半導体「中国包囲網」強固に。日本企業、脱中国への大転換!【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆現代文明に不可欠な「半導体」
去年からずっと話題になっておりますが、現代人の生活に欠かせない「半導体」を巡って、トランプ政権が対中包囲網をさらに強化しています。
電化通信や銀行のATM、自動車や交通などの生活インフラ、またAI(人工知能)、軍事や宇宙領域に至るまで、競争優位性の決定的要因となるのがこの半導体という領域です。
そして今、まさにこの領域で米中によるテクノロジーの覇権戦争が繰り広げられており、それに伴い日本企業や日本経済への影響が大変大きくなっています。
◆米国によるファーウェイ制裁
9月15日、トランプ政権によるファーウェイへの制裁が発動され、米国製の半導体などの中国への輸出が止まりました。
それに伴い、iPhoneのカメラに使用されるソニー製のイメージセンサーや、旧東芝メモリのキオクシアの半導体も、ファーウェイへの出荷を停止しました。
米国の制裁措置に抵触すると、取引を禁止する顧客リストに掲載されたり、取引先や銀行等から取引停止を宣告される可能性があります。
また、多額の賠償金を負わされるリスクもあります。
◆ファーウェイ製品に不可欠な日本製の品質
ソニーのイメージセンサーは世界シェア48%でトップ、2位はサムスン電子で18%です。
ファーウェイは最新のカメラ機能を搭載し、画像が美しいのが強みなので、もしソニーのイメージセンサーが手に入らなくなれば、スマホの販売に影響を与えることが確実です。
更に10月には、トランプ政権は半導体の受託生産を行っている中国最大手SMIC(中芯国際集成電路製造)を対象に、新たな制裁を課しました。
米国の半導体製造装置や原材料をSMICに輸出する際に、事前に商務省の許可が必要になりました。
SMICは台湾のTSMCに技術レベルでは4~5年遅れていますが、中国の「製造2025」を実現するために、半導体の自給率を高めるための中核企業です。
◆トランプ政権が推進する半導体生産の国内回帰
しかし、今回の米国の規制によってSMICの株価は急落しました。
トランプ政権は、このように対中制裁を強化しながら、米国内での半導体生産の強化にも着手しました。
今年6月、超党派で「CHIPS for American Act」「American Foundries Act of 2020」という2つの法案を提出しています。
最先端の半導体製造能力の78%がアジアで占められていることから、米国内で半導体生産のサプライチェーンを構築しようとしているわけです。
◆減税政策こそ国内回帰の最大の武器
この法案の最大の目玉は「投資税額控除(ITC)」という減税政策です。
これにより、半導体製造装置や設備への投資額の40%を税金の支払いから控除できるようになります。
これにより、過去20年間で約半分に減ってしまったとされる米国の半導体製造力を向上させるとともに、数千人の雇用を生み出すことを狙っています。
台湾の半導体受託生産大手のTSMCの工場をアリゾナ州に誘致することが決まっていますが、米国内に半導体の一大集積拠点を設けるつもりで、予算規模は2.2兆円~2.6兆円と莫大な金額です。
米国にとって中国とのハイテク戦争は、単なる経済戦争ではなく、米国の安全保障に関わる問題であり、要するに最新鋭戦闘機に欠かせない部品を、いつでも調達できる体制を作りたいわけです。
このように、米国は半導体「中国包囲網」をどんどん強化しています。
◆対中制裁による日本企業への影響
こうした状況の中、日本企業も大きな影響を受け始めています。
前述の通り、ソニーはファーウェイへのイメージセンサーの輸出を停止しましたが、ソニーの2021年3月期のイメージセンサー売上計画は8,700億円となっており、そのうち、ファーウェイ向けは約2,500億円と言われています。
ファーウェイのスマホ販売が落ち込むと、ファーウェイ向けの電子部品等を供給してきた村田製作所などの電子部品メーカーにも影響が出てきます。
これらを合算した日本企業とファーウェイの取引総額は約1.1兆円にもなると言われ、日本企業にとってもかなりの影響が出るものと思います。
◆中国による報復制裁「輸出管理法」とは?
また、新たな制裁対象になった中国のSMICは日本企業との取引が多く、半導体製造装置をSMICに輸出している日本企業が今後、出荷できなくなる可能性があります。
こうした米国による制裁だけではなく、10月18日、中国の全人代で、米国への対抗措置として「輸出管理法」が成立し、今年12月から施行されます。
これは、安全保障などを理由に「禁輸企業リスト」をつくり、特定の企業への輸出を禁止するものです。
この法案の対象は、中国から材料を輸入して、完成品を海外へ輸出する「第三国」も含んでいるので、日本企業も対象になります。
例えば、日本企業はレアアースを中国から輸入し、ハイテク製品の部品を製造し、米国企業に輸出していますが、こうした企業が、中国の「輸出管理法」に抵触する可能性が出てきました。
このように、日本企業は、米国と中国の二者択一を迫られる状況にあります。
しかし、台湾のTSMCがいち早く、ファーウェイとの取引を止め、米国との取引を優先しましたが、日本企業の進むべき方向も、まさにそこにあると思います。
米国や台湾、日本で、最先端の半導体供給網を構築すべきだと思います。