワクチン接種ありきの経済回復策には反対です。 (「ワクチン接種ありきの行動制限に反対する(党声明)https://info.hr-party.jp/press-release/2021/12038/」参照) ——財政健全化に向けては何が必要か 基本的には、税収を上げる、歳出のあり方を自助の精神に基づいたものに見直す、国家財政にマネジメントの思想を取り入れるといったことが必要と考えます。 税収増には、増税ではなく経済成長が必要です。税収と歳出の推移(※2)を見ると、歳出は増加の一途をたどっているにも関わらず、バブル崩壊以降は、消費税の導入・増税策を行ったにもかかわらず、税収が停滞していることがわかります。 平成の30年間、日本経済は長期デフレに喘いできました。その中で、積極的な財政出動や金融緩和、成長戦略の実施を掲げていたアベノミクスが、デフレ脱却を試みたものの、その達成はかないませんでした。その最大の要因はやはり、二度にわたって消費増税が実施されたことでしょう。 これまでのバラマキ・増税の繰り返しで国の活力が失われ、日本はもはや、かつての「英国病」に突入しているような状況です。 歳出のあり方を抜本的に見直しながら、財政の健全性を担保した上で、一連の減税策を実施し、「小さな政府」の実現でこの国を再起動させる必要があります。 自民党は岸田文雄総裁の下、「成長と分配の両面が必要」とし、「分配によって所得を増やし、消費マインドを改善する」との考え方を打ち出していますが、課税・分配を行うのは「社会主義」政党と言わざるをえず、この考え方では日本経済の回復は遠いものになるでしょう。 (※2)財務省HP「一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.pdfより ――今回の選挙戦で消費減税を訴えている政党もあるが コロナ禍の今、消費マインドを少しでも回復させるには、消費減税は確かに部分的には一定の効果がある施策と思いますが、一方で、同時に歳出の大幅な見直しをしなければ、短期的には一層の国債発行を余儀なくされ、「小さな政府」の実現が遠のいてしまうことになります。 日本の歳出のうち、最大の項目となっているのが「社会保障給付費」です。 今、少子高齢化が急速に進展していることにより、毎年、およそ1兆円程度以上の歳出増が続いていることが、財政の最大の圧迫要因となっています。 日本が「シルバー民主主義」にある中、どの政党も社会保障の抜本改革に手をつけられないというのが実情ではないでしょうか。 年金制度に関して言えば、わが国では、高齢者をそのときの現役世代で支える「賦課方式」がとられており、これと少子高齢化が重なっていることが、現役世代に相当な負担を強いる形となり、これによって年金財政に税金を投入させざるをえないほか、給付額が世代により大きく異なるという状況が生じているのです。 このような世代間不公平が生じていることで、例えば2000年生まれの人の厚生年金は、払う額よりも受け取る額の方が2,610万円程度少なくなるという試算もあります。 年金というのは「長生き保険」とも位置付けられますが、絶対に損するような保険には誰も入らないはずです。 尚、維新は年金と関連して、ベーシックインカムの導入を掲げていますが、これが実現すると、一層「大きな政府」へと舵を切ることになると危惧します(※3)。 政府の役割として、社会的弱者に対する一定のセーフティネットを確保しつつも、財政の持続可能性も踏まえて、原則として、社会保障を自助の精神に基づいたものへと抜本的に改革すべきと思います。 さらに、健全財政に向けては、国家財政にマネジメントの思想を取り入れて、財政の単年度主義を改めるべきです。 景気が良く、予想外に税収が多かった場合には「内部留保」として翌年以降の危機的な状況に備えて、税収を手元に残していくことを認めるべきです。 これによっても、漸進的に減税策を進めることができ、いずれは無税国家を目指すべきでしょう。 健全財政は国家繁栄と存続の基礎です。経済政策やコロナ対策は本来、健全化に向けた道筋を描いた上で講じるべきものではないでしょうか。 次の政権を担う政党には、「勤勉の精神」をベースとする、本来の「資本主義」を体現するような経済政策の実施で日本経済を復活させ、財政も健全化に向かわせてほしいと願うばかりです。 (※3)幸福実現党政務調査会ニューズレター No.26(2021.9.27) https://info.hr-party.jp/2021/12065/ 参照 すべてを表示する 1 2 3 … 5 Next »