Home/ 森國英和 森國英和 執筆者:森國英和 高浜原発3・4号機の再稼働差し止め仮処分 疑わしい司法判断 2015.04.15 文/HS政経塾3期卒塾生 森國 英和 ◆高浜原発の再稼働差し止めの仮処分を認めた福井地裁・樋口裁判長 福井地方裁判所(樋口英明裁判長)はこのほど、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分決定を出しました。 樋口裁判長は決定文の中で、原子力規制委員会の設けた新規制基準は、「緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠く」と断じた上で、「(住民らの)人格権を侵害される具体的危険性即ち被保全債権の存在が認められる」として、差し止め仮処分を認めました。 高浜原発3、4号機は、原子力規制委員会が設けた新規制基準をクリアし、15年内に再稼働する可能性も高まっていました。 関西電力は今後、不服申立てをするようですが、「最終的な司法判断が出るには1年以上かかる」との見方もあり、今回の仮処分決定で、再稼働は大きくずれ込むことになりそうです。 ◆今回の仮処分決定に対する反応 この地裁決定について、新聞各紙は1面で大きく報じ、社説で次のような反応を示しています。 ○判決の“偏向”に疑問を持つ産経・読売・日経 産経(社説・2面):「負の影響」計り知れない 読売(社説・3面):規制基準否定した不合理判決 日経(社説・2面):福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い ○判決の“画期性”を愛でる朝日・毎日・東京 朝日(社説・16面):司法の警告に耳を傾けよ 毎日(社説・5面):司法が発した思い警告 東京(社説・5面):国民を守る司法判断だ 当事者の関西電力については、この仮処分決定を「想定内」と見立てているとも報道されており、抗告して裁判官を変えれば、関西電力側の主張が認められると考えている節もあります(4/15朝日2面)。 また、安全審査に携わる原子力規制委員会も「審査への影響もない」として、審査の手続きをそのまま進める予定です。 とはいえ「仮処分」の決定は、すぐに法的な拘束力を発します。つまり、今回の仮処分に対する不服申立てが認められるか、本体の訴訟が確定するなどして、今回の司法判断が覆されない限り、高浜原発は再稼働することができないことになります。 ◆この司法判断は妥当とは言いがたい 今回の判決は、裁判官個人の思想によるところが大きかったのではないかという指摘が有力です。 森嶌昭夫・名古屋大学名誉教授は、「仮処分は具体的な危険が迫っていると認められる場合に下されるものだ。大地震や大津波が襲うような具体的な危険が本当にあるかについての論拠に科学的な根拠は乏しい。法律家としてではなく、一市民としての個人的な感情に触れすぎているのではないか」と述べて、今回の地裁決定を批判しています(4/15日経)。 昨年5月の大飯原発に関する訴訟(現在、高裁で係争中)において、原発の運転に「ゼロリスク」を求めた樋口裁判長は今回、原子力規制委員会が設けた規制基準について、踏み込んだ判断を示しました。 しかし、それが行き着く結論は、「原発稼働の基準は、どのような内容であれ、定められない(定めさせない)」「原発再稼働は絶対に許さない」ということです。 池田信夫氏は自身のブログで、今回の決定について、「これは原子炉等規制法違反である。(今回の地裁が取り上げている)基準地震動は各地域の地質調査をもとにして、公聴会や事業者のヒアリングが行なわれた上で委員会が決定する。これが『緩やかすぎる』というなら、それを示す地質データを出して異議申し立てを行なうことは可能だ。そういう手続きを全部すっ飛ばして『史上最大の地震は基準地震動より大きい』などという理由で規制基準を否定することはできない」と述べています。 専門技術的な判断をほとんど顧みることなく、「人格権」を名目として、ズカズカと基準の中身に踏み込むところには、独善性を感じずにいられません。 今後、不服申立ての後の判断や、本体の訴訟がどのように推移するかは、国家の原子力政策に大きな影響を与えるので、注目にしておかねければなりません。 ◆「仮処分カード」が濫用されるおそれ 今後、脱原発派の「仮処分カード」が濫用されるおそれがあります。それについて、3点指摘しておかなければなりません。 1点目としては、「仮処分」が認められることで、原発再稼働が遅れた場合、電力会社を財務的に圧迫し、電気料金の値上げという形で補填される可能性があるということです。 今回の原告は、福井、京都、大阪、兵庫の住民9名でしたが、それをもとにして出される仮処分が、関西電力圏内の家庭や工場、企業全体の電気代の値上げにつながることも考えられます。それが、司法判断の帰結として許されるのか、熟考すべきです。 2点目としては、「仮処分」が認められた後、仮処分の内容が覆された時、仮処分を申し立てた人が損害賠償を求められる可能性があるということです。今回だと、高浜原発の再稼働が今後、法的にも問題ないとみなされ場合、今回の原告9名は、大きな額の損害賠償を求められることにもなりかねません。 ちなみに、鹿児島の川内原発について、同様の仮処分申し立てをした原告約10名が、損害賠償の可能性を理由に申請を取り下げています。(この時九州電力は、仮処分の審尋で「再稼働が遅れれば、1日当たり約5億5千万円の損害を被る」との準備書面を提出していた。) 3点目としては、憲法上の権利として「環境権」が盛り込まれた場合、この手の訴訟が多発するおそれがあるということです。今回初めて、原発の稼働の差し止めの仮処分決定が出されましたが、憲法上の権利への「格上げ」がこのような流れを助長することもありうるでしょう。今回の司法判断を、憲法議論をする上での教訓にもすべきだと考えます。 