原発停止は、日本に危機を及ぼす―経済成長とエネルギー安全保障を支える政策を!
文/幸福実現党・宮城県本部副代表 HS政経塾5期生 油井哲史(ゆい てつし)
◆高浜原発運転差し止めの仮処分を大津地裁が決定
大津地裁は9日、滋賀県の住民29人が福井県の関西電力高浜原子力発電所3、4号機の運転差し止めを求めた仮処分申請で、差し止めを命じる決定を出しました。
関西電力は大津地裁の決定を受けて、原発の運転を停止。運転差し止めの理由として、重大事故や津波の対策、事故時の避難計画の策定などについて、「関電側が主張や説明を尽くしていない」ということをあげています。
関西電力は14日、「当社の主張や立証を客観的に検討して判断したとは考えられない不当な決定だ。極めて遺憾であり、到底承服できない」として、大津地裁に異議を申し立てました。
◆現場では不満と戸惑い、国民は半数以上が「支持しない」
大津地裁の判断を受けて、現地の行政や経済界からは不満と戸惑いの声が上がっています。
福井県の西川知事は、「(原発が)何度も止まったり動いたりする状況を繰り返すのは遺憾」とし、高浜原発のある高浜町の野瀬町長は「地裁ごとに判断がばらつき、立地自治体として翻弄されるというか、もてあそばれているような状況にある。」と不満を表明しました。
関西経済連合会の角副会長は「なぜ一地裁の裁判長によって国のエネルギー政策に支障を及ぼすことが起こるのか。可及的速やかに法律改正せねばならない」と持論を述べました。
なお、日本経済新聞社のWEB調査(クイックVote)によると、原発を止めた大津地裁の決定を「支持しない」が60%を占めています。
原発止めた地裁決定「支持しない」60% (3/17日経 電子版)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO98497020W6A310C1000000/
◆原発停止は日本に危機を及ぼす選択
これまで高度な専門性が求められる原発の安全性の判断は、「行政側の合理的な判断に委ねられる」とし、司法は抑制的であるべきだとする判例が踏襲されてきましたが、それを逸脱しています。
さらに、今回の決定は大局的に見て日本に危機を及ぼす選択です。
◆エネルギー安全保障は外交の重要な課題
日本のエネルギー自給率はわずか6%です。国際問題などの外的環境の変化や経済的なコスト面、供給の安定性から考えて原発再稼働は現実的な選択です。
【参考】平成25年度エネルギー⽩書概要(平成26年6月『資源エネルギー庁』)
「我が国の一次エネルギー自給率は、震災前(2010年:19.9%)に比べて大幅に低下し、2012年時点で6.0%。これは、OECD34か国中、2番目に艇い水準」
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014gaiyou/whitepaper2014pdf_h25_nenji.pdf
日本の発電の大部分は火力発電ですが、原料となる原油は8割以上が政情不安定な中東からの輸入です。そのため、今後の国際情勢の悪化で、原油価格の高騰や原油の供給が滞る恐れがあります。
また、日本への原油輸送ルートは中国の軍事基地建設で揉める南シナ海を通るため、もしその海上輸送ルート(シーレーン)が封鎖されれば、供給路が断たれ、原料が入ってこなくなるというリスクを抱えます。
資源、エネルギーなど海外依存度の高い日本にとって、海上交通路の安全確保は安全保障上の重要な要です。
エネルギー供給の危機に瀕した例としては、1970年代のオイルショックがあります。中東情勢の悪化によって、原油価格が高騰し、経済的混乱が起こり、トイレットペーパーや洗剤などの買い占め騒動がありました。
このままでは、同じような混乱が起こる恐れがあります。オイルショックの反省から海外からの石油燃料に対する依存度を低減するために、自国でエネルギーを安定的にまかなえる原子力が国家のエネルギー戦略として推進されてきた経緯があります。
◆原発停止による日本経済への破壊力
原発停止に伴う日本経済への打撃も問題です。
火力発電にまかなう燃料費の増加は、2014年度で約3.4兆円。1日あたり90億円以上の国富が海外に流出しています。そして電力料金は、家庭用が約25%、産業用が約40%上昇しています。
【参考】エネルギーコストの状況 『資源エネルギー庁』
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-3-1.html
関西電力は、高浜原発3、4号機が再稼働すれば、電気料金の値下げを表明していましたが、運転差し止め命令を受け、値下げを見送ることを明らかにしました。
関西経済連合会の大竹副会長は、「各企業の節電施策はほぼ出尽くしたところで期待していた値下げ長くなり、企業が持ちこたえるには苦しい局面だ」と現状を述べました。
◆求めるのはゼロリスクではなく、合理的な着地点
さらに問題なのは、原発にゼロリスクを求める姿勢がみられるということです。
原発事故を受け、その反省や国内外からの指摘を踏まえて世界最高水準の安全レベルを目指した新規制基準を定めましたが、大津地裁の判決は、規制委員会の策定手法に対して「非常に不安を覚える」と独自の見解を示しました。
絶対的な安全を求めて原発の再稼働を許さないのであれば、墜落する可能性がある飛行機は飛んではならず、事故を起こす可能性のある自動車を運転してはならないということになります。
最高水準の安全を求めながらも、どこに合理的な着地点を求めるかという姿勢が必要です。
安価で安定的な電力供給を確保し、日本の経済成長とエネルギー安全保障を支える政策という立脚点に立って、この国の未来をしっかりと見据えた判断を求めるものです。