Home/ 遠藤 明成 遠藤 明成 執筆者:遠藤 明成 HS政経塾 中小企業の知的財産権が守られる社会をつくる 2019.04.06 中小企業の知的財産権が守られる社会をつくる HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆日本商工会議所が「知財防衛」のための改革案を提言 3月20日に、日本商工会議所(日商)は、「知的財産政策に関する意見」と題した政府への要望を発表しました。 そこには、お金に余裕のない中小企業でも知財(知的財産)を守れるようにするための具体策が並べられています。 心血を注いで生んだ知財が侵害され、「泣き寝入り」になる企業を減らすために、日商が改革案をまとめたのです。 ◆なぜ、今、知財が大事なのか この意見書は、いくつかのデータをあげ、中小企業の特許取得を支援すべきだと訴えています。 ここ10年間で、世界では特許出願件数が1.7倍になっているのに、日本では2割ほど減りました。 一国の特許出願件数のなかで中小企業が占める割合で比較すると、今や日本は15%しかなく、26%のアメリカ、70%を超える中国とは大きな差がついています。 そうした現状を踏まえ、トランプ政権の知財防衛策などを例に取り、日本政府は競争力を強化するために、法制度を整えるべきだと主張しています。 ◆中小企業の特許取得が進まない理由 では、どうして中小企業の特許取得が進まないのでしょうか。 それは、手間がかかるわりには、知財を侵害した相手の罪を証明し、賠償金を得るのが難しいからです。 日商の意見書には、公開された特許を侵害するのは簡単だが、その証拠は加害者の手元にあるので、被害の証明が難しいとも書かれていました。 理屈上は知財侵害をめぐる刑事裁判もできるようにはなっています。 しかし、侵害の有無の判断が難しいため、実際は、なかなか起訴にまでは至りません。 結局、「労多くして益少なし」なので、特許を取らない中小企業も多いわけです。 ◆知財を侵害され、「泣き寝入り」に終わる例も多い しかし、それでも知財侵害は起きています。 日商の意見書はいくつかの例を上げていました。 ○1:他社の特許を侵害しながら、見つかったらライセンス交渉をすればよいと開き直る ○2:特許侵害が判明したあとにライセンス交渉を引き伸ばし、逃げ切りを図る ○3:中小企業の人材難や資金の乏しさを見越して、裁判の長期化を図り、訴えを取り下げさせる この場合、訴訟費が損害賠償額を上回ることが多いので、中小企業からは「泣き寝入りせざるをえないという声があがっている」とも指摘していました。 ◆知財侵害を訴えても、うまくいくとは限らない 実際、この種の訴訟で、被害者が救われるとは限りません。 日商の意見書には、驚くべき数字が並んでいました。 まず、知財が侵害された証拠を手に入れるのが難しいために、被害者(原告)の6割以上が敗訴しています。 さらに、侵害者が「特許は無効である」と言って対抗してきた場合、37%もの特許が無効にされています。 そのうえ、特許侵害の裁判は専門性が高いため、債権回収の訴訟の約3.5倍の弁護士費用がかかるのです。 これで特許取得が進むわけがありません。 ◆事態は深刻。日商の改革案とは 事態はきわめて深刻なので、日商は多くの改革案を出しています。 ○1:損害賠償額の引き上げ(「通常の特許実施料相当額」以上にする) ○2:諸外国を参考にして、知財侵害者に利益が残らないようにする ○3:証拠集めを支援し、見込み違いの提訴を防ぐために、訴訟提起前にも査証を導入する (※この査証で新たな証拠収集手続きが追加される) ○4:査証に一定の強制力を持たせ、証拠を侵害者に提出させる ○5:海外の侵害者を罪に問うことが難しいので、米中と同じく、懲罰的な賠償制度を導入する ○6:知財を持つ企業のために税制優遇制度や低金利の融資制度を設ける ○7:特許侵害者に訴訟費を負担させる そのほか、「大学や研究機関の特許を中小企業が事業化評価をする間、無償開放し、事業化後に有償契約に移行する制度を整備する」という案も出ていました。 ◆知財防衛なしに企業はメジャーになれない 知財は、企業が新たな発明を行い、ブランドを確立する際に、もっとも重要な価値の源です。 有名な例をあげれば、世界を制した「コカ・コーラ」も、1886年に一人の薬剤師(ジョン・S・ペンバートン博士)が1杯5セントの試作品を4軒の店(場所はアトランタ)で売り出したことから始まったのです。 その後、社業は別の経営者に委ねられましたが、コカコーラ社は、原液の作り方を秘密にし、それをブランドに高めることで、130年以上も巨大な価値を生み出してきました。 しかし、そうなるまでに「知的財産権」が守られなかったら、われわれは「コカ・コーラ」を違う名前で呼ばなければいけなくなったことでしょう。 ◆知的財産権が守られなければ、天才や熱意ある個人は出てこない 知的財産権を守ることは、一人の発明が広まり、地域から国家を超えて人を潤していく歴史を守る行為でもあります。 一つの商品の中には、それを発明した人の、熱い願いが宿っています。 それが守られなければ、多くの人の幸福を願って、発明に心血を注ぐ天才が出てこなくなるのです。 かつて豊田佐吉は、日本にも特許制度ができたことを知り、発明の道を志しました。 「これから何かお国のためになるものを考え出さねばならぬ」 彼はそう心に誓い、豊田式織機を発明しました。 その後、織機から自動車に本業が変わるわけですが、特許が守られなければ、トヨタ自動車の礎が築かれることもありませんでした。 ◆「知財」は経済の礎――これを守らなければ、国は衰退する 知財が守られなければ盗み放題なので、努力が報われない社会へと堕落していきます。 幸福実現党は「個人的自由、起業の自由、自由主義経済による繁栄に軸足を置いている」政党です。 我々は「国民がセルフ・ヘルプの精神を失った国家は必ず衰退していく」と信じています。 これが幸福実現党の創立者である大川隆法総裁が『政治の理想について』という著作で訴えた精神です。 その精神に則って、国民が心血を注いでつくった「知財」を守るべく、力を尽くしてまいります。 【参考】 ・日本商工会議所HP「知的財産政策に関する意見」 ・日本商工会議所HP「『知的財産政策に関する意見』について」 ・日本商工会議所HP「知財紛争処理システムの改革を」 ・日本コカコーラ株式会社HP「年表から見るコカ・コーラの歴史」 ・楫西光速(著)『豊田佐吉』吉川弘文館 ・大川隆法(著)『政治の理想について』幸福の科学出版 環境省「火力発電の新増設停止」の不条理 2019.04.04 環境省「火力発電の新増設停止」の不条理 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆原発再稼働が進まないのに、火力発電の「新増設を停止」? 3月28日、原田環境相は、大型火力発電の新設や増設を認めない方針を出しました。 これはパリ協定に基づく二酸化炭素(CO2)の排出削減目標を達成するための措置です。 環境省は、「経済的観点からの必要性しか明らかにされない」場合や、CO2削減の「目標達成の道筋」がはっきりしない場合には、新設や増設の計画を認めないことを決めたのです(「電力分野の低炭素化に向けて」)。 