Home/ 2023年 September 2023年 September 【露朝首脳会談】軍事協力の本格化で北朝鮮の脅威が現実化する。 2023.09.28 https://youtu.be/ZlRfh864RTk 幸福実現党党首 釈量子 ◆国連には従わないという両国の意思表示か 会談内でプーチン大統領と金正恩総書記が握手をする1時間前、北朝鮮から2発の弾道ミサイルが発射され、日本の排他的経済水域の外に落下しました。 弾道ミサイルの発射は、国連安保理決議で禁止されていますが、国連安保理の常任理事国として当事者のプーチン大統領は、「お会いできてうれしいです」と金氏に話しかけています。 プーチン大統領が弾道ミサイル発射を事前に知らされていなかったとは考えにくく、会談直前という発射のタイミングも計画的なものであると考えざるをえません。 さらに言えば、国連の決定には従わないという両国の意思表示とも取れます。 ◆露朝の軍事協力の本格化 首脳会談での具体的な合意内容は明らかになっていませんが、人工衛星や潜水艦など、ロシアから北朝鮮に対する技術協力について話し合われた可能性があります。 プーチン大統領は、「北朝鮮の人工衛星開発を支援するか」という記者からの質問に、「そのためにわれわれはここにいる。(金正恩氏は)ロケット技術に大きな関心を示しており、宇宙開発も進めようとしている」と答えています。 7月にも、ショイグ露国防相が北朝鮮を訪問しており、両国の防衛協力を強化する考えを表明しています。 カービー米戦略広報調整官は今月13日、「もし、なんらかの武器の取引が行われれば、北朝鮮はアメリカや国際社会からしっぺ返しを受けることになる」と警告を発しており、一連の露朝接近に対してこれまで以上に警戒を強めなければなりません。 ◆三正面作戦を回避し、外交方針を転換せよ 北朝鮮は昨年9月「核武力政策法」を制定して核兵器の使用条件等を整え、今年の3月には戦術核弾頭を初公開して「戦術核攻撃潜水艦」の進水式も行うなど、北朝鮮の核の脅威は、ますます現実性を帯びています。 そんな北朝鮮と同じく、核を保有するロシアと中国に囲まれた日本は、この三国を一気に敵に回す、いわゆる「三正面作戦」となっている状況をいち早く回避しなければなりません。 ロシア・ウクライナ戦争を停戦に持ち込み、第三次世界大戦の勃発を喰い止めるためにも、ロシアを完全に敵にはしないという判断が重要です。 国際社会においても、露朝会談前にインドで開かれたG20では、共同声明にウクライナ戦争についてのロシアを非難する文言を入れようとして、半数の国が反対するなど、ロシアを悪とする西欧の姿勢には、一定の見直しがかかっています。 一方でプーチン大統領は、西欧諸国に対する対立路線を強めるかのように、金正恩氏からの北朝鮮訪問要請を快諾し、ロシアと北朝鮮は、「欧米の優越思考を打ち砕く」という点で共通しています。 しかし、神仏を否定した共産主義を展開する唯物論国家の中国とそれに追随する北朝鮮の両国と、2020年の憲法改正にて「神への信仰」という文言を加えたロシアとは、本質的に相容れない国だと考えます。 ロシアの隣国である日本は、ロシアに対しての対話の道を閉ざしてはなりません。 ロシアのラブロフ外相は、9月1日の国内での大学で次のように語っており、未だ日本との対話の余地を残しています。 「日本は米国の政策を疑わず愚かに従うことを決めた。悲しいことだ。日本は依然として隣国だ。外交関係を維持しており、これにはわれわれも賛成している。対話にもオープンだ。」 こうしたシグナルを逃さずに活路を見出し、ロシアに対する外交方針を転換するべきだと考えます。 中国が発表した最新地図にアジア諸国が一斉に反発――中国の赤い舌がアジアを飲み込む 2023.09.23 https://youtu.be/4UZwqK0qIKY 幸福実現党党首 釈量子 ◆中国が公表した「2023年版 標準地図」 8月28日、中国が「2023年版標準地図」を公表しました。 これに対して、国境を接するアジア諸国が一斉に非難の声を上げました。領有権を争っている海域や領土を、勝手に中国が自国の権益が及ぶところだという主張しているためです。 【参考】 中国発表の最新「標準地図」南シナ海ほぼ全域の管轄権など主張 2023年9月5日 NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230905/k10014184581000.html ◆十段線とは? この新地図で注目されているのが、10本の線「十段線」です。 日本のニュースでは、「2023年版標準地図」から「九段線」に10本目の点線が台湾を中国が囲うように東側に追加されたという報道もあります。 