香港を護るために日本がすべきこと
http://hrp-newsfile.jp/2021/4157/
幸福実現党政務調査会・外交部会 久村晃司
◆香港を侵食する「愛国主義ナチズム」
香港で9月20日、行政長官を選ぶ「選挙委員会」を選出する選挙が行われました。中国政府の掲げる「愛国者による統治」の原則に基づいた、初めての選挙となります。
結果は、当選者は民主派がゼロ、残りの議席はほぼ全て親中派が占めることになりました。したがって、来年3月の行政長官選では親中派の当選が確実となります。
「愛国者による統治」とは、中国共産党に従う「愛国者」以外を政治から排除するために習近平指導部が掲げた方針で、香港では「愛国者」でなければ立候補の資格を失うことになりました。
また民主派が8割超を占めていた区議会では、議員に「香港政府への忠誠」を宣誓することが義務づけられました。
宣誓をしたとしても、その議員の過去の言動が「宣誓違反」と見なされれば議員資格を剥奪され、刑事罰が科される可能性もあります。これを受け、今年7月、民主派の区議200名以上が辞職に追い込まれました。
中国は、世界各国が注目するなかで香港の「一国二制度」のシステムを崩壊させ、「愛国主義ナチズム」とも言うべき一党独裁体制を浸透させつつあります。
◆ウイグルと同様の人権弾圧!?
香港の「ウイグル化」も進んでいます。
逃亡犯条例改正案をきっかけとした2019年以降行われた大規模なデモに関係する逮捕者は1万人を超え、中には秘密裏に中国本土に送られて拘束されている人々もいるとのことです。
また、逮捕者の一部は香港市内にある新屋嶺拘留センターに収容され、施設内で拷問・性的暴力などの深刻な人権侵害が行われていると言われています。
さらに、同センターに隣接する場所に「対テロ訓練施設」が建設されていることが分かっています。
中国政府は「対テロ戦争」の名のもとに、新疆ウイグル自治区でウイグル人の強制収容を正当化しています。つまり、香港でもまさに同じ“手法”によって、民主派への大弾圧が行われつつあるのです。
私たち日本人にとって香港問題は他人事ではありません。
もし香港で起きていることをなすがままに放置するならば、香港にとどまらず、台湾や沖縄・尖閣にも中国共産党の覇権が及ぶのは時間の問題です。
日本政府は、香港を護るべく、具体的な対策を講じるべきです。そこで今回は、日本が香港を護るために何ができるのか考えてみたいと思います。
◆人権弾圧に関与した政府関係者への制裁を
まず、人権弾圧に加担した政府関係者に対して制裁を行うことが考えられます。
アメリカではトランプ政権下の2019年11月に「香港人権民主主義法」が成立しました。
同法は、米政府が香港で一国二制度が機能しているか毎年検証することを義務付け、また香港で人権弾圧を行った当局者には米国への入国禁止などの制裁を科すことができます。
さらに2020年7月には「香港自治法」が成立し、香港の自治を侵害した当局者へのビザの発行停止や米資産の凍結に加え、該当する当局者と取引をする金融機関にも制裁を科すことが可能になりました。
香港自治法に基づき、アメリカは2020年8月に香港政府のキャリー・ラム行政長官や主要閣僚11名を、同年12月には中国政府高官14名を、2021年3月には中国と香港の当局者ら24名を制裁対象に指定しています。
一方、日本には外国での人権侵害を理由に制裁を行う法律、いわゆる「マグニツキー法(人権侵害制裁法)」にあたるものがありません。主要7カ国(G7)で人権侵害に対して制裁する法律がないのは日本だけです。
既存の外為法によっても、安全保障上の懸念があるときなどは経済制裁を行うことはできますが、人権問題のみを理由として制裁を実施する規定はありません。
また、日本は国連安保理決議に基づいてシリアのアサド大統領やリビアのカダフィ大佐などに対する資産凍結等の措置をとっていますが、中国が国連安全保障理事国である限り、中国が行っている人権弾圧に対する制裁が可決されることは、現実的にありえません。
こうした観点から、香港で行われている人権侵害から香港民主派の人々を守る意思を明確に示す意味でも、「日本版マグニツキー法」を制定すべきであると言えます。