石炭火力は、最新鋭の設備でも、LNG火力の約2倍のCO2を出すので、特に、後者の条件を満たすのは困難です。 つまり、この方針が実施されれば、事実上、石炭火力は増やせなくなるのです。 ◆朝日新聞は、日本は「脱石炭」に後ろ向きだと批判するが・・・ このニュースを夕刊一面で報じた朝日新聞(3/28)は「温暖化に歯止めがかからないなか、世界的に『脱石炭』の動きが広がっており、後ろ向きな日本は批判を浴びている」と書き立てていました。 現在、約30の火力発電所を新増設する計画があることを指摘し、「世界が脱石炭にシフトするなか、日本の動きは国際的なトレンドに逆行している」と述べているのです。 まるで日本が悪いことをしたかのような書きぶりですが、それは本当に正しいのでしょうか。 ◆世界の石炭消費量は「大幅に増えた」あとに「減った」 まず、「脱石炭」についてですが、アジアやアフリカ、南米などでは石炭消費量が増えています。 世界のすべての国がヨーロッパのような「脱石炭」に賛成しているわけではありません。 なかでも、最大の消費量を抱える中国、経済が伸び盛りのインド、資源輸出国のオーストラリアやロシア、インドネシアなどは、石炭火力を放棄できません。 朝日新聞は「脱石炭」を「国際的なトレンド」と見ていますが、世界の石炭消費量は、2006年から16年までの間に2割増しになりました。 政府系団体の調査によれば、2006年の消費量は61億トン。16年の消費量は75億トンでした (※以下、石炭消費量の数値はJOGMEC〔石油天然ガス・金属鉱物資源機構〕の調査による。数値は四捨五入) 2013年の80億トンがピークで、16年までに5億トン減ったものの、10年単位で見ると増えた額のほうが大きいのです。 近年、減っていても、それ以前にもっと大きく増えていたわけです。 ◆石炭を最も消費しているのは中国 その次がインド 2016年の世界の石炭消費量のなかで、トップ3を占めるのは、中国(48%)、インド(12%)、米国(9%)です。 中国の消費量は36億トンです。10年で1.5倍に増えました(2006年:23億トン) インドは9億トン。こちらは10年で約2倍になっています(2006年:5億トン) この2国が、なんと世界の石炭消費の6割を占めています。 アメリカはオバマ政権の頃に石炭消費を減らしましたが、トランプ政権は、環境規制を緩和して石炭や石油産業のテコ入れを図っています。 資源国のオーストラリアやロシアも石炭消費を増やしています。 こうした国々は、「脱石炭」に熱心ではありません。 日本の石炭消費量は2016年で約2億トンです。 世界の2.5%の規模であり、10年前と比べても5%程度しか増えていません。 数字の規模で比べると、中国やインドのほうが、「脱石炭」に後ろ向きであることは明らかでしょう。 ◆CO2削減のために火力発電の進化を犠牲にするのか 2016年に日本が排出した二酸化炭素(CO2)は1年で11億トンです。 日本のCO2排出は4年連続で減っており、昨年11月には、国連環境計画(UNEP)の報告書でも、CO2削減が進んでいる国の一つに名をつらねていました。 CO2削減が進んでいる要因には、原発が再稼働して火力発電の割合が下がったことや再生可能エネルギーの活用などが挙げられています。 これは日本の火力発電の効率がよいことに助けられた数字だとも言えます。 しかし、それでもパリ協定の目標には届かないので、環境省は、火力発電所の新増設を抑える方針を出しました。 この方針には大きな問題があります。 それが実現すれば、「CO2排出の多い中国やインド、米国などは火力発電を強化できるのに、CO2を減らした日本はできない」というおかしな事態になるからです。 2016年のCO2排出量は、中国が91億トン、米国が48億トン、インドが21億トン、ロシアが14億トンでした。 中国やインドはGDP比のCO2削減目標ですから、GDPが伸びれば排出可能なCO2も増え、たいした削減をしなくても済んでいます。 それなのに、パリ条約を厳格に守った日本のほうが火力発電の自粛を強いられるわけです。 ◆日本の火力発電を友好国に国際展開すべき ここで考えるべきことは、パリ条約を「バカ正直」に守ることではありません。 日本の火力発電は、世界最高の熱効率を持ち、環境対応能力の高さで知られているわけですから、これをインドや米国、インドネシアなどの友好国に広め、国内企業を苦しめずに「世界のCO2を削減する」べきです。 経産省の審議会では「石炭火力の需要が増大するアジア諸国」などに「次世代技術」を広めれば、最大で「15億トン」のCO2削減効果が期待できるとの試算も出されています(「次世代火力発電に係る技術ロードマップ 中間とりまとめ(案)」2015年7月) (※資源エネルギー庁には「12億トン」との記述もあり) この方式であれば、日本の火力発電の国際展開に関して、他国に何ら非難される筋合いはありません。 CO2削減のために日本の火力発電の新設・増設を封印するのは愚の骨頂です。 また、原発を再稼働することで、火力発電への依存率を下げることも可能です。 後ろ向きな政策で、世界最高水準の火力発電の進化を止めるべきではありません。 世界の火力発電市場は「2040年にかけて石炭火力では約520兆円、LNG火力では約560兆円」の規模が見込まれています(「次世代火力発電に係る技術ロードマップ)。 この市場で日本のシェアを高め、火力発電の先進化によって、実益と国際貢献を両立させるべきなのです。 参考 ・環境省HP「電力分野の低炭素化に向けて ~新たな3つのアクション~」 ・朝日新聞夕刊(2019年3月28日付) ・新エネルギー・産業技術総合開発機構「平成21年度 海外炭開発高度化等調査『世界の石炭事情調査 -2009年度-』」 ・同上「「平成29年度 海外炭開発高度化等調査『世界の石炭事情調査 -2017年度-』」 ・マット・マクグラス(BBC環境担当編集委員)「世界のCO2総排出量、4年ぶりに増加=国連」(2018/11/28) ・共同通信「温室ガス排出量、4年連続減少 17年度、再生エネ導入と原発で」(2018/11/30) ・環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2016年)」 ・次世代火力発電の早期実現に向けた協議会「次世代火力発電に係る技術ロードマップ 中間とりまとめ(案)」(2015年7月) 「増税延期がリスク」だなんて、とんでもない。「お上の論理」にNOを! 2019.04.02 「増税延期がリスク」だなんて、とんでもない。「お上の論理」にNOを! HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆消費税は平成不況の象徴 平成の世も終わりが近づいていますが、政府は、1989年以降の経験から学ばず、消費税を10%に上げようとしています。 過去を振り返ると、1997年に消費税を5%に上げてから、税収が97年の水準(54兆円)を下回る時代が、2013年まで続いてきました。 