いずれにせよ、今回の高浜原発についての仮処分決定は、やっと再稼働しようとしていた原発政策に大きな衝撃を与えました。2014年度は原発稼働がゼロで、その状態から本格的に脱皮しようとしていた矢先の司法判断でした。 今度は、九州電力・川内原発の再稼働についての再稼働差し止め仮処分の判断が、4月22日、鹿児島地裁で下されます。 その判断に注目を集めつつ、鹿児島地裁では、誤った司法判断が下されないことを期待したいと思います。 ロシアにとってのウクライナ、米国にとってのキューバ、日本にとっての台湾 2014.12.31 文/HS政経塾3期生 森國 英和 新年明けましておめでとうございます。昨年末は、衆議院選挙がありましたが多くの皆様にご支援を頂きましたことに心より感謝申し上げます。 残念ながら当選者を出すまでには至りませんでしたが、国民の幸福を実現し、素晴らしい日本の国づくりを実現するため、今まで以上に努力精進を重ねて参ります。今後とも皆様のご支援よろしくお願い申し上げます。 さて、2015年の始めにあたり、昨年のロシア、アメリカの国際情勢を振り返りながら、日本のあり方についても考えてみたいと思います。 ◆ウクライナ問題でのプーチン大統領の行動の誤解 2014年、最も世界に衝撃を与えた国際的な出来事は、ウクライナ問題です。 2月22日にウクライナ国内で、親露派のヤヌコビッチ大統領(当時)に対するクーデターが発生しました(ヤヌコビッチ氏はウクライナから脱出)。 それに対してロシアは3月下旬、ウクライナからの独立を宣言したクリミア(クリミア共和国)を編入し、ウクライナにおけるロシアのプレゼンス維持を図りました。 これに対して米英を中心とする欧米諸国は、ロシアの行動に対する不満を募らせ、経済制裁を加えました。 そしてその怒りは、7月17日に、ウクライナ東部の上空を飛行中のマレーシア航空の旅客機をロシア派武装集団がミサイルで撃墜したことで爆発し、「新たな冷戦」の様相を呈していると論じられるまでロシアとの関係を悪化させました。 年初以降のウクライナ問題、及びプーチン露大統領の行動への評価は、年末になっても定まっていませんが、「欧米が、ロシアの危機感を理解することなく、その“裏庭”にまで手を出した」ことが、ウクライナ問題がエスカレートした最大の理由です。 表題の通り、ロシアにとってのウクライナが、米国にとってのキューバ、日本にとっての台湾に相当すると考えれば、その地域での仮想敵国の動きに、国防上の危機として反応せざるを得ません。 また、冷戦終結の際に、ウクライナを含む東欧について、米国とソ連の間で意見が交わされ、ソ連が東西ドイツの統合と旧東独からのソ連軍の引き揚げを認める代わりに、欧米はNATOを東方に拡大させないとの“約束”がなされていたとの分析もあります(ジョシュア・R・I・シフリンソン『フォーリン・アフェアーズ・リポート』14年12月号)。 にもかかわらず、冷戦終結から20余年の歳月が経ち、欧米側が冷戦終結当時の前提を反故にしているのであれば、「一方的」との誹りを免れることはできません。 米英を中心に、「プーチンと将来のロシアの指導者がリベラルな理念を受け入れれば、世界はより良い状態になる」という前提で話が進められ、プーチン批判が“かさ増し”されていますが、ロシアの国家感情をむげにしていては無用な衝突が生じるのみです。 ◆中国のカリブ海荒らしに対応する米国のリアリズム 一方の米国も、ロシアのウクライナに対する行動と同じような動きを見せています。オバマ米大統領は12月17日、50年以上国交を断絶していたキューバとの国交正常化交渉を直ちに開始させると発表しました。 今回のキューバとの交渉開始の背景には、残り2年の大統領任期で歴史に名を遺そうとするオバマ氏の思惑、ローマ法王・フランシスコの仲介があったと指摘されています。しかし、最も重要な要因は、カリブ海地域に近年、中国の手が伸びていたことでしょう。 中国の習近平・国家主席は14年7月15日から23日にかけて、中南米4か国を訪問し、キューバにも訪れています。習氏は米国の“裏庭”である中南米のうち、左翼的・反米的な政治指導者と個人的な信頼関係を築こうとしていると指摘されていました。 さらに最近、中米のニカラグアでの新運河建設事業を、中国系企業が受注したと発表されました。「(パナマ運河の)代替となる別の運河を確保できれば、米国をけん制できる」との指摘もあります(日経電子版14年12月25日)。 このような中国の“裏庭”荒らしに、米国がキューバとの国交正常化交渉開始という形で応戦したのです。これはケネディ大統領が62年に海上封鎖した動きと、同じような国家の衝動であり、同じような文脈でウクライナに対するロシアの対応を考慮すべきです。 ◆日本にとっての“裏庭”は台湾 ロシアや米国が上記のように振る舞っていますが、日本にとっての“裏庭”は、台湾や東シナ海・南シナ海です。 14年6月、故・岡崎久彦氏からお話を伺う機会がありました(月刊「ザ・リバティ」14年8月号)が、岡崎氏は、「集団的自衛権が一段落したら、台湾問題に取り組まなければならない」と述べていました。 海洋国家・日本の防衛、シーレーンの確保を考えれば、日本にとっての“裏庭”は、台湾とそれを挟む東シナ海・南シナ海。それが中国に脅かされているのは由々しき事態です。 このような危急存亡の時、1890年の第1回帝国議会が思い出されます。当時の内閣総理大臣・山県有朋は、その施政方針演説において「主権線」(国境)のみならず「利益線」(緩衝地帯)の確保が必要であると述べました。 当時の「利益線」は朝鮮半島のことですが、今に置き換えれば、台湾や東シナ海・南シナ海の安危を監視し、いざというときに対応できる体制を整えるべきということです。 それを想起すると、15年1月の安倍首相の施政方針演説がどのような内容か、注目されます。