オバマ大統領“広島訪問”の功罪――忘れてはいけない抑止力の視点
文/HS政経塾5期生 水野善丈
◆揺らぐアメリカの「核の傘」
オバマ大統領は今月27日、伊勢志摩サミットに合わせて広島を訪問することを正式発表しました。
2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱し、ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領にとっては、任期を終える前に国際社会へのアピールの場としたいようです。
もちろん、世界中の大多数の人が「核兵器のない世界」を望んでいます。
しかし、アメリカ大統領が核兵器をなくすゆるぎない決意を述べたところで、世界で核兵器の脅威が現実になくなることはありません。
むしろ、日本にとっては、アメリカの「核の傘」で守られてきた国防が揺らぎ、逆に中国・北朝鮮の核兵器の脅威がより現実的になることも予想されます。
そうした意味でも、現職のアメリカ大統領が初めて広島を訪問することもあり歓迎ムードが広がっていますが、その功罪はしっかりと見極めないといけません。
◆「話し合いで分からない国」も存在する
そもそも、日本を取り巻く国々の中には、「話し合いで分かる国」と「話し合いでは分からない国」が存在します。
例えば、中国は「固有の領土」と主張する南シナ海・南沙諸島で大規模な埋め立てや戦闘機やレーダーなどの配備を続けています。
さらに、付近を飛ぶフィリピン軍機に強力な光を照射して退去を求めるなど、中国の行動は国際法が認める「航行の自由」も揺るがしています。
そのため、フィリピンが中国を国際法違反だとして国連海洋法条約に基づく仲裁手続きに訴えていますが、中国は「受け入れない。審議にも参加しない。」と無視を続けています。
完全に国際法より上として、中国は存在しているのです。
また、北朝鮮は、朝鮮労働党大会で「核兵器保有国」を高々と宣言したように、今後とも、水爆・潜水艦によるミサイルの発射実験や移動式のムスダンの発射実験を続けて世界へ挑発を続けていくでしょう。
◆価値判断を下せない日本の政治家・マスコミ
日本の政治家・マスコミはこうした国々に対しても、価値判断を避け安易な外交に逃げてきました。
しかし、中国や北朝鮮が正しいか・間違っているかは、「とことん究極まで中国・北朝鮮のような国が世界に増えたら人類は幸福になるか、不幸になるか」という視点から判断すると分かります。
そして、間違っているならば「悪を犯させない」ためにも、現実的に対処していく方法を考えていかなければならないでしょう。
◆中国・北朝鮮へ「核を使わせない」努力を
故に、アメリカ大統領がわざわざ広島にきて、安易に「核のない世界」をアピールするよりも、核をもつ独裁国家に対して「核を使わせない」ようにアピールする必要があるのではないでしょうか。
それは、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏も日本へ核抑止力を促しているように、唯一の被爆国である日本だからこそ核抑止力を保持し、独裁国家の核の悪用に歯止めをかけることであります。
第二、第三の広島・長崎をつくらないためにも、中国・北朝鮮の核の脅威から日本・世界を守る抑止力の視点は忘れてはならないと思います。