そのころの税収は40兆円代の年が多く、政府が欲を出したことが裏目に出てしまいました。 税収は景気に連動するので、必ずしも「税率増=税収増」となるとは限らないのですが、消費者心理を読めない政府は、増税に踏み込んだのです。 ◆セブン&アイ元会長も消費増税による景気悪化を警告 こうした政府のあり方を、心ある経済人は大いに憂いています。 セブン&アイ元会長の鈴木敏文氏は『文芸春秋(2019年1月号)』にて、日銀が目標を達成できず、国民が老後不安を抱える中で消費税を上げるべきではないと警鐘を鳴らしました。 「消費の減少、企業倒産の増加、失業率の上昇といった負の連鎖に直面する可能性もある。当然、消費税だけでなく、法人税、所得税といった税収全般が、逆に低下する事態に陥ってしまいかねません」 そう訴え、日本人の消費マインドは「数字以上に敏感」なので、消費増税には税率の「数字以上」の影響力があると指摘していたのです。 1998年に北海道のイトーヨーカ堂で一律5%を値引いたら(消費税分還元セール)、売上高が前年比で165%になりました。 このセールは全国でも展開され、似たような結果となったことから、消費者は、必ずしも「2割引セール=2割売上増」という動き方はしないとも述べています。 ◆10%増税の「心理的効果」は無視できない 同じような見方をしている人に、京大大学院教授の藤井聡氏がいます。 この人は内閣官房参与でしたが、昨年末で辞め、本年からは「自由な立場」で消費増税の危険性に警鐘を鳴らしています。 藤井氏は、10%増税の「心理的な影響」にも注意を促していました。 「10%」という数字は3%や8%よりも区切りがよく、税負担を計算しやすくなるので、消費者が嫌でも負担を感じるようになるからです。 実際、藤井氏は、京都大学で男女100名ずつを対象に10%増税が起きた際の「買い控え」の度合いを測ったら、今回の増税には、2014年の増税の「1.4倍」の消費を減らす効果があることがわかったと述べています(藤井氏フェイスブックを参照)。 ◆今回の増税には、2%以上の「重税感」がある? そのほかにも、元東京都知事の舛添要一氏が、今回の増税の「重税感」は「2%増しどころではない」と述べていました。 税率が二ケタになり、計算が簡単な分だけ重税感が増すので、「1割という消費税率が消費を抑制する効果は、2%の税率との差以上になると考えたほうがよい」と警告していたのです。 舛添氏は「13750円」という複雑な値段を例にとり、8%だったら電卓でも使わなければ税金が1100円になるのはわからないが、10%だったらすぐに1375円だとわかるとも述べています。 たしかに、普段の買い物の時にいちいち消費者は電卓で計算しません。 そのため、簡単な税率になることで、今までに意識していなかった税額が「見える化」され、重税感を感じるわけです。 (※なお、舛添氏は必ずしも増税に反対ではなく、景気情勢の悪化のため他の選択肢もありえるという見方) ◆「消費者の目線」に立って見た経済観が大事 昔を振り返ると、増税判断を前にした2013年参院選の頃にも、鈴木敏文氏は、増税は「消費回復に水を差すことになる」と述べたことがありました。 当時も、マスコミに問われた時には、「増税は延期すべきだ」と訴えていたのです。 「消費税率を5%に引き上げた時や総額表示に切り替えられた時は、消費が落ち込み、その影響が長く続きました」(鈴木氏) 過去の小売の経験から、「日本人は税金に対してたいへん敏感」であることに注意を喚起していました。 やはり、大事なのは、お上の目線ではなく、こうした消費者目線に立った経済観なのではないでしょうか。 ◆安倍政権にとって「増税延期はリスク」? 幸福実現党も、立党以来、そうした消費者の目線に立って、増税の危険性を訴えてきました。 日経朝刊(2019/3/28)によれば、安倍首相は、3月19日に藤井聡氏と食事した時に「増税延期」を促されたのですが、結局、「予算を崩す方がリスクが大きい」と周囲にもらしていたそうです。 しかし、この「リスク」は、国民が負うリスクではありません。 「増税」という衆院選の公約を覆した際に「安倍政権が負うリスク」にすぎません。 幸福実現党は、「日本経済にリスクをもたらす」消費税増税に反対しているのです。 参考 ・鈴木敏文「『消費増税』猛反対された還元セール」(『文芸春秋』2019年1月号) ・セブン&アイホールディングスHP「[対談] イノベーションの視点 デフレ脱却へ いま、生活者の視点が日本経済のカギを握る」 ・舛添要一「消費税10%の重税感、今の2%増しどころではない」(JBプレス 2019/3/30) 報道されない「特別会計」を足した平成31年度予算の真相 2019.03.30 報道されない「特別会計」を足した平成31年度予算の真相 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「一般会計」の3分の1が社会保障関係費 3月27日に成立した2019年度予算(一般会計)は約101兆円でした。 昨年よりも3.7兆円増えたのですが、そのうち2兆円が増税対策に使われます。 最も大きく伸びたのは社会保障関係費で、その増額分は1兆円でした。 項目別の累計額を見ると、社会保障関係費は34兆円なので、一般会計の3分の1です。 7兆円の公共投資、約6兆円の教育予算(科学含む)に比べると、段違いの規模を誇っていることが分かります。 (※読みやすさを考慮し、原則として予算額は四捨五入しています) ◆「一般会計」は100兆円。では「特別会計」は? しかし、これは政府予算の全てではありません。 政府予算には「一般会計」のほかにも「特別会計」があるからです。 特別会計というのは、国が行う事業や資金運用などに用いる会計のことです。 具体的には、年金(医療含む)、財政投融資、地方財政の支援、震災復興などの項目があり、それらを足すと、額面上は400兆円近い規模になります。 しかし、そこには、一般会計と特別会計で二重に計算された金額が含まれているので、実額は半分程度です。 重複分を除いた特別会計は200兆円程度と見られています。 (一般会計の場合、重複分を引くと、実額は45兆円前後になる) 例えば、2017年は、特別会計の実額が196兆円、一般会計の実額(重複分除く)が43兆円。 両者の合計は239兆円でした。 (※この数値は財務省の「平成30年度 特別会計ハンドブック」による) ◆新聞記事をいくら読んでも、本当の2019年予算の姿は分からない 日本の財政は「一般会計+特別会計」から重複分を除いた数値(純計額)を見ないと、政府の本当の歳入と歳出はつかめないようになっています。 しかし、特別会計は複雑すぎるので、新聞やニュースなどは、その詳細をきちんと国民に伝えていません。 そのため、財務省HPで、その純計額を確認してみます。 【2019年予算】 〇歳入:244.5兆円 (租税収入が65兆円。年金や医療などの社会保険料は46兆円) 〇歳出:243兆円 ※財務省「財政法第28条等による平成31年度予算参考書類」を参照。次節も同じ。 ◆「(一般会計+特別会計)-重複分」で見た政府の七大支出 そして、規模の大きな歳出を見ると、社会保障関係費と国債費が目立っています。 ※値は全て四捨五入。()内は「費用÷歳出純計」の割合。 ――――― 〇1:社会保障関係費 92兆円(38%) (年金給付費が55兆円、医療給付費が22兆円、生活扶助等が5兆円、雇用、介護と少子化対策が3兆円ずつ、) 〇2:国債費:87兆円(36%) 〇3:地方自治体支援 19兆円(8%) (そのうち地方交付税交付金が16兆円を占める) 〇4:財政投融資 13兆円(5%) 〇5:公共事業関係費 8兆円(3%) 〇6:文教及び科学振興費 6兆円(2%) 〇7:防衛関係費 5兆円(2%) ――――― 純計額で見ても「社会保障関係費」が最大の項目になっています。 しかし、この92兆円は、社会保障で使われるお金の全てではありません。 厚生労働省は、昨年に、2016年の「社会保障給付費」は117兆円に達したと発表しています。 こちらの「社会保障給付費」のほうが、計上する範囲が広く、給付の総額を反映しているのです。 ※社会保障給付費はILO基準に基づいて算定。具体的には、社会保険制度、家族手当、公務員への特別制度、公衆衛生サービス、公的扶助、社会福祉、戦争犠牲者への給付などが含まれる。 ◆年間歳出のうち社会保障が占める本当の割合は? 結局、基準の取り方で、2019年の歳出に占める社会保障の割合は、ずいぶん違って見えてきます。 まず、一般会計(101兆円)のうち「社会保障関係費(34兆円)」が占める割合は34%です。 ――――― ところが、「一般会計+特別会計」の純計(243兆円)のうち、社会保障費が占める割合はもっと高いのです。 〇1「社会保障関係費(92兆円)」÷「歳出純計(243兆円)」=38% 〇2「社会保障給付費(121兆円)÷「歳出純計(243兆円)」=50% ※2019年の社会保障給付費は未定なので、2018年の財務省予測値を代入 ――――― 一般会計だけで見ると、社会保障予算は全体の1/3に見えます。 しかし、実際は、社会保障給付費は、政府支出の半分ぐらいの規模にまで拡大しているのです。 この給付費は2010年は105兆円だったので、1年につき2兆円の勢いで増えてきました。 このペースで行けば、一般会計の数値しか国民が知らない間に、社会保障費が政府支出の6割、7割を占める規模に拡大しかねません。 ◆特別会計の金額が分からなければ、国民は正しい判断ができない 今のままでは、現役世代の負担が年々重くなり、日本は、若者が夢を描けない国になってしまいます。 しかし、国民には、その危険性が伝わっていません。 そのため、選挙では、社会保障費の大盤振る舞いを掲げた政党が勝つこともよくあります。 結局、財政の本当の姿を伝えなければ、国民は主権者として正しい判断ができないわけです。 ◆特別会計の「見える化」が必要 こうした問題をなくすには、複雑すぎる特別会計を「見える化」しなければなりません。 政府がきちんと国民への説明責任を果たさない限り、日本の公会計は、国民にわからない「謎のエリア」であり続けるでしょう。 難題ではありますが、透明性の高い公会計をつくることは非常に大事です。 幸福実現党が目指す「小さな政府、安い税金」を実現するためには、公会計を国民の手に取り戻さなければなりません。 国民に理解できない公会計のもとで、国民主権が正しく機能するはずがないからです。 【参考】 ・財務省「平成31年度予算のポイント」 ・財務省「平成30年度 特別会計ハンドブック」 ・財務省「財政法第28条等による平成31年度予算参考書類」 ・財務省主計局「社会保障について」 安倍首相の右手には「カジノ法」、左手には「ギャンブル禁止法」 本音はどっち? 2019.03.27 安倍首相の右手には「カジノ法」、左手には「ギャンブル禁止法」 本音はどっち? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆安倍政権が「カジノ法」の施行令を閣議決定 3月26日に、安倍内閣は、カジノを含んだ統合型リゾート(IR)施設を整備するための施行令を閣議決定しました。 これは、2018年にできた「IR推進法」(※)を具体化するための措置です。 巨大ホテルや国際会議場の併設が必須とされ、カジノ事業者に100万円以上の現金とチップを交換した顧客の情報を国に報告することが定められました。 しかし、その中で、とりわけ違和感があるのは、カジノ広告は外国人向けに空港などの入国審査区域に限って出せるという規定です。 そこには「日本人に賭博をすすめるのはよくないが、外国人にはすすめてよい」という考え方が見てとれます。 これは「外国人が賭博中毒になろうが、我々には関係ない。儲かればいいんだ」という発想なので、海外から見れば利己的な金儲け第一主義に見えるのではないでしょうか。 (※IR推進法の正式名称は「特定複合観光施設区域整備法」。IRはIntegrated Resortの略) ◆「IR推進法」のいちばんの強調点は「カジノ」 このあたりに、この法案を進める政治家の本音が出ています。 施行令では「カジノはIR施設の3%まで」としているのは、反対する国民に、その規模を小さく見せたいからです。 しかし、施設の区域を広くとれば、大きなカジノでも「3%」に収まるのではないでしょうか。 この法律に関しては、いろいろな詭弁があるので、特に注意が必要です。 そもそも、「統合型リゾート施設」とし、「IR推進法」と呼ぶのは、「カジノ法」と呼んだら誰も賛成しないからです。 「ホテルや国際会議場、展示施設なども一緒につくればいい」という論調も根強いのですが、法案でいちばん力点が置かれているのは、やはり、カジノ新設です。 それは、第一条に書かれた「目的」を見ればわかります。 そこには、国の監視と管理の下で「カジノ事業」を営み、その収益を活用して「特定複合観光施設区域の整備」を促すと書かれています。 そして、「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現する」ために、カジノ事業の免許や規制、料金、管理委員会のあり方などの大枠を定めたのです。 しかし、カジノに「魅力」を感じ、「滞在型観光」を実現する人が増えることで、何が起きるのでしょうか。 ◆日本はすでにギャンブル依存者が多い国になっている 当然、カジノの開設で懸念されるのは、ギャンブル依存者の増加です。 しかし、すでに日本は、ギャンブル依存者が多い国になっています。 厚生労働省が2017年に外部委託した調査によれば、成人の3.6%が生涯を通じて「ギャンブル依存症が疑われる状態になったことがある」とされています。 (※国立病院機構久里浜医療センターの調査) 同じ基準で見た時に、フランスは1.2%(2011年)、韓国は0.8%(2010年)なので、日本は他国よりも高いのです。 これを国勢調査のデータに換算すると約320万人になります。 最近の1年間に「依存症が疑われる状態だった人」は70万人(0.8%)と見なされています。 これ以上、ギャンブルで人生を棒に振る人を増やしてはなりません。 ◆「ギャンブル等依存症対策基本法」とカジノ建設は矛盾する 大きな矛盾なのですが、安倍政権下で、2017年には「ギャンブル等依存症対策基本法」が成立していました。 