政治家に求められるスチュワードシップという考え方
政治家は有権者の代表者です。国会議員、地方議員に限らず、選挙によって選ばれている以上は、有権者のために働くことは当然の義務であり、最低限の職業倫理であります。
今回は、スチュワードシップという考え方を紹介したいと思います。
◇スチュワードシップとは何か
会計学の教科書には、スチュワードシップStewardshipという言葉が出てきます。日本語では受託責任と訳され、主に株主と経営者との関係で語られます。
要するに、株主から委託された資金をきちんと管理するだけではなく、株主の利益に合うように最大限の経営努力をするということです。経営者が、株主総会で株主の期待に応えられない場合は、痛烈な批判を浴びるか退任を余儀なくされます。経営者は、厳しい成果責任を問われているわけです。
その意味では、政治家は有権者によって選ばれているわけですから、国民への受託責任が生じると考えるのが自然でしょう。彼らの生活は血税によって成り立っています。政治家は、公人として有権者から預かった税金を使って、国民へのサービスを提供し、最大限の満足を得るというのが本来の受託責任となります。従って、政治家がスチュワードシップの精神に戻ることは、安易な増税路線への抑止力になるのです(もちろん、有権者が安易に国に依存することも問題だが、今回は受託責任に絞って議論する)。
◇税金使用の成果を白日のもとにさらす公会計の役割
国民の税金を使用している以上、やはり一定の成果を示さなければなりません。成果を最も端的に表しているのが会計です。会計とは、単なる数字の埋め合わせではありません。経営者の功績を測ること。言い換えれば、経営者=政治家の成果を明らかにすることが大事なのです。
一般の企業では、売り上げから費用を引いた値が収益とされます(いわゆる損益計算書による定義)。政府の場合は、様々な公共サービスにはコストが付きます。そして、公共サービスを受けるために、国民は納税をします。言い換えれば、費用から受益者負担を引いた値が納税者の負担です。
公会計の勘所は、費用と受益者の負担を均衡させる点にあります。費用が上回っているならば、受益者の負担を増やすのではなく、リストラをして下げること。リストラ努力をしなければ、差額分は「将来の増税」としてみなされ、増税を引き起こすことになります。
そして、どの分野にどれだけの資金が使用されているかをはっきりさせることです。
千葉商科大学大学院の吉田寛教授の著書『公会計の理論』には、東京の某23区内の私立幼稚園と区立幼稚園の経費を比較した成果報告書が掲載されています。
区立幼稚園児一人あたり費用は93万に対し、私立幼稚園は46万円です。
これらの数字から園児納付金等を差し引いた値が区民の負担ですが、区立が86万円に対して私立が約14万円となっています。驚いたことに、私立幼稚園は区立の6分の1の負担で済んでいることが明らかにされています(同書には、高速道路や自治体の成果報告書も掲載されている)。
公会計の最大のポイントは、行政コストが明確にされること。そして、成果報告書を通して行政の効率化の状況を国民に説明しやすくなる利点があります。
◇減税を実現する一つの道具としての公会計
翻って、国の会計はどうでしょうか。
確かに、貸借対照表は作成しているようです。ただ、公表が2年から3年に一回程度であり、財務省のホームページに入ってもすぐには見つけられなくなっています。極めて複雑であり、納税者の目をくらましているにしか見えません(特に、特別会計は専門家でも理解に苦しむほど複雑だと言われている)。
社会保障にしても、保護を続ける農政にしても、やはり一度成果報告書を作成して費用が増えている理由をきちんと白日のもとにさらすべきです。やはり、国レベルでの「棚卸」をするべきであり、安易に赤字の垂れ流しを正当化することは問題があります。
今後は、国土強靭化計画や東京五輪のインフラ整備等で公共事業が発注されることになるでしょう。その際も、更新引当金を積むことで耐用年数を迎えたインフラに対して国民の負担が増えないようにすることが、公会計を導入することで実現します。→参考:五輪招致成功で増税。五輪が終了しても増税?
現在、公会計の導入は進んでいませんが、政治家の皆様が納税者のために最大限の経営努力をするスチュワードシップの精神を持って頂くことが国の財政赤字削減と小さな政府実現に向けたエンジンとなります。
幸福実現党は、国や地方自治体に経営の思想を導入し、小さな政府の実現を目指しています。だからこそ、今回紹介した公会計は十分検討に値すると考えます。(文責:幸福実現党静岡県本部幹事長 中野雄太)