もんじゅ見直し勧告、資源小国日本としての受け止め方
文/HS政経塾 第5期生 表 なつこ
◆原子力規制委による、「もんじゅ」見直し勧告
11月13日、原子力規制委員会は、福井県にある高速増殖炉「もんじゅ」について、今の日本原子力研究開発機構に代わる運営主体を探すように、文部科学大臣に対して異例の勧告をしました。
回答期限は半年後です。文科省は新たな運営主体を検討するとしていますが、見つからなければもんじゅは廃炉を含めて抜本的な見直しを迫られることになります。
もんじゅは研究段階ですが、日本のエネルギー問題の救世主になりえる存在なので、この問題についてはよく考える必要があります。
◆「高速増殖炉もんじゅ」についておさらい
もんじゅは、使用済み核燃料を再利用しながら増やし続ける「核燃料サイクル」の中核を担う研究開発施設です。
原子力発電の燃料はウランですが、じつはウランのうち発電に使えるのは0.7%だけで、99.3%は燃えなくて発電には使えません。
しかし、この99.7%のウランに中性子を一つ加えると燃えるプルトニウムに変わり、発電に使えるようになるのです。
この技術によってウランを今より60~70倍も有効に利用できるので、日本は数世紀にもわたって使えるエネルギーを確保できることになります。
もんじゅはこの技術を実用化するために研究しています。
「国家の血液」と言われるエネルギーの96%を海外からの輸入に頼っている日本にとって、自国の生命を他国に預けずに済むようになる、まさに「夢の技術」です。
しかしもんじゅは95年12月にナトリウム漏れ事故を起こし、核燃料の安全性自体には問題がなかったもののその情報を隠ぺいしたことが批判され、運転を中断。
組織の改革を経て2010年に運転を再開しましたが、装置の落下事故があり、おととし原子力規制委員会が試験運転を禁止する命令を出しました。
その後も多数の点検漏れが見つかるなど安全管理上の問題がある、というのが規制委の主張です。
◆もんじゅが廃炉になると何が問題なのか?
今回の件で、もんじゅが廃炉になった場合の問題点を2つ挙げてみます。
(1)核廃棄物処理への高い可能性を放棄することになる
昨年政府は、もんじゅを高レベル放射性廃棄物を減らすことに主眼を置いた減容炉と位置づけ、「高速炉」の研究をすることにしていました。
もんじゅは原子力エネルギーで問題とされる廃棄物を減らしてくれる可能性があるのです。地層処理の研究は進んでいますが、さらに処理問題を前進させたいなら、この技術の開発にこそ注力すべきだと考えます。
安易なもんじゅの廃炉は、見えている廃棄物処理の可能性を一つ潰すことになります。
(2)平和主義国家としての地位が揺らぐことになる
日本は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理ができる、唯一の非核兵器保有国です。
日本はすでに約50トンものプルトニウムを保有しており、高速増殖炉という核燃料サイクルがなくなれば、国際社会から核兵器への転用を疑われかねません。
また逆に、使用済み核燃料の再利用がないのなら、日米原子力協定でのアメリカとのつながりに陰りが差し、日本の安全が揺らぐ可能性があります。
◆もんじゅ運転は日本人全員に必要
原子力エネルギーは、経済、政治、外交、軍事と多岐にわたる問題です。とくに日本にとっては、最初に指摘した通り、現時点で「国家の血液」を自分で生み出せる唯一のエネルギーです。
民間企業に高速増殖炉の運転経験はなく、求められる技術レベルの高さを考えると、日本原子力機構以外に運営を担える主体はいないのではないでしょうか。
原子力機構の児玉理事長は「非常に幅の広い仕事をしており人材が豊富。しかしシナジー(相乗効果)がない。情報とか設備のシナジーをもっとやれば、1+1が2以上になる。ただ実行が追い付いていない」と発言しています(2015.10.22産経ニュース)。
誇り高く、自立した国として核の平和利用を主導していける国になるために、もんじゅ運営の問題解決について、官民両方の視点から日本全体で考えていく必要があるでしょう。
≪参考文献≫
The Liberty Web「もんじゅ」の見直し勧告はなぜ理不尽なのか?
http://the-liberty.com/article.php?item_id=10449
産経ニュース 2015.09.11「日米原子力協定 継続は安倍首相の課題だ」
http://www.sankei.com/politics/news/150911/plt1509110005-n1.html
産経ニュース 2015. 10.22「『もんじゅ』でまたも不祥事 「極めて異常」と規制委は怒り心頭 ついに廃炉カードもちらつかせ…」
http://www.sankei.com/premium/news/151022/prm1510220004-n4.html