こちらでは、ギャンブル依存症が本人と家族を苦しめ、「多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせている」ことへの対策が定められています。 これをつくった翌年に「統合型リゾート」を推進する「公共政策」と称して、IR推進法をつくったのです。 しかし、公共政策というのは、道路や水道のように、みなが必要であるのに、民間だけではつくれない財(公共財)を提供する政策のことです。 カジノを含めた「統合型リゾート」は、そうした「誰もが必要とするもの」ではありません。 だから、これが「公共政策」だというのは、大きなウソです。 結局、安倍政権は「ギャンブル等依存症対策基本法」との矛盾を隠すために、国民をあざむいているのです。 ◆日本は、正攻法で経済を復興すべき やはり、日本は「カジノ」のような奇策ではなく、正攻法で発展を目指すべきです。 そのためには消費税の減税等が大事ですが、あえて、カジノの代案を挙げるのなら「証券課税の廃止」がそれにあたります。 これは、日本人の投資を増やすだけでなく、海外の投資家に日本の株式を買ってもらったり、富裕層を招き入れたりする政策だからです。 約2割の証券課税は、所得税を取られた後に投資をした時の「儲け」にかかっています。 売却益にも配当金にもかかるのですが、これが二重課税であることは明らかです。 NISAという非課税の投資枠もありますが、これは年120万円、5年で600万円が上限です。 もともとは長期投資の活性化を目指したのですが、上限が小さく、謎の5年枠がついているために、「ないよりはまし」というぐらいの策に終わっています。 公益性のないカジノを国が主導するよりも、証券課税を廃止し、国民に企業への投資を推奨したほうが理に適っています。 新しいビジネスの創造は、国ではなく、民間主導で行われるべきだからです。 参考 ・国立病院機構 久里浜医療センター「国内のギャンブル等依存に関する疫学調査(全国調査結果の中間とりまとめ)」(樋口進院長/松下幸生副院長、2017/9/29) ・特定複合観光施設区域整備推進本部事務局「IR推進会議取りまとめ(概要)~「観光先進国」の実現に向けて~」(2017年8月) 年金支給開始年齢「65歳」はいつまで続く? 2019.03.26 年金支給開始年齢「65歳」はいつまで続く? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆2019年には年金の「財政検証」が行われる 今年の夏には「100年安心」の年金プランを保障するという名目で、5年に1度の「財政検証」が行われます。 具体的には、年金給付が会社員世帯の平均賃金の半分以下にならないように給付額を調整するのですが、この作業は、過去、2004年、09年、14年にも行われてきました。 国民の多くは年金に関心を持っているので、これは、参院選のあたりから、クローズアップされるはずです。 ◆保険料だけで維持できない年金財政 今の年金制度は、保険料だけでは成り立たず、国費を用いて運営されています。 2017年の国民年金と厚生年金の歳入は52兆円ですが、そのうち保険料は32兆円です。 国の財政からお金を出して、運営を続けているのです。 (※運用損益や積立金の取崩し、解散基金への徴収金等があるので、必ずしも「給付額-保険料=国費」ではない) そのため、将来に積立金が枯渇することを恐れ、給付を調整する「マクロ経済スライド」という仕組みが2004年に導入されました。 ◆2019年の年金伸び率が0.1%となった理由 2019年には、年金伸び率が0.1%になったことが注目されました。これは、マクロ経済スライドが行われた結果です。 この制度は、賃金や物価を勘案した伸び率から調整率を引いて年金の給付額を決めます。 例えば、2019年は伸び率0.6%から調整率0.5%が引かれ、給付金は0.1%増えました。 (※この調整率は二年分。18年分が0.3%、19年分が0.2%。法改正で前年分の加算が可能になった) しかし、伸び率から調整率を引くとマイナスになる時には、前年と同額の給付金が出されます(伸び率ゼロ)。 また、賃金や物価が下がった場合は、その下落率と同じ割合で年金が減ります。 この場合、下落率に調整率は足しません。 この制度は「自動調整制度」といわれますが、伸び率がプラスの時にだけ働くので、実際は、導入以後も給付金はあまり減っていません。 ◆年金保険料 さらなる増額がやってくる? 厚生労働白書(平成29年度)を見ると、2004年から17年までの間、各人の年金支給額を減らしても、保険料が延々と上がり続けています。 その現状は以下の通りです。 【老齢基礎年金】(40年納付満額】 満額で計算すると、1月あたりの基礎年金の受給額は13年間で2%(1267円)しか減っていません。 ☆66208円(2004年)⇒64941円(2017年) 【夫婦の基礎年金+夫の厚生年金】 また、標準的なモデル世帯の年金受給額(月あたり)は13年間で5%(12022円)の減額でした。 ☆233299円(2004年)⇒221277円(2017年) しかし、年金の保険料は、もっと大きく上がっています。 2004年に月13300円だった国民年金の保険料は、2017年に16900円に達しました。 また、給料にかかる厚生年金の保険料率は、同じ期間で、13.9%(04年)から上限の18.3%(17年)にまで上がっています。 現在、保険料は上限に達し、現役世代は一息ついています。 しかし、これからも少子高齢化は進むと、さらに保険料が上がる恐れがあります。 選挙で高齢者票は捨てがたく、支持率低下を恐れる安倍政権が給付を減らすのは難しいからです。 ◆現役世代の負担をこれ以上、増やせるのか 政治家は年金の大盤振る舞いを続けてきましたが、今の支給額を維持するのは難しいことです。 少子高齢化によって、現役世代の負担はどんどん増えているからです。 2020年には、1人の高齢者を2人の現役世代で支えますが、こんな数字は、年金ができた頃には「想定外」でした。 国民年金法ができた頃には、1人の高齢者を11人の現役世代で支えていたのです(※1960年。国民年金法は59年成立、61年施行)。 この情勢の中で現役世代の負担を延々と増やし続けることはできません。 現役世代には、子育てや新しい仕事の創造といった、未来のためのお金も必要だからです。 ◆年金支給開始年齢の引き上げは自然な流れ そのため、年金改革の議論の中では「年金給付の開始年齢を引き上げるべきだ」という主張が出てきます。 財務省が68歳への引上げ案を出したこともありましたし、70歳への引上げを提言する識者も少なくありません。 世界から見ても、日本は平均寿命の長い国だからです。 この是非を考える際には、年金ができた頃に、少子高齢化を想定していたかどうかを振り返る必要があります。 1960年の日本の平均寿命は、男性が65歳で、女性が70歳でした。 2016年の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳なので、56年で16歳以上、伸びています。 