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価値観外交を考える――民主主義と核不拡散条約

文/HS政経塾 三期生 田部雄治

◆中国の脅威

現在、アジアにおいて最も大きな不安定要因の一つは、間違いなく中国の軍事的な拡張でしょう。

急激な軍拡を進め、南シナ海の島々の実効支配を進めています。尖閣諸島の領有権を主張し、防空識別圏を設定し、南シナ海の漁業を一方的に制限するなど、日本をはじめ、フィリピンやベトナムなどに脅威を与えています。

先日フィリピンのアキノ大統領は、中国をナチスになぞらえて批判をしました。

またアメリカも、防空識別圏の設定や尖閣諸島の領有権主張に対し、国際ルールを順守するよう、中国を非難する声明を出しております。

南シナ海は、日本の原油の90%が通過する重要なシーレーンであり、中国に支配されることは日本にとって致命的です。

◆日印外交

日本とインドは、民主主義国家であり、歴史的にも大変友好的な関係にあります。

またインドは、インド洋にも進出を図る中国に対しとても脅威を感じており、中国の侵略を食い止めたいという点でも利害が一致します。

先月26日から、安倍首相は訪印してインドのシン首相と首脳会談を行いましたが、日本とインドで、様々な協力関係の構築について話し合われ、大きな成果が得られました。

ところが一点、インドの抑止力としての核実験を認めるかどうかで、折り合いが付きませんでした。

◆インドの安全保障

1962年、インドは中国から一方的に侵略を受けました。この通常兵器による戦争において、インドは大敗北を喫しました。

しかもその2年後に中国は原爆実験を成功させ、さらに3年後には水爆実験も成功させました。

以上のような背景から、インドが核武装をせざるを得ないと判断したのも無理もないことでしょう。

核実験の実施後、インドは一時経済制裁も受けましたが、核実験を自主制限し核拡散も行わないという宣言をして、国際社会に復帰しました。

インドの核実験は自主規制であり、中国に対して一定の核抑止力が認められた形となりました。アメリカもこの前提で、米印原子力協力協定を結んでいます。

ところが上記の日印首脳会談では、日本がインドの核実験を認めなかったために、日印原子力協力協定は結べませんでした。

慢性的な電力不足に悩むインドに、原発の輸出が出来ないということを意味します。インド経済にとってはマイナスです。

◆核不拡散条約(NPT)の矛盾

インドの経済の発展は、インドの軍事力を支えます。インドの軍事力は、インド洋の安定のための大きな要因であり、インドと日本のシーレーンにとっても重要です。

核不拡散条約によって、世界最大の民主主義国家であるインドが損をして、世界最大の専制国家である中国が得をすることになります。

核不拡散条約を厳格に守ることが自由と民主主義を危機に陥れる、という矛盾が発生しているのです。

◆核不拡散条約を疑え

核不拡散条約は、核兵器が広がることを防ぐことに一定の役割は果たしてきました。しかしここにきて、限界が現れてきました。

そもそも核不拡散条約は、大変不平等な条約です。1967年1月1日までに核兵器を保有した米・露・英・仏・中の5か国にのみに核兵器保有と核実験の権利を認め、その他の国には認めないという条約なのです。

このうち米・露・英・仏の4か国は核実験の自主制限をしていますが、中国はしていません。また、中国がインドに隣接するパキスタンに核技術を供与したことは、公然の事実と言って良いでしょう。

核不拡散条約は、核兵器を作り続ける中国を止めることが出来ません。しかもその中国によって危機にさらされている民主主義国家・インドの安全保障にとって障害となっているのです。

国際ルールを守らず、自国の都合で好き放題する専制国家・中国をのさばらせるだけの核不拡散条約であるならば、改めなければなりません。

日本としては、アメリカ同等の条件でインドと日印原子力協力協定を結び、互いの経済発展を実現させるべきです。そのうえで、シーレーンの共同防衛を図るべきでしょう。

自由と民主主義という価値観を広げることを目的として、積極的に国際社会に働きかける外交をするべき時が来たのです。

たなべ 雄治

執筆者:たなべ 雄治

HS政経塾 三期生

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