激動の2015年を乗り切るために、自衛隊法等の改正や戦後70年の歴史問題への対応、防衛費の増額、9条改正について言及すべきです。 そしてできるなら、日本の国防にとっても重要な台湾についても踏み込む一年にしたいものです。 北朝鮮との交渉の行き詰まり 今こそ、「邦人救出」を自衛隊法に盛り込め 2014.11.03 文/HS政経塾3期生 森國 英和 ◆北朝鮮との交渉の行き詰まり 安倍晋三首相は10月27日から30日にかけて、日本人拉致被害者に関する再調査について、北朝鮮側の報告を受けるため、政府代表団を北朝鮮・平壌に派遣しました。 代表団の訪朝に先立ち、安倍首相は「拉致問題解決が最優先課題だ」と強調。しかし、今回の再調査報告において、北朝鮮側から得られた成果はほとんどありませんでした。 日本が、北朝鮮の拉致は「我が国に対する主権の侵害」と認識しながら、ほとんど進展させられない最大の原因は、(空想的)平和主義に縛られる日本側の「押し」の弱さにあるように見えます。 肝心の自衛隊が法制度に縛られて、特殊部隊による邦人救出・奪還といった強制力の行使を実行できないことが、日本側の弱みです。 ◆従前の自衛権発動の基準に縛られる日本 今年の3月6日の参議院予算委員会で、「北朝鮮で内乱が発生した際、拉致被害者の救出を行えるか」との質問に対し、安倍首相は、「自衛隊の邦人救出には、相手国(北朝鮮)の同意が必要となるため困難。他国が国際法で認められているものも、現在の自衛権発動の基準のままでは難しい」と答えています。 現在の9条とその解釈が、自衛隊の行動を制約している現状を説明したものでした。実際に有事が起こったら、韓国やアメリカに奪還を依頼するしかないとの発言もあります(3月4日参予算委・安倍首相)。 このような、平時はもちろん有事の時にさえ「北朝鮮に自衛隊を派遣できない」という日本側の弱みは、拉致交渉の現場で北朝鮮に見透かされています。 現在の安倍内閣は、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更に夏まで取り組んできましたが、「拉致解決が最優先」と言うなら、邦人救出に関する憲法解釈も整理しておくべきでした。 ◆社会党に骨抜きにされた自衛隊法の規定を変更せよ 今からでも遅くはありません。政府は早急に、自衛隊法84条の3「邦人輸送」の改正と憲法解釈の見直しに取り組むべきです。 これは、拉致被害者の救出のみならず、国外(特に政情不安定な途上国)に進出する日本企業の安全のためにも、必達の課題です。安倍首相は、政権発足直後に、アルジェリアで日本人10名がテロリストに拘束・殺害されたことを忘れたわけではないでしょう。 現行の自衛隊法の規定のままでは、在外邦人に迫る緊急事態に、自衛隊はほとんど対応できません。自衛隊の派遣は「安全が確保された場合」のみに限定されているからです。 元をたどればこの条項は、1994年11月に改正された際に盛り込まれたもので、改正当時は、村山富市(自社さ連立)政権でした。 立法の過程で、「邦人救出を名目として、自衛隊の海外派兵が可能となる」と主張した社会党の影響が色濃く反映され、結果として、「緊急事態だから自衛隊が求められているのに、安全が確保されない場合は派遣できない」という自己矛盾を含んだ規定になったのです。 根底に、「海外の居留民保護が、戦前の日本軍の海外派兵の口実となった」という歪んだ歴史観があることは言うまでもありません。このようにして、「邦人救出」は骨抜きにされたのです。 この規定を改正し、いざという時には、自衛隊の特殊部隊等による邦人救出作戦を実行できる法制度にしておくべきです。手持ちの外交カードに、このようなフィスト(げんこつ)を欠いているから、北朝鮮を譲歩させて拉致被害者を取り戻せないのです。 ◆自衛隊が邦人救出をできなければ、日本の外交史上最大の汚点になる 今年再開された日朝交渉は、拉致被害者の奪還に加え、外交戦略上の意味も大きいと言えます。 東アジアの国際関係は、昨年末に北朝鮮のナンバー2・張成沢氏が処刑されて以降、中国と韓国の親密化、北朝鮮とロシアの接近という新たな様相を呈し始めています。 日本としては、戦後70周年に向けて反日攻勢を強める中国と韓国を牽制する上でも、北朝鮮との拉致問題をめぐる外交交渉を成功させることが重要です。 また、日本は朝鮮半島有事の際、北朝鮮国内の拉致被害者や在韓邦人3万人のみならず、諸外国人の救出の責任も求められます。 内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏は、「朝鮮半島有事の際は、2万人の在韓フィリピン人の救出をお願いしたい」との要請がフィリピン大使から来ている、との情報を紹介している(『彼らが日本を滅ぼす』佐々淳行著/幻冬舎)。 邦人救出では各国が連携することが多く、イラン・イラク戦争の時にはトルコが日本人200人を救出、アルバニアでの暴動の際にはドイツが日本人10人を救出しました。 朝鮮半島に最も近い日本が国際的道義を果たさないとなれば、日本外交史上最大の汚点となるでしょう。日本は国際的信用を失い、ASEANや印豪との連携強化、国連常任理事国入り等の取組みを大きく後退させることにもなるのです。 このように、拉致問題から見ても、日本の外交戦略としても、「邦人救出」をめぐる自衛隊法改正と憲法解釈の見直しは急務です。「 邦人救出」は、従来の自衛権発動の類型で捉えるべきではなく、憲法の趣旨に沿って再整理できると考えます。一刻も早くこの議論と立法に着手し、日本は、拉致問題解決のための交渉を有利に進めていかなければなりません。 9条改正の先にあるのは、「和の精神」と「武士道精神」の復活 2014.08.25 文/HS政経塾第3期生 森國英和 ◆社民党のポスター『あの日から、パパは帰ってこなかった』 今夏、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行った安倍晋三内閣に対し、社民党は7月16日に、憲法9条の解釈変更への反対を訴える新ポスターを発表しました。