日本の製造業復活に向けて—大胆な法人税改革の実施を
HS政経塾第4期卒塾生 西邑拓真
◆日本経済の「牽引車」である製造業
安倍政権は現在、2020年ごろにGDPを600兆円に増やす目標を掲げているものの、いまだ低成長に喘いでいるのが現状です。
安倍政権が発足してまもなく4年が経過しようとしていますが、安倍政権の経済政策は、「アベノミクス」第一の矢である金融緩和策に大きく重点が置かれていますが、本格的な経済成長を実現するには、「いかに実体経済をよくするか」という視点が欠かせません。
ここで、戦後経済を振り返ってみると、日本の戦後復興期、高度経済成長期、その後の安定成長期の中で、産業構造の変化は見られたものの、概して言えば、製造業が日本経済を大きく牽引してきました(吉川・宮川, 2009参照)。
現在でも、製造業はGDPのおよそ2割と、サービス業と並んで最大の割合を占めています。また、それだけでなく、製造業は生産・雇用への波及効果が高い産業であるため、製造業が回復することによって日本経済の復活の道筋をつけることができるようになります。
こうしたことを考えても、今、日本経済の再起を考える上では、製造業の重要性を再認識し、その復活を期すための最大限の努力を行う必要があるでしょう。
◆「六重苦」にあえいできた日本の製造業
では、製造業の再起を図るためには、どのような政策を実施する必要があるのでしょうか。
近年、日本の製造業は、行き過ぎた円高、法人実効税率の高さ、経済連携協定への対応の遅れ、厳しい環境規制、エネルギーコストの上昇、労働規制・人手不足からなる、いわゆる「六重苦」にあえいでいると言われています。
「六重苦」の一つである「超円高」は改善されているものの、他の項目に関しては、まだ課題が残されている状況にあります。
本稿では、製造業復活を喫すべく、特に「法人税」のあり方に焦点を当てて、議論を進めてまいります。
◆法人税減税の効果
法人税減税の効果は、「立地競争力」が向上するところに求めることができます。
立地競争力というのは、企業が拠点などの立地選択を行う際の、国・地域が持つ競争力のことを指します。例えば、ある地域において、事業コストが高かったり、規制が厳格すぎる場合、企業は他の地域に拠点を置く方が事業を行う際に、より大きなメリットを享受することができます。したがって、「その地域の立地競争力は低い」ということになります。
経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、2013年の日本の製造業企業の海外生産比率は22.9%と比較的高い水準が記録されています。企業にとっての事業コストを削減させる法人税減税を実施することで、国の立地競争力が高まり、国内企業がこれ以上に海外流出することを食い止めることができるでしょう。
また、これにより、企業の利益の国内への還流や国内雇用の増大、さらには、国内製造業の知識や情報、ノウハウといった貴重な経営資源が国外へスピルオーバー(流出、波及)することを避けることも期待できます。
一方で、立地競争力の向上で、国外企業による国内投資が喚起されることも指摘できるでしょう。これにより、先ほどとは反対に、国外企業の経営資源が国内へスピルオーバーすることも期待でき、国内外の貴重な経営資源を国に蓄積することも可能となります。
◆国際的な法人税減税競争の機運
今月8日に行われた米国大統領選に勝利したトランプ氏は、来年1月の就任後の100日間で、法人税率を現行の35%から15%へ一気に引き下げるなどして、「経済成長を加速させていき、最強の経済をつくる」としています。
これまで、米国企業は節税策として、法人税率が12.5%に設定されているアイルランドをはじめとした「租税回避地(tax haven)」への投資を活発化させ、そこを拠点としてきました。
今回、トランプ氏は、大胆な減税策を打ち出すことで、海外事業における利益や、米国企業の莫大な(2兆ドルとも言われる)貯蓄額をアメリカに還流させようとしているわけです。
また、EU離脱が決まっている英国においては、2020年までに法人税を現行の20%から17%に引き下げることが決まっていますが、EU離脱が国内経済へ悪影響を及ぼすことが懸念されています。こうした中、今月21日、英国のメイ首相が「法人税をG20で最低水準にする」と述べたことで、法人税の更なる引き下げが行われる可能性が浮上したわけです。
では、日本の法人税はどうでしょうか。日本の法人実効税率は、2014年3月に34.62%でしたが、法人税減税策により2016年度に29.97%に引き下げられ、2018年度には29.74%となる予定となっています。
確かに、安倍政権の中で法人税改革が取り組まれ、税率が「20%台」に引き下げられたことは事実ですが、国の立地競争力確保という観点を踏まえて法人税減税策が打ち出されている各国の動向を見た場合、まだまだ十分な改革が行なわれているわけではないというのが実際のところです。
◆大胆な法人税改革の実施を
日本が立地競争力を高め、企業が日本で事業を行うことのメリットを享受するためには、法人税を10%台へ減税するなど、思い切った減税策が必要です。
法人税改革を進め、「小さな政府・安い税金」国家が実現した時、ものづくり大国・日本が復活し、再度、高度経済成長への軌道が見えてくるのではないでしょうか。
参考文献
吉川洋・宮川修子, 2009, 『産業構造の変化と戦後日本の経済成長』,RIETI Discussion Paper Series 09-J-024.