しかし、すでに中国は2014年6月発行の認可した 「公式地図」から、台湾東岸に破線が1本加わっており10本になっています。 私が実際に2013年に中国に行った時に購入した地図で、「2014年6月河北第五次印刷」とあります。 中国は、これまで「自国の主権が及ぶ」と主張する範囲を、南シナ海に赤い線で描き、これまで「九段線」と呼んできました。 形が牛の舌に似ていることから、「(中国の)赤い舌」とも呼ばれます。南シナ海全域を舐めるような形になっているからです。 ◆国境とは違う「辺疆(へんきょう)」の概念 何故このような勝手なことができるのかというと、中国は「国境」という線を引いて守るというような概念ではなく、「辺疆」といって、国力が強くなれば風船のように周辺の国を飲み込み拡大することを国家戦略して考えているからです。 例えばウイグル人の住む東トルキスタンを「新疆ウイグル自治区」としています。 戦後、海洋調査が盛んになって海底資源が次々に発見されるようになると、中国は南シナ海が自分の国の領海だと主張し、浅瀬を埋め立てて「人工島」を造り、軍事基地に変えてしまいました。 これに対して、フィリピンは「国連海洋法条約」に基づいて2016年オランダ・ハーグにある「常設仲裁裁判所」に申し立てを行いました。 裁判所も「中国の一方的な領海の設定は国際法上において根拠がない」と裁定したのですが、中国は無視を決め込んできました。 ◆アジア諸国が一斉に反発 今回の中国の新地図に対してもフィリピンをはじめ、多くのアジア諸国が反発しています。 【フィリピン】フィリピン外務省は、「地図を拒否する」として、2016年の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定の順守を求めました。 【ベトナム】ベトナム外務省は「我が国の領有権を侵害し、国連海洋法条約に違反するもので無効だ」と中国に対する反発は強まっています。 【マレーシア】ボルネオ島(カリマンタン島)沖の自国の排他的経済水域(EEZ)と重なる水域が、中国領にされ、マレーシア外務省は、「中国の一方的な主張で、南シナ海における中国の主張を認めない」と反発。 アンワル首相は、「対話と協議を通じた平和的かつ合理的方法で管理されなければならない」と述べています。 【台湾】台湾外交部報道官の劉永健氏は、次のように反発しています。 「(台湾は)絶対に中華人民共和国の一部ではない。」「中国政府がいかに台湾の主権をめぐる立場を捻じ曲げようと、我々の国が存在するという客観的事実を変えることはできない。」 さらに、「台湾、中華民国は主権を有する独立国家であり、中華人民共和国に従属していない。」 「中華人民共和国が台湾を支配したことはない。これは一般的に認知されている事実であり、国際社会における現状である。」 【インド】内陸のヒマラヤ山脈にあるインド北東部のアルナチャルプラデシュ州も今回の新地図で中国領として記載されました。 ダライ・ラマ14世がチベットから亡命した際、辿り着いた街もありますが、中国はここを「南チベット」として領有権を主張しています。 インド外務省報道官のアリンダム・バグチ(Arindam Bagchi)氏は、「こうした主張には根拠がないため拒否する。中国側のこうした行為は、国境問題の解決を複雑にするだけだ」と強く抗議しています。 【日本】尖閣諸島の表記 松野官房長官は、尖閣諸島が「中国側の独自の主張に基づく表記がされている」として中国に抗議し、即時撤回を求めたことを明らかにしました。 しかし、中国は話し合って分かるような国ではないことは明白です。それなら日本は尖閣諸島の実効支配を強化すべきでしょう。 ◆2027台湾危機? いま、目と鼻の先まで迫って来ているのが「台湾」の危機です。 台湾の国防部は8月31日、2023年版の年次報告書で「習近平主席の三期目の任期中に、台湾問題を解決する過程を進める可能性がある」としました。 2022年10月22日に異例の3期目突入しましたが、5年の任期を終えるのが2027年です。 今年3月の全人代で「祖国統一のプロセスを揺るぎなく推進する」と発言して、改めて台湾統一に強い意欲を示しています。 アメリカのシンクタンクCSIS戦略国際問題研究所が、中国が台湾に侵攻した時、詳細なシミュレーションを行い160ページものレポートを発表しました。 その結果、「日本が米軍に協力しなければ中国が勝利する」と発表しています。 台湾が中国に飲み込まれるようなことになれば当然、同じ海域にある沖縄はもちろんのこと海上交通路を絶たれた日本は間違いなく独立を保つことができません。 さらに、イスラム諸国が中国側に回れば中国の全体主義的な価値観が世界を支配してしまうことになるでしょう。 