そのポスターには、『あの日から、パパは帰ってこなかった』と大きく記されていました。 このポスターは、「多くの自衛隊員が戦死する」「日本が徴兵制の国になる」ことを連想させるものであり、非常に扇動的であると言っても過言ではありません。自衛隊出身の佐藤正久衆議員は、「怒りと悲しさを覚える」と地方紙でコメントしていました。(北海道新聞7月27日付) このポスターは、集団的自衛権の行使容認や9条の改正への反対論を象徴しています。それを見ると、「平和憲法9条は日本の誇り」という戦後の“常識”を説得し切れていないことについて、反省させられます。 そこで改めて、憲法9条を改めることの意義を考えると、日本が古来より培ってきた「和の精神」「武士道精神」を取り戻すことであります。 ◆「和の精神」―アジア・西太平洋地域の友好国との連携強化 迫りくる日本の国防の危機とは、共産党の一党独裁国家・中国の軍事拡大です。 中国は、この10年で軍事費を4倍以上に膨らませると同時に、日本や台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インド等に対して、軍事的な圧力をかけ続け、虎視眈々と領土拡張を狙っています。 その中国を抑え込めなくなる可能性が高まっています。その世界的脅威を前に、日本が「和の精神」を発揮し、アジアや太平洋の友好国との連携を強化することが急務です。 例えば空軍力について、外交評論家の岡崎久彦氏は、かつては日本の自衛隊や在日米軍は、単独でも中国の空軍力に対抗できていたが、これからは、日米の軍事力を一体として計算しなければ、中国軍の動きを抑止できなくなると指摘しています。(文藝春秋2014年7月号『尖閣激突 中国航空戦力が日米を上回る日』) 集団的自衛権の行使容認、さらには9条の改正によって、日本の領域の外側でも自衛隊と米軍が共同して活動を行えるようになれば、中国の「拡大欲」にメスを入れることができます。 また、シーレーン防衛を共通の目的として、ASEANやオーストラリア、インドとの協力関係を築くことも重要です。 安倍首相は昨年12月の日・ASEAN特別首脳会談等の中で、「日本とASEANが、“WA”の精神で結ばれるとき、アジアと世界の未来は明るいことを信じましょう」と述べています。武器輸出や共同訓練、共同哨戒活動等を重ねながら、日本の「和の精神」の下で各国が連携する体制をつくり、中国の海洋進出を抑止することが望ましいと考えられます。 ◆「武士道精神」―大国としての道徳的な義務を果たす 敗戦後の日本は長らく、自衛隊の海外派遣すら行えませんでしたが、1991年の湾岸戦争以降、少しずつ活動の幅が広がっています。しかしながら、国家としての国際社会で道徳的な義務を果たせているとは、到底言えません。 日本の周辺、台湾や朝鮮半島で有事が起こったとき、日本の自衛隊を出動させられないことは当然として、日本に基地を置く米軍に対する後方支援すらも、大きく制限されています。 現在の日米ガイドラインでは、水や食料の提供や医療活動等はできますが、武器・弾薬の提供や戦闘機への給油は、日本国内でもできないことになっています。 集団的自衛権の行使容認で、活動の幅は多少広がるとはいえ、東シナ海や南シナ海、インド洋などの「航行の自由」を守るために万全とは言えません。 さらに言えば、日本がアジアにおいて、「対中国戦略の旗手」となることを示さなければなりません。 南シナ海への中国の海洋進出は、70年代半ばから始まり、すでに西沙・南沙諸島に恒久軍事施設を建設しており、南シナ海が完全に「中国の海」となることも予想されます。 このような惨禍に「見て見ぬふり」をすれば、日本は国益を損なうのみならず、「武士道精神は失われた」と国際社会から酷評されかねません。 ◆9条改正をしっかりと掲げよ! 集団的自衛権の行使容認に伴って自衛隊法など10本以上の法改正が必要となるため、安倍首相は9月に、「安全保障法制担当大臣」を新設します。 国会審議の中で、野党や左翼・護憲派の論陣から、さらなる反論・批判が寄せられることが予想され、先の社民党のポスターのような国民扇動にも対抗せねばなりません。そういう時だからこそ、9条改正の重要性を明言すべきです。 「平和憲法が日本の誇り」というのは、全く荒唐無稽です。少なくても数百年以上、日本が誇ってきたのは、「和の精神」と「武士道精神」であり、それは9条改正と方向を一にしています。 安倍首相には、今秋の臨時国会の所信表明演説、もしくは来年の施政方針演説において、9条改正をしっかりと明言するよう迫りたいところです。 台湾の「脱原発」事情 ――日本は原発推進で日台関係を強化せよ! 2014.05.06 文/HS政経塾3期生 森國 英和 ◆台湾で盛り上がる「脱原発」の運動 中台サービス貿易協定の交渉に反対する学生の立法院の占拠で話題になった台湾で、「脱原発」の動きが加速しています。 台湾は、石炭40%、天然ガス30%、原子力18%の発電割合で国民の電力消費を賄う島国。金山・国聖・馬鞍山の3か所6基の原子力発電所を稼働させています。 福島第一原発事故をきっかけに再燃した「脱原発」は現在、国内4か所目となる第4原発「龍門発電所」の是非に焦点を当てている。完成間近の龍門発電所を巡り、建設停止を強く求めています。 今年に入り、3月8日には台北市を中心に、10万人以上(主催者発表)が参加したデモが行われました。また、4月22日からは、民進党の林義雄・元主席が、ハンガーストライキを行って、馬英九政権の原発政策に異を唱えています。 さらには、「原発反対のために立法院に戻るべき」という声が学生の中でも大きくなり、立法院の再包囲に向かう動きも見られたようです。 