ロボットは人間の可能性を広げる!
文/HS政経塾 4期生 数森圭吾
◆ロボットの「定義」と「3D」
国が定める「ロボットの定義」というものが存在するのをご存じでしょうか。経済産業省の定義によると、(1)センサー、(2)知能・制御系、(3)駆動系という3つの要素を持つ機械システムのこととされています。
また「ロボットの3D」という言葉もあります。これはロボットの活躍が期待される分野のことで、3Dとは(1)Dangerous(危険)、(2)Dirty(汚い)、(3)Dull(退屈)という3つの単語の頭文字をとったものです。つまり人間にとって負担の大きい仕事をロボットに担ってもらおうということです。
今後、このロボット市場が急激に拡大していくと予想されています。
◆ロボット市場の今後と中国の台頭
経済産業省の発表では、日本のロボット産業の市場規模は現在は約1.5兆円だが、2035年には9.7兆円にまで拡大するとしています。
ロボットといえば、自動車の組み立てなどに使用される産業用ロボット市場が世界最大の市場であり、ここにおいて日本は世界トップレベルのシェアを誇っています。
しかし同市場では近年、競争激化が進行しています。2008年から昨年までで日本企業の産業ロボット扱い量は約25%縮小(台数ベース)で、これに対し中国市場は同期間で約4 倍も拡大し、日本に迫る勢いをみせています。
産業用ロボットの中国市場は、年平均 約40%増で成長し、直近10年間では32倍にも拡大しています。技術大国日本はこの厳しい市場競争をリードする存在とならなければなりません。
ロボット産業の市場拡大が進む背景には、将来の労働力不足への懸念があります。少子高齢化が国際的に問題となっているため、各国は人間に代わる労働力を確保するための取り組みを開始しているのです。市場拡大に伴い、ロボット技術も急速な発展を遂げています。
◆人とともに働く最先端ロボット
近年、ロボット市場は産業用以外にも新たな可能性を見出し始めています。
埼玉医科大学国際医療センターではパナソニック製の「HOSPi」という人型ロボットが活躍しています。このロボットは腹部が開閉式になっており、その中に検査用血液などを入れると、自動的に指定した部屋まで運んでいってくれるのです。
HOSPiは搭載カメラのセンサーで人をよけ、さらには人のいない場所ではスピードを上げて進むなどの機能を備えており、現場で大活躍しています。
またその風貌から、患者さんに「癒し」も提供しているそうです。ロボットを導入した埼玉医科大学国際医療センターの狙いは、単純作業のマンパワーを削減し、その分のサービス向上を目指すというものです。
また、ある歯科病院の実習室では人間とそっくりな「歯科患者ロボット」を導入しています。このロボットは外見だけでなく、治療中の反応、舌の動きも人間そっくりにつくられており、医師免許取得前の実習に使用されています。
歯科医は医師免許取得後に初めて人間への治療を行うため、新人医師による医療事故が多いのですが、この「歯科患者ロボット」によって実際の治療に非常に近い状況で実習を行うことが可能になっています。
さらに最近では、自閉症児教育むけの人型ロボットが登場したという報道もあったように(7/2産経新聞)、ロボットの可能性は様々な広がりを見せようとしています。
◆人間の仕事がなくなる!?
先で述べた通りロボット市場の拡大は将来の労働力不足への対策が一因となっているが、一方で、「ロボットの進化と普及が人間の仕事が奪う」という意見もある。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏の「ロボットによって人は職を奪われる」という趣旨の発言も最近話題となりました。
しかし、人間がより便利な社会を望む限り、ロボットは進化を遂げ、社会に普及し続けるでしょう。「人間の仕事がなくなるから、ロボットの開発は禁止にしましょう」というようなことにはならないでしょう。
ここで重要なのは、「人の仕事が奪われる」ことを心配するのではなく、「ロボットの普及によって得られる労働力と時間をいかに活用するか」ということではないでしょうか。新産業の研究・育成や各分野のサービス向上など、まだまだ人が必要な分野は数多くあります。
ロボットの進化と市場の拡大は、ある意味において人間の新たな可能性を引き出すことに繋がるのではないでしょうか。政府も国家政策としてより積極的にロボット産業振興に取り組む必要があるでしょう。