広島宣言の欺瞞――理想と現実
文/幸福実現党・岡山県本部副代表 たなべ雄治
◆ヒロシマへの歴史的な訪問
広島で主要7カ国(G7)による外相会合が行われ、その中で核兵器なき世界を支持する「広島宣言」が採択されました。
ケリー米国務長官は、原爆を投下した米国の閣僚としては初めて広島平和記念公園を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花しました。「歴史的」との報道がされています。
◆文言の変遷と発言を振り返る
ここで、「広島宣言」の変遷を振り返ってみましょう。
日本は当初、核兵器による惨状について「非人道的」と表現しようとしていました。
ところが核兵器保有国が、国際法の「人道に対する罪」に当たると取られかねないと懸念したため、「非人間的な苦難」という表現に変更されました。
とすると、民間人への原爆の使用は「人道に対する罪」に当たらない、とでも言いたいのでしょうか。
次に、米国関係者の発言にも注目してみましょう。
米国務省高官が「米国務長官が謝罪のため広島に来たのかと尋ねられれば、答えはノーだ」「深い悲しみを覚えるかと言えば、答えはイエスだ」と語ったとCNNが伝えています。
不幸な出来事ではあったが米国が悪いわけではない、と言いたいようです。
ケリー氏はというと、今回の広島訪問について、「過去についてではなく、現在や未来についてのものだ」と岸田外相に対して語っています。
謝罪する気はさらさら無いようです。
◆米国の立場としては当然の姿勢
オバマ米大統領の「核兵器なき世界」の宣伝のために「広島宣言」を利用することはあっても、米国は戦争犯罪を認めないでしょう。
この対応は、現代の外交においては常識的です。
というのも謝罪すると、賠償が発生しかねませんし、若者の愛国心を損なうかも知れません。米国の国益に沿わないからです。
また、仮に謝罪したくてもできない、民主主義特有の事情があります。
それが世論です。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、米国では広島・長崎の原爆投下について、過ちだったと考える人34%に対し、正しかったとする人が56%もいます。
謝罪は、野党共和党を利することになるわけです。
◆事実としての米国の戦争犯罪
とは言え、米国の行為は過ちであり、その主張には嘘があります。
まず何をおいても、非戦闘員を狙って原爆を投下したという戦争犯罪を見過ごすわけにはまいりません。これこそ「人道に対する罪」です。
「早く戦争を終結させるため」という原爆投下の正当化も嘘です。原爆投下以前にすでに日本は戦争継続能力を失っていました。
さらに、終戦後には米軍が被爆者の診察をしていましたが、実際の治療は一切行わずに実験体として観察していたという説もあります。
このような欺瞞が、正当な人類の歴史として認められて後世に伝わることを、黙って見過ごすわけにはまいりません。
「何を正義とするか」という価値観の積み上げこそ、人類の未来を築いていく基礎になるからです。
◆一方、現実を見ると
とは言え、日本の最大の同盟国は米国です。米国との協力なくして、中国の軍拡と侵略には対抗できません。
ですから、一方的に米国を断罪して日米関係を悪化させることは良策とは言えません。
さらに北朝鮮は、核実験とミサイル実験に成功しました。
日本に核ミサイルが飛んでくるかどうか、これが北朝鮮の若き独裁者、金正恩に委ねられているという悲しすぎる現実があります。
皆様は、金正恩という人物の理性を信用できますか。私にはできません。
金正恩に核攻撃を思いとどまらせる唯一の方法は、「やられたらやり返される」と判断させることです。
◆どうする日本!?
「核兵器なき世界」をめざすオバマ大統領には強く共感します。
しかしそれでも今の日本は、被爆国でありながら核武装の議論を迫られる国際情勢の中にあります。
したがって、理想と現実を整理する必要がありましょう。
まずは足元、短期的には現実的な政策を進めなければなりません。
中国・北朝鮮を抑止するには、日米同盟を堅持しながら、集団的自衛権の運用と、核武装まで視野に入れた国防の見直しが必要です。
併せて、理想に向けての長期的なプランと行動が求められます。それは、未来に残すべき価値の探求と具現化です。
上述、米国における原爆投下の是非に関する世論調査を紹介しましたが、30歳未満の若年層に限れば、逆転して原爆投下を否定する意見が上回っています。
日本の発信によっては、いずれ米国の理解が得られるのではないでしょうか。
歴史に対する適切な評価は、後世への遺産となり得るものです。
この仕事も幸福実現党の責任として担ってまいります。