台湾有事は日本有事――中国の台湾上陸作戦シナリオとは?【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆米中経済安全保障調査委員会の報告書
11月17日、米国議会の諮問機関で、超党派で構成されている米中経済安全保障調査委員会(USCC)が、報告書(アニュアルレポート)を発表しました。
550ページに及ぶ大変なもので、米中関係を分析し、貿易や外交、軍事など、多方面をカバーした内容になっています。
第4章では「台湾防衛」を単独で取り上げており、特に注目したいのは、「台湾侵攻」に関する分析です。
報告書には「中国の指導者は2020年までに『台湾侵攻能力』を持つことを人民解放軍に指示し、20年近くに渡って軍事力を増強してきた」としています。
また「サイバー攻撃、ミサイル、空路や海上封鎖など、台湾侵攻に必要とされる軍事力を備えつつある」と評価しています。
◆格段に進化する中国人民解放軍の「台湾侵攻能力」
2008年の時点では、国防総省は「人民解放軍が台湾攻撃と海上封鎖の限定的な軍事力を得た」という評価しつつも「完全に海上封鎖できる軍事力を持っていない」と記載してきたわけです。
ところが、2015年の段階でこの記述は削除、2020年の国防総省の報告書には、「台湾侵攻能力」即ち「台湾上陸作戦」が選択肢に入っていることを繰り返し述べていました。
米中の軍事力に差が無くなりつつあり、米国の抑止力が効かなくなってきているのは明らかです。
もし抑止力の行使に失敗すれば、中国の台湾侵攻が現実のものになる可能性が強くなっています。
◆「一撃で敵を機能不全にする」という不気味な方針
報告書では、(1)米国の軍事力が東アジアで不十分な場合、(2)中国が台湾侵攻の際に米軍が断固とした介入を行う意思がないと判断した場合、中国が台湾侵攻に踏み切ると指摘しています。
2021年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は米議会で「6年以内に台湾侵攻の可能性がある」と議会で証言し、衝撃を与えました。
蔡英文総統は、台湾人の不安を払拭するべく、対艦ミサイルを大量生産しておりますが、中台の軍事力を比較すると、大きなギャップがあるのは事実です。
実際、中国の軍事費は台湾の20倍以上あり、台湾単独で防衛するのは難しく、日米同盟を軸とした米国と日本の支援が必要だということは明らかです。
国防総省は、中国人民解放軍は「一撃で敵を機能不全にする(paralyze the enemy in one stroke)という方針を持っている」とし、「台湾侵攻はある日突然始まり、米軍の介入を防ぎながら、大方終了させるだろう」と想定しています。
米国が台湾への武器輸出しているのも、台湾の反撃能力を高めるためです。
◆台湾有事で在日米軍基地攻撃の可能性が高い?
日本にとって、今回の報告書で特筆すべきは、台湾有事の際に「在日米軍基地攻撃の可能性が高い」と明記していることです。
報告書では、人民解放軍の指針を参考にしながら、台湾上陸作戦がどんなものになるか述べています。
まず、人民解放軍は先制攻撃を仕掛けると指摘しており、一つ目には「在日米軍への先制攻撃」です。
人民解放軍にとって、米軍の反撃能力を抑え込むためには「在日米軍基地を先制攻撃することが最も効果的だ」と指摘しています。
ここで時間稼ぎをすれば、台湾上陸作戦を有利に進めることができます。
前述した米・インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は「米軍が米国西海岸からグアムに到着するまでに3週間必要になる」と述べています。
人民解放軍は、日頃から在日米軍基地の艦艇や戦闘機などを正確に攻撃するシミュレーションも常に行っています。
これらを中距離弾道ミサイルなどで破壊し、台湾に一番近い在日米軍を足止めすれば、台湾上陸作戦の絶好の機会をつくることができると考えています。
中国は中距離弾道ミサイルを最低で200発持っているとしており、近年大幅に増強しています。
◆台湾本土への「短期激烈戦争」
次が台湾本土への先制攻撃です。
上陸作戦は、上陸後の地上戦とは比較にならないほど難しく、これを成功させるには、情報戦や、海と空の領域で支配権を握ることが必要となります。
解放軍の指針によれば、海と空の支配権を握るため、まず情報通信網を破壊するためのサイバー攻撃や、台湾軍の司令部や空軍・海軍の基地やミサイル防衛システムなどを「突然、激烈に、継続的に(surprise, fierce, and continuous)」ミサイルで攻撃すると指摘しています。
いわゆる「短期激烈戦争」であり、大量のミサイルが突然、台湾の主要施設に降り注ぐことが想定されます。
今回の報告書では言及されていませんが、この先制攻撃の時に、蔡英文総統を初めとする政治リーダーや軍事的リーダーを殺害する計画、いわゆる「斬首作戦」を考えているとも言われています。
すでに、中国人民解放軍は、幾つかの演習を「斬首作戦」と表現し、砂漠に台湾総統府のような完全模型の建物を建築していることも衛星写真から分かっています。
これは戦闘機からのミサイル攻撃の際に、台湾に侵入している工作部隊が、総統府などを襲うこともあり得ることを示しています。
ほかにも最近、衛星写真でアメリカの空母の完全模型も発見されています。
(後編につづく)