天皇陛下のお気持ちメッセージから考える日本の精神
兵庫県たつの市地区代表 和田みな
◆天皇陛下のお気持ちメッセージをうけて
2016年8月8日15時、今上天皇陛下は、自らのお気持ちをビデオメッセージという形で国民に示されました。
そのお気持ちの内容が、明治天皇以降、積極的に排除されてきた「生前退位」の御意向を強くにじませるものであったため、各種メディアにおいても大きく取り上げられ、国民の関心を集めています。
これを受けて、政府は今上天皇一代に限り「生前退位」を認める特措法を軸に法整備を急いでおり、今月から有識者会議が開かれる予定です。
しかし、この天皇陛下の「退位」(以降は「譲位」とする)をどう受け止め、どのようにすれば良いのか、保守系の政治家、専門家の間でも意見が割れており、安倍首相は難しい判断を迫られることになりそうです。
◆天皇陛下と祈り
では、陛下の「お気持ちの真意」はどこにあるのでしょうか。
今回のお言葉の中で、私の心を最も深く打ったのは「祈り」という言葉です。
「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ました(中略)天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。」
天皇陛下が最も大切にされてきたお仕事「国民の幸福のために神に祈る」という宗教的な聖務こそが、歴代天皇の祭祀王としての共通したお立場であり、日本の祭政一致の国柄を象徴するものです。
歴代の天皇陛下が最も大切にされていたことは、この「敬神」です。
『禁秘抄』(順徳天直筆)においても、「およそ禁中の作法は、神事を先にし、他事を後にす。」とあるように、世の中が乱れ、皇統が危険にさらされるたびに、「敬神」の原点に戻ってこられたのが歴代天皇のご姿勢でした。
天皇陛下は毎日国民のために祈っておられます。その祈りの繰り返しによって天皇には「ご聖徳」が生まれると考えられており、それなしには国は治まらず、国民の幸福はないとされてきました。
国民を治めるべき天皇が、人間心で国民の生命や財産を左右する大事なことを判断することは傲慢だとのお姿が、歴代天皇には一貫して流れています。
今上陛下が国事行為でもない、公務でもない「その他の行為」に位置づけられる宮中祭祀に熱心なのは、戦後、皇統や日本の国の危機的状況の中、宗教的行為を大切にされ、判断を間違わないようにしようとするご歴代天皇の遺訓に従われたからであると感じます。
◆神仏を敬わない政治
しかし、この日本人が最も大切にしてきた宗教的伝統を次の世代に伝えていくことの難しさに直面しているのが現在の御皇室を取り巻く状況となっています。
平成21年に宮内省は、天皇陛下のご公務、宮中祭祀の「ご負担軽減策」を発表しました。
天皇陛下の体力の衰えを感じられての措置でしたが、ここで対象となったのが、今上陛下が大切にされてきた新嘗祭や旬祭など、宮中祭祀の「簡略化」だったのです。
宗教ジャーナリストの斎藤吉久氏は著書の中で「陛下がご高齢になられたことに便乗して、宮中祭祀を改変したり、簡略化したり、そして、それ以降、それを固定化しようとする「怪しい勢力」が、昭和天皇のころからいたようです。」と指摘しています。(『天皇の祈りはなぜ簡略化されたのか』)
「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなる」と、目に見えないものを信じない政治家や官僚などによって宮中祭祀の「簡略化」が進もうとしています。
それを知っておられる今上陛下が、日本から宗教心がこれ以上失われることに危機感を持たれ、それを阻止しようと必死に抵抗されているお気持ちが「譲位」というメッセージとなったとも考えられます。
◆宗教性を失ったら天皇制は存続できない
戦後、日本は大きく変わりました。特に宗教に対する価値観の変容は想像を絶するものでした。
政治家も官僚も国民も目に見えることしか信じず、目に見えないものへの価値を認めないどころか、科学的ではないことを忌み嫌うようになりました。
祭政一致の国柄も崩れ、天皇の最も重要な祈りという聖務を誰も理解できず、「祈る」ことによって国民の総意を得ることは難しくなったと感じられた今上陛下は、新しい戦後象徴天皇としての在り方を模索し、常に民主主義の「国民の総意」を恐れなくてはならないようになったのではないでしょうか。
国民が宗教心を失い、宗教性を否定すれば、天皇、皇室の基盤は脆弱なものになります。
終戦当時GHQは、天皇を残しましたが、日本国民から宗教心をなくす政策を推し進めました。それによって、戦後民主主義の中で本来の皇室の制度は骨抜きになりかかっています。
◆宗教立国にむけた議論を
大切なのは制度ではなくて、精神です。幸福実現党が守りたいものは、制度としての皇室だけではなく、天皇の宗教的、精神的な部分も含めた国柄です。
それは、今の政治にはない「神秘的なもの」「聖なるもの」を大切にしてきた祭政一致の精神であり、天照大神から繫がる日本国民の「神人合一」の精神の象徴としての天皇陛下のお姿です。
国民は今でも、天皇陛下のお姿の中にしっかりと「目に見えない神秘的なもの」を感じています。
どんな政治家が来ても怒りや不安に震えていた被災地の方々が、天皇陛下のお姿を見ただけで、涙を流し復興へ情熱を取り戻す姿を何度も目にしました。
これこそが、天皇陛下のご聖徳であり、日々の祈りのパワー、宗教的なパワーだと思います。
今回の天皇陛下のお気持ちメッセージをうけて、国民が真の「宗教心」を取り戻すきっかけとなるようにしなければなりません。
日本の国柄である「祭政一致」を見直すきっかけとなるよう本質的な議論をすすめ、日本の政治に精神的主柱を立てるべく、憲法改正にむけた宗教政党の責任を果たしてまいります。
執筆者:和田みな