日本は大きなビジョンを持ってTPP交渉に臨むべし!
◆TPPの本格的交渉が始まる
日本やアメリカなど12カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の閣僚会合が23日、ブルネイで閉幕し、「年内妥結に向け、交渉を加速する」という共同声明が出されました。
ここから月末まで事務レベルでの協議が本格化しますが、各国の利害が一致しない知的財産や農産品、工業製品に関する関税撤廃など、3分野における協議を前進させられるかが焦点となります。
7月のマレーシア会合から途中参加した日本にとって、初めて全日程に加わる本格的な交渉となります。
交渉参加が遅れた日本に対する風当たりは強く、日本にとって厳しい交渉が待っていることは間違いありません。
◆自民党内で揺れるTPPへの思惑
安倍政権はTPP参加を推進していますが、そもそも政権与党である自民党の中には未だにTPP参加に対して慎重派や反対派の議員が多いのも事実です。
ブルネイでの交渉が始まる前の20日、自民党本部で開かれた「TPP交渉における国益を守り抜く会」の会合には約50名の自民党議員が出席し、交渉内容が開示されないTPPに対して、「情報がない中で議論しろというのか」(上杉光弘元自治相)などといった怒りや嘆きの声、批判が相次いだそうです。
この「国益を守る会」は、もともと「TPP参加の即時撤回を求める会」が前身で、安倍首相の交渉参加表明を受け、3月に名称変更した経緯があります。
今月6日の会合では、会員が240人から参院選を経て256人になったと報告され、衆参党所属議員410人の約6割に上り、「監視役」として影響力を強めるため、さらに会員を増やす方針にあるとのことです。
◆TPP慎重派が多い理由(1)―選挙対策と実際の政権運営の乖離
野党はともかくとして、なぜ与党内にもこれほどまでにTPPへの慎重派、反対派が多いのか。
一つには既得権益の「聖域」を守ろうとする政治家が多すぎる点が挙げられます。
代表的な事例としては、TPP参加で国内農業が崩壊するという農業界を中心とした主張に迎合する農村地域選出の政治家の姿であります。
現に農水省が2010年11月に公表した試算では、TPP参加によって現在10兆円の農林水産業の生産額が4兆5000億円まで半減し、現在40%の食料自給率は13%まで低下するという悲観的な試算が出されており、それを真に受けた農協を中心に「TPP断固反対」の旗を掲げています。
そうした農協からの選挙で応援を得るために、昨年の衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提にする交渉参加に反対」と訴え、参院選でも「守るべきものは守る」と公約に盛り込み、農村票を納得させてきた経緯があります。
このように、情報開示もなくTPP交渉が政府主導で進んでいく実際の政権運営と、「このままでは地元に説明がつかない」という選挙対策の狭間に立たされているポピュリズム政党の矛盾が垣間見れます。
◆TPP慎重派が多い理由(2)―根強いアメリカ陰謀論
また、TPPを通じてアメリカがアジア太平洋地域で好き勝手にやろうとしているというような「アメリカ陰謀論」がTPP慎重派の議員らの中で根強いことも挙げられます。
確かにアメリカがTPPを通じてアジアへの輸出拡大を目指しており、その背景にはオバマ政権は来年秋の中間選挙を控え、オバマ政権の公約である輸出倍増計画の達成に向けた実績としてアピールしたい思惑があることも事実です。
こうした「アメリカ陰謀論」を唱える人は1989年~90年の日米構造協議などで日本に高圧的な要求を突きつけたアメリカの姿勢が記憶に残っている人も多く、特に国防強化や正しい歴史認識の重要性を訴える保守系の言論人が非常に多いことも特筆すべき点です。
以上のように、TPPを取り巻く環境はまだ不安定であり、今後の交渉次第で、野党のみならず政権与党内からも反発が強まり、TPP交渉自体がとん挫する危険性があることを知らねばなりません。
◆「経済成長」+「国防強化」を一挙に推し進めるTPP
一方、幸福実現党は経済的観点、更に安全保障的観点という両面から見てTPPへの参加は必要不可欠であると一貫して訴えてきました。
経済成長の観点で見ても、関税撤廃の効果のみで10年後のGDPを2.7兆円押し上げる効果があると言われておりますが、それ以外の効果も含めれば、その試算を遥かに超えた経済効果が短期的に現れてくるはずです。
反対意見の強い農業においても、TPP参加による農業崩壊はあり得ません。
関税はすぐに撤廃されるわけではなく、その移行期間に日本が持つ世界トップクラスの農業技術力を活かして、農業を本格的に成長産業に変え、「金のなる木」に変えていくことだってできます。
また、日本の歴史認識を巡って米中が接近するような構図も出来ていますが、TPPに関しては「中国覇権主義に対する包囲網」であるという意味合いは原則変わっておらず、日本の国益に大きく資する点を忘れてはなりません。
更に「アメリカ陰謀論」への反駁として付け加えれば、二国間であると国力の差が交渉力の差に繋がってしまいますが、逆にTPPのような多国間交渉になれば、日本にとって交渉余地が大きくなります。
なぜなら、アメリカ以外の参加国と利害が一致すれば、対アメリカで連携して交渉に臨むことが可能となるからです。
アメリカの要求を抑制するためにも、多国間の枠組みが有効なのです。
◆TPPは日本が世界のリーダー国家となるための登竜門
最後に、日本政府には「聖域を守ること」をもって「国益」と呼ぶのかという点を今一度考えて頂きたいと思います。
「聖域を守れるかどうか」という小さな目的達成のためではなく、「TPPへの参加を通じて、日本の新しい未来を創る」という大きなビジョンで交渉に臨んで頂きたいと思います。
TPPに参加する他のアジアやオセアニア諸国と自由貿易という枠組みで良好なパートナーシップを育み、相手国を成長させながら、共に発展していくという理想を描くことこそ、日本が将来世界のリーダー国家への道を歩むために必要なことだからです。(文責・幸福実現党山形県本部 城取良太)