今後、アメリカ、日本、イギリスなどの自由・民主、そして信仰心を持っている国と、中国の全体主義的な価値観との大きなせめぎ合いが、これから来ると考えております。 独裁者となった習近平主席も、ゼロコロナ政策の失敗や、党内の権力闘争が激化や経済の低迷で、国内でも激しい反発が広がっています。 私たち幸福実現党は、必ずこの中国的な価値観はひっくり返るものだと確信しながら、中国に対して自由・民主・信仰という価値観を打ち込んでいこうと考えております。 大川隆法総裁は、今年1月8日の『地獄の法(※)』講義において、次のように述べています。 「自由・民主・信仰の価値観」が、中国のほうでも奔流のように出てきて、なかが割れてくると思います。南部と北部、それからウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区等に割れてくると思います。しばらく混沌が来るかもしれません。国自体は滅びませんけれども、今の一枚岩みたいな感じの国ではなくなるのが、これから来るものだと考えています。」 『史記』に、中国を統一した始皇帝が各地を巡遊中、洞庭湖の付近で揚子江を渡ろうとした時、洞庭湖の女神が吹かせる大風にあって、渡河できなかったことが記されています。 始皇帝、毛沢東、習近平の中国の専制主義、粛清、洗脳、そして人間を奴隷化するような苛烈な政治を行う為政者の船は、必ずひっくり返されるものだと信じます。 これからも中国に対して、幸福実現党は、「自由・民主・信仰」の風を吹かせていきたいと考えております。 (※)地獄の法 あなたの死後を決める「心の善悪」大川隆法著/幸福の科学出版 https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=2888 物流「2024年問題」の切り札「トラックGメン」で、かえって業界は衰退へ【後半】 2023.09.20 HS政経塾13期生 岡本 隆志 ◆物流業界の混乱が予想される「2024年問題」に対して政府も解決策を策定 2024年4月から「働き方改革」の物流業界への適用により、宅配便で「モノが届かなくなるのではないか」とささやかれる「2024年問題」。前半では、「働き方改革」の問題点を指摘しました。 「働き方改革」によって、安定輸送が困難になるなど、数多くの問題が生じる可能性があるのです。 これらの問題を解決するため、政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」(※1)を策定しました。しかし、政府による解決策は、解決どころか物流業界を縮小させかねない可能性があります。 ◆「政府が決めたトラック運賃かどうか」を監視する「トラックGメン」の導入 「2024年問題」の解決策として様々な施策を打ち出している政府ですが(※2)、その代表の1つに「トラックGメン」の導入があります。 「トラックGメン」は、政府が定めたトラック運賃で取引されているかを監視する目的があります。すでに全国の各支局に162名が配置され、電話や訪問などで情報収集にあたっています。 「トラックGメン」の導入の裏には、政府がトラック運賃を決めたいという思惑があります。1990年に施行された物流二法(「貨物自動車運送事業法」ならびに「貨物運送取扱事業法」)による規制の緩和で、運送業界への新規参入が認められるようになりました。 そのため、競争が激化し、「荷待ち時間が考慮されないなど不当に低い価格で取引が行われている可能性がある」と政府は考え、2020年4月に、政府は参考となるトラック運賃を定めることにしました。 ただ、あくまでこれは参考であり、法的拘束力はありません。ですが、不当な取引は「独占禁止法」の「優越的地位の濫用」や「下請法」違反にあたると考え、政府は「トラックGメン」を導入し、定めた価格で取引が行われるよう監視することにしたのです。 ◆政府が進める物流業界版「護送船団方式」は、失敗に終わる 労働環境の改善は確かに課題の1つですが、政府が取引価格を決めて、事業者の経営に介入することには問題があります。 なぜなら、政府の産業保護は、かえって産業を衰退させることが多いためです。代表的なものは、金融業界で行われていた「護送船団方式」です。 1990年代まで、銀行などが企業努力なしで存続できる体制が保障されていましたが、様々な問題が生じていました。 例えば、行政官庁と金融機関が癒着し、「天下り先」の温床になったり、横並び体質がはびこり、顧客目線の金融サービスが行われにくい状態が続きました。 そのように競争の原理が働かなかったことが、横並びの不動産融資を加速させ、1990年代のバブル崩壊にも繋がっていきました。 