それに対して、馬英九総統(国民党)は、「龍門発電所が完成するまで、国民投票はしない」として、建設停止を許すまいと踏ん張っています しかし27日、脱原発の世論に押し切られる形で、「国民投票の結果が出るまで、当発電所の建設を停止する」との方針を決定しました。「脱原発」の世論を押し返そうにも、台湾内の政権支持率は10%前後に留まっており、政権の「足場」は不安定なのです。 ◆脱原発に傾けば傾くほど、エネルギー・リスクは高まる 台湾は、日本同様、エネルギーの輸入依存度が非常に高く、エネルギー自給率は1%を切っています。「龍門発電所の建設を中止すれば、台湾はエネルギー不足に陥る」という馬政権の説得は、至極全うな意見です。 台湾政府経済部(日本の経産省)は、先日、「全ての原発が稼働停止になれば、電気料金が約40%上昇する」との予測を発表しています。もし脱原発に傾けば、原発稼働停止後の日本のように、電力価格の度重なる引き上げ、貿易赤字の拡大に直面するでしょう。 さらには、中国海軍によるシーレーン封鎖で「ガス欠」になるリスクも、日に日に増しています。中国・人民解放軍が、今年に入ってから、台湾や日本向けの商船が通過する海域に進出して、軍事演習や周辺諸国への威嚇行為等を行っていたことを思い出すべきです。 ◆日本は台湾の脱原発を説得せよ 台湾の脱原発の盛り上がりには、福島第一原発事故の後の、事故原因や放射能被害の不十分な説明、不適切な避難措置も影響していますが、それ以外にも、日本が台湾の脱原発に拍車をかけた要因があると思われます。 例えば、昨年9月の菅直人・元首相の台湾訪問です。菅元首相は脱原発・反原発イベントに参加し、事故の経過やその後の取り組み、原発の悲惨さについて講演をしました。福島第一原発事故当時の日本のトップからの「脱原発」の訴えは、間違いなく、龍門発電所の即時建設停止の世論に追い風となりました。 また、今年4月11日に安倍内閣が閣議決定した「エネルギー基本計画」。原発再稼働や「もんじゅ」の継続に転換したものの、与党内での審議を通過する中で、「原発推進」の色が薄められてしまいました。 今年の夏場に向けた再稼働も、昨年の申請以来滞ったままです。馬総統としては、「福島の原発事故を経た日本が、再度原発推進に舵を切った」と言いたいところですが、日本国内のこの状況では、台湾内の「脱原発」を押し切る力にはなりにくいと言えます。 やはり日本は、原発の早期再稼働などを通して、台湾の「脱原発」の流れに歯止めをかけるべきです。特に、建設中の龍門発電所の原子炉や発電機は、三菱重工業、日立製作所や東芝が製造しています。日本として、自国の原発技術の信頼を高めることで、台湾住民の説得に寄与することはできるのではないでしょうか。 ◆日本と台湾の「絆」を深めよ 地方選を今年11月末に控える台湾では、国論が割れることを恐れ、原発利用政策に舵を切ることが難しい状況です。 2012年1月の台湾総統選挙の際、世論の流れの影響を受け、現在稼働中の原発の稼働年限の延長を認めず、期間終了と共に廃炉する方針を発表したように、馬政権が、今年もさらに「脱原発」に譲歩することになれば、台湾のエネルギー危機は現実化するでしょう。 同時に中台が、台湾海峡にパイプラインを建設し、天然ガスを中国から輸入するように動いたならば、台湾は中国に、安全保障上の弱みを握られることにもなりかねず、将来的に、中国による台湾併合が起こる可能性も高まると推測されます。そうすれば、日本の国防上の危険も増すことになります。 安倍政権は、国内のエネルギー事情、世論にだけ注視していてはなりません。日本に対して非常に高い好感度を抱いている台湾との間で、「原発推進」を柱として、日台関係を強化することを考えるべきです。 中国海軍・南海艦隊の大航海 日本の集団的自衛権の議論の遅れ 2014.04.08 文/HS政経塾3期生 森國 英和 ◆自民党内で大きくなる慎重論 安倍政権発足以来、進められてきた集団的自衛権の議論。ここに来て、自民党からの慎重論が目立つ。このままでは、行使容認されたとしても、非常に限定的になる恐れがある。 慎重論の背景の1つには、「政府にだけスポットライトが当たっている」という政権運営への批判があるだろう。党内の国会議員409名の内、大臣や副大臣、政務官等の政府要職に就くのは70余名のみ。選挙に向けた実績作りに焦る一部の議員の不満が募っているのだ。 もう1つには、最近の世論調査の結果がある。「憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認」という首相の手法に賛同したのは、保守系・産経新聞でも29.5%(4月1日)、読売新聞では27%(3月15日)、NHKでは17%(2014年3月)と、低い数値に留まっている。このまま進めば、世論からの強い抵抗が起こるとの懸念が広がっていると思われる。 どちらにせよ自民党は、国民への説明と説得に集中するべきだ。「集団的自衛権の行使がなぜ必要か、なぜ認められるか」の議論は、既に尽くされた。もはや逡巡する時期ではない。 ◆今年に入ってからの中国海軍の遠洋パトロール 国外に目を向けても、集団的自衛権の行使容認は待ったなしだ。中国海軍の軍事的脅威がますます大きくなっているという事実を直視する必要がある。 ここで注目したいのは、1月20日から2月11日にかけての中国海軍の動きだ。中国・明王朝の武将・鄭和を彷彿させる「南方大航海」を行ったのは、中国海軍南海艦隊の戦闘即応戦隊。1隻の揚陸艦と2隻の駆逐艦の計3隻(おそらく潜水艦1隻も随行)を組んで、東南アジア・西太平洋地域を大きく反時計回りに周回した。 23日間に及ぶ大航海を振り返ると、中国南部・三亜を出港した3隻はまず、1974年にベトナムから強奪したパラセル(西沙)諸島の周辺海域をパトロールした。