Home/ 2017年 July 2017年 July 都市開発の新しいフロンティア「空中権」【その1】 2017.07.06 都市開発の新しいフロンティア「空中権」【その1】 幸福実現党政務調査会 都市計画・インフラ部会長 曽我周作 ◆「容積移転」「空中権」とは アメリカでは「空中権」という制度があり、「土地の上部空間を水平的に区画して建築的に利用する権利」とされ、土地の所有権の構成要素の一つとされています。 都心においては、土地の高度利用の観点からできるだけ収益性をたかめる商業施設や事務所ビルを建設しようという力が働きます。 しかし、容積率の制限が存在し、もっと容積率の高い建物を建てたいという需要があります。 一方、ある土地に対して容積率を制限限度まで利用して建築物を建てている場所ばかりではありません。 また、将来にわたっても容積率を余らせることが予見される場所があります。例えば歴史的建造物や寺院、また公園などもそうです。 開発競争の中で神社仏閣や歴史的建造物、オープンスペースを確保する公園、また美術館など文化施設が失われるのは町にとっても損失ですし、守り、残さなければならないものがあります。 未利用の容積率を開発権とみなして移転できるようにするということが発生するのは、「おなじ都心地域のなかにあっても未利用の容積率を残したまま新たな建築更新の必要のない地権者がいる一方で新たに建替えの希望のある地権者が基準容積以上の容積を得たいと考える場合」があるということ、「民間事業の側からは都心の土地利用の有効・高度利用の需要があり、行政からは都心の町の魅力を高める必要性」があるからであるといわれます。(『建築空間の容積移転とその活用』p9より) 容積率を譲り渡したい側と、容積率を譲り受けたい側が、それを取引できるようにするということが行われるのが容積移転であり、「空中権」の取引などと表現されます。 ◆日本とアメリカの容積移転制度 ・アメリカのTDR制度 アメリカのTDR(Transferable Development Rights)制度は1961年にG.ロイドによって提唱されたといわれ、その理念は以下のように指摘されています。 「彼は、都市の開発においては開発密度の調整が必要であり、一定以上のオープンスペースを確保しながら開発は進められるべきであるとし、オープンスペースの土地所有者は、高密度開発が認められている地区の土地所有者に開発権を譲渡し、高密度開発地区の土地所有者はこの開発権を購入しなければならないと提案した。この考え方の中には、都市開発を推進していくうえで、オープンスペースの確保が必要であり、このオープンスペースを強制的に確保させるためには、財産権の補償としての開発権の移転を土地所有者に与えようとする姿勢が見られる。」 つまり、この制度の性質として、開発が規制された土地の所有者に対しての財産保障と、それによってオープンスペースを確保しようという狙いが、まず一つあきらかです。 現在、このTDRは2008年時点で186の自治体で採用されており、オープンスペースの確保の他に、歴史的建築物の保全、農地保護、森林保護、環境保護、低所得者用住宅確保などの目的も果たしています。 また、場所によってはCO2削減などの目標も含まれているように、公益性の目的のために用いられている面があります。 この制度においては、空中権の出し側と、受け側の需要が同時にあることが必要であったため、TDR bankというものが設けられるようになりました。 例えばニューヨークのサウスストリート・シーポート特別地区は歴史的建築物の保全と再開発の推進を目的として地区として位置づけられ、ここでは歴史的建築物の所有者が未利用容積を開発権として、受け地に直接売却するか、仲介者を介することもできます。 この仲介者にあたるのがTDRbankであり、ニューヨーク商業銀行の連合体で組成されました。 また、アメリカでは空中権が土地所有権の構成要素とみなされています。条例で容積率移転の事実を公示することが義務付けられています。(『都市再生を目指して』p17より) 一方、日本では先ほど指摘したように、未利用分の容積が所有権の対象となっていません。 そのため、空中権の取引を制度的に確立するにあたっては第一に権利関係の法的確立が課題になります。 (「法的性格としては、直接土地に及ばない不安定な権利であること、当事者間でのみ有効な債権的権利であること、物権としての公示方法がない」『都市再生を目指して』p17より) (つづく) 「坂の上の雲」を超えた国家ビジョンを目指せ 2017.07.04 「坂の上の雲」を超えた国家ビジョンを目指せ HS政経塾第6期生 坂本麻貴 ◆国の税収が減収 日本経済がリーマンショックの影響を受けた2009年から、今年で8年がたちますが、国の2016年の税収が前年度を下回り、55兆5千億円程度となりました。 これは7年ぶりの前年割れで、所得税、消費税、法人税といった税収全体の8割を占める「基幹3税」がそろって減収となっています。 さらに消費税収は2015年度の1兆4千億円を数千億円下回り、これは2014年4月の消費税率引き上げが絡んでおり、経済成長頼みの財政運営は転機をむかえているといいます。(6月30日付日本経済新聞) ◆社会保障の充実を名目に引き上げられた消費税 2014年に消費税率は8%へ引き上げられました。その少し前の民主党政権かで、社会保障の財源のために消費税率をあげるという法案を通し、それをベースに引き上げられ、また2019年からは10%まで引き上げられます。 しかし、高齢化が進む日本において、消費税の税収を社会保障にあてても、今以上に充実していくことは極めて難しいと言わざるを得ません。 そもそも、消費税制を始めて日本に導入した際、当時の竹下登首相は、「景気が回復し、国の借金を返すまでの間導入する」と私たちに約束しています。その年の税収は60兆円ほどでした。 しかし、その後景気はいっこうに回復せず、27年間、一度もこの60兆円の税収を超えたことがないのです。 1997年には5%へ引き上げ、これによってさらに景気は悪化。その後8%に上げたことの影響が、今になって現れてきたといえます。 消費税の増税では、景気は回復しないということがいよいよ明確になってきました。 ◆鍵を握る企業の国内回帰 今回の減収の要因の一つとして、企業のグローバル化についても指摘されています。 日本企業が海外に進出し現地で雇用したりすることで、日本に法人税や所得税が入らず減収したということです。 ここから、海外に進出している企業が、再び日本国内に立地していく必要があり、そのためには大幅な法人税の減税が必要です。 また、企業が魅力に思う人材を教育によってつくっていくことも重要です。 ◆坂の上の雲を超えた国家ビジョン 戦後日本は坂の上の雲を目指して経済成長してきました。それがここ30年は坂を登りきり、下り始めたかのようになってきています。 日本では、経産省を筆頭に日本の技術力に注目し、「モノづくり」を推進してきました。 戦略を階層で考えるというものがありますが、技術力というのは最下層にあたります。 「技術」→「作戦」→「戦略」→「大戦略」→「政策」→「理念・世界観」(奥山真司氏講義より所収)と進むにつれ上の階層になっていきますが、下の階層でどんなに素晴らしくても、より上の階層が強い方が勝ってしまいます。 今、日本には、世界の中でどのような存在なのかという理念や、世界の中でどういうビジョンを持ち、どの方向へ舵を切るのかという世界観が必要です。 幸福実現党のもつ、「より多くの人を幸福にする」という理念や「世界をリードする日本」といったビジョンが必要なのではないでしょうか。 教育の一律無償化は憲法改正に盛り込むべきではない 2017.07.01 教育の一律無償化は憲法改正に盛り込むべきではない 幸福実現党たつの市地区代表 和田みな ◆今年の夏は憲法改正議論が熱い 2020年の憲法改正にむけて、永田町の動きがあわただしくなってきました。 安倍首相は自民党改正案の年内国会提出を目指す意向を示しており、自民党憲法改正推進本部は9月にそのたたき台をまとめたい考えです。 ◆教育の無償化は憲法改正の主要4項目 自民党憲法改正推進本部は、これから、主要4項目を中心に議論を進める方針ですが、その中で、最も各党の合意が取りやすい項目は「教育の無償化」です。 先月、政府がまとめた「骨太の方針」にも「幼児教育・保育の早期無償化」や「高等教育の改革」が盛り込まれる形となりました。 