【北ミサイル失敗】日本の危機管理は大丈夫か?
4月13日午前7時38分、北朝鮮による「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイルの発射実験が行われ、高度120kmまで上昇した後、実験は失敗に終わりました。
北朝鮮のミサイル発射は、失敗はしものの、日本やアジア諸国の挑発的行為は地域の安全を脅かすものであり、断じて容認できません。同時に、野田政権の危機管理の重大な問題も露呈しました。
7時40分過ぎには米軍の早期警戒衛星(SEW)による情報が日韓に同時に伝えられ、米韓メディアは50分ごろから速報を始めました。しかし、日本では官邸から関係機関に緊急情報を伝える「Em-Net(エムネット)」での第一報が8時3分で、内容も「わが国としては確認していない」というものでした。
日本政府がミサイル発射を正式に公表したのは、ミサイル発射44分後の8時22分の田中防衛大臣の緊急会見で、内容も「何らかの飛翔体が発射されたとの情報がある」という曖昧なもので、1分弱で打ち切られました。この時点で、既に韓国国防省は「発射失敗」を発表しています。田中防衛大臣が「失敗だった可能性が高い」と発表したのは、なんと10時9分の会見でした。
今回、発射情報を自治体に速報する「Jアラート」(全国瞬時警報システム)は作動せず、自治体向けの緊急情報ネットワークシステム「Em-Net(エムネット)」の第1報も発射に20分以上遅れての午後8時3分に公表されました。(4/3 産経「瞬時警報システム作動せず 専門家『危機管理上、大いに問題』」⇒http://goo.gl/zx9Qi)
しかも、8時3分の発表は「発射を確認していない」という内容(http://goo.gl/C612j)ですが、この時点で既に官邸はアメリカから発射情報を得ており、全国に虚偽の送信していたことになります。
本来の計画では、日本政府はJアラートとエムネットの二段構えで発射情報を発信する予定でした。速報性はJアラートが優れ、アメリカが運用する早期警戒衛星が発射を探知してから2分ほどで防災無線などから避難を呼びかけることが可能とされてきましたが、いずれも機能しませんでした。
発射が失敗に終わっていなければ、既にミサイルが日本上空を通過している8時過ぎの段階で、政府がミサイル発射情報を掌握、伝達できていなかったことは極めて重大な問題です。日本領土に落ちてくるようなことがあれば、避難は完全に手遅れになり、火の海に陥っていた危険があります。
今回打ち上げられた弾道ミサイルは自己着火性を持つ「ヒドラジン」と「四硫化二窒素」という有毒物質を用いたハイパーゴリック推進剤による液体燃料方式によるものであったことを考え併せると、国民保護の上からも、情報の伝達は迅速に行うべきでした。
官邸は「誤情報を出さないために、ダブルチェックしていた」と釈明していますが、日本が整備するミサイル防衛の探知システムであるJ/FPS-5とJ/FPS-3改の2種類の警戒管制レーダーの性能は、ミサイルが水平線を超えればすぐに探知することができ、またそれを追跡することが可能なシステムです。このことから、少なくとも防衛省はこれを使用して情報を把握していたはずです。
防衛省からの情報は首相官邸に入る仕組みになっていますから、すべては収集された情報を使い、迅速に国民に伝えなかった首相官邸の怠慢そのものです。
今回のミサイル実験を巡る一連の怠慢は、野田首相、田中防衛大臣、藤村官房長官ら民主党政権の“気の緩み”から来ています。誤発表を恐れるあまり、「間違いないと判明するまで何も発表しない」という方針を取った野田政権の判断は、打ち上げが失敗していなければ、国民を危機に陥れていました。
今回のミサイル発射は、実績に乏しい金正恩氏の権威付けを急いだものでしたが、発射が失敗に終わったことで、金正恩氏の権威を取り戻すべく、さらなるミサイル発射や核実験の強行、前倒しも推測されます。
もはや「国民の生命・安全・財産」を軽視する民主党政権に、日本を任せることはできません。野田政権は即刻、退陣すべきです。
また、北朝鮮は打ち上げ失敗を認めていますが、北朝鮮としては弾道ミサイルの信頼性を上げるために失敗するリスクを承知で実験を行った可能性も考えられます。
今回の弾道ミサイルは3年前に発射された「テポドン2号」とほとんど変わらず、1段目は「ノドン」とみられる4本の中距離弾道ミサイルを束ねたもので、専門家は、今回の実験がプログラムした通りにミサイルの飛行や切り離しが確実に行えるかどうかを検証するのが目的ではないか指摘しています。(4/9 NHK⇒http://goo.gl/kn0zq)
今回打ち上げられたロケットは、「ノドン」と見られる信頼性の高い複数のロケットブースターを束ねて総合的な推力を上げる「クラスターロケット」であると見られますが、クラスターロケットは制御が難しいという欠点があります。
こうしたクラスターロケットが開発できるような段階にまで北朝鮮のロケット技術が進展したことは、日本を狙っている中距離弾道ミサイル「ノドン」の信頼性が増していることを意味しています。
今回の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の打ち上げ失敗は、射程となり得るアメリカにとっては一安心ですが、日本にとっては別の意味で脅威が増したことを意味します。その意味で、今後、日米間に北朝鮮に対する温度差が生じることも懸念されます。
今、日本がなすべきことは、今回の国連安保理決議に違反するミサイル発射を受け、ミサイルの信頼性を向上させるような実験を二度とさせないよう、米国、韓国や国際社会と連携して北朝鮮に圧力をかけ、「核の刀狩り」まで追い込むことであります。
(文責・黒川白雲)