結局、バブル崩壊が金融機関に大打撃を与え、護送船団方式も崩壊していくことになります。こうした政府の産業保護により、企業努力が疎かになり、かえって産業に損害を与えてしまうことがあるのです。 トラック運転手の低賃金が問題視されていますが、政府の保護によって企業の創意工夫を止めてしまうことには問題があります。また前半で指摘した通り、低賃金の問題も改善の兆しはあります。 事業経営を保護するのではなく、規制緩和や税金などの物流コストを引き下げることで、物流輸送の生産性の向上を促すことこそ、政府は取り組むべきです。 ◆生産性向上に必要なのは「高速道路の最高速度引き上げ」などの規制緩和 政府が取り組むべき規制緩和の1つは、「高速道路を走るトラックの最高速度の引き上げ」の早期実現です。 速度を高めることで輸送時間が短縮でき、生産性の向上が期待できます。ヤマト運輸や佐川急便など、63社で構成されている全国物流ネットワーク協会からは要請(※3)されており、すでに政府も有識者検討会を設置し、安全性を考慮しながら検討を進めています。 トラック事業者も安全性向上に取り組み、最高速度の引き上げを実現できる環境が整いつつあります。 例えば、全国トラック協会が「トラック事業における総合安全プラン2025」(※4)を策定し、各社に積極的な取り組みを働きかけています。 こうした取り組みも功を奏し、事故数も減少傾向です。トラック運転手が関係する大型貨物・中型・準中・普通貨物の年間の事故数は、ここ10年間(2013年~2022年)で、49.3%(172件→89件)減少(※5)しています。 ですから、最高速度引き上げは十分に実現できる状況であり、物流業界の生産性向上のためにも、迅速な規制緩和が望まれます。 ◆「燃料の減税」と「高速道路の定額化」で、物流コストの引き下げを 加えて減税による物流コストの引き下げも重要です。 特に物流業界に重要なのは、燃料に対する税金の引き下げです。 燃料は輸送に欠かすことができませんが、円安などの影響により価格が上昇し、事業者の経営を圧迫しています。燃料価格の実に30%以上が税金であり、健全財政を前提とした燃料の減税を行うべきです。 他にも「高速道路の定額化」(※6)でも物流コスト削減を期待できます。日本の高速道路は距離制料金制度を採用していますが、物流の障害となっています。 遠くへ運ぶほど高い利用料金がかかるため、長距離輸送を担う運送事業者の経営の痛手となっています。そのため、トラック運転手の給料も上がりにくい状況となっています。 定額化によって、低賃金の改善につながることも期待できます。ある会社では、高速道路料金が給料から引かれることもある(※7)そうで、輸送費が安くなれば、トラック運転手の賃金の上昇も実現できます。 ◆規制や税金を減量し、自由からの繁栄を目指す 以上のようにトラック運転手の賃金引き上げには、政府が取引価格を決めるなど規制を強化して事業を保護するのではなく、むしろ規制の減量や健全財政を前提とした減税が大切です。 事業の保護は、企業の創意工夫を止め、発展を止めてしまいます。経済活動への介入をできる限り減らし、小さな政府で繁栄を導くことが大切です。 (※1)日本、内閣官房、「『物流革新に向けた政策パッケージ』のポイント(案)」(2023年6月2日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/dai2/siryou.pdf (最終検索日:2023年9月17日) (※2)日本、農林水産省、「物流の2024年問題に向けた政府の取組について」(2023年7月)8ページ https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/attach/pdf/buturyu-377.pdf (最終検索日:2023年9月17日) (※3)日本、経済産業省、「特積み業界の現状と課題 第6回 持続可能な物流の実現に向けた検討会資料 全国物流ネットワーク協会」(2023年2月17日)8ページ https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/006_01_02.pdf (最終検索日:2023年9月17日) (※4)全日本トラック協会、「トラック事業における総合安全プラン2025」(2021年3月30日)4ページ https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/anzen/plan2025.pdf (最終検索日:2023年9月18日) (※5)全日本トラック協会、「警察庁『交通事故統計(令和5年7月末)』より抜粋」(2023年8月) https://jta.