さらに、出生率は「2」(1960年)から「1.43」(2017年)にまで下がっています。 これだけ世相が変われば、支給開始年齢が引上げられるのは、仕方のないことです。 負担と給付のバランスをとるために、まずは68歳、さらには70歳にまで上げざるをえないのではないでしょうか。 【参考】 ・厚生労働省年金局「厚生年金・国民年金の平成29年度収支決算の概要」(2018/8/10) ・日経電子版「年金額0.1%増に抑制、マクロ経済スライド発動 19年度」(2019/1/18) ・日本年金機構HP「マクロ経済スライド」 ・厚生労働省『平成29年版厚生労働白書 資料編』 ・内閣府『平成30年版高齢社会白書』 ・内閣府『平成30年版少子化対策白書』 「医療費40兆円」時代の制度改革 所得に応じた窓口負担へ 2019.03.24 「医療費40兆円」時代の制度改革 所得に応じた窓口負担へ HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆経済成長率 VS 医療費の伸び率 2001年に31兆円だった日本の医療費は、2017年に42兆円に増えました。 16年で1.35倍なので、医療費の伸び率は1年あたり1.9%。 この勢いは、日本の実質GDPの伸び率の二倍以上なので、今の日本では「医療費を誰が負担するか」が、大きな問題になっています。 経済のパイはたいして大きくならないのに、医療費にさかれる割合が上がり、現役世帯の国民健康保険料が上がり続けているからです。 (※01年~17年の実質GDPの平均伸び率は0.8%) ◆病院に行くのは虫歯と風邪ぐらいなのに・・・ 2017年の医療費を人口で割ると、一人あたり33万3千円。 12ヶ月で割ると、1ヶ月あたり27750円。 ただ、これは人口割なので、現役世代は、もっと多くのお金を支払っています。 例えば、東京の文京区で年収が432万円の方には、年間で50万円ぐらいの国民健康保険料がかかります。 (※これは文京区HPの簡易計算ページで算定。432万円は2017年の平均年収) 年収の1割以上の保険料なので、虫歯の治療と風邪の検診ぐらいしか病院に行かない人には、高すぎる数字です。 ◆後期高齢者医療の費用は現役世代の4倍以上 朝日デジタル(2018/9/21)は、医療費増の要因として「75歳以上の後期高齢者の医療費が伸びたこと」をあげ、その費用は「全体の増加分の7割超を占めた」と報じています。 国民一人あたりの医療費を見ると、75歳以上の医療費は94.2万円。 75歳未満は22.1万円なので、高齢者医療には、現役世代の4倍以上のお金がかかっています。 ◆高齢者の医療費が「1割」で済む背景 しかし、多くの後期高齢者が支払う医療費は「1割」で済んでいます。 「現役世代並み」の収入があれば高齢者も3割負担になるように改革されましたが、その認定基準が緩いからです。 ――― 〇75歳以上の高齢者が世帯に1人。収入額が383万円未満 ⇒医療費は1割 〇75歳以上の高齢者が世帯に2人。収入額合計が520万円未満 ⇒医療費は1割 ――― そのため、たいていは1割負担となり、足りない分の医療費は現役世代の保険料と公費でまかなわれています。 ◆今の日本では、貧しい若者が豊かな高齢者の医療費を負担? むろん、生活に困った高齢者に対しては、セーフティネットとしての医療が必要なので、「1割」という負担額がちょうどよい方もいます。 しかし、この制度には「貧しい若者が豊かな高齢者の医療費を負担する」事態が生じかねない、という問題があります。 そのため、総務省の「家計調査報告」から、世代別にみた資産の平均値を見てみましょう。 〔以下、年代:純資産(貯蓄-負債)で表記。単位は万円〕 ――― 〇 40歳未満:-521万(602万-1123万) 〇 40~49歳:19万(1074万-1055万) 〇 50~59歳:1082万(1699万-617万) 〇 60~69歳:2177万(2382万-205万) 〇 70歳以上:2264万(2385万-121万) ――― あくまでも平均値なので、個々の世帯はいろいろですが、このデータからは、お金に困っていない高齢者もかなりいることが推測できます。 ◆後期高齢者の医療負担は「年齢」ではなく「所得」で決めよう 平成29年度の医療費を見ると、総額42.2兆円のうち、75歳以上の医療費は16兆円なので、総額の4割(38%)を占めています。 そして、後期高齢者医療は「公費が5割、現役世代の保険料が4割、自己負担が1割」なので、16兆円のうち約1.6兆円が自己負担分とみられます。 残りの14.4兆円は74歳以下の保険料や公費でまかなわれているのです。 これを所得に応じて医療費を負担する仕組みに変え、後期高齢者が平均で2割を負担すれば1.6兆円の医療費が軽減されます。 これから75歳以上の方が増えていきますが、「団塊世代の中には、受け取る年金だけでも、夫婦で400万円を超える世帯も珍しくない」(土居丈朗氏・慶大経済学部教授)ので、かなりの世帯は負担増に堪えられるはずです。 低所得者もいるので、みなで3割負担は難しくとも、「2割以上の負担」が実現すれば、公費と現役世代を足した負担分を2兆円近く減らせる可能性があるのです。 ◆少子高齢化の進展により、「1割負担」の改革は不可避 少子高齢化が進み、現役世代が支える高齢者の数は増え続けているので、「1割負担」をいつまでも続けられるとは思えません。 『高齢社会白書(平成30年版)』は、65歳以上人口と15~64歳人口の比率の推移を比較しています。 そして、高齢者1人あたりの現役世代の数を、以下のように見込んでいたのです。 ――― 〇1950年:現役世代12.1人 〇2015年:現役世代2.3人 〇2020年:現役世代2人 〇2035年:現役世代1.7人 ――― 現役世代が減れば、一人あたりの社会保障費の負担はどんどん重くなります。 若い世代に多くの社会保障費を課せば、日本の活力も失われていきます。 現役世代には、子育てや新たな仕事の創造など、未来のために使えるお金が必要だからです。 そのため、高齢者の医療負担は「年齢」ではなく、「所得」に応じた基準に改める必要があるのではないでしょうか。 ※高齢者が高額の医療負担に直面したらどうするのか。 日本では高額療養費制度によって自己負担の限度が定まっているので、前掲の変革で医療費の上限は変わらない。低所得者に限定して「1割負担」を残せば、セーフティネットとしての医療は維持できる。 【参考】 ・日経電子版「国民医療費とは 15年度42兆円 1人あたり33万円」(2018/9/17) ・朝日デジタル「昨年度の医療費、過去最高42.2兆円 2年ぶりの増加」(2018/9/21) ・文京区HP「国民保険料簡易計算」 ・総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-平成29年(2017年)平均結果―(二人以上の世帯)」 ・厚生労働省保険局調査課『-平成29年度 医療費の動向-』 ・東京都後期高齢者医療広域連合「医療費の現状」 ・土居丈朗「高齢者の医療費は原則「3割」に引上げよ」(東洋経済デジタル版) ・内閣府『平成30年版高齢社会白書(全体版)』 米中ともに大減税なのに、日本だけは増税? 