固定資産税制を考える【その3】
文:HS政経塾第2期卒塾生 曽我周作
◆負担の増加した固定資産税
現在の地価公示価格平均は、ほぼ1985年時点の水準と同等です。消費者物価でみると、現在は1985年当時よりも約1割上昇しているため、地価がいかに下落したかがわかります。
ただ、一方固定資産税の税収は1985年(昭和60年)では4.2兆円で、2011年(平成23年)では約8.9兆円になっており倍以上に増えています。
このような地価の下落が目立つ中、固定資産税の税収は2倍以上に上昇するという現象が起きたのは、負担率が上昇したからにほかなりません。
◆資産デフレに拍車をかけた自治事務次官通達
1990年代前半は、バブル潰しから、さらに資産デフレを悪化させる政策をとり続けた時代でした。
1992年(平成4年)1月22日付で「固定資産評価基準の取扱についての依命通達の一部改正」(自治事務次官通達)が各都道府県知事あてに出されました。
そこで「地価公示価格、都道府県地価調査価格および鑑定評価額を活用することとし、「これらの価格の一定割合(当分のあいだこの割合を7割程度とする)を目途とすること」と明示」されました。
自治大臣書簡【1992年平成4年)11月17日付】では「今回の固定資産税の見直しは、土地評価の均衡化・適正化をはかることが目的であり増税を目的とするものではない」とし、地方団体に対しても「固定資産税の評価替えと税負担」というパンフレットを送付し「平成6年の評価替えは、基本的に評価の均衡化・適正化を図ることが目的であり、これによって増税を図ろうとするものでありません」としていますが、結果的は大増税となりました。
この1994年(平成6年)の評価替えでは「これによる指定市の基準地価格の調整結果は、47指定市の基準値の平均上昇は3.02倍、全国加重平均で3.96倍」になり、「三大都市圏平均で3.272倍、地方圏平均で2.96倍と大都市圏の上昇割合が大きなものとなり、特に東京都の上昇割合は、4.65倍」(『都市と課税』p261)となりました。
1994年(平成6年)ということは、既に地価はみるみる減少し、資産価値の崩壊が起きている中で、結果として大増税を「事務次官通達」で決定してしまいました。
◆立法を経ない増税は憲法違反では?
このような通達で課税標準を変更し、結果的に大幅な増税をすることになったのは、「憲法84条の定める租税法律主義に違反している可能性がある」と学説でも指摘されているところです。
(参考)
日本国憲法 第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
結局、その後2005年(平成17年)まで地価は下落しつづけました。
大蔵省の通達といい、この自治省の通達といい、国民から選ばれた国会議員による立法を経ることなく重要な国の行方を左右し、結果的に長い大きな不況をつくりだしてしまいました。
このような、一方的で法律の手続きすらも経ない「通達」によって国民負担を増加させ、経済に悪影響を及ぼすようなことをするのは厳に慎むべきであり、本来ならば厳しく責任を問われなければならないのではないでしょうか。
さらに、1994年(平成6年)に通達が出される以前から地価は大幅な下落を示しており、資産価値下落に苦しむ人も多く、景気も明らかに不景気の状態にあり、建設需要も大きく下落する中で税収だけを大幅に引き上げる、実施的な大増税を行ったことは明らかな間違いであったといえるでしょう。
そもそも地価がほぼ同等であった1985年(昭和60年)に比べて固定資産税の税収が倍以上になっている事自体が異常であるといえるのではないでしょうか。
やはり、税金については立法を経て課税の基準が明示され、その課税に変化が生じる場合も立法行為を経たうえで行われるべきであると思います。
このように立法を経ずに行われた増税については、もう一度見直しをかけ、しかるべき手続きを経る必要があると思います。
そして、投資を妨げる税金のあり方を変え、投資をしやすい土地税制を目指していくべきだと思います。
次回は「固定資産税制を考える」の最後として、いかにこの税制を変えていくべきかを考えてみたいと思います。