ミャンマー軍の市民弾圧、黒幕は中国か?【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆ミャンマー政変の黒幕は中国か?
2月1日にミャンマーでは国軍による軍事クーデターが起き、今も流血が止まりませんが、今回は背後にある中国の動きなどを追ってみます。
ミャンマー民主化のシンボルであるアウンサン・スー・チー氏は、現在も拘束され監禁状態にあります。
また、ミャンマーの民主主義を守るために、数多くの市民や僧侶が抗議デモに参加していますが、国軍の銃撃で、3月21日時点で250人が死亡したとされています。
一般市民に銃口を向ける弾圧の様子は、1989年に起きた中国の天安門事件を思い起こさせますが、その中国は、近年ミャンマーとのつながりを重視してきました。
◆中国とミャンマーの蜜月関係
2020年1月、習近平国家主席は19年ぶりにミャンマーを訪問し、ミャンマーのインフラやエネルギープロジェクトを推進する「中国ミャンマー経済回廊」に関する合意文書にサインしました。
そして2021年1月11日~12日には、王毅外相がミャンマーを訪問し、アウンサン・スー・チー国家顧問と面談した後、今回のクーデターを起こしたミン・アウン・フライン総司令官とも面談しています。そして一か月足らずで、今回のクーデターです。
クーデターに関して、シンガポールのリー・シェンロン首相が「容認できず、破滅的行為だ」と述べ、ミャンマーの民主化後退を非難し、インドネシアの外相は「政治的拘束者の解放」を要求したにも関わらず、中国は、国軍に対する非難を一切行いませんでした。
中国国営の新華社通信は、軍部のクーデターを「大規模内閣改造」とソフトな表現に言い換えました。
その翌日、中国とロシアは、国連安全保障理事会によるクーデターに対する非難決議を妨害しました。現在まで国連の非難決議は行われておらず、国連の積極介入を阻んでいます。
これらの動きを見て、「中国黒幕説」が広がっているわけですが、ここにきて、それを裏付けるような事実が続々と明らかになっています。
◆中国黒幕説を裏付ける決定的な証拠!?
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)によると、2月下旬、中国雲南省の昆明(こんめい)からミャンマーのヤンゴンに向け、未登録の航空機が何度も飛んでいたことが明らかになっています。
1週間以上の期間に渡って、1晩に5便の運航があったとのことです。
それらの航空機は一般の民間企業が借りたことになっていましたが、驚くほど整然と運行されていたようです。
この件について、中国は「水産物の定期運航便」だと主張していますが、クーデター後、事実上全ての外国航空機のヤンゴン空港着陸が禁止された中で、中国の航空機だけ着陸したこともあり、ミャンマー市民の間で疑惑は広がりました。
◆中国からミャンマーに何が運ばれたのか?
ASPIの分析では、衛星写真や空港作業員、ミャンマー市民の話を総合すると、2つの可能性があると指摘しています。
1つ目は、中国がビルマ軍のデモ弾圧をバックアップするために、IT技術者を派遣している、というものです。
中国共産党は、インターネット上の「検閲」に関して“悪名高い”というか、非常に長けているわけですが、そのノウハウをミャンマーで活用しているのではないかということです。
2つ目は、中国がミャンマー軍の弾圧に使用する武器を供給している、というものです。
中国は、アジアトップの武器輸出国になっていますが、主な輸出先としては「一帯一路」の国々が挙げられ、ミャンマーは主要な輸出先になっています。
そして、中国の昆明市には、通信・電磁波・信号等を扱う諜報(シギント)部隊や、サイバー部隊、更には人民解放軍のロケット軍の基地があるということで、武器を大量に貯蔵し、補給設備が整っていると言われています。
◆中国から見たシーレーンリスク
産経新聞(3月13日付)によると、2月下旬に行われたミャンマー国軍と中国との「非公式オンライン会議」の内容が流出しました。
会議の中で、中国側は、雲南省とミャンマー西部チャウピューを結ぶ天然ガスや原油のパイプラインの戦略的重要性を強調し、警備の強化を求めたことが明らかになったようです。
中国は中東から原油を輸入するためには、米国が支配権を握るマラッカ海峡を通らなくてはなりません。
中国の原油輸入の約8割がマラッカ海峡を通っており、この「マラッカ・ジレンマ」を回避するために、中国は陸路で中東から原油を調達できるように、ミャンマー西部のチャウピューから昆明に通じるパイプラインを建設しました。
ミャンマー以外にも、ロシアや中央アジアからもパイプラインを敷設して、マラッカ海峡を通らない輸入ルートを戦略的に開拓しています。
(つづく)