2019.03.21 米中ともに大減税なのに、日本だけは増税? HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆米中英仏が「減税」を決定 安倍政権は消費税増税を目指していますが、世界の主要国は減税に向けて動いています。 米国で成立した「トランプ減税」をはじめとして、英仏の法人税減税や、中国での減税などが進んでいるのです。 3月の全人代で中国の減税プランが固まったので、四カ国の減税を紹介し、日本の増税路線の是非を考えてみます。 ◆トランプ減税 10年間で1.5兆ドルの衝撃 まず、トランプ政権下で17年12月に成立した共和党の減税法案を振り返ってみます。 10年間で約167兆円(1.5兆ドル)となる減税の中身は以下の通りです。 ――― 〇所得税 ・最高税率引下げ:39.6%⇒37% ・二種の控除を統合:12000ドルに拡大 ・児童控除を倍増(1000ドル⇒2000ドル) ・家族控除を新設(500ドル) 〇遺産税(日本でいう相続税) ・控除枠を倍増(550万ドル⇒1100万ドル) 〇法人税 ・連邦法人税率を引下げ:35%⇒21% ・小規模ビジネスの事業所得への20%控除を創設 ――― 特に注目を集めた法人税減税では、21%の税率の上に州法人税がかかります。 (州法人税の税率は0~12%の範囲。50州のうち23州が3~6%台。6州が0%) 日本の法人税は約30%(実効税率)なので、米国との税率差が広がりました。 ◆英国、フランスの法人税減税 英国の法人税は19%ですが、これが2020年4月以降は17%になります。 EU離脱の衝撃を考えれば、これは、必要な措置です。 また、フランスでは、現行33.33%の法人税(実効税率)が2020年には25%にまで下がります。 中小企業に15%の軽減税率が適用されることも決まりました(「売上高が763万ユーロ未満」等の条件がある)。 これは、成長鈍化への対策として打ち出された大幅減税です。 ◆何と、中国で「大減税」が進行中 そして、興味深いのは、景気減速を恐れた中国の「大減税」です。 すでに18年には21兆円相当(1.3兆元)の減税が実施されています。 ――― 〇18年減税 ・消費税に相当する「増値税」を1%減税(16%/10%/6%の三段階) ・法人税減税(研究開発控除の拡大、赤字を翌年損金に計上、小規模企業への優遇税制など) ・個人所得税の課税最低限引上げ:3500元⇒5000元 ――― 18年の所得税減税で、年収200万円の会社員の負担は年5万円ほど減ると見られています。 19年3月の全人代では、33兆円(2兆元)もの追加減税が決まりました。 ――― 〇19年減税 ・製造業の増値税:16%⇒13% ・交通、運輸、建築業の増値税:10%⇒9% ・企業の税負担と社会保険料の軽減 ――― トランプ政権の減税は1年あたり16兆円程度でしたが、19年の中国の減税額は、その二倍の規模です。 ◆日本だけは、なんで「増税」? このように、日本よりも経済成長率の高い国々が、未来に備えて減税を進めています。 2018年の実質GDPの伸び率は、米国は2.9%、英国は1.4%、フランスは1.5%。 中国は6.6%とされますが、日本は0.8%でした。 にもかかわらず、安倍政権は「景気がよいから大丈夫」と楽観し、消費税10%を目指しています。 残念ながら、成長率の低い日本のほうが、増税を選んでいるわけです。 しかし、本来、増税ができるのは景気がよい国であり、減税が必要なのは、景気の悪い国のほうです。 経済の常道から見れば、自公政権がいう消費税増税は撤回しなければなりません。 幸福実現党のいう、消費税5%への減税が必要なのです。 (参考) ※財務省主税局調査課 『「トランプ税制改革」について』(日向寺裕芽子/塩田真弓) ※TAX FOUNDATION “State Corporate Income Tax Rates and Brackets for 2018″(Morgan Scarboro) ※日経電子版「中国、年5兆円規模の所得減税 貿易戦争に備え」(2018/9/27) ※JETRO「李克強首相、4月1日から増値税率引き下げを発表」(2019/3/18) ※JETRO「全人代で2019年も増値税率引き下げの方針を発表」(2019/3/15) 「日本の景気はよくなった」は本当? 中小企業統計が語る現実 2019.03.19 「日本の景気はよくなった」は本当? 中小企業統計が語る現実 HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆「景気はよくなった」とうそぶく現政権 安倍政権は「景気は消費税増税で一時期、後退したが、最近は回復してきている」と見て、消費税を10%に上げようとしています。 「好景気が続いている」とマスコミも報じていますし、実際に、多くの企業の業績がよくなったのも事実でしょう。 しかし、その声とはうらはらに、中小企業の売上高は、そんなに伸びていません。 そのことを、財務省の「法人企業統計調査」から確認してみたいと思います。 ◆バブル崩壊以降、中小企業の売上高平均は「半減」 まず、政府資料から見ますと、平成27年の『中小企業白書』では、小企業と中企業、大企業について、34年間の平均売上高の推移を比較しています。 そこでは、1980年の値を「100」とした時に、大・中・小企業の売上高(1社あたり平均値)の推移が書かれていました。 ・大企業:98.9(80年代)⇒91.5(2010~13年) ・中企業:104.7(80年代)⇒51.6(2010~13年) ・小企業:103.7(80年代)⇒55.1(2010~13年) 驚くべきことに、中小企業の平均売上高が半減しています。 大企業の売上高はバブル崩壊後、失われた20年の間も少しずつ回復してきましたが、中小企業の売上は不調が続いていたわけです。 (2000年代では中企業は50.3。小企業は57なので、2010~13年に大きな好転は見られない) 安倍首相が前回の消費税増税を決断したのは2013年10月でしたが、このデータから見る限り、当時の政府が中小企業の状況を正しく把握できていたとは思えません。 (※前掲データは財務省の「法人企業統計調査」を整理したもの。資本金を基準として、小企業は1000万円~1億円未満、中企業は1億円~10億円未満、大企業は10億円以上と仮定。各グループの売上累計を調査対象の頭数で割り、1980年の値を100として指数化した) ◆「勢い」がなくなった日本の中小企業 しかし、これは2013年までの話なので、「その後は違うのでは」と思われた方もいるはずです。 そのため、財務省の「法人企業統計調査」の時系列データ(金融業と保険業除く)を用いて、その後の平均売上高を追跡してみました。 80年代と第二次安倍政権の期間(2013~17年)で比べてみましょう。 以下、売上高(1社あたり平均値)です。 〇中企業 ・80年代:10.3億円 ・2013~17年:5.3億円 〇小企業 ・80年代:1.4億円 ・2013~17年:0.7億円 多少、改善していますが、やはり、半減しています。 