中国の宇宙・サイバー戦略を分析する
本日は、中国人民解放軍が発行する「解放軍報」という新聞から、中国の宇宙・サイバー戦略について分析を試みてみたいと思います。
この新聞には軍区における演習の状況や党・軍の重要人物の発言などが掲載されている他、「軍事論壇」という紙面が構成されることがあります。8月は6日、13日、20日、27日付で掲載されました。
一つの国家が将来の軍事力を整備する上では、将来どのような脅威に直面するかを予想しなければなりません。
「軍事論壇」では、中国が将来的に直面すると予想される戦争を「未来戦争」と定義し、そのあり方が議論されています。
解放軍が将来の戦争を想定するにあたって何を参考とし、どのような準備をしているかを知ることは、我が国の国防を考える上でも、大変重要だと考えます。
◆サイバー空間での軍事的優位を確立するための宇宙進出
まず最初に、宇宙開発を取り上げます。
2013年6月、中国は有人宇宙船神舟10号を打ち上げ、宇宙ステーション「天宮1号」とのドッキングを成功させています。宇宙開発は、中国の軍事戦略において重要な位置を占めています。
8月20日付の「軍事論壇」の記事では、「空・宇宙の情報系統を確保する事が、局地戦争の勝利のカギ」であり、特に「サイバー空間での優位を確保する事は、現実での戦闘を有利に進め、戦場での主導権を握るために極めて重要」といった指摘が見られます。(8/20『解放軍報』「戦法創新的“空間”有多大」)
この記事から、中国の宇宙開発が「サイバー空間における優位性の獲得」という軍事戦略と一体となっている事実が伺われます。
さらに同記事では、制海権、制空権という用語と並んで「制天権」という言葉が用いられ、「より上層の空間を制する力を獲得すること」の必要性が説かれています。
このことから、解放軍は「宇宙空間を軍事的に支配する能力」を獲得することをも視野に入れていると見るべきでしょう。
◆サイバー空間も「辺疆」として定義された
次に、中国のサイバー戦略観です。
宇宙開発によってサイバー優位を実現しようとする解放軍ですが、驚くべきことに、彼らはサイバー空間を「無形の辺疆」として位置付けているのです。(8/6『解放軍報』「無形辺疆重在建」)
「ネットの安全は、既に『辺疆』を形成している」――これは8月6日に発行された「解放軍報」の「軍事論壇」に掲載された記事の冒頭部分です。
「辺疆」とは、国防上、他国からの侵略に対して「緩衝地帯」を形成する重要な地域を指す用語であり、陸地ではチベット、ウイグル、モンゴルが該当し、海洋においては第一列島線・第二列島線の内側が該当します。
中国はこれらの地域における軍事的・政治的な支配力を確保し、その伸長を目指しているのです。
◆サイバー攻撃と物理的攻撃を同等とみなす解放軍
8/6付の記事では、「サイバー空間の主権意識を強烈に喚起しなければいけない」という記述がみられるほか、「主権国家に対するサイバー攻撃は、ミサイルなどの物理的な攻撃と同じである」との主張が見られ、サイバー攻撃に対しては自衛権を発動する可能性があることを示唆しています。
サイバー空間そのものを国家主権の及ぶ「辺疆」とみなしているという中国の実態について、私たち日本国民は十分な情報を与えられていないのではないでしょうか。
◆国際政治を理解するためにも、軍事の知識は必要
その一方で、中国はサイバー空間において「公正、民主、透明な国際規制」による「安全、解放、協力の空間秩序」の樹立をも主張しています。
これは一見もっともらしい主張に聞こえますが、これを字義通りに受け取ってはいけません。
あくまで、中国の本心は「辺疆」としてのサイバー空間の支配拡大であり、サイバー空間で強い力を持つ米国に足枷をはめることにあります。
我が国の一部のメディアには、軍事を扱うこと自体を忌避する傾向がありますが、国際政治を理解するためにも、「教養の一部」として、軍事に関わる最低限の情報を知ることは必要であると考えます。(文責・HS政経塾第一期生 彦川太志)