エネルギーは日本の安全保障と経済の基盤(9)政府の支援で原子力事業環境を整備
http://hrp-newsfile.jp/2019/3580/
◆英国では政府の支援で原発を新増設
前回、「電力システム改革」や再生可能エネルギーの大量導入といった事業環境の変化により、民間企業による原子力事業が困難になり、特に原発の新増設はほぼ不可能になることについて述べました。
この問題を解決するため、米国の一部の州や英国では、制度的措置により原発の支援策を講じています。
例えば英国では、差額決済型固定価格買取制度(FIT-CfD)により、事業の予見性を高め、原発の新設を支援しています。
FIT-CfDは、原発や再エネなどの低炭素電源から供給される電気について、政府機関と発電会社とで投資回収可能な基準価格(ストライクプライス)を事前に契約し、基準価格よりも市場価格が安い場合には差額を政府機関が補填し、市場価格が高い場合には差額を発電会社が政府機関に支払う制度です(※1)。
この制度は固定価格買取制度(FIT)と異なり、買い取りが保証されていないため、発電会社にも経営努力を促す利点があります。
しかし、英国では先行するヒンクリー・ポイントC原発(※2)で市場価格の2倍近い基準価格(※3)を設定し、批判を受けました。
このため、日立製作所が建設を検討してきたホライズン原発事業では、基準価格が約20%引き下げられ(※4)収益性が見込めなくなったことが、計画凍結の原因の一つともいわれています(※5)。
このように、再エネの普及でほぼ「限界費用ゼロ」の電気が増えていく現状では、FIT-CfDのような市場価格を参照する制度で原発を支援することには限界があります。
◆政府出資の原発会社も選択肢の一つ
原発は、市場原理の中で運営することが難しい一方、日本の安全保障の観点からは、絶対に手放せないものです。
このようなインフラは、道路、鉄道、河川、空港、港湾、防災施設、防衛施設など数多くあり、これらの管理の一部を民間に開放したとしても、公共財として政府が最終責任を持つことに違和感はないでしょう。
実際に、原発を強力に推進する中国・ロシア・インドは国営、原発大国フランスは実質国営、カナダは州営、米国は民営と州営の混在で原子力事業が営まれています。
日本は福島事故以前には、民間企業のみが原発を運営する、世界でも珍しい国でした。
これは、地域独占による発電・送配電・小売の一体経営(垂直統合)と、総括原価方式による規制料金が可能にしたものであり、核燃料サイクル等には多額の国費も投入されていたことから、諸外国と同様に、政府による原発への強い政策的支援があったといえます。
核燃料の調達や再処理は、核兵器の拡散とも絡んだ重要な外交問題であり、政府の関与なしに原子力事業が進むことはありませんでした。
現在、東京電力は実質国営化されていますが、東京電力の廃炉部門と原発部門をそれぞれ分離して、東京電力の原発部門を母体とした、政府出資の原発会社を設立することも選択肢の一つです。
この会社に希望する原子力事業者を統合して大規模化し、低金利の長期資金を政府保証で調達するなどして、将来に備えた原発の新増設を国策として推進することが、現実的な方法であるといえます。
これにより、日本国内での原子力利用を堅持するとともに、中国やロシアなどの「原子力強国」に対抗して、海外の原発事業にも参画し、日本の原子力技術を維持・向上することができます。
◆原発の小型化は「救世主」となるか
なお、別のアプローチとして、現在の主流となった100~150万kW級の大型原発とは別に、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる30万kW以下の小型原発の開発が、米国を中心に英国、中国、韓国、フランス、カナダ等で進められています。商用化は2020年代後半といわれていますが、日本はやや出遅れています。(※6)
SMRは設備の大部分を工場で製作し、5万kW程度のモジュールをトラック等で運んで現場で組み立てるため、工期を短縮し、建設にかかる初期投資を抑えることができます。熱出力が小さいため、外部電源等がなくても自然循環で冷却できることから、受動安全性に優れ、燃料交換をせずに長期間運転できるため、核拡散防止の観点からもメリットがあります。(※7)
SMRは、1モジュールあたりの設備投資額が小さいことから、投資に伴うリスクを限定することができます。
また、負荷追従運転が容易であり、出力が変動する再エネと協調して運転でき、小型のため分散型電源として設置することも可能です。SMRは、「電力システム改革」や再エネの大量導入といった事業環境の変化に適応する、新しい原発といえます。
◆政府の支援で事業環境整備を
幸福実現党は、現在建設中・計画中の原発(軽水炉)に加えて、軽水炉およびSMR等の原発の新増設を訴えています。
しかし、上記のような特長をもつSMRであっても、やはり政府の支援で原子力の事業環境を整備することが、開発の前提となります。
我が党は、政府の強力な支援と制度的措置により、国家の独立と安全保障の基盤である原子力エネルギーを堅持し、原子力の利用を着実に推進します。
◎エネルギー部会では、ご意見・ご質問をお待ちしています。
ご質問のある方は、energypolicy2019.hrpprc@gmail.comまでご連絡ください。ご質問にはできるだけ本欄でお答えします。
参考
※1 「世界の電力事情 日本への教訓 英国編:自由化・制度改革で先行した英国が抱える課題」 丸山真弘 日本工業新聞社・電力中央研究所「月刊Business i. ENECO 地球環境とエネルギー」 2013年12月
https://criepi.denken.or.jp/press/journal/eneco/2013/004.pdf
※2 英国で約20年ぶりに建設される原発で、フランス電力(EDF)と中国広核集団(CGN)の合弁事業。
※3 1MWhあたり92.5ポンド(1kWhあたり13円程度)
※4 「原発輸出ゼロでも再編はない 日立・東芝・三菱の袋小路」 宗敦司 エコノミスト 2019年2月4日
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190212/se1/00m/020/068000c
※5 「日立、原発プロジェクト凍結は大英断なのか」 山田雄大 東洋経済 2019年1月21日 https://toyokeizai.net/articles/-/261236
※6 「原子力イノベーション政策の追求」 資源エネルギー庁 2018年12月5日
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/018_04_00.pdf
※7 「海外で開発が進む小型原子炉の可能性」 阿部真千子 三菱総合研究所 MRIマンスリーレビュー2018年9月号
https://www.mri.co.jp/opinion/mreview/topics/201809-2.html
執筆者:webstaff