「海洋大国・日本」―新たな国家ビジョンと安全保障【連載第9回】
文/幸福実現党総務会長兼出版局長 矢内筆勝
《海洋開発と「太平洋自由連合」構想》
前回は、国防の面で、中国のミサイルから日本を守るためには、具体的にどのような「抑止力」が必要か論じましたが、今回は外交の側面から「海洋開発」を見据えた「太平洋自由連合」構想について紹介します。
◆海洋開発と「太平洋自由連合」構想
まずは、日本は早急に日本の領海、排他的経済水域内の資源とエネルギーの調査・開発を、国家プロジェクトとして、総力を挙げて推進することです。
日本はこれらの海底に眠るエネルギー・資源を世界に先駆けて開発し、新産業としての海洋資源産業を立ち上げ、「資源大国日本」へと変貌を遂げなければなりません。
日本は海洋資源調査船や地球深部探査船、海中ロボットなどにおいては、世界屈指の高い技術力も有しているものの、これまで資源を海外から輸入に依存していたために海洋資源開発技術において、欧米に大きく水をあけられています。
そこで今回は、技術開発や安全保障強化の観点から、日本の領海、排他的経済水域内と太平洋での、日本とアメリカを中心とした環太平洋諸国との共同開発プロジェクトを提案します。
日本単独の開発だけでなく、広く日本の海洋権益が及ぶ海域での海洋開発に、アメリカやオーストラリア、ASEAN諸国の外国企業に事業への参加と投資を呼び掛け、「自由主義先進国との共同プロジェクト」とすることです。
◆南満州鉄道の教訓
かつて日露戦争直後に、満州の権益をめぐって、アメリカの鉄道王ハリマンが、日本に南満州鉄道の日米共同経営を提案してきました。
一旦は、首相・桂太郎、元老・井上馨、同じく伊藤博文、財界の渋沢栄一らが協同経営の予備協定まで結びましたが、当時の外相・小村寿太郎が猛烈に反対し、同協定は破棄されました。
これが、アメリカの怒りを買って、日米の亀裂を生み、その後の排日運動や日英同盟の破棄、日米戦争へとつながっていったのです。
上智大学名誉教授の渡部昇一氏は、このハリマン事件について、「もし、『ハリマン構想』がそのまま実現していたら、その後の日本の運命は大きく変わっていたであろう」と述べています。 (『まさしく歴史は繰りかえす―今こそ「歴史の鉄則」に学ぶとき』 渡部昇一著 クレスト社)
日露戦争でロシアに勝ったとはいえ、中国大陸からロシアの勢力が消えたわけではなく、ロシア軍はなお北満州に展開し、南下の機会を狙っていました。
この状況的をみても、日本一国で南満州鉄道を維持するのは、軍事的にも財政的にも大きな負担がかかります。もし、ロシアが南満州を狙って南下しようとすれば、アメリカはロシアに圧力をかけるでしょう。つまり日米合弁で鉄道経営をすることは日本の「安全保障」にもつながるのです。
アメリカにとっても『ハリマン構想』は意義あるものでした。なぜなら当時、シナ大陸に進出していたのはイギリス、フランス、ドイツ、日本といった国々であり、アメリカは大陸に利権を有していなかったからです。
『ハリマン構想』を日本が受け入れた場合、賛成外交面からみても、アメリカは日本との友好関係を重視せざるを得ません。
◆環太平洋自由主義諸国との「防衛と繁栄のための共栄圏」構想
当時の「満州」を「南シナ海、東シナ海、西太平洋」に、当時の「ロシア」を「中国」に置き換えれば、状況は現代も同じです。
中国の狙う「資源の宝庫」を、可能な限り、日米とアジア諸国が共同参加する開発プロジェクトにすることで、一帯を、アメリカを引き込んだアジアと環太平洋自由主義諸国との「防衛と繁栄のための共栄圏」とすることが可能となります。
次回最終回では、これまで論じてきたことを踏まえて「日本よ、誇りを取り戻し、新文明創造の気概を持て!」と題してお送りします。