◆弾圧された香港民主派へ門戸を開く欧米諸国
日本政府としては、香港から逃れてくる人々を保護することも必要です。
香港の旧宗主国であるイギリスは、国家安全維持法の導入に対する抗議として、今年1月末に香港市民向けの特別ビザの申請受付を開始しました。
特別ビザの対象になるのは、1997年の香港返還前に生まれた香港市民が持つことのできる「イギリス海外市民(BNO)旅券」の保持者とその扶養家族で、取得権を持つのは香港人口の約7割の540万人です。
この特別ビザ制度では、対象者は5年間イギリスに滞在することができ、その後、永住権の申請が可能となり、さらに1年後には市民権を獲得する資格が得られます。
イギリス政府は6月末時点で約6万5千人が特別ビザを申請し、7割超が承認されたとしています。
また、アメリカではバイデン大統領が香港市民に一時的な「安全地帯」を提供するとして、アメリカに居住する香港市民の滞在期間を18カ月延長することを認めると発表しました。
カナダも香港市民の受け入れを拡大しています。
カナダ移民省は2020年11月に大学や専門学校を卒業した香港出身者に対して、3年間有効の就労許可の申請を認め、一年間就労経験を積めば永住権の申請や家族の呼び寄せが可能となります。
また仮に亡命申請が却下されても、香港に送還されることで身に危険が及ぶ場合には再申請の許可を与えるなど、寛大な措置を打ち出しました。
さらにオーストラリアでは2020年7月、香港・国家安全維持法の施行を受けて、モリソン首相は香港との犯罪人引き渡し条約を停止するとともに、就労ビザで滞在している香港人などに対して5年間のビザ延長の申請や永住権申請を可能にしました。
以上のいずれの国も、中国との緊張が高まるリスクを負いながら、香港で自由や人権が侵害されていることに強い危機感を持ち、勇気をもって香港市民の受け入れ策を打ち出しています。
◆日本も香港からの亡命者に積極的な保護を
対して日本政府は、香港の人々を受け入れることに消極的です。
安倍晋三元首相は昨年6月に香港の金融人材の受け入れを推進する旨の発言をしていますが、これがどの程度、香港の人々の保護につながるのかは定かではありません。
そもそも日本は他国に比べて、難民認定への障壁が高いのが現状です。
法務省によると、2019年の難民申請数10,375人に対して認定者はたったの44人(認定率0.42%)でした。一方、NPO法人「難民支援協会」の統計によると、2019年の難民申請認定者数はドイツで5万3,973人(同25.9%)、米国が4万4,614人(同29.6%)、フランスが3万51人(同18.5%)などであり、日本が欧米諸国と比べて非常に低水準であることが分かります。
日本としては、中国政府の弾圧から逃れたい香港市民に移住の敷居を下げるために、香港市民の申請を特例として基準を緩和するなどの取り組みを強化する必要があります。
香港には親日家も多いと言われており、日本に亡命を求める人々も多いのではないでしょうか。欧米各国による救済措置を横目に、日本だけが香港人の受け入れを渋り、見捨てるようなことがあってはなりません。
◆欧米と力を合わせて香港、そしてアジアの平和を守る
アメリカ政府は9月15日、米英豪による新たな安全保障協力の枠組みである「AUKUS(オーカス)」の創設を発表しました。
この枠組みを通じて、オーストラリアは核を持たない国としては異例の原子力潜水艦配備が行われることになり、世界が注目しています。主要国の中国包囲網形成への本気度が改めて示されたと言えます。
ただ、アジアの大国である日本が、現在のように中国経済から得られる利益を失うことをためらい、優柔不断な外交を続けている限り、欧米諸国が本当の意味で一枚岩になることも難しいと言えます。
香港を護り、その自由と繁栄を取り戻すためには、欧米諸国と日本が一致団結することが不可欠です。
日本としてできる限りの努力をしていきながら、欧米諸国の対中包囲網の形成に力を添え、さらには牽引していくことで、アジアの平和のためのキーマン国家としての使命を果たすべきです。