1月26日には、マレーシア沖50㎞にあり、南シナ海の南端のジェームズ礁にまで南進。わざわざ他国の領域内で「主権宣誓活動」を執り行い、領土主権を守る決意を示した。 さらに南進し、1月29日にはインドネシアのスンダ海峡を通過してインド洋に出た後、中国海軍としてインド洋上では初めてとなる軍事演習を行った。そして、インドネシアのジャワ島南部沖を航行し、ロンボク海峡を通り、西太平洋のフィリピン沖に進んだ。2月3日には、その海域で実弾射撃訓練を実施。 最後は、フィリピン北岸・台湾南部沖のパシー海峡を通過して、中国に帰港した。 ◆今回の中国海軍の航路は、日本のシーレーン全てを覆っている この遠洋航海は、国際条約・慣習法に抵触していなかったが、中国との領土争いに悩む東南アジア・オセアニアの当事国のみならず、日本にも大きな衝撃を与えた。というのも、この航路は全て、日本のシーレーンに関係しているからだ。 欧州や中東からの輸送船のほとんどは、ペルシャ湾、インド洋からマラッカ海峡を抜け、南シナ海を経由して日本に寄港する。万が一、このルートが通行できなくなった際には、「スンダ海峡から南シナ海に入る航路」か「ロンボク海峡を通り、フィリピン沖西太平洋を航行する航路」を海運会社は採ることになる。しかし、今回の中国海軍の3隻の大航海は、現在のシーレーンのみならず、後者の迂回路にも重なっており、いずれも安全な航路でなくなる可能性が暗示されている。 ◆東南アジア・西太平洋の安全=日本の安全 そのような国際状況において、日本で集団的自衛権の慎重論が大きくなっていることには驚きを禁じ得ない。自民党という巨大政党をまとめることは難しいのだろうが、最近の慎重論にはこのような危機感が欠けている。 今の日本に必要なのは、「東南アジアや西太平洋の危険が日本の安全保障に直結する」という危機感だ。台湾やベトナム、フィリピン、マレーシア、オーストラリア近海が中国に侵されることになれば、シーレーン危機に端を発して、日本本土の安全にも影響を与える。その事実に基づいて、集団的自衛権の行使の内容を具体化する必要がある。 逆に、東南アジアやオセアニア諸国も、日本が集団的自衛権を十分に行使できないままでは、真の連携深化を描くことはできない。 今後中国の海洋進出の脅威が顕在化するにつれ、ベトナムやフィリピン、オーストラリアからの日本待望論が大きくなるだろうが、日本は早く、そのような平和を愛する友好国の期待に応えられる器にならなければならない。 安倍内閣、この1年間の通信簿 2013.12.16 2012年の衆院選からちょうど1年が過ぎるに当たり、各メディアでは、「第2次安倍内閣への通信簿」がつけられていました。 ◆アベノミクスは成功するのか まずは、「アベノミクス」が、ユーキャンの新語・流行語大賞は受賞しなかったものの、世間を賑わせました。 日経平均株価は、野田内閣解散前2012年11月14日の8600円台半ばから、2013年12月現在、15000円超にまで回復しています。 今年の9月25日には、ニューヨーク証券取引所において、「バイ・マイ・アベノミクス(Buy My Abenomics)」の3単語を含めた演説をし、取引所のクロージング・ベルを鳴らしましたが、その姿には、第2次政権の経済政策への自信と確信が漂っていました。 ◆アベノミクスと同時に、増税も しかし、その後10月に入り、幸福実現党の13万6147名にも及ぶ署名活動や、全国各地でのデモ活動にもかかわらず、2012年6月になされた自民・公明・民主の三党合意の通り、消費税を増税する決断をしてしまいました。 景気対策として5.4兆円の補正予算案が組まれていますが、これまでの景気回復が腰折れしないかが非常に懸念されます。 この1年を見る限り、減税反対・増税志向の財務省が、アベノミクスの阻害要因になっています。 来年の1月からは、株式譲渡益(キャピタルゲイン)課税の税率が、現在の10%から、2倍の20%に引き上げられます。 また、12月6日の与党自民党の税制調査会では、国家戦略特区内の、法人税減税や固定資産税免除を含む優遇税制の来年度実施を見送ることとなりましたが、このままでは国家戦略特区法案などを柱とする成長戦略を空回りさせる可能性もあります。 もし首相の意志で、財務省等の圧力を抑え、減税路線・規制緩和路線に転じることができていたならば、その成長性が評価されて株価がさらに上がり、5番目の流行語大賞を受賞していたかもしれません。 ◆外交・国防では着々とした布石 この秋、特定秘密保護法案や日本版NSCの設置が話題となりましたが、それらも含め、これまでの日本の制度の欠陥・不足部分を補おうとしています。 特に特定秘密保護法案の衆参可決に当たっては、非常に激しい批判が朝日・毎日・東京新聞などから加えられましたが、集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈変更の際にも、大きな国民的議論がなされるでありましょう。 国家の安全のために必要な制度変更は、これからも着々と進めてほしいものです。 また、12月14日、東京にて、日本ASEAN特別首脳会議が開かれました。 安倍外交は、キャロライン・ケネディ駐日米大使の赴任にも象徴される「日米同盟の深化」のみならず、ASEAN諸国との親密な関係構築にも評価されるところはあると思います。 首相や外相自らが足を運び、直接会談し、インフラ輸出や円借款を含む経済支援を約束することで、日本と中国を天秤にかける東南アジア諸国に、日本の存在感を示すことができたのではないでしょうか。 ASEAN諸国との親密化を進め、特に、フィリピンやベトナムなど、中国と南シナ海で領土問題を抱える国々とは、国益を共有しているので、対中共同戦線にまで高めていくべきです。 ◆日本政治の不甲斐なさを全く克服できていない しかしながら、戦後日本の不甲斐なさは克服されず、戦略的思考、勇気が欠けたままです。 