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/judaijiko_shukei202307.pdf (最終検索日:2023年9月17日) (※6)栗岡完爾、近藤宙時『地域格差の正体』(クロスメディア・パブリッシング、2021年) (※7)NHK、「深夜の高速道路で大渋滞~『0時待ち』の謎」(2022年7月28日) https://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/kishanote/kishanote64/ (最終検索日:2023年9月18日) 2024年から宅配便が届かない!? 物流業界を苦しめる「2024年問題」とは?【前半】 2023.09.20 HS政経塾13期生 岡本 隆志 ◆2024年4月以降、「働き方改革」でモノが届かなくなる可能性 コロナを機に、急速に普及したネット通販。それに伴い「置き配」という言葉が浸透するなど、すっかり私たちの生活に宅配便が身近になりました。 しかし、2024年4月から、宅配便でモノが届かなくなる恐れが浮上しており、いわゆる「2024年問題」と言われています。 この背景には、安倍政権下で2018年に制定された「働き方改革」があります。物流業界では2024年4月から、「働き方改革」が適用され、トラック運転手の時間外労働の上限規制が年間960時間に制約されます。 これにより、1日に運べる荷物量が減少するため、安定輸送が困難になることが予想されています。 また、「働き方改革」の適用で、人材流出の懸念もあります。働く時間が減り収入が減るため、離職を検討している人が出ているためです。 人手不足が加速すれば、さらに安定輸送が困難になるのではないかと言われています。政府はそれでも「働き方改革」を進めるのはなぜでしょうか。 ◆「働き方改革」の背景にある「過労死」と「低賃金」の問題 ここで「働き方改革」の背景を、2点説明します。 1点目は、長時間労働による過労死の問題です。過労死ラインの100時間を超える勤務によって亡くなられた方の遺族が、運送業者に賠償を求めて提訴(※1)するなど、トラック運転手の過労死が大きな問題となりました。 厚生労働省によれば、「道路貨物運送業」の令和4年度の労災認定(脳・心臓疾患)の決定件数(※2)は、最多の56件でした。これは、その次に多い「卸売業・小売業」の2倍以上あり、全体の約30%を占めています。 2点目は、長時間労働であるにもかかわらず低賃金であるということです。厚生労働省によれば、トラック運転手は全産業の平均時間よりも約20%多く働いているにもかかわらず、平均所得額は約10%低いという状況です(※3)。 このような状況が生じているため、政府はトラック運転手の時間外労働の上限を規制し、労働環境の改善に努めているのです。 ◆「働き方改革」で働けなくなる人も 一見、政府が行う「働き方改革」はトラック運転手にとってありがたい話にも見えますが、必ずしもそうではないようです。その理由の1つが自らの意志で長く働き、多くの給料を稼ぎたいトラック運転手の存在です。 あるドライバーからは「大変なことを承知のうえでこの仕事を選んだ。働く時間が減ることで収入が減ってしまうことが不安だ」(※4)との声が上がっています。 厚生労働省によると、残業代が月の総支払額の20%強を占めており(※5)、労働時間が制限されれば、給料が減ってしまいます。 すでに、離職を検討しているドライバーも存在しており、物流業界の人材不足が加速する危険性もあります。 ◆実は改善に向かいつつある「低賃金」の問題 また、依然として全産業の平均所得額より所得が低いものの、着実にトラック運転手の所得額が増えています。 大型トラック運転手と中小型トラック運転手の年間平均所得額は、8年間(H.26~R.3)でそれぞれ約9%、約14%増加(※6)しています。 一方で、全産業の平均賃金は約2.6%の増加(※7)でとどまっています。このように、少しずつではありますが、低賃金の問題も改善に向かっています。 ◆一律に規制を敷くのではなく、政府は、企業の創意工夫に委ねるべき もちろん長時間労働による過労死など、トラック運転手の労働環境の改善は、命に関わることである以上、決して看過して良い問題ではありません。 しかし、「働き方改革」と称して一律に規制をかけることの弊害を見逃してはいけません。体調や健康状態は人によって異なります。家族や人間関係、生活習慣なども異なります。 ですから、どれくらい働けば、「働きすぎ」になるかは、人それぞれのはずです。