インテリジェンス機能強化へ――真のリーダー国家としての条件
文/HS政経塾5期生 水野善丈
◆米国、日本を盗聴
内部告発サイト「ウィキリークス」は31日、米国家安全保障局(NSA)が2006年から日本政府や企業35か所を対象に盗聴を行っていたことを明らかにしました。
これに対して一部の政府高官は「情報の世界では、首相や閣僚は盗聴されていることが当然だと思って対応するのが普通だ」(産経)と述べていますが、今後、防止策はしっかりと考えなければならないでしょう。
日本では、2014年に「秘密保護法」、今月には産業スパイの防止のため「改正不正競争防止法」が可決され、国内からの情報流出を避ける改革を進めている矢先に発覚しました。
◆世界の情報機関
2013年にも米政府が独メルケル首相を盗聴していたことで話題となりましたが、国際社会においては外交の前段階として、諜報活動や情報収集は国家をあげて取り組まれています。
またその取り組みは、単に情報を集めるだけでなく、情報機関によって分析や評価の加えられた生きた情報、つまり、「インテリジェンス」を吸い上げ国家戦略に生かされています。
こうした「インテリジェンス」を担った情報機関は世界各国に存在しています。
アメリカでは、国家情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)などの15機関があり、イギリスでは、保安局(MI5)、秘密情報部(SIS)などが存在し、フランス、ドイツ、ロシア、イスラエルなど各国もこうした情報機関を持っています。
◆日本における情報機関の現状
日本には、内閣情報調査室を中心に、警察庁、外務省、防衛省、公安調査庁、海上保安庁など様々情報機関は存在し、内閣情報会議や合同情報会議など取りまとめる委員会もあります。
しかし、そうした情報機関や委員会があるにも関わらず機能しきれていないのが現状です。
例えば、各情報組織において所掌や予算、定員や影響力などをめぐって競合しており、相互の積極的な情報共有はなく、情報を集約し官邸に伝達する体制が非常に弱くなっています。
また、各組織も人的情報(ヒューミント)手段がほとんど無く、対外情報収集に弱いという弱点もあり、情報機関の力が発揮できていません。
◆情報力の無さが露呈した事件
この日本政府の情報収集力、分析能力に致命的欠陥があることが露呈したのが、2013年発生したアルジェリア人質事件でした。
当時は現地から政府へ情報は全く入らず、イギリスやアルジェリア政府や海外メディアが流す情報でしか判断することができず、外務省をはじめ各省庁には一次情報を収集する手段すらありませんでした。
また、2014年に起きたISISによる日本人拘束事件も同様な状況で、政府は全力で救出のために努力しましたが、独自で現地の情報を得られず現地に繋がりを持たない日本は外務副大臣を急遽送り対応するしかできない状況でした。
こうした中で、安全保障関連法案が可決の見込みが出て、邦人救出への自衛隊の法整備は改善されつつありますが、まだ諸外国における情報収取力、分析能力に欠けた状況では安全保障上も万全とは言えません。
◆インテリジェンスに強い国家こそ真のリーダー国家となれる
以上のように、めまぐるしく変化する国際情勢の中で、主権国家としてインテリジェンス機能を保持することは必須です。
そして、在外邦人救出を念頭においても情報収集の機能強化を考えなければいけませんし、今後、日本がリーダー国家として主体性を持ち国家戦略を立てていく上でもインテリジェンスを強化する体制は検討されなければなりません。
また、現実に検討される際には、政府の情報機関を国会や世論がいかに監視しコントロールするかということも極めて大切なキーワードとなっていると思われます。
なぜなら、世界の情報機関では、政府とは別の知らないところで活動し諸外国と軋轢を生じさせ、国家戦略に反する事例もあるためです。
民主主義の政治体制をアイデンティティとする日本は、世界のインテリジェンスを見ながらも日本独自のインテリジェンスを構築してこそ、世界を正しい方向へ導いていける真のリーダー国家へとなれるのだと思います。