まず、首相はいつ靖国神社に参拝するのでしょうか。 「首相になったら…」「終戦の日には…」「秋の例大祭には…」と言っていた安倍首相の「約束の日」は霧の先のようです。 河野談話・村山談話の見直しについても、同じことが言えます。 対日姿勢を強める中国・韓国、日中韓の関係悪化を懸念するアメリカへの配慮があるのだとは思いますが、平身低頭の外交を続けることが、先週末、ASEAN首脳陣を前にして話した「和(WA)の精神」だとするなら、間違っています。 それではASEAN諸国の期待にも応えられません。 「現在の日中関係は、第1次大戦前の欧州に似ている」というような論考も、しばしば海外メディアで書かれています(英雑誌エコノミスト11月30日版やFinancial Times 11月28日)が、「現代中国は、軍事•領土政策を見る限り、第2次大戦前のドイツに似ている」のではないかとも思われます。 空と海で、日本の領域が侵されようとしているが、今年改正された自衛隊法の条文は、アルジェリアのテロのような場合に、車両を使った輸送ができるようになっただけです。 来年は、領空侵犯や領域警備を含めた自衛隊法改正を最優先に、できるだけ早く9条を改正すべきです。 (HS政経塾3期生 森國英和) 安倍首相の安保政策は老獪なのか 2013.11.19 ◆じわりじわりと国防を強化する現政権 国防・安全保障の分野について、安倍首相はじわりじわりと、改善を重ねるつもりのようです。 参院選前後で試みた96条先行改正のアプローチは後景に退き、2013年防衛大綱の策定、日本版NSCの設置、沖縄県連に対して基地移設の説得、特定秘密保護法案の成立など、憲法改正が議論されない範囲内で、「国防・同盟の強化」を進めようとしています。 いつか来ると夢見る9条改正に備え、「場」を温めているのでしょう。 ◆集団的自衛権の解釈変更を担う安保法制懇 これらに加え、「集団的自衛権の解釈変更」も着々と進められています。 内閣法制局長官には、「ミスター国際法」こと、元・外務省国際法局長の小松一郎氏が任用され、また、安保法制懇(憲法9条の解釈について議論する専門家の懇談会)が開催されています。 この懇談会は、首相官邸の私的諮問機関で、第1次安倍政権でも開催されていました。第2次安倍政権においても、この懇談会が解釈変更の理論的土台となることは間違いありません。そしてその4回目の会合が、先日11月13日に開かれました。 最終的に提出される報告書の中で、「現行の解釈は精緻なものでない」という点が指摘され、ほぼ全面的に、集団的自衛権の行使が容認されることになると思われます。 連立を組む公明党(集団的自衛権の行使容認ではなく、個別的自衛権の拡大の方を提言している)から反対の声があったとしても、日米同盟の深化のために、実現しなければなりません。 ◆日本の自立に対するアメリカの反応 ただ、集団的自衛権の行使が可能となったところで、全く満足することはできません。 例えば、9条の下で自衛隊に認められる実力は、「必要最小限度」に限られていて、ICBM、長距離戦略爆撃機は、保持できないことになっています。 軍事独裁の中国や北朝鮮や反日姿勢を堅持する韓国を見れば、日本にとって「自立した防衛力」が重要かつ緊急であることは明白です。 しかし、日本は、9条改正を初め、国防の自立を勝ち取れていません。二次大戦の真珠湾攻撃を根に持つアメリカから、圧力がかかっているからでしょうか。 それも完全に否定できませんが、「自立した防衛力」を求めようとしない日本政府の弱さが問題です。 アメリカの知日派では、元・国務副長官のアーミテージ氏や国際政治学者のジョセフ・ナイ氏が有名ですが、彼らは日本で多くの講演活動をする中で、「日本の憲法改正や核武装は、アメリカとの同盟があるから必要ない」との趣旨の発言を繰り返しています。 そして「これがアメリカの対日の考え方だ」と言わんばかりに、時折、新聞やメディアで取り上げられます。これは、一般に、「日米同盟は日本の再軍備を阻む“瓶のふた”である」というボトル・キャップ論と言われる対日観です。 このボトル・キャップ論を主張した代表的なアメリカ人、ヘンリー・キッシンジャーでさえも、今では「日本が憲法改正や核武装を進めても、反対はしない」と転換しているようです。 実は、アメリカ人の中では、東アジアの安定を確保するために、自衛隊が「普通の軍」となり、より積極的な役割を果たすことが支持されていると言われています。 つまり、アーミテージ、ナイ両氏が求めるように、日米同盟の強化を進めることはもちろん大切ですが、それだけでなく同時に、「自立した防衛力」を模索せねばならない時期であります。 ◆安倍首相には勇気を振り絞ってもらいたい 最近の、アーミテージ、ナイ両氏を頻繁に取り上げる日本のメディア報道には、安倍政権の方針が反映されているように思います。 中韓から批判や支持率低下を恐れて、日本版NSCの設置や特定秘密保護法の制定から段階的に取り組もうとする日本政府にとって、「日米同盟の深化のみで足りる、他は要らない」というアメリカの対日観の方が、9条の改正を先延ばしにできて都合がいいでしょう。 これはある意味、非常に老獪な進め方なのかもしれません。しかし、結局は国民的議論と納得が必要なのだから、真正面から9条の改正を訴える方が、大局を見据えた老獪さを持っていないかと、安倍首相に迫りたいものです。(HS政経塾3期生 森國英和) 9条改正と、差し迫る国難に対処するための憲法解釈変更を検討すべき 2013.07.18 ◆差し迫る国難に対処するための憲法解釈変更を考えよ! いよいよ選挙戦も終盤に入り、各党が浮動票を獲得するための戦いに入る中、ほとんどの政党は、経済政策に重点を置いた訴えをしています。 自民単独で70議席近く獲得とも予想する報道が出される中で、自信を深めたのでしょうか。公示後、改憲について言及を控えていた安倍首相が9条改正について言及。