一律に決めることはできません。 それを無視して、一律に規制をかければ、先述のように、まだ働けるのに「働きたくても働けない人」が出てきてしまいます。 一方で、企業を一律な規制で“がんじがらめ”にしなくても、企業は長時間労働を放置できません。現代においては、長時間労働で大事故を起こしてしまえば、企業への痛手は計り知れないからです。 社会的な大問題を起こし、メディアに報道されれば、企業の存続にかかわります。 例えば、株価や売上の急激な下落はもちろんのこと、そうした悪質な企業とはお付き合いできないし、商品やサービスも買わないという事態も十分に考えられます。ですから、企業もそうした問題を放置できないわけです。 企業の自由な取り組みに委ねることで、新しい発想で長時間労働などの問題の解決策を生み出すこともできます。 例えば「置き配」。日本では、2019年から「Amazon」が始めたサービスですが、再配達の軽減や車の燃料コストの削減に寄与しています。 政府が規制を敷かなくても、企業の自由な取り組みで、トラック運転手の負担を軽減できた事例です。このように自由な競争があるからこそ、新たな知恵が生み出され、労働環境を改善していくこともできるのです。 ◆政府は「働き方改革」を見直すことで「2024年問題」の回避を トラック運転手が直面している長時間労働による過労死や、低賃金の問題は、解決されていくべき問題です。 ただ、このような問題を解決するために、「働き方改革」によって一律にトラック運転手の労働時間を規制することには問題があります。 なぜなら、安定輸送が困難になることや給料が減少するなど、副作用も生じているからです。ですから、「働き方改革」は見直し、企業の自由な取り組みに委ねるよう政策を転換することで、「2024年問題」を回避すべきです。 しかし、政府は「働き方改革」によって生じる「2024年問題」の対策として、運送事業者に負担がかかるさらなる規制を敷こうとしています。 後編では、その規制の問題点を指摘したうえで、政府が取り組むべき政策を提言します。 (※1)NHK、「トラック運転手“過労死” 遺族が運送会社に賠償求め提訴」(2023年5月11日) https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230511/2000073594.html (※2)日本、厚生労働省、「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」(2023年6月30日)4ページ https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001113801.pdf (※3)日本、厚生労働省、「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト賃金構造基本統計調査『トラック運転者の年間労働時間の推移』」(online) https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work (※4)NHK、「ビジネス特集 “荷物の3割が届かない” 衝撃の予測は現実になるのか?」(2023年1月24日) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230124/k10013958651000.html (※5)THE GOLD ONLINE、「月収28万円・50歳のトラックドライバー『配達が終わらない』の嘆き…さらに『給与大幅減』の悲劇に『もう、やっていられない』」(2023年6月7日) https://news.yahoo.co.jp/articles/f16746a1db3431fb533800e13177de8f5c0629dc?page=1 (※6)日本、厚生労働省、「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト 賃金構造基本統計調査『トラック運転者の年間労働時間の推移』」(online) https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work (※7)日本、厚生労働省、「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況 『賃金の推移』」(2023年3月17日) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/01.pdf (※1~7)最終検索日:2023年9月17日 すべてを表示する