ほぼ、中小企業白書に書かれた通りの結果です。 利益率は上がり、経営体質は改善されましたが、この売上減は、中小企業が「勢い」を失ったことを示しています。 売上が減ればシェアの獲得もままならず、お金の貸手からは将来性に疑問符をつけられるので、これはゆゆしき問題です。 安倍政権は「起業家育成」も掲げていますが、売上減が深刻なのですから、消費増税で中小企業や新興企業の勢いを削ぐべきでありません。 ※参考:1社あたり平均純利益。 ()内は売上高に占める純利益の割合 ▽中企業 ・80年代:901万円(0.9%) ・2013~17年:769万円(1.4%) ▽小企業 ・80年代:71万円(0.5%) ・2013~17年:105万円(1.5%) ◆「景気がよくなった」は、主に大企業の話なんじゃ・・・ さらに、大企業のデータも見てみると、安倍政権のいう「景気回復」の主な対象が見えてきます。 〇1社あたり平均売上高 ・80年代:281億円 ・2013~17年:270億円 ▽1社あたり平均純利益。 ()内は売上高に占める純利益の割合 ・80年代:3億4500万円(1.2%) ・2013~17年:11億6000万円(4.3%) 売上高は微減ですが、利益率は3.6倍になったので、大企業は強くなったとも言えそうです。 ◆大企業だけを見ている安倍政権では、日本経済復活はない 安倍政権は企業に賃上げを求め、限定的な減税政策で設備投資を募っていますが、どちらも、中小企業には難しい話です。 「金融緩和で円安になれば輸出企業に恩恵がある」といっても、中小企業の売上高に輸出が占める割合は4.1%(2015年)です。 円安は、原材料を海外から輸入・加工し、国内で売る企業にコストアップをもたらします。 輸出で儲ける大企業に消費増税はあまり関係ありませんが、国内で活動する中小企業は売上が減って苦しみます。 幸福実現党が、立党以来、この増税は消費を冷え込ませ、景気悪化をもたらすと述べていたのは、大企業だけでなく、中小企業まで含めて、日本経済を活発にしたかったからです。 消費税が上がれば利益の削り合いになるので、体力のある大企業のほうが有利になります。 しかし、それでは、新興企業は育ちません。 日本経済を活発にするには、新たに売上を拡大し、シェアを獲得するチャレンジャーが必要です。 幸福実現党は、消費税5%への減税によって消費を盛り上げ、零細企業から大企業までの業績を盛り立てることを目指します。 消費増税「今までより国民負担は軽い」は、なぜ詭弁なのか 2019.03.17 消費増税「今までより国民負担は軽い」は、なぜ詭弁なのか HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆19年増税で国民負担は6.3兆円増 政府の見積もりによれば、今年の増税で国民負担が6.3兆円ほど増えます。 そのうち、5.7兆円が消費税分なので、安倍政権は、軽減税率や教育無償化等を行い、「前よりも負担が軽くなるから」という論理で国民を説得しようとしています。 (残りの0.6兆円はたばこ税や所得税増税等)。 しかし、消費の冷え込みを恐れる声は大きく報じられず、軽減税率が適用される新聞社は、増税を既定路線として固めるかのような動きを見せています。 政府とマスコミに「福祉のために」といわれると、「そうなのか」と思い、納得してしまう方もいるわけですが、果たして、本当にそれでよいのでしょうか。 ◆増税の国民負担 過去の増税分と今回分を足したら月何万円増える? 消費増税には「何回かに分けられるので、国民には一回ごとの負担増の金額しか伝わらない」という問題点があります。 今回で増税は3回目ですが、2回目と3回目の増税を足して数えると、税率は2倍(5%⇒10%)になります。 しかし、新聞等で報じられるのは「今回の増税で1世帯あたり3~4万円増」(※)といった記事ばかりなので、「二回の増税を足した時、負担がどれだけ増えるか」を知らない方もたくさんいます。 日経電子版の試算によれば、平均年収(432万円:2017年)に近い収入階層(400~500万円)では、消費税が5%⇒10%になった場合、負担額は10.6万円も増えるようです。 同紙には負担額を試算できるページもあるので、日経はこの金額を把握しているはずですが、こちらは報じられません。 ※以下の記事を参照 ・日経電子版「19年消費増税 家計負担、1世帯3万~4万円増も」2018.12.10 ・日経電子版「年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は」2016.2.23 ◆減り続ける家計の消費 政府の「増税対策」は近視眼的 安倍政権は、軽減税率や住宅・自動車の反動減対策、教育無償化、キャッシュレスポイント等で増税の打撃を薄めようとしていますが、これもおかしな話です。 安倍首相は「いただいたものを全てお返しする」と言いましたが、そもそも、返すぐらいなら取る必要もありません。 これは「お金の取立てと配分」という、政府の無駄な仕事をつくっているだけです。 そして、首相と茂木敏充氏(経済財政担当相)は消費が「2016年以降、増加傾向で推移している」と述べています。 しかし、これはあまりにも近視眼的です。 2018年の家計の平均消費は月31.5万円(※二人以上の勤労者世帯) これは2015年と同じぐらいの金額ですが、増税前の2013年は31.9万円ありました。 さらに過去に戻ると、第二次安倍政権の期間で最も消費が好調だった2013年でも、2008年の水準(32.5万円)を下回っています。 2000年から2007年までは32~34万円の範囲で推移していました。 結局、安倍政権は、消費がサブプライムショック以前の水準にまで回復していないのに増税を急いだわけです。 そして、増税が景気の腰折れを招いたことを反省せず、わずかな回復額を見て「もう一度増税すべきだ」と言っているのです。 ※この数値は総務省統計局「家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)」を参照 ◆日本経済のエンジンは消費 幸福実現党の5%減税こそが正論 結局、現政権の増税路線では、日本の消費の回復は望めません。 日本のGDPの6割は「消費」が占めています。 ここに増税で重石をかけながら、金融緩和を続け、企業に「もっと投資してほしい」「賃上げしてほしい」と言ってきたのが、消費増税以降のアベノミクスです。 また、2017年の総選挙では、共産党も社民党も消費税増税に反対しましたが、結局、「5%への減税」という、本来あるべき政策を打ち出せませんでした。 共産党や社民党は、消費税増税には反対ですが、大企業増税と累進課税と証券税制の強化を訴えているので、結局、減税政党ではないのです。 現在、本当に「小さな政府、安い税金」を訴え、国民と企業の味方として、減税を訴えているのは、幸福実現党だけです。 本当に日本経済を立て直すためには、単なる増税中止ではなく、消費税5%への減税という抜本的な改革が必要なのです。 すべてを表示する « Previous 1 … 6 7 8 9 10 11 Next »