ウクライナのネオナチ「アゾフ大隊」とは。ロシアの軍事作戦に正当性はあるのか? 【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆経済制裁でロシアを止められる?
岸田首相は4月9日、記者会見を開き、ロシアからの石炭輸入禁止など、ロシアへの追加制裁を発表しました。
岸田首相からは「平和秩序を護る正念場」という言葉もありましたが、「経済制裁でロシアを止められる」と考えている点は、バイデン大統領と認識が同じです。
ロシアは、中国やインドとの貿易を継続しているため、経済制裁でロシアの妥協を引き出すのは困難です。
逆に、全世界でエネルギー価格や小麦が値上がりし、ペルーやスリランカでは暴動が発生しています。
ここで米国がインフレを抑えるために利上げを急げば、世界経済は大打撃を受けるでしょう。
さらに、ゼレンスキー大統領の「ウクライナへの侵攻は欧州への侵攻だ」との主張は、ロシアとNATOの全面戦争をもたらす極めて危険な考えです。
◆ロシアに軍事作戦の正当性はあるのか
岸田首相は「ロシアがウクライナの主権および領土の一体性を侵害し、国際法に違反するもので決して認められるものではない」と主張しています。
ロシアのプーチン大統領は2月24日の演説で、ウクライナの「中立化」「非軍事化」「非ナチ化」を理由に挙げて、「特別軍事作戦」を行うと宣言しています。
つまり、ロシアは国家承認した「ドネツク共和国」「ルガンスク共和国」の2か国から軍事支援の要請を受けて、集団的自衛権の行使として「特別軍事作戦」を行っているということです。
国連憲章では、「武力の行使」を原則禁止(第2条)していますが、二つの例外を認めています。
一つ目は、自衛権、集団的自衛権(国連憲章第51条)です。
主権国家である以上、当然のこととして、「自分の国は自分で守る」権利である「自衛権」が認められています。
また、自国の防衛力だけでは守れない場合には、他国と同盟を結びます。これが、「集団的自衛権」です。
二つ目が、国連が決議して進める「集団安全保障」です。
例えば人道的危機が生じた場合、国連の安全保障理事会が、全会一致で決めたら、軍事介入できる場合もあります。
ただ常任理事国の5か国の意見が一致することは難しく機能していません。
ロシアの主張は、ウクライナへの「侵略」ではなく、国連憲章で認められた「自衛権の行使」だということです。
しかし、プーチン大統領が言うような「ウクライナにネオナチなど存在せず、東部のロシア系住民を排斥するような事態はなかった」と反論する人もいます。
◆ネオナチ「アゾフ大隊」とは
プーチン大統領が非難するネオナチとは、ウクライナの「アゾフ大隊」のことで、ウクライナ東部には、アゾフ大隊を含めて約40の極右グループが存在します。
アゾフ大隊の創設者、アンドリー・ビレツキーという人物は、ナチスの信奉者で、白人至上主義者として知られています。
日本の公安調査庁は「国際テロリズム要覧2021」でアゾフ大隊について次のように言及しています。
「アゾフ大隊は、欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ、同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2000人とされる」
しかし、不思議なことに、公安調査庁は4月8日、「この記述が誤解を生むので削除する」と発表しました。
◆「アゾフ大隊」が頭角を現した背景
2014年に親ロ派のヤヌコビッチ大統領が退陣に追い込まれた過激なデモ(マイダン革命)がありましたが、そこで「アゾフ大隊」は頭角を現しました。
この時、米政権がデモをバックアップしたことが、オリバーストーン監督のドキュメンタリー映画「Ukraine on Fire」に描かれています。
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https://youtu.be/pSDZpw1EZsQ
その後、ウクライナ東部の民兵として、親ロ派勢力から港湾都市マリウポリを奪還しました。
この功績が認められ、アゾフ大隊はウクライナの正規軍に編入され、正式に「国家親衛隊」になりました。
2019年、米メディア「The Nation」は、「ウクライナは、ネオナチが正規軍になっている世界で唯一の国だ」と指摘しました。
ヤヌコビッチ大統領がロシアに亡命してからは、アゾフ大隊の影響力は政治の世界にも広がり、アゾフ大隊の創立者アンドリー・ビレツキーは2014年に国会議員になっています。
他にも閣僚級を輩出するなど、ネオナチの影響力は軍隊のみならず、政治の世界まで及びました。
ネオナチが国家権力に浸透しているのは、世界の中でウクライナしかありません。
(後編につづく)