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クリミア危機の行動から紐解くロシアに対する適切な「視点」

文/HS政経塾4期生 西邑拓真

◆ロシアの行動原理を知る必要性

クリミア危機における、ロシアの一連の動きについて、以前、アメリカのヒラリー・クリントン前国務長官は、「ロシアの今の行動が当時のナチスの行動と似ている」として、プーチン大統領を「ヒトラーのようだ」と指摘しました。

確かに、ロシアによるクリミア編入は、ウクライナ国内のロシア系住民の保護を理由としており、ナチスがゲルマン民族の保護を理由に周辺国に介入していった動きと軌を一にしていると見えなくもありません。

一方で、クリミア編入やウクライナ東部でのロシアの動きは、ウクライナにおいて、ヤヌコービッチ政権に対する反政府デモが生じる前は確認されていたわけではないことからも、単にそれらを「侵略的行動」と必ずしも断定できないと言うこともできます。

また、バランス・オブ・パワーの観点から見て、特に、昨今の中国の軍事的拡大は、日露両国にとって大きな脅威になっているのは周知の通りです。そこで、望ましい日露関係の構築を進めていくためにも、今一度ロシアの行動原理というものを明らかにしていく必要があると思われます。

◆「リアリズム」とは何か

ミアシャイマー(2014)は、「ウクライナ危機は、国際政治では依然としてリアリズムが重要であり、それを無視すれば大きなリスクに直面することを物語っている」と指摘しています。

リアリズムにおける、国の最終目標は「自国の生き残り」です。世界は「無政府状態」の中にありますが、諸国家はこの最終目標を達するために、与えられた情報を駆使して、バランス・オブ・パワーを調整し、それを自分たちに有利な方向へ変化させていきます。これがリアリズムの立場です。

◆地政学上のウクライナの位置づけ

ところで、地政学上、ロシアにとってウクライナは、どのような位置づけにあたるのでしょうか。

1812年のナポレオンのフランスによるロシア遠征、1916年のドイツ帝国などからなる中央同盟諸国軍によるロシア帝国へのブルシーロフ攻勢、1941年のナチス・ドイツによるバルバロッサ作戦など、西欧諸国によるロシアへの攻撃の際、ウクライナは「横切る必要のある国家」として捉えられています。

これらの事柄からも、ウクライナは、ロシアにとって重要な緩衝国家に相当すると述べることができるわけです。

1990年以降、NATOは東方へ拡大し、NATO加盟の布石と位置付けられるEUも拡大を続けています。また、ウクライナに欧米の価値観を浸透させ、同国をロシアから引き離すための民主化促進に対し、欧米が資金援助している実態も指摘されています。

こうした背景の中で、2013年、ヤヌコービッチ前大統領がEUとの間で連合協定の締結を行わないことを機に、ウクライナで反政府デモが生じます。そして、同氏のロシアへの亡命を経て、ロシアはクリミア編入を行うことになったわけです。

ロシアのウクライナ情勢での一連の動きに対し、それらを「侵略的」と捉える向きもある一方、別の観点として、ロシアは、同国にとって重要な緩衝国が欧米から侵害を受けたことに対する、リアクションをとったのにすぎないという見方もできることがわかります。

それに従うと、ロシアの行動は、あくまでもリアリズムに則っている一方、欧米は「民主化」を盾にした外交行動をとる中でリアリズムを軽視し、ロシアの立場を十分に解していなかったと述べることができます(ミアシャイマー,2014 参照)。

◆北方領土問題解決の鍵は、日露間でのwin-win関係の構築

さて、リアリズム論における「パワー」に相当するのが「軍事力」であり、それを担保するのが、人口および経済力からなる「軍事的潜在力」です。

1969年の中ソ国境紛争を機に、中露関係はこじれた状況にありましたが、現在の両国間は「戦略的パートナーシップ」として「長期的で、些細なことでは争わない二国関係」にあるとされています。石郷岡(2013)はこのような状況を、「表面上は笑顔を見せ、しっかりと握手をしながら、裏では、厳しい対立と駆け引きを繰り広げている」関係にあると表現しています。

その中で、双方にとってメリットが享受されることを念頭に、2004年に中露国境協定が結ばれました。これで、1994年の画定分と合わせると、全ての国境が画定したことになり、両国間の懸念事項となっていた国境問題が解決に到りました。

しかし、一方で、軍事的にも経済的にも拡張・拡大を続ける隣国・中国のパワーは大きな脅威として、ロシアに映っているのは間違いありません。

そのため、ロシアは、「バランシング(他国と同盟関係を結んだり、自国の防衛費を向上することによりバランスを保持する戦略)」を行い、自国のバランス・オブ・パワーを維持するために、日本との緊密な関係を築いていきたいという願望を持っていると考えられます。

日露間での懸念事項として「北方領土問題」がありますが、中露国境策定に見られたwin-win関係の構築の原則が、その解決のカギになると考えられます。そして、それがバランス・オブ・パワーの観点からの、日露間の望ましい協力関係の形成につながると期待できるわけです。

日本は、長期的視座から国益を追求していくことを前提とした上で、ロシアの持つ「ニーズ」とは何かを考え、それをロシアに対する外交戦略に落とし込み、プーチン大統領に「柔道技」として仕掛けていく必要があります。その「ニーズ」を探る視点こそ、「リアリズム」から求めることができるのではないでしょうか。

参考文献
石郷岡建著『ウラジミール・プーチン-現実主義者の対中・対日戦略』(2013年, 東洋書店)
奥山真司著『地政学-アメリカの世界戦略地図,』(2004年, 五月書房)
ジョン・ミアシャイマー著『大国政治の悲劇』(2008年, 五木書房)
ジョン・ミアシャイマー著『悪いのはロシアではなく欧米だ』(2014年, Foreign Affairs Report 2014 NO.9所蔵)

西邑拓真

執筆者:西邑拓真

政調会成長戦略部会

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