将来的な憲法9条改正に意欲を示しました。(7/16 共同「安倍首相、将来の9条改正に意欲 自衛隊を軍隊として位置づけ強調」) 自民党は憲法改正草案の中で、9条改正と国防軍創設を謳っていましたが、今回は(も)完全にトーンダウンしています。 選挙戦終盤にやっと9条改正に言及する様子を見ますと、安倍首相は、実際に9条改正を「遠い将来のこと」と考えているようです。 また、連立を組む公明党という、憲法改正のブレーキ役も存在しています。 こうした状況を踏まえると、国を守るためには、9条改正を訴えつつも、同時に、差し迫る国難に対処するための憲法の運用を考える必要があります。 幸福実現党も参院選の公約として、「憲法9条を改正します。それまでの間は、憲法解釈の変更で有事への備えを万全にし、隣国の脅威から日本を守ります」と掲げています。 そこで、本日は、憲法9条の解釈変更に関し、特に「自衛戦争合憲説」をご紹介、検証してみたいと思います。 ◆9条をどう読むか? 憲法9条は、下記2項から成り立っています。 ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 第1項で「戦争・武力行使という選択肢の放棄」をしていますが、「国際紛争を解決する手段としては」という留保が付いています。 いわゆる1928年の不戦条約では、同じ文言を用いて「侵略戦争の禁止」が国際的に同意されていることに鑑みると、この「国際紛争を解決する手段として」の戦争・武力行使とは、侵略戦争・侵略的武力行使だと言えます。 とすれば、9条1項は、侵略戦争(のみ)の放棄であり、自衛戦争まで放棄したものではないのです。 そして、次は、9条2項の「前項の目的を達するため」、いわゆる芦田修正をどう考えるかということです。 9条2項では、「一切の戦力の不保持と交戦権の否認」が定められているのですが、「前項の目的」とは関係ない場合はどうなのかという疑問がわいてきます。 「前項(1項)の目的」を「侵略戦争の放棄のため」とした場合、9条2項は「侵略戦争のための戦力は持たないが、自衛戦争のための戦力は持たないとは言っていない」と読むことができます。 9条1項を「侵略戦争の放棄」と読み、2項を「侵略戦争目的のための戦力は持たない」とすると、「自衛戦争」は憲法9条に反していないことになります。 これがいわゆる「自衛戦争合憲説」であり、これによって「(侵略戦争のためではない)自衛戦争のための陸海空軍その他の戦力は保持できる」と読むことができます。 ◆「自衛戦争合憲説」は妥当なのか この「自衛戦争合憲説」は、政府にも採用されておらず、憲法学者の多くからも反対されています。戦後の憲法学の大家、芦部信義東大教授らも、「自衛戦争合憲説」の難しさを指摘しています。 しかし、本当に採用できない解釈なのでしょうか?「自衛戦争合憲説」への批判を検証してみます。 【難点1】「自衛戦争合憲説」は、憲法の前文の“格調高い”平和主義と合わない しかし、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という言葉が、隣国の中国や北朝鮮、かつてのソ連については全く当てはまらないことは否定しようがありません。 さらに、崇高な理念を世界的に実現しようとした国際連合は、平和を実現する国際組織として十分に役割を果たせていないのが現状です。 とすると、前文に謳われているような“格調高い”内容というのは、空理空論ではないのかと、問い直さねばならないと思います。 【難点2】「自衛戦争」と「侵略戦争」の区別は難しい 第二次大戦で侵略行為を繰り返したナチスドイツも、「これは自衛戦争だから正当だ」と言っていたことに対する警戒でしょう。 ですが、これを突き詰めれば、国内の治安を保つ警察の実力以上の一切の装備や兵器を持つことはできないことになります。 国家と国民が“丸裸”になるのを容認することになってしまうのです。 【難点3】9条2項の「前項の目的を達するため」という文言は、「決意を表したもので、何の意味もない」という解釈が広く認められている 事実、この文言を入れた芦田均自身が、「これは自衛戦争を合憲にするための“付け足し”だ」というようなことを全く言っていません。 ですが、制定したのは戦後間もないGHQ統制時のことだったため、それを以て、自衛戦争合憲説を否定することはできないのではないかと思います。 敗戦直後の国会において、「自衛戦争をそのまま認める」という動きが認められたはずがありません。これらの事情を考えても、自衛戦争合憲説の憲法解釈は十分に論理的ではないでしょうか。 ◆「自衛戦争合憲説」は、憲法上認められるのか 憲法は「自由の基礎法」であり、国民の生命・安全・財産、そして自由のために存在している限り、絶対に遵守しなければなりません。 戦後の護憲派は、人権尊重・国民主権・平和主義の3つを絶対に守られるべき価値だと断言し、9条改憲を阻止する論陣を張っていますが、9条が絶対不可侵のものとは思えません。平和を実現する方法は、価値観や時代背景に左右されるからです。 ただ、9条の解釈を「自衛戦争合憲説」の方向に変更しようとすると、96条の改正の時以上に、大きな反論が起こされるはずです。解釈改憲で、憲法のあり方を変えることが、“独裁者”の手法に見えるからでしょう。 しかし、現に憲法9条の改正が間に合わず、国民の生命、安全、財産、何より自由を守れなければ、何のための憲法なのでしょうか? 現在は「集団的自衛権」についてのみ解釈の議論がされていますが、万が一のため、9条自体の解釈も検証されることが望まれます。 「自衛戦争合憲説」を採った上で、日米同盟や国連を通した国際協力に日本がどう関わるのかについて、基本法の制定や自衛隊法の改正で補うことを考えても良い時期でしょう。(HS政経塾 第3期生 森國英和) すべてを表示する