民主党政権時に高校の授業料無償化に反対した自民党としては大きな方向転換ですが、改憲勢力として重要なポジションにある日本維新の会を取り込みたい安倍首相にとって、維新が強く主張する「教育の無償化」が重要な論点となっていることがわかります。 現在、日本国憲法第26条において、義務教育は無償と定められています。また、2010年度からは、高校の授業料についても全額または一部が無償となりました(「高校無償化法」)。 「教育の無償化」議論は、就学前教育や高等教育までこの範囲を拡大しようとするものですが、憲法に明記し、一律に無償化する必要があるのか甚だ疑問です。 ◆高等教育の無償化も問題点 「高等教育の無償化」にはどのような問題点があるのでしょうか。 日本の大学の教育支出に占める私費負担の割合は65%と非常に高く、学生と家族に重い経済的負担が問題であると言われています。 このような現状に対して、日本維新の会などは「無償化は教育の機会均等、少子化対策にも資する」「教育投資は成長戦略である」と主張しています。 一方で、定員割れの私立大学は全体の4割強に達しており、授業料を無料にすれば、無料であることのみを理由に進学する人が増えることが予想できます。 また、学割や様々な学生サービスを利用したいがために、学ぶ意思のない人が進学するケースも懸念されます。 このような学生の増加は、定員割れに苦しむ大学にとっては、非常にありがたい施策であるかもしれませんが税金を支払っている国民にとっては、許せることではありません。 やる気のない学生の授業料を税金で賄うことが、投資として本当に有効であるとは思えません。 本来、大学も他の企業同様、市場原理の下で、学生に必要な教育の質を確保し、競争力を維持できるよう、努力するべきです。そのために、国は授業内容や授業料などを自由に設定できるようにすべきです。 逆に、無償化によって経営状態のよくない大学を国が支援する形になれば、「定員割れ」の大学は努力する必要がなくなり、結果として、大学教育の質の低下を招きます。これでは、意欲のある学生が大学に進学するメリットも薄れてしまうということになりかねません。 ◆就学前教育の無償化 様々に問題がある高等教育の無償化に対して、就学前教育の無償化については、肯定的な意見が多くみられます。 経済学的な観点からは、「年齢が低いほど人的資本投資の社会的収益率が高い」とする、米ノーベル経済学者のJ.ヘックマンの研究を引用し、幼児教育や保育への投資が正当化されてきました。 さらに、社会保障的な視点からは、自民党の小泉進次郎氏などが主張するように、今の時代は「子どもは社会全体で育てるもの」であり、高齢者向けの社会保障費の増加に比べて、子ども向けの施策の少ないアンバランスな構造を是正するために、就学前の子育て支援の必要性が述べられてきました。 しかし、日本の場合、4歳で幼児教育施設に通っている比率は95%であり、すでにほとんどの子供が幼児教育を等しく受けている現状があります。さらに、保育対象の子供たちの内、全国で2万3000人が待機児童となっており、受け入れる器がない状態です。 待機児童問題が解決されない中、就学前教育が無償化されれば、今預ける必要のない子供たちまで、保育園への入園を希望するようになることは明らかです。 そうなれば、更なる保育園不足が問題となる可能性が高く、これによって保育の質の低下も懸念されます。 ◆憲法に教育無償化を盛り込むことは単なるバラマキ どのような家庭環境にある子供にも、教育を受ける機会を保障することは大切ですが、「教育の機会均等」のためというのであれば、教育内容にも議論が及ぶべきではないでしょうか。無償化によって質の低下を招いては意味がありません。 憲法改正には賛成ですが、教育の無償化を書き込むことには反対です。「教育の無償化」を憲法に明記するとなれば、義務教育と同じように、親の収入や子供の数に関係なく、一律に無償化されることになるでしょう。 これは単なるバラマキであり、ポピュリズム政治です。 教育は一律に無償化するのではなく、経済的に苦しい家庭に対しての、保育料や授業料の減免や教育バウチャー制度の導入、奨学金の拡充などで対応すべきです。 給付型奨学金制度に今よりも多くの予算を割き、能力ややる気のある学生を支援することも、無償化より有効な教育投資になると考